• 2024/4/20 22:33

2021年ポルトガルGPレビュー(2) アロンソの帰還とマクラーレン勢&角田のタイヤマネジメント

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白熱の優勝争いを分析したPart1に続き、Part2では中段勢の戦いに着目してみよう。

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. ミディアムをうまく使えたマクラーレン
  2. 緩急をつけたアロンソのオーバーテイク
  3. 角田の課題はタイヤを使い切ること
  4. 用語解説

1. ミディアムをうまく使えたマクラーレン

 ベストオブザレストはマクラーレンのノリスとなった。ノリスとライバルのフェラーリ勢の比較をFig.1に示す。

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Fig.1 ノリス、ルクレール、サインツのレースペース

 後半スティントでのノリスは素晴らしいハイペースを維持している。ノリスとサインツは同じ戦略で、ソフトスタートからサインツ21周目、ノリス22周目にミディアムに変えている。ノリスは44周のロングスティントをミディアムで走りデグラデーションは0.00[s/lap]。終盤も一切タイムを落としておらず完璧なタイヤマネジメントを披露した。同じ戦略のサインツは0.03[s/lap]のデグラデーションで、同様にスティントでミディアムを履いたガスリーも同程度のデグラデーション、ベッテルはかなり早い段階で終盤タイヤが終わっている。参考にその2名のレースペースもFig.2に示す。

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Fig.2 後半ミディアムのガスリーとベッテルのレースペース

 またルクレールはミディアムスタートの後半ハードで、ミディアムではグレイニングが見られたものの、後半ハードではでグラデーションがほぼゼロで良いペースとなっているが、ノリスはこれを見ながら非常に上手く差をコントロールしながらマネジメントしたと言って良いだろう。

 さらに、マクラーレン勢のペースをFig.3に示す。

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Fig.3 ノリスとリカルドのレースペース

 マクラーレンはリカルドもミディアムを非常にうまく使っている。リカルドは前半でミディアムを履いたが、燃料満タンでの40周超えのロングスティントで18周目にベッテルを抜いてからのクリーンエアではデグラデーションは0.01~0.02[s/lap]程度で、よくマネジメントできている。

 レースでミディアムをうまく使えたマクラーレンだが、逆の見方をすれば、ミディアムへの入力の少なさが予選1発での苦戦につながった可能性もある。

2. 緩急をつけたアロンソのオーバーテイク

 アロンソは今回も予選1発に苦しみ、Part1で触れたように他の移籍組と同様にタイヤを作動温度領域に持っていくことができなかったと考えられる。

 しかしレースでは水を得た魚の如く、前半はハイペースの中でも長くタイヤを持たせ、後半はペースの差を活かした怒涛の追い上げとなった。アロンソのオーバーテイクの戦術は特に2012年あたりから非常に計算されたものとなっており、何周も前からタイヤや(2014年以降は)エネルギーをマネジメントし、前のドライバーに追いつく時に相手を抜ける状態でいられるよう逆算してその前の数周を走っているように見える。

 以下にアロンソとライバルのリカルドのレースペースを示す。(参考にハミルトンも示した)

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Fig.4 アロンソとリカルドのレースペース(ハミルトンは参考用)

 49周目のガスリーはソフトスタートのミディアム走行中だった所を軽く仕留めたが、51周目に同じ戦略のリカルドをオーバーテイクしたのは素晴らしい。58周目にサインツを抜いてからの終盤にはハミルトンと同等のペースで走っており(ハミルトンもボッタスと同程度のペースでそれほど抜いていたわけではない)、このことからもラスト数周で1分21秒台中盤と相当の競争力があり、デグラデーションをオコンと同等の0.02[s/lap]前提で考えるとサインツやリカルドの後ろでまだクリーンエアの段階において0.3秒ほど本来のペースより落として走り、オーバーテイクのためのタイヤとエネルギーを貯めていたと考えられる。

 例として単純なモデルで考える。例えば、1周1秒速くないと抜けないサーキットで3秒前の相手に対し0.7秒速く走って4周後に追いついた所で、抜くのは相手のミス待ちになってしまう。しかし0.7秒速く走れるところを我慢して0.5秒ずつ追いついていけば、1周0.2秒ペースダウンしたぶんだけタイヤの状態にアドバンテージを作れ、それが0.3秒相当ならば、0.7+0.3=1.0で自力で追い抜くことができる。追いつくのには5周かかっても、相手に追いつく時に1.0秒速く走れることが最も重要なのだ。

 こうした攻めができるドライバーは意外と少ない。アロンソは特に2012年以降こういった戦術に非常に長けており、同様に巧みなオーバーテイクの組み立てを行うハミルトン以上に緩急をつけるスタイルと言える。ボッタスや昨年のアルボンはこういった部分が弱く、同じチームでもドライバーによって大きな差が生まれる部分だ。追い抜くことを考えて追いつくこと、後ろにいても追い抜けない場合は少し距離を置くなどは実践するのは意外と難しいのだろうと想像できる。フェルスタッペンも全体の中では上手い部類に入るが、ハミルトンやアロンソと比べるとやや見劣りし、今回のようにボッタスを抜けずハミルトンに抜かれるシーンが目立つ。彼は研究熱心なレースオタクであり、こうしたアロンソやハミルトンの走りを今後も研究していくと思われるので、ぜひ自身の成長につなげてもらいたい。

3. 角田の課題はタイヤを使い切ること

 予選では他のルーキー・移籍・復帰組と同じく苦戦した角田。レースでも課題が残った。以下にライバルのストロール(ソフトスタート→39周目ミディアム)と同じ戦略のジョヴィナッツィのレースペースを示した。

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Fig.5 角田、ストロール、ジョヴィナッツィのレースペース

 角田は後半のハードのスティントはデグラデーション0.00[s/lap]で、他にこれを達成しているのはルクレールとフェルスタッペンだけ(ノリスのミディアムも前述の通り0.00)だ。54周目のオーバーランで8秒以上失っており、最後17秒差まで追いついていることを考えればこのスティントのペースはそこまで悪くないものの、ライバル勢に対する遅れを考えればもう少しジョヴィナッツィのように積極的にタイヤを使いにいっても良いのかもしれない。彼はF2でも前半戦この傾向があり、後半戦で改善されてくるかどうかが見ものだ。

 また、第1スティントはミディアムでグレイニングによりタイムが上がらなくなっている。この傾向を避けることができたのはトップ2チームの4台(ボッタスはもしかすると怪しいが)とアロンソ、リカルドだけで、ルクレールやジョヴィナッツィなどもタイムを落としている。上手くやれているチーム・ドライバーがある以上問題解決に尽力すると思われ、今後の成り行きに注目が集まる。

4. 用語解説

ベストオブザレスト:トップ2チーム以外での最上位。Restとは「残り」の意味。近年トップチームが大きく抜け出し、中段チームとの差が大きくまるで2つの別クラスのレースのようであることからこうした呼ばれ方がされるようになった。

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。

タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

オーバーテイク:追い抜き