• 2024/11/21 15:29

2021年アメリカGP分析

1. 分析結果と結論

 先に分析結果を示す。分析の過程については次項「レースペースの分析」をご覧いただきたい。

Table1 全体のレースペースの勢力図

スクリーンショット 2021-10-27 19.57.38を拡大表示

※疑問符がつく部分はオレンジ色で示した

 フェルスタッペンとハミルトンがチームメイトを相手にせず、同程度のマシンで異次元の接近戦を繰り広げるという構図は、ミハエル・シューマッハとアロンソがマッサ、フィジケラに大差をつけながら激しく闘った2006年を彷彿とさせる。それに比肩するのは2000年や1990年といった所で、こうしたバトルは歴史上でも稀な事に思える。この時代を目の当たりにしていることに感謝しつつ、ラスト5戦の行方を見守りたい所だ。

 一方で、中団争いではシルバーストーンと同様にフェラーリが抜け出し、先頭とも0.7秒差で、ボッタスやペレスに近いペースを発揮した。

 最後方からの追い上げとなったアロンソもフェラーリ、マクラーレンに次ぐペースを発揮しているが、アロンソがジョビナッツィに対して激しく攻め立てる中、ラティフィの後方で突破口を見出せなかったオコンはこのシートの中でもかなり下方に位置すると考えられる。ラティフィより0.7秒速かったとしてもストロールの位置だが、DRS圏内に入ることも殆どなく、さらに下だったと考えるのが自然だ。オコンも決して遅いドライバーではないため、アルピーヌがかつてアロンソが在籍してきたチームのように、アロンソのドライバーアドバンテージに頼りがちなチームにならないかは、やや心配な所だ。その状態でタイトル争いをしても2012年のような無理のある展開になってしまうだろう。ロッシ、ブコウスキー、ブリビオという体制がこれから数年で何を成し遂げていくか、非常に興味深い部分だ。

 また、シューマッハが再びラティフィに近いペースを見せ、ハースも全くレースができないマシンというわけではない部分を、今シーズン何度も見せてきている。フェラーリとの関係があるため、ドライバー含めて今年学んだことを来年に活かしていけば、上位進出の将来性があるチームと言えるので、こうした内容一つ一つが重要なものになってくると思われる。

 ペレス、ライコネンはミディアムタイヤの第2スティントを参考にしているため疑問符、サインツはソフトの第1スティントを参考にしているためとなっている疑問符としている。ライコネンはハードタイヤでクリーンエアならばもう少し上にきた可能性が高い。

2. レースペースの分析

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.07[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

2.1 チームメイト同士の比較

 最初にチームメイト同士の比較を見ていこう。

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Fig.1 レッドブル勢のレースペース

 第2スティントではペレスはミディアム、フェルスタッペンがハードとタイヤが異なるものの、0.3秒のペース差で、2周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、0.4秒程度の差だったと言える。
 第3スティントでは全体を平均して評価すると、0.8秒ほどのペース差で、同様に1周のタイヤ履歴を考慮すると0.9秒程度の差だったと言える。
 ペレスはドリンクが壊れており、第3スティントでは前後と離れていたため、プッシュはしていなかったと考えられ、第3スティントで比較するのは不適切と言える。そのため、第2スティントまでの平均0.4秒を疑問符つきで、両者の差と評価すべきだろう。ミディアムとハードの差については全体の勢力図分析である程度判明する可能性がある。

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Fig.2 メルセデス勢のレースペース

 第2スティントで比較すると、ハミルトンが約0.3秒速く、2周のタイヤ履歴の差を、デグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、ハミルトンの方が0.4秒ほど速かったと言える。
 第3スティントでは同様の計算をすると、0.8秒と差が開いている。ここではボッタスが自身の第2スティントと比べても競争力を落としており、サインツへのオーバーテイクのためにタイヤを取っていた可能性が考えられるため、ここでは第2スティントの0.4秒をこのレースでの両者のレースペース差としておこう。

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Fig.3 フェラーリ勢のレースペース

 サインツを評価できるのがソフトタイヤの第1スティントのみで、ここではルクレールの0.6秒落ちとなっている。この後のチームを跨いだ分析でソフトとミディアムのロングランでの差が割り出せる可能性があるが、現時点では比較不可能とする。

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Fig.4 マクラーレン勢のレースペース

 今回は第1スティントで差がついた後は、第2,3スティントでイーブンペースとなった。乱気流の影響も絡んでいたことや、メインはハードタイヤであることを考慮して、全体の評価としてはイーブンペースとしておこう。

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Fig.5 アルファタウリ勢のレースペース

 今回のチームメイト比較は不可能だった。

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Fig.6 アストンマーティン勢のレースペース

 第2スティントのペース差は0.2秒程ベッテル優勢と見るべきだろう。1周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、0.3秒ほどベッテルが上回っていたと言える。第3スティントでは0.4秒ほどのペース差で、同様にタイヤを考慮すると0.1秒程度ベッテルが優っていたと言える。
 全体で吟味すると、0.2秒差でベッテル優勢と評価して良いだろう。

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Fig.7 アルファロメオ勢のレースペース

 ジョビナッツィはミディアムの第2スティントで苦戦しており、ライコネンの約1.0秒落ちで、4周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、0.7秒ほど遅れていたと言える。第1スティントの様子を見てもミディアムではライコネンの方が圧倒的に競争力があった。
 第3スティントではライコネンが角田の後方でダーティエアにおり、離されたのもサインツと同様にダーティエアでタイヤの劣化が進んだことが原因と思われる。

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Fig.8 ウィリアムズ勢のレースペース

 第2スティントでは約0.5秒ラッセルが速いペースとなっているが、4周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.12[s/lap]で考慮するとイーブンペースになる。第3スティントも約0.6秒のペース差だが、今度はデグラデーションが非常に小さく、6周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると0.5秒ほどになる。
 総合的には、平均の0.3秒差をこのレースの2人の差と評価するのが妥当だろう。

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Fig.9 ハース勢のレースペース

 正確な比較が可能なのは最終スティントだ。シューマッハが0.8秒ほど速いが、3周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると1.0秒程の差と言える。

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Fig.10 アルピーヌ勢のレースペース

 今回の比較は不可能だった。

2.2 ライバルチーム同士の比較

 続いて、チームを跨いだ比較を行う。

 図11にフェルスタッペンとハミルトンの比較を示す。

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Fig.11 フェルスタッペンとハミルトンのレースペース

 第2スティントの15周目から29周目を全体を平均すると、ハミルトンのペースはフェルスタッペンを0.25秒ほど上回っている。これはタイヤ履歴の差3周分をデグラデーション0.07[s/lap]で計算するとほぼ互角と言え、ミディアムタイヤの第1スティントのようなフェルスタッペン優勢の状態ではなくなっている事が分かる。
 最終スティントでも、8周新しいタイヤで平均のペース差が0.6秒程度で、これも第2スティントと同様の計算をすると両者は互角だったと言える。
 第2、3スティント共にフェルスタッペンとハミルトンの力は互角だった。

 続いてハミルトンとルクレール、リカルドを比較してみよう。

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Fig.12 ハミルトン、ルクレール、リカルドのレースペース

 こちらも記事の中で分析した通り、ルクレールはハミルトンの0.6秒落ちだった。ただし第2、3スティント共に終盤はタイヤが大きくドロップオフしており、そこを含めると0.7秒と評価するべきかもしれない。ちなみに後述の角田やラッセルは、タイヤが生きているときの先頭争いから0.6秒落ちのルクレールと比較している。
 リカルドはルクレールの0.3~0.4秒落ちだった。ここではデータの質を鑑みて、第2スティントの0.4秒落ちの方を採用しよう。

 続いて角田、ラッセルをルクレールと比較してみよう。

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Fig.31 ルクレール、角田、ラッセルのレースペース

 角田の第2スティントはルクレールの1.5秒落ち程度だ。3周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、1.3秒ほどの差になる。第3スティントでは同じ履歴のタイヤで1.4秒程度のペース差に見える。第3スティントのルクレールのペースの安定性(トラフィックやDRSの影響と思われる)を鑑みると、平均を四捨五入するのではなく、切り捨てて1.3秒とするのが妥当と言えるだろう。
 一方のラッセルは、まず第3スティントで角田と比較すると0.3秒落ち程度で、1周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると0.2秒程度になる。
 そして、第2スティントでは角田とはクリーンエアのタイミングが異なるためルクレールと比較するが、2.6秒落ちのペースに、3周分のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、2.3秒落ち(角田から1.0秒落ち)と非常に大きな差だった。ウィリアムズ勢は第2、3スティントでの競争力が異なるため、安易に平均をとって良いものか悩ましいが、ここでは角田から0.6秒落ちとしよう。

 次はアロンソをフェルスタッペンおよびハミルトンと比較してみよう。

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 Fig.14 アロンソ、フェルスタッペン、ハミルトンのレースペース

 アロンソの第2スティントのクリーンエアは23周目以降の限られた周回だが、フェルスタッペンと比較すると約2.0秒落ちで、3周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると1.7秒落ちとなる。
 第3スティントも序盤のタイムしか参考にならないが、抑え気味(0.5秒ほど?)のペースのフェルスタッペンの1.3秒落ちのため、同様の計算でやはり1.7秒落ちと辻褄が合う。
 その上で、最終スティントはハミルトンより2周新しいミディアムタイヤで約1.4秒落ちとなっている。同様に計算するとハミルトンから1.5秒落ちで、ミディアムタイヤのスティントの方が0.2秒ほど速い結果が出た。ハードタイヤのスティントのサンプルの少なさを鑑みるとやや疑問符もつくが、アロンソに関してはハードとミディアムの間に大きな差は無かったと見るのが妥当と思われる。

 次はベッテルをハミルトンと比較する。

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Fig.15 ベッテル、ハミルトンとボッタスのレースペース

 やや比較しづらいが、第2スティント後半でボッタスと比較すると、1.5秒落ちのペースと評価するのが妥当だろう。ベッテルは2周新しいミディアムタイヤで、デグラデーションを0.07[s/lap]で考慮するとボッタスの1.4秒落ち、チーム別分析の結果からハミルトンの1.8秒落ちと言える。
 一方で最終スティントでは1周新しいハードタイヤでハミルトンの2.0秒落ちのペースで、同様の計算をすると1.9秒落ちと言え、ベッテルもミディアムの第2スティントとハードの第3スティントで対ハミルトンでの競争力はさほど変わっていない事がわかる。

 続いてラッセルとシューマッハを比較する。

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Fig.16 ラッセルとシューマッハのレースペース

 第2スティントでは同じハードタイヤでシューマッハが0.4秒落ちのペースで、2周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、0.5秒落ちと言える。
 最終スティントではシューマッハがミディアムタイヤを履いているが、3周新しいタイヤで約0.4秒落ち(大きく落としている周は含めていない)となっている。同様の計算をするとラッセルの0.6秒落ちと言える。
 この事からシューマッハの場合はミディアムでの競争力が0.1秒遅かったと言え、ここでもハードとのペース差はかなり小さかったことがわかる。

 次はライコネンとジョビナッツィを角田と比較する。

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Fig.17 角田、ライコネン、ジョビナッツィのレースペース

 第2スティントのライコネンは、ミディアムタイヤで角田の0.2秒落ちのペースだった。3周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると角田とはイーブンペースということになる。ハードタイヤの最終スティントでは1周古いタイヤで角田のダーティエア内に食らいつきつつ、スティント後半でタイヤがタレてしまったが、ペースに余裕がありオーバーテイクを試み続けタイヤが終わってしまったのか、イーブンペースに近い中で食らいつきタイヤが終わってしまったのかは判断しかねる。ただし、角田との距離感からライコネンの方がポテンシャルペースがやや上だった事は見て取れるため、後述するジョビナッツィの競争力と総合しても、今回のアルファロメオはミディアムよりもハードタイヤで競争力があった事が想像できる。

 一方ジョビナッツィは、チームメイト比較で明らかにした通り、ミディアムの第2スティントでライコネンの0.7秒落ちで、上記より角田との差も同様になる。しかし、ハードの第3スティントでは6周古いタイヤで0.3秒落ちのペースで走っており、計算すると角田より0.1秒速かったと言える。ミディアムとハードの差が0.8秒あったが、ここでは平均して、角田の0.3秒落ちと結論づけよう。

 全体的に、アルファロメオを除けばミディアムとハードのペース差は誤差範囲内と言え、ペレスはフェルスタッペンの0.4秒落ちという結論で妥当と言えるだろう。

 また、図18に示した通り、角田はソフトタイヤでハミルトンの2.5秒落ち、ルクレールの1.5秒落ちとなっている。これは本来のペースと比べると、ソフトタイヤを履いたことによるディスアドバンテージがハミルトンに対して0.6秒、ルクレールに対して0.4秒だったことを意味する。ハミルトンに関しては完全なクリーンエアの影響もあると思われ、前方との間隔が2秒以上でも厳密にはダーティエアの影響はある事を考慮すると、ソフトタイヤのディスアドバンテージは0.4秒程度と見るべきだろう。そしてチーム別分析で、第1スティントではソフトのサインツがミディアムでのルクレールの0.6秒落ちのため、サインツはルクレールの0.2秒落ちだったと評価するのが妥当だろう。もちろん、擬似的な比較であるため、クエスチョンマーク付きの結論だが、その後のマクラーレンとのレースぶりを見てもこの数字はかなり妥当に見える。

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Fig.18 角田、ハミルトン、ルクレールのレースペース