• 2024/11/21 15:36

2021年スペインGPレビュー(1) 芸術的な戦略レース ”ハミルトンvsフェルスタッペン”

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 開幕以降続いているハミルトンvsフェルスタッペンの図式。今回もその構図は継続され第4戦にして直接対決ラウンド4となった。今回もグラフを交えたレースペース分析を元に、各チーム・ドライバーの繰り広げた激闘の軌跡を振り返ってみよう。

 ※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 2019年ハンガリーGPの再来
  2. レッドブル&フェルスタッペンに打つ手はあったか?①
  3. レッドブル&フェルスタッペンに打つ手はあったか?②
  4. 今回は打つ手がなかったレッドブル&フェルスタッペン
  5. ボッタスとペレスのパフォーマンス
  6. 用語解説

1. 2019年ハンガリーGPの再来

 2年前のハンガリーGPではトップに立つフェルスタッペンに対し、ハミルトン&メルセデスはコース上で抜けないことを悟ると、通常2ストップレースのところ、もう1回ピットストップを行いタイヤの履歴の差を作ることで1周1秒以上速く周回。ピットストップ1回分の差を縮め、コース上でのオーバーテイクに成功し、勝利を収めた。今回はそれと全く同じ構図が繰り広げられた。2人のラップタイムの推移およびタイヤ戦略を図1に示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 ハミルトンとフェルスタッペンのレースペース

 ピレリ公式による各々のタイヤ戦略はこちら。 

 ハミルトンは第1スティントでフェルスタッペンの後方1秒強の位置でタイヤを労りフェルスタッペンのタイヤがタレてきた20周目あたりでタイムを上げ背後に迫った。その後28周目まで引っ張り、フェルスタッペンより4周新しいミディアムタイヤで第2スティントを有利に進める。フェルスタッペンもピットストップ後はハミルトンの前をキープできるだけの最小限のペースで走っていることがグラフから分かる。これはハミルトンに追いつかれた際に少しでも良いタイヤの状態で戦うためである。実際追いつかれてからはペースを上げディフェンスに徹している。

 その後ハミルトンはフェルスタッペンに追いつきオーバーテイクを試みるものの、やはり難しそうだと判断するや否や42周目に再度ピットイン。今度はフェルスタッペンより18周新しいタイヤを履いて追い上げる戦略に出た。タイヤのデグラデーションが少なくとも0.05[s/lap]はあり、今回は第1スティントでもフェルスタッペンのタイヤがより大きくタレた(実際ソフト・ミディアムともに0.10[s/lap]のタレ。ハミルトンは0.05[s/lap]程度。)ことを考慮すると、少なくとも0.9秒のラップタイムアドバンテージで第3スティントを開始、追いつく際には1.5~2秒前後のアドバンテージを持って仕掛けられると見込まれ、実際メルセデスの計算通りの結果となった。

2. レッドブル&フェルスタッペンに打つ手はあったか?①

 あの状況下においてレッドブル陣営が勝つために何かできることがあったのか?それはこのレースを見た多くの人が考えを巡らせたのではないだろうか。

 まずフェルスタッペンがハミルトンの2回目のピットの後、少ししてから新品ソフトに変えていた場合を考えてみたい。

 まず前提条件を吟味してみよう。フェルスタッペンの第1スティントは3周オールドのソフト、第2スティントが新品ミディアムだ。フェルスタッペンの第2スティント序盤の平均タイムは第1スティントよりも1.4秒前後速い。フエルエフェクト(0.05[s/lap]で計算)通りなら24周で1.2秒速いはずであり、そこにソフトを予選で使っていることを加味すると、フェルスタッペンのソフトとミディアムのロングランパフォーマンスはそれほど変わらないと見て良い。他のドライバーを見てもパフォーマンスレベルとデグラデーションはソフト・ミディアムで優位な差は見られず妥当と考えられる。

 その前提で考えると、フェルスタッペンが52周目ピットインだとすると、ハミルトンに対し10周のタイヤアドバンテージを作れる。すると前述の通りハミルトンのデグラデーションが0.05[s/lap]なので、走りはじめは0.05×10=0.5秒速く走ることができる。しかし、その状態で残り14周を走ったところで7秒しか追いつかずピットストップ1回分の差を埋めるには程遠い。さらに前述の通りフェルスタッペンの方がデグラデーションが大きいことを考慮すると2秒程度しか追いつかない可能性も濃厚と考えられる。またこの時点では10秒後ろにボッタスがおり、ボッタスにすら追いつけない可能性が高い。

 よってソフトを履くのは無しだ。

3. レッドブル&フェルスタッペンに打つ手はあったか?②

 次にそもそもハミルトンに2度目のストップを行わせず、42周目に先手を打ってソフトに履き替えた場合を考えてみよう。すると28周目ピットインのハミルトンに対して14周のタイヤアドバンテージを握ることになる。これはハミルトンのデグ0.05[s/lap]から考えて0.7秒相当であり、24秒のピットストップロスを埋めるには30周以上かかる。

よってこの戦略も論外となる。

4. 今回は打つ手がなかったレッドブル&フェルスタッペン

 上記のように今回はレースペースの点で完敗しており、スタートで前を抑えたことで勝機が見えたものの、スタートで2番手のままだったとしたら、特に各スティント後半で離されていく厳しいレース展開になっていた可能性が高い。それだけに劣勢の中2位+ファステストで19ポイント獲得は最大限の仕事はしたと言える。

5. ボッタスとペレスのパフォーマンス

以下にメルセデスとレッドブルの4台のレースペースを示す

画像2を拡大表示

Fig.2 メルセデスのレースペース

画像3を拡大表示

Fig.3 レッドブルのレースペース

 ボッタスは第1スティントでルクレールに引っかかっていたが、第2スティントではフエルエフェクトとデグラデーションを考慮するとハミルトンとほぼ同等のパフォーマンスを示している。1ストップの可能性を考えてか34周目まで抑えて走っていたが、35周目以降はタイムを上げており、この時点で2ストップを決めたと考えるのが妥当だろう。ボッタスは予選で小さなミスがあり3番手となり、スタートでルクレールに交わされたことで厳しいレースとなったが、ポテンシャル的には優勝争いができるスピードがあった。このことからもレースで必要なのは速さだけではないという事が分かり、勝負どころをキッチリ押さえてくるハミルトンの強さが光る。

一方ペレスはクリーンエアで走れている時間帯がほとんど無い。リカルドをオーバーテイクした46周目以降が参考値にはなるが、リカルドの後ろのダーティエアでどの程度のデグラデーションがあったかは定かではなく、今回のペレスのレースペースは未知数と結論づけざるを得ない。

Part2では大混戦となった中段争いに着目し、ルクレール以降の戦いを紐解く。

6. 用語解説

オーバーテイク:追い抜き

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。

フエルエフェクト:燃料搭載量がラップタイムに及ぼす影響。燃料が重くなることでより大きな慣性力(加速しない、止まれない)が働き、コーナリング時も遠心力が大きくなり曲がれなくなる。それによって落ちるラップタイムへの影響を1周あたりで[s/lap]としたり、単位質量あたりで[s/kg]、あるいは単位体積あたりで[s/l]としたりする。また英語でFuel Effectなので、「フューエルエフェクト」や「フュエルエフェクト」などの表記がある。当サイトでは「フエルエフェクト」と[s/lap]を標準として扱う。

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。