• 2024/4/25 10:51

2021年メキシコシティGPレビュー 【レッドブルの席巻と中団争いの激化】

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 史上稀に見る非常にハイレベルかつ接近したタイトル争いは、伝統的にレッドブルが得意とするメキシコシティへとやってきた。とはいえ、今シーズンはレッドブルとメルセデスが互角のマシン性能を有しており、如何にセットアップを合わせ込めるか次第で勢力図が予想外にどちらかに転ぶ事を多々目撃してきた。

 今回もそんな熾烈なトップ争いと、これまた激戦の中団争いにそれぞれフォーカスして分析してみよう。また全体の勢力図分析を先に行ったので、結論として出したレースペース分析表を先に記す。本記事を読み進める上での道標としていただければ幸いだ。

Table.1 全体のレースペース

スクリーンショット 2021-11-09 11.28.00を拡大表示

オレンジは疑問符付き

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 1選から形勢逆転
  2. 中団争いは大激戦
  3. 残りはもう4戦
  4. 用語解説

1. 予選から形勢逆転

 フリー走行から明確なアドバンテージを有しているかに見えたレッドブル勢。しかし予選ではQ1からメルセデスがじわじわと力を上げ、Q3ではボッタスがフェルスタッペンに0.3秒以上の差をつけてポールポジションをもぎ取った。ここには角田とペレスのアクシデントの影響もあるが、これがなくともフリー走行でのアドバンテージが消えていたことは明白だ。

 予選ではQ3の路面コンディションにピタリとハマったメルセデス勢だったが、レースではまずスタートでフェルスタッペンに付け入る隙を与えてしまう。
 2番手ハミルトンの蹴り出しがよくボッタスに並んでしまったが、ここで2台が並走しつつ、かつ左側にラインを残してしまっていたため、ボッタスのスリップをフェルスタッペンが使い左側から並びかけた。これによりフェルスタッペンはレコードラインのアウト側から1コーナーにブレーキング、侵入する事ができ、一気に前に出た。
 ここはロシアと同様、1コーナーまでの距離が長く、1コーナーまでどういった戦術を採るかはパターン分けしてディスカッションし練っておくべきだが、メルセデスはどういったプロセスを踏んだのだろうか?王者メルセデスといえども、タイトル争いの真っ只中。全てを完璧にこなす事は意外と難しい事なのかもしれないと思わせる一幕だった。

 レースでは予選の展開が嘘のように、序盤からフェルスタッペンがあっという間にハミルトンを引き離しあっけなく勝負アリとなった。フェルスタッペン、ハミルトン、ペレスのレースペースを図1に示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 フェルスタッペン、ハミルトン、ペレスのレースペース

 フェルスタッペンはハミルトンを序盤から突き放し、23周目付近では8秒以上の差がついたことで、後ろを見ながらのペースコントロールに切り替えている。これは万一ハミルトンがピットストップを引っ張った際に、自分が先に入らなくてはならない状態になることを避けるためだと思われる。
 先頭走行時、アンダーカットの危険性がない程のリードがあるならば、ライバルより後にピットストップを行い、次のスティントをより新しいタイヤで戦うのが定石だ。さらにセーフティカーによるリスクを避ける意味でも、先に入るのは悪手だ。この点でもレッドブル&フェルスタッペンは理想のレース展開で勝利を力強く手繰り寄せた。

 一方のペレスはハミルトンの後方でタイヤを労り、ハミルトンのピットイン後クリーンエアになった瞬間に0.5秒ほどタイムを上げていることが見て取れる。このことからも第1スティントのペレスはハミルトンに対しペースアドバンテージを有していた事がわかる。
 第2スティントではその地力の速さに加え、11周新しいタイヤを活かし猛烈なペースで追い上げる。

 ただしピットアウト後には9.7秒あった差が57周目に2秒以内になっていることから、ペースアドバンテージは0.5秒前後と計算できる。これだとオーバーテイクに至るにはやや足りないと思われ、ハミルトンはペースをキープできるよう、タイヤをマネジメントすることに集中すればよかった。ハミルトンのラップタイムは最後まで崖を迎えておらず、これではペレスにとってはオーバーテイクが現実的な状況ではなかった。

 デグラデーションが0.05[s/lap]ならば、10周新しいタイヤを履いても0.5秒のアドバンテージしか作れず、これが意味するところはアンダーカットの有効性だ。レッドブルは前に出ればタイヤに不利があっても戦えるペースがあっただけに、少しコンサバだったと後悔しているかもしれない。サインツの後ろになっても、基本的に中団グループのマシンを新品タイヤで抜くのは簡単で、それを考慮に入れたメルセデス&ハミルトンがルクレールの後方で復帰&オーバーテイクして2位を大きく手繰り寄せた。

 予選のみメルセデス優勢の展開となったが、フリー走行からレースは戦前の予想通りのレッドブルレースとなり、本来取るはずの25ポイントをきっちり持ち帰った形になった。

2. 中団争いは大激戦

 今回の中団争いはガスリー、ルクレール、サインツのみならず、後方からベッテルやライコネン、アロンソもそう遠くないペースでついてきており、アメリカGPとは異なる様相を呈した。

画像3を拡大表示

Fig.2 ガスリー、ルクレール、サインツのレースペース

 今回は表1にも示した通り、ガスリーとサインツが中団最速のレースペースを示した。フェルスタッペンから1.0秒落ちはまずまずとも言えるが、メルセデスを基準に考えれば0.7秒落ちと非常に競争力が高かった。マクラーレンもPU交換で後方スタートとなったノリスがそこに近い競争力を見せている。

 これだけなら通常の勢力図だが、そこにベッテルやライコネン、アロンソらが割って入ってきているのが興味深い。高地でダウンフォースが得られず、PUの運用から何まで特殊なサーキットで躍進を果たしたアストンマーティンやアルファロメオが、今後どんな戦いを見せるのか注目だ。

 またフェラーリは、ルクレールがガスリーに敵わないと見るや、サインツとポジションを入れ替えて、12周新しいタイヤを履くサインツにガスリーを追わせた。サインツはフェルスタッペンよりも9周新しいタイヤを履いており、フェルスタッペンの0.5秒落ち程度の実力を有していたとすれば、1分20秒フラット程度が安定して出せる限界と思われた。その場合、ガスリーのタイムが伸びなければ12秒差を13周で逆転することはあり得ない話ではなかった。
 結果的にはサインツにそこまでの地力はなかったことと、ガスリーがスティント終盤でタイムを上げたことで夢物語となってしまったが、楽観的とは言えリスクは無く、トライする価値はあった。サインツは最終的に順位を戻しており、この一連の流れからもフェラーリの2人の良好な協力関係が見える。

3. 残りはもう4戦

 フェルスタッペンとハミルトンは19ポイント差でラスト4戦を迎える。今年はスタートで順位が入れ替わる展開も多く、まずはブラジルでのスプリント予選がどう影響するかが大きな注目ポイントとなる。ただし、今回のような競争力があると、例えスタートで2番手に落ちても決勝レースで勝つための手は多く残されるため、いずれにせよレースペースをマキシマイズすることを両陣営が重視するだろう。
 カタールは初開催となるが、オランダと似たコーナーも見受けられ、筆者としてはブラジルと2戦連続でレッドブル優位のトラックが続くと考えている。サウジアラビアはシルバーストーンやオースティンと近いと考えれば互角。アブダビは昨年レッドブルが独走したものの、本来メルセデストラックという見通しだ。

 タイトル争いのみならずコンストラクターズランキング3位争いもフェラーリがマクラーレンを13.5ポイントリードし、5位争いではアルピーヌとアルファタウリが同点となっている。
 フェラーリはドライバー2人の競争力が高く、後半戦に来てマシンの競争力も上がっており、やや有利に進められるかもしれない。
 一方でアルピーヌがこの位置にいるのは、ハンガリーでのオコンの25点の影響もあるため、本来のマシンの競争力からすればアルファタウリが圧倒的に有利と言える。

 随所で熾烈な争いが繰り広げられた2021年シーズン。どのような結果になろうとも間違いなく伝説になるであろう1年も、間も無く終わりを迎える。最後の最後の心理的な影響も含め、限界の勝負師たちの闘いを見届けたい。

 次戦ブラジルGPは以下のスケジュールで開催される。

FP1 11月12日 (金) 24:30 
予選 11月12日 (金) 28:00 
FP2 11月13日 (土) 24:00 
スプリント予選 11月13日 (土) 28:30 
決勝 11月14日 (日) 26:00 

4. 用語解説

レコードライン:一般的に最も速いライン

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

オーバーテイク:追い抜き

タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。

ダウンフォース:F1マシンは高速で当たる空気の力をさまざまな空力パーツによって下向きの力に変える。これにより短時間のブレーキングで減速し、高速でコーナリングし、エンジンパワーを路面に伝えることができる。