• 2024/11/21 15:36

2021年サンパウロGP分析

1. 分析結果と結論

 先に分析結果を示す。分析の過程については次項「レースペースの分析」をご覧いただきたい。

Table1 全体のレースペースの勢力図

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※疑問符がつく部分はオレンジ色で示した

 今回もハミルトンとフェルスタッペンがチームメイトに差をつけ、非常にレベルの高い闘いを繰り広げた。

 またフェラーリは、ハミルトンから1.0秒落ちと、トップからはやや水を開けられた上に競争力のないミディアムタイヤをメインにしたが、首位争いのスティント割りが非効率的だったこともあり、トップから50秒遅れでフィニッシュできた。またリカルドがルクレールと同等のペースと算出でき、仮に1周目でノリスが消えていなければノリスがベストオブザレストを獲得した可能性が高い。

 アルピーヌはフェラーリの直後につけ安定したパフォーマンスを見せたが、アロンソがスプリントレースでミディアムタイヤを選択し、スタートポジションを落としてしまったことが最後まで効いてしまった。仮に10番手付近からスタートできていれば7位を獲得する力は十分にあった。

 最近のレースではアルファロメオの競争力も上がっており、ライコネンがピットスタートから12番手まで追い上げたのも、ガスリーと同等でベッテルやオコンを上回るほどのペースを有していたからだ。

 ウィリアムズ勢にとっては厳しい戦いとなり、一方でハース勢の競争力が高そうであることは、スプリントレースの段階から片鱗が見えていた。レースでもシューマッハがウィリアムズ勢と対等なペースを見せていただけに、ライコネンとの接触が非常に悔やまれる。

2. レースペースの分析

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.04[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

2.1 チームメイト同士の比較

 最初にチームメイト同士の比較を見ていこう。

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Fig.1 メルセデス勢のレースペース

 第3スティントで比較すると、ハミルトンは自分より遅いフェルスタッペンのペースに付き合っている時よりも、フェルスタッペンを交わしてクリーンエアを得てからの方が(65周目付近から後ろを見て落としているとは言え)ペースが遅くなっている。
 これを説明するファクターは2つある。1つ目はデグラデーションの特性によるものだ。そして2つ目は、ストレートスピードとコース特性からハミルトンが大きなペースアドバンテージが無くてもフェルスタッペンをオーバーテイクできたことが大きいだろう。
 それらを踏まえ、状況を見てみよう。スティント前半ではフェルスタッペンが前にいる状態でボッタスより0.5秒ほど速く、クリーンエアの状態でもボッタスより0.5秒速い。また、オーバーテイク後の最初の周を見てもハミルトンにや0.1秒程度の余力しかなかったのではないだろうか?2周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると2人のレースペース差の真値は0.5秒と結論づけるのが妥当だろう。これは第1スティントでのパフォーマンスからと並べても辻褄は合う。ボッタスは、ペレスの2秒弱後方にいたとはいえ、ペレスとのペース差がほとんど無かったことがその後のレース展開から伺えるため、ハミルトンとのペースの差は0.5秒程度となり、第3スティントの分析と合致し、小さな疑問符つきではあるが、一つの結論として良いだろう。
 ちなみに、ペレス、ガスリー、ライコネン、シューマッハからスティント序盤に新品タイヤの効果を活かして爆発的なタイムを記録することも可能であることが分かっているため、第3スティント序盤の1.0秒差は考慮には入れない。

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Fig.2 レッドブル勢のレースペース

 第1スティントでは0.2秒のペース差だ。
 続く第2スティントでは0.1秒のペース差で1周分のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、実力的には0.2秒程度の差だったと考えられる。
 最終スティントでは0.1秒ほどのペース差で、2周分のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.12[s/lap]で考慮すると、フェルスタッペンが0.3秒ほど上回っていたと考えられる。
 総合的には、フェルスタッペンがペレスを0.3秒ほど凌駕していたレースペースの実力差と言えるだろう。

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Fig.3 フェラーリ勢のレースペース

 第1スティントではサインツがルクレールの2秒以内につけており、余裕があるように見えた。第2スティントではイーブンペースだが、ルクレールが1周新しいタイヤを履いていることをデグラデーション0.09[s/lap]で考慮すると、サインツが0.1秒ほど勝っていたと考えられる。
 第3スティントではイーブンペースで、サインツが1周新しいタイヤを履いていることをデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にも互角だったと言える。
 総合すると、互角かややサインツ優勢と見るかは悩ましい所だが、第1スティントで後ろにつけたことから、ここは平均を四捨五入し0.1[s/lap]差でサインツ優勢と結論づけるのが妥当だろう。

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Fig.4 アルファタウリ勢のレースペース

 角田に大きなダメージがあったため、参考値程度の比較となる。
 戦略が分かれているため比較しづらいが、ガスリーの第2スティント終盤と角田の実質的な第2スティント序盤を比較すると、青旗の影響はあるがイーブンペースとなっている。ここに14周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、0.4秒ほどガスリーが凌駕していたと考えられる。
 一方61周目以降で比較すると、ガスリーが1.3秒ほど上回るペースを見せているが、12周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.08[s/lap]で考慮すると、やはり0.4秒ガスリーがリードし、これが今回の2人のレースペースの実力差だったと結論づけられる。

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Fig.5 アルピーヌ勢のレースペース

 第2スティント前半と終盤ともに、0.7秒ほどアロンソが上回っており、4周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にはアロンソが0.5秒ほど凌駕していたと考えられる。

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Fig.6 マクラーレン勢のレースペース

 2人がクリーンエアで走行しているタイミングが異なりすぎており、比較を行うのは不適切と判断した。全体の勢力図分析で間接的な比較を行いたい。

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Fig.7 アストンマーティン勢のレースペース

 今回はストロールにダメージがあったため、比較は不適切と判断する。

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Fig.8 アルファロメオ勢のレースペース

 ジョビナッツィがクリーンエアで走れている時間帯が少ないため、大きめの疑問符つきとなるが、第1スティント終盤で比較すれば、ライコネンのペースが0.2秒ほど勝っていたように見える。

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Fig.9 ウィリアムズ勢のレースペース

 第2スティントではラティフィの方が0.3秒ほど上回るペースを見せている。ラティフィが7周新しいタイヤを履いていることをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはラッセルが0.1秒ほど上回っていたと考えられる。
 第3スティントではラティフィの方が0.1秒ほど速いと言えるが、ここにラッセルの方が2周新しいタイヤを履いていることをデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には0.2秒ラティフィ優勢と言える。
 ここでは平均を四捨五入して、ラティフィが0.1秒優勢と結論づけよう。

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Fig.10 ハース勢のレースペース

 2人が同じタイヤで走っているタイミングが無かったため直接の比較は困難だった。

2.2 ライバルチーム同士の比較

 続いて、チームを跨いだ比較を行う。

 図11にハミルトン、フェルスタッペン、ボッタスの比較を示す。

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Fig.11 ハミルトン、フェルスタッペンとボッタスのレースペース

 第1スティントではハミルトンがクリーンエアを得てからフェルスタッペンとハミルトンが完全にイーブンペースだ。

 第3スティントのフェルスタッペンとハミルトンの直接比較は非常に難しい。ハミルトンはフェルスタッペンをオーバーテイクしてからさほどタイムが上がっておらず、フェルスタッペンが大幅にタイムを落としているためだ。
 ハミルトンとボッタスの差が0.5秒程度だろうということはチーム別分析で概ね明らかになっているため、ここではまずフェルスタッペンとボッタスを第2スティントと第3スティントで比較する。

 第2スティントではボッタスのペースが0.1秒ほど上回っているが、3周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.10[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンが0.2秒ほど上回っていたことになる。

 第3スティントでは序盤にフェルスタッペンがハミルトンから逃げるために飛ばしたがトータルで見ると0.1秒ほどフェルスタッペンのペースが上回っている。ボッタスの方が1周新しいタイヤを履いていることを、デグラデーション0.12[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンが0.2秒ほど上回っていたことになる。

 したがって、トータルで見るとハードタイヤではフェルスタッペンがボッタスを0.2秒ほど上回っていたと結論づけて良いだろう。ボッタスがVSC中にピットストップを行い11秒ほどアドバンテージを得たことを考慮すると最終的なレースタイムとも辻褄が合う。

 ここでハミルトンがボッタスより0.5秒勝っていたとすると、フェルスタッペンとの実力差は最終スティントで0.3秒、デグラデーションを考慮して0.5~0.6秒速いペースを刻めたこととなり、フェルスタッペンはストレートスピードに勝るメルセデスを抑え込むために、無理をしてでも前半で飛ばさざるを得ず、タイヤが悲鳴を上げたところでハミルトンに仕留められたと見るべきだろう。

 ハミルトンとフェルスタッペンのレース全体の力関係については、第1スティントのミディアムとの平均をとりつつ、ハードの重要性が高かったことから切り上げて0.2秒程度と結論づけよう。

 またミディアムでのボッタスの競争力が不明だが、基本的にはマシン特性によると思われるので、ハミルトンとの0.5秒差をキープ、フェルスタッペンとは0.5秒差だったと考え、レース全体ではハードタイヤの戦略的比重を考慮し平均を切り捨て、フェルスタッペンと0.3秒差と評価しよう。

 また、チーム別分析において、ペレスは第2スティントではフェルスタッペンの0.2秒落ちでボッタスと同等、第3スティントではフェルスタッペンの0.3秒落ちでボッタスから0.1秒落ちだった事も書き添えておこう。

 続いてペレス、ルクレールとガスリーを比較してみよう。

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Fig.12 ペレス、ルクレール、ガスリーのレースペース

 第1スティントのルクレールはペレスの0.5秒落ち程度だ。
 第3スティントではイーブンペースだが、10周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には0.4秒程度の差になる。ちなみに第2スティントではルクレールがミディアムタイヤを履いているが、そこでも0.5秒程度の差になっている。ただし、ペレスのスティントが短いため、ルクレールのタイヤがタレるスティント後半を考慮しておらず、やはりハードの方がロングランで優れたタイヤだったと考えられる。

 ガスリーは第3スティントでルクレールの0.4秒落ち程度のペースになっている。デグラデーションは0.04[s/lap]のため、1周古いタイヤは考慮しなくて良い。
 第2スティントでは前が開けてからはルクレールとの差は0.2秒ほどだ。ルクレールはミディアムタイヤのため参考値程度だが、2周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.08[s/lap]で考慮すると、イーブンペースとなる。したがって、ここでもハードタイヤの優位性が示されたことになる。

 続いてガスリー、アロンソ、リカルド、オコンを比較する。

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Fig.13 ガスリー、アロンソのレースペース

 アロンソは最終スティント序盤では、ガスリーより0.6秒ほど速いペースとなっており、10周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にはアロンソの方が0.2秒ほど上回っていたと考えられる。
 また最終スティント終盤で、ガスリーの0.7秒落ちとなっている。17周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、やはり0.2秒程度の差となる。

 続いてリカルドについてはガスリー、オコンと比較すると良いだろう。

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Fig.4 ガスリー、オコン、リカルドのレースペース

 リカルドは第1スティントで26周目から前が開けると、オコンより0.7秒ほど速いペースを刻んでいる。これはガスリーより0.4秒速いことを意味している。
 一方、第2スティントではガスリーとイーブンペースで、5周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にはガスリーの方が0.2秒ほど上回っていたと考えられる。
 このことから第2スティントのリカルドは、前方と2秒以上の距離を保ちつつも、本来のペースでは走っていないことが分かる。リカルドはレース後のコメントで1ストップを意図していたことを仄めかせており、意図的に距離を置いてタイヤをマネジメントしていたと考えられる。
 今回のマクラーレンは非常に競争力が高かった。

 続いてガスリー、ベッテル、ライコネンを比較する。

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Fig.15 ガスリー、ベッテル、ライコネンのレースペース 

 第2スティントのベッテルはガスリーとイーブンペースと評して良いだろう。ここに3周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にはガスリーの方が0.1秒ほど速かったと言える。
 ちなみに最終スティントではベッテルがミディアムを履いているが、ガスリーの0.2秒落ち程度だ。4周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、ガスリーの0.4秒落ち程度となり、フェラーリ勢で見えたミディアムタイヤの不利がこちらでも見て取れる。

 ライコネンは第2スティントはベッテルと同様の内容で、ガスリーの0.1秒落ちだった。
 最終スティントではベッテルとイーブンペースだが、3周古いタイヤをデグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的にはライコネンの方が0.2秒ほど上だったと言える。

 レース全体の評価としては、平均してライコネンをベッテルの0.1秒上でガスリーと同等とする。これは、ルクレールがミディアムタイヤを履くことでガスリーに対して0.4秒失っているのに対し、ライコネンは0.1秒しか失っていないことを加味しての判断だ。仮にミディアム同士のスティントがあった場合ライコネンがガスリーを上回っていただろう。

 続いてラティフィとマゼピンをペレスと比較してみよう。

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Fig.16 ペレス、ラティフィ、マゼピンのレースペース

 最終スティントで比較すると、ペレスのペースが1.5秒ほど上回っている。3周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には1.4秒差と言える。

 マゼピンは最終スティントでラティフィの0.7秒落ち程度のペースと言えるだろう。5周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはラティフィの0.4秒落ち程度だったと言える。

 最後にシューマッハをルクレールと比較してみよう。

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Fig.17 ルクレールとシューマッハのレースペース

 レース中盤では共にミディアムタイヤを履いており、ここで比較するが、デグラデーションに違いがあることと、シューマッハの青旗の影響を加味してのものなので、アバウトなものであることは先述しておこう。

 スティント序盤で自分のペースで走れているかが評価の分かれ目で、走れていると捉えるならルクレールから1.5秒落ち程度、走れていないと捉えるなら0.9秒落ち程度だ。2周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には前者なら1.6秒落ち、後者なら1.0秒落ちと言える。
 前者だとするとマゼピンの0.3秒落ち、後者ならばラッセルと同等となるが、スプリントレースでのペースはガスリーやジョビナッツィから0.5~0.6秒落ち程度で、これをレースでの勢力図に当てはめるとウィリアムズ勢と同等になる。また、スティント開始後10周でタイムが上がるのも不自然で、ここでは後者、すなわち40周目付近までは本来のペースで走れていなかったと捉えるのが自然だろう。

 以上を総合し、表1の結論を得た。