• 2026/7/1 05:33

オーストリアGPレビュー

前半はストップ・アンド・ゴー、後半は中高速の非常にチャレンジングなコーナリングセクションという特徴を持つレッドブルリンク。顕著な高低差やアンジュレーションもあり、非常にドライバーにとっても車にとっても力が問われるサーキットだ。今回はそんなオーストリアGPをデータとともに振り返ってみよう。

1. 先陣争いの重要性

図1にトップ3のギャップ推移を、図2にレースペースを示す。なお展開に関わったフェラーリ勢も併せて示す。

図1 トップ3とフェラーリ勢のギャップ推移
図2 トップ3のレースペース

フェルスタッペンはハミルトンを抜くまで、アントネッリはルクレールを抜くまでの間にラッセルに差をつけられたのが痛かった。だが、クリアエアを得てからの2人はペースが非常に良く、アントネッリはラッセルと互角、フェルスタッペンはその差を詰めていった。

アントネッリはスティントを伸ばし、タイヤのオフセットを活かして後半に勝負する戦略へ。ただ、L20,22で合わせて1.5秒ほど失っている。無線で訴えていたように、ブレーキの不調が原因だったようだ。レース終盤にあと1,2周あればフェルスタッペンを攻略できる所まで行ったことを鑑みると、ここで失ったタイムは痛かった。

参考:各車の使用タイヤ

そして第2スティントに入ると、フェルスタッペンはラッセルより1周古いタイヤであるにも関わらず、ラッセルを上回るペースで追い上げた。素のペースの平均では、フェルスタッペンはアントネッリの0.4~0.5秒落ちで、ラッセルを0.2秒上回る程度だが、今回はタイヤのデグラデーションが大きく、その差を考慮して換算すると、アントネッリよりも0.2秒、ラッセルよりも0.3秒速い。今回はフェルスタッペン&レッドブルが最速のパッケージだった。

参考:レースペース分析

そして38周目付近でラッセルの2秒以内、つまりアンダーカットレンジに入ったフェルスタッペン。だが先に動いたのはラッセルで、43周目にピットへと向かった。フェルスタッペンは第2スティントを引っ張り、タイヤのオフセットを作ることで第3スティントにコース上で仕留める戦略となった。

一方でアントネッリも、6周新しいタイヤを活かしてフェルスタッペンとの差を詰め、48周目には1.8秒差まで迫った。フェルスタッペンとしては、ラッセルとのタイヤの差を作るためにどこまでも引っ張れば良いというわけではない。アントネッリのアンダーカットが脅威になるまで引っ張ってはいけないのだ。48周目の1.8秒差も際どいが、レッドブル陣営は49周目にピットストップすることにした。ちなみにこの時アントネッリには「フェルスタッペンの逆をやれ」という指示が飛んでいた。映像でもアントネッリがターン9手前で一瞬イン側にマシンを振り、フェルスタッペンが入るのを見てレコードラインに戻ったのが見えたはずだ。

これにより、第3スティントはタイヤの新しいフェルスタッペンがラッセルを追い上げ、さらに新しいアントネッリがフェルスタッペンを追い上げる展開になった。だが、その差は思うようには縮まらず、ラッセルの逃げ切り勝利、フェルスタッペンもファイナルラップでアントネッリを抑え切って2位表彰台という結果になった。

ラッセルとしては予選での快心のアタックと、イエローフラッグ時の好判断が勝因だろう。
対してアントネッリは予選での判断ミスと、レース序盤のバトルでポジションとタイムを失ってしまったことが大きかった。
またフェルスタッペンは第3スティントでリアアクスルに問題が発生していた。前述の通り、第2スティントでラッセルより0.3秒速かったフェルスタッペンだが、第3スティントではむしろ0.1秒遅いほどだった。0.4秒遅くなった計算だ。グラフを見る限り、60周目に突然タイムが落ちており、この前後でトラブルが起きていたのかもしれない。いずれにせよ、これではいくらタイヤのアドバンテージがあっても追いつききれない。
その中で、前を押さえてクオリティの高い週末を送ったラッセルが勝利を収めた。

2. レッドブルの戦略は正しかったか?

前述の通り、38周目付近からフェルスタッペンはラッセルに対してアンダーカットを仕掛けられる位置にいた。レッドブルの戦略チームならば、ここで思い切った決断をしてもおかしくないはずだ。彼らは正しかったのだろうか?ミスをしたのだろうか?

結論から言えば、レッドブルのオフセットを作る戦略は正しかった。

図3 戦略シミュレーション

●アンダーカットを選んだ場合

まず、38周目にフェルスタッペンが約2秒後方からアンダーカットに向かい、ラッセルが45周目まで引っ張った場合を考えよう。

まずピットストップロスを21秒とすれば、フェルスタッペンはラッセルの約23秒後方に戻る。そこからフェルスタッペンは、新品タイヤで1周1.2秒ほど速く走ることができるはずで、45周目までの7周で8.4秒ほど稼ぐだろう。15秒差でピットストップを行ったラッセルは、6秒後方に戻ってくる。そしてそこから7周新しいタイヤ、デグラデーションは0.08[s/lap]程度だったため、0.6秒ほど速いタイヤで追い上げてくる。ただし、同条件でのペースはフェルスタッペンの方が0.3秒速いため、そのペース差は0.3秒程度になるはずだ。よって、1秒以内に迫ってくるのは17周後の62周目ということになる。有効数字の丸めかた次第で66周目付近と計算することもできるが、いずれにせよある程度周回を残して追いつかれることになる。

●タイヤのオフセットを作ることを選んだ場合

一方で、実際に採った戦略で、リアアクスルのトラブルが起きていなかった場合どうなっていただろうか?もちろん、この時点のレッドブルの戦略策定にトラブルは前提とされていないため、このケースを考えるべきだ。

実際に第3スティントのフェルスタッペンは、第2スティントと比べて、ラッセル、アントネッリ両者に対して綺麗に0.4秒落ちている。この0.4秒を上乗せした場合、つまりラッセルより0.3秒速い場合を考えれば良い。

まず現実の通り、ピットストップを終えたフェルスタッペンは、ラッセル約11秒後方でコースに戻る。そして6周のオフセットはデグラデーションを0.08[s/lap]とすると0.5秒に相当し、そこに地力の0.3秒が上乗せされ、0.8秒のペース差で追い上げることになる。したがって13周でラッセルの1秒以内に迫ることになり、これも62周目なのだ。

●どちらを選ぶか

アンダーカットを選べば62周目に追いつかれ、オフセット戦略を選べば62周目に追いつく。追いつかれる時のペース差は0.3秒、追いつく時のペース差は0.8秒。レッドブルリンクはそこまでオーバーテイクが困難なトラックではないことを鑑みれば、前者で勝てるか否かは五分五分だ。33周というロングスティントでタイヤへの懸念が増すなら一層困難な賭けになる。一方で後者を選べば、周回数的に余裕のある段階で追いつけて、尚且つ0.8秒というオーバーテイクがほぼ確約されたかのようなペース差を作ることができる。

よって、レッドブル&フェルスタッペンの敗因は戦略ではなく、第3スティントで起きたリアアクスルの問題によるペースの低下であったことが分かった。筆者自身も観戦中は戦略に疑問を覚えたが、このように詳しく吟味すると、流石はレッドブルと頷ける戦略だった。

3. 予選の黄旗問題――ラッセルの対応より、運用の判断が問われる

もう一つ、今回のオーストリアGPで避けて通れないのが予選の黄旗問題だ。

Q3終盤、フェルスタッペンがターン9でクラッシュし、ラッセルはその直後の区間で黄旗に遭遇したが、リフトオフした上でアタックは完遂。ポールを獲得した。ラッセルには審議が入ったが、最終的に問題なしと判断された。

図3ラッセルのテレメトリ(白:1st Attack 緑:2nd Attack)
(data: GP Tempo

図3のテレメトリを見ると、ラッセルは該当区間で明確にリフトしている。進入速度も落ち、コーナーのボトムスピードも下がっている。

問題は運営側にある。シングルイエローは危険があることを示し、ドライバーには減速と追い越し禁止が求められる。ダブルイエローではさらに重く、ドライバーは大きく減速し、停止に備える必要がある。

ターン9という屈指の高速コーナーの外側でバリアにクラッシュしているマシンが存在する中で、シングルイエローでは危険が大きすぎる。実際、ラッセルのスピードは200km/h以上出ており、万が一コントロールを失ってフェルスタッペンのマシンに向かっていった際はかなり問題になる速度だ。この場面ではダブルイエローが最適解であったはずだ。実際の手順ではまずシングルイエローが振られ、後にダブルイエローに切り替えられたが、安全を最優先するなら、どちらか判断しづらい時はまずダブルイエローから提示するべきではないだろうか。それから危険の評価ができ次第シングルイエローに切り替える、といった手順も考えられるはずだ。

安全面は最優先であるため、FIAはこの件を深刻に受け止める必要があるだろう。

4. 次戦への展望

次戦は超高速シルバーストーン。空力性能をはじめ、マシンの総合力が問われるF1の名物トラックだ。今年のマシンでは非常にエネルギープアになることが予想され、鈴鹿で見られたような不自然な減速に困惑する声が、競技者側からも観戦者側からも聞こえるかもしれない。

またこのタイプのサーキットでは、鈴鹿、バルセロナとマクラーレンが競争力を発揮してきた。今季まだ勝利がないノリスとピアストリだが、ここで一発決めることはできるだろうか。非常に楽しみな1戦になりそうだ。


インタラクティブグラフ

ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。

このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。

特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。

  • 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
  • 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。

この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。

また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。

Race Lap Time Interactive Graph

Lap Times

Drivers:

Gap to Leader

Takumi, ピトゥナ