この分析では、当サイトで行ってきたドライバー達のチームメイト比較をもとに、歴代トップドライバー達のレースペースの力関係を割り出した。2023年シーズンを終え、新たなデータと知見が得られたため、Ver.1.2として更新する。
Ver.1.1はこちら。
1. 結論
先に分析結果を示す。
表1-1 歴代トップドライバーのレースペース比較
表1-2 現役ドライバーのレースペース比較
注意書き
「確からしさ(Certainty)」を1(確かでない)から4(ほぼ確実)で評価し、2以下のものについては黄色でマークした。現役の若手ドライバーに関しては、今後数年で明らかになっていくものが多いだろう。
またレースペースという概念の特性上、0.1秒程度の誤差が生じてしまうのは仕方がなく、分析結果もある程度大まかなものだと考えていただきたい。
管理人の所感
やはり、複数回のタイトルを獲ることができる実力者たちが上位に名を連ねた。特に今後のF1はグランドエフェクトカーやハイブリッド技術導入の推進など、レースペースの重要性がさらに高まってくると考えられ、この表でいかに上に来られるかが結果を残す鍵となりそうだ。
また、予選と決勝でセットアップをいかに両立するか、という点もポイントだ。それに関しては、こちらの「歴代ドライバーの競争力分析(予選)」とも合わせてご覧いただければ幸いだ。
2. 分析
2.1. アロンソ、ハミルトン、バトン、ライコネンらの比較
2007年:vs マッサ 6勝0敗1引き分け (-0.1秒差)
2008年:vs マッサ 7勝3敗1引き分け(-0.1秒差)
2009年:vs マッサ 1勝4敗(+0.2秒差)
2009年は予選で非常に速く、レギュレーションが大きく変わった1年目ということも踏まえると、セットアップ面で予選に振りすぎたと解釈できる。ここでは07,08年における0.1秒速いを採用する。
次にアロンソをマッサと比較する。
2010年:vs マッサ 9勝0敗(-0.4秒差)
2011年:vs マッサ 11勝1敗(-0.5秒差)
2012年:vs マッサ 10勝2敗2引き分け(-0.4秒差)
2013年:vs マッサ 13勝0敗(-0.6秒差)
2013年は予選での差が縮まっており、アロンソがレースに振ったかマッサが予選に振ったと考えられる。したがってここでは0.4秒速いと解釈しよう。
続いてボッタスをマッサと比較する。
2014年:vs マッサ 3勝4敗2引き分け(0.0秒差)
2015年:vs マッサ 6勝2敗1引き分け(-0.1秒差)
2016年:vs マッサ 2勝1敗3引き分け(0.0秒差)
2014年はボッタスにとって1年目であることも踏まえ、15,16年の2年間で0.1秒速いと解釈しよう。
続いてハミルトンをボッタスと比較する。
2017年:vs ボッタス 8勝1敗2引き分け(-0.4秒差)
2018年:vs ボッタス 7勝0敗3引き分け(-0.2秒差)
2019年:vs ボッタス 8勝2敗(-0.2秒差)
スペインGP以降 7勝0敗(-0.3秒差)
2020年:vs ボッタス 6勝1敗1引き分け(-0.1秒差)
アブダビGPを除き 6勝0敗1引き分け(-0.2秒差)
2021年:vs ボッタス 13勝0敗(-0.4秒差)
ややバラツキがあるが、平均して0.3秒速いと読んで良いだろう。
続いてハミルトンをバトンと比較する。
2010年:vs バトン 6勝1敗(-0.2秒差)
2011年:vs バトン 6勝4敗2引き分け(-0.1秒差)
2012年:vs バトン 4勝4敗4引き分け(-0.1秒差)
平均で0.1秒速い。
次にアロンソをバトンと比較する。
2015年:vs バトン 4勝0敗1引き分け(-0.2秒差)
2016年:vs バトン 5勝1敗(-0.2秒差)
こちらは0.2秒速い。
続いてアロンソをライコネンと比較する。
2014年:vs ライコネン 9勝2敗1引き分け(-0.3秒差)
1年分しかなくやや心許ないが0.3秒速いとして良いだろう。
ここまでをまとめると表2のようになる。
表2 レースペース比較 1
ハミルトンを除き、見事なまでに辻褄が合った。
ハミルトンについては「バトンを0.1秒上回るマクラーレン時代のハミルトン」と「ボッタスより0.3秒速いメルセデス時代のハミルトン」を分けて考えるのは理にかなっている。歴代予選分析でも触れた通り、2014年以降のハミルトンはジョック・クレアの助言によりレースペースを重視するようになっており、ここに0.1秒の差が生まれるのは頷ける。
この表2については非常に確からしいと考え、以降の分析を進めていこう。
2.2. ベッテル、ロズベルグ、ペレスらの比較
続いてベッテルをライコネンと比較する。
2015年:vs ライコネン 10勝1敗1引き分け(-0.2秒差)
2016年:vs ライコネン 6勝2敗1引き分け(-0.1秒差)
2017年:vs ライコネン 8勝1敗3引き分け(-0.3秒差)
オーストラリア、ベルギーGPを除き6勝1敗3引き分け(-0.1秒差)
2018年:vs ライコネン 7勝1敗1引き分け(-0.2秒差)
平均で0.2秒速い。
続いてアロンソをオコンと比較する。
2021年:vs オコン 7勝2敗3引き分け(-0.3秒差)
シュタイヤーマルクGP以降 6勝0敗2引き分け(-0.4秒差)
2022年:vs オコン 12勝3敗(-0.4秒差)
こちらは0.4秒速い。
続いてペレスをオコンと比較する。
2017年:vs オコン 4勝2敗1引き分け(-0.1秒差)
2018年:vs オコン 2勝1敗1引き分け(0.0秒差)
微妙なところだが、2017年がオコンにとって移籍後1年目であることを鑑みて、「互角」と解釈しよう。
次にアロンソをフィジケラと比較する。
2005年:vs フィジケラ 4勝1敗(-0.3秒差)
2006年:vs フィジケラ 14勝1敗(-0.4秒差)
平均で0.4秒速い。
続いてハミルトンをロズベルグと比較する。
2013年:vs ロズベルグ 7勝5敗(-0.1秒差)
2014年:vs ロズベルグ 8勝1敗(-0.1秒差)
2015年:vs ロズベルグ 8勝1敗3引き分け(-0.1秒差)
2016年:vs ロズベルグ 2勝0敗1引き分け(-0.2秒差)
平均で0.1秒速い。
次にベッテルをウェバーと比較する。
2009年:vs ウェバー 4勝1敗(-0.1秒差)
2010年:vs ウェバー 0勝3敗2引き分け(+0.3秒差)
2011年:vs ウェバー 7勝1敗3引き分け(-0.2秒差)
2012年:vs ウェバー 10勝1敗(-0.2秒差)
2013年:vs ウェバー 10勝3敗1引き分け(-0.2秒差)
2010年だけ突出して悪い内容になってしまっているが、それを除けば0.2秒速いと見て良さそうだ。
続いてヒュルケンベルグをペレスを比較する。
2014年:vs ペレス 4勝6敗1引き分け(0.0秒差)
2015年:vs ペレス 3勝5敗3引き分け(+0.1秒差)
2016年:vs ペレス 2勝3敗1引き分け(0.0秒差)
3年間で「互角」と見て良いだろう。
次にグロージャンをライコネンと比較する。
2012年:vs ライコネン 3勝2敗(0.0秒差)
2013年:vs ライコネン 1勝3敗(+0.4秒差)
イギリスGPを除き1勝2敗(+0.1秒差)
サンプル数が少ないが、2年間合わせて「互角」と考えよう。
次にマグヌッセンをグロージャンと比較する。
2017年:vs グロージャン 1勝1敗3引き分け(0.0秒差)
2018年:vs グロージャン 1勝2敗1引き分け(+0.1秒差)
2019年:vs グロージャン 2勝4敗1引き分け(0.0秒差)
2020年:vs グロージャン 0勝1敗(+0.1秒差)
4年間で「互角」と考えて良いだろう。
次にライコネンをクルサードと比較する。
2002年:vs クルサード 1勝0敗(-0.3秒差)
2003年:vs クルサード 3勝1敗1引き分け(-0.2秒差)
2004年:vs クルサード 1勝0敗(-0.5秒差)
2002,04年のサンプル数が少ないため、03年の5サンプルと合わせて平均し、0.3秒速いと読もう。
続いてハッキネンをクルサードと比較する。
2000年:vs クルサード 3勝0敗(-0.3秒差)
2001年:vs クルサード 1勝0敗(-0.3秒差)
ややサンプル数の少なさが気になるが0.3秒速いと見て良いだろう。
次にハミルトンをコバライネンと比較する。
2008年:vs ハミルトン 0勝7敗1引き分け(+0.3秒差)
2009年:vs ハミルトン 0勝9敗(+0.4秒差)
平均で0.4秒速い。
以上をまとめて表2に当てはめると表3のようになる。
表3 レースペース比較 2
それぞれ単純な比較であるため、現段階ではさほど疑いの目を向ける必要はなさそうだ。ただし、ライコネンとクルサードの比較やライコネンとグロージャンの比較はサンプル数の少なさを年を跨ぐことで補っており、多少確からしさが落ちると考える見方もあるかもしれない。その場合は、クルサードとハッキネンが0.1秒レベルで多少上下する可能性、グロージャンを0.1秒下に表記した方が妥当である可能性が出てくる。
2.3. シューマッハ、バリチェロらの比較
さて、ミハエル・シューマッハをバリチェロと比較してみよう。
2000年:vs バリチェロ 7勝0敗(-0.5秒差)
2001年:vs バリチェロ 7勝0敗1引き分け(-0.4秒差)
2002年:vs バリチェロ 7勝1敗(-0.3秒差)
2003年:vs バリチェロ 4勝0敗(-0.4秒差)
2004年:vs バリチェロ 9勝1敗(-0.3秒差)
2005年:vs バリチェロ 3勝0敗(-0.3秒差)
こちらは全体を平均して0.4秒速いといった所だろう。
続いてシューマッハをマッサと比較する。
2006年:vs マッサ 13勝1敗1引き分け(-0.4秒差)
1年だけではあるが、0.4秒速いとして問題ないだろう。
次にバトンをバリチェロと比較する。
2006年:vs バリチェロ 6勝0敗1引き分け(-0.4秒差)
2007年:vs バリチェロ 3勝4敗(0.0秒差)
2008年:vs バリチェロ 3勝4敗(0.0秒差)
2009年:vs バリチェロ 5勝3敗3引き分け(-0.1秒差)
2006年はバリチェロが移籍初年度でかなり苦戦したが、その後はほぼ「互角」となっている。
さて、シューマッハのマッサとの比較をそのまま表3に当てはめると、アロンソと互角の位置に来る。一方でバトンと互角のバリチェロよりも0.4秒速いとなるとアロンソの0.2秒上となる。
ただし、バトンとバリチェロの比較については2009年以降のバトンが一段階成長したと考え、09年以降のバトンをバリチェロの0.1秒上に持ってくるやり方もある。そうすればシューマッハはアロンソの0.1秒上となり、少しは辻褄が合いそうだ。本分析ではひとまず、年数が多いバリチェロとの比較を採用し、シューマッハをアロンソの0.1秒上に持ってこよう。両者を加えた各々の関係を表4に示す。
表4 レースペース比較 3
2.4. フェルスタッペン、ルクレールらの比較
さて、続いてベッテルをルクレールと比較する。
2019年:vs ルクレール 5勝2敗4引き分け(+0.1秒差)
カナダGP以降 3勝1敗4引き分け(0.0秒差)
2020年:vs ルクレール 0勝4敗(+0.6秒差)
2019年の前半戦はルクレールがF1での2年目にしてフェラーリ移籍初年度となり、やや苦戦気味だ。後半戦のみの差を見るのが適切だろう。一方20年になると差が非常に大きくなってしまう。これを2人の実力差と考えるのは無理があり、ひとまず「互角」とするのが妥当だろう。
次にルクレールをサインツと比較する。
2021年:vs サインツ 8勝3敗4引き分け(-0.1秒差)
2022年:vs サインツ 14勝1敗(-0.3秒差)
2022年:vs サインツ 8勝2敗3引き分け(-0.1秒差)
平均をとって0.2秒速いと解釈しよう。
続いてノリスをサインツと比較する。
2019年:vs サインツ 1勝2敗(0.0秒差)
2020年:vs サインツ 6勝3敗1引き分け(-0.1秒差)
2019年はノリスにとって1年目であり、サンプル数も少ないため、20年の数字を採用して0.1秒速いとして良いだろう。
次にサインツをクビアトと比較する。
2016年:vs クビアト 2勝1敗(-0.1秒差)
2017年:vs クビアト 0勝2敗2引き分け(+0.1秒差)
サンプル数が少ないが、ひとまず2年間合わせて「互角」と読もう。
続いてサインツをヒュルケンベルグと比較する。
2018年:vs ヒュルケンベルグ 2勝4敗(0.0秒差)
「互角」と見て問題ないだろう。
次にリカルドをクビアトと比較する。
2015年:vs クビアト 6勝1敗3引き分け(-0.2秒差)
2016年:vs クビアト 1勝0敗1引き分け(-0.2秒差)
平均で0.2秒速い。
続いてフェルスタッペンをリカルドと比較する。
2016年:vs リカルド 5勝3敗3引き分け(0.0秒差)
2017年:vs リカルド 3勝0敗1引き分け(-0.1秒差)
2018年:vs リカルド 5勝1敗(-0.1秒差)
平均で0.1秒速い。
次にフェルスタッペンをサインツと比較する。
2015年:vs サインツ 5勝2敗(-0.2秒差)
2016年:vs サインツ 0勝0敗
実質1年のみになるが、0.2秒速いと見て良いだろう。
次にリカルドをベッテルと比較する。
2014年:vs ベッテル 6勝2敗2引き分け(-0.2秒差)
こちらは、ひとまず0.2秒速いと見ることとする。
以上をまとめると表5のようになる。
表5 レースペース比較 4
ベッテルについては、ルクレールと同等と見做せばフェルスタッペンの0.1秒落ち(S.Vettel 1)となるが、2014年のリカルドとの比較で考えるとサインツやクビアトと同等(S.Vettel 2)となる。表4と共通する数少ないドライバーであるため、この差は見過ごせない。
ここでフェルスタッペンについて的確に把握するため、ペレスとの比較を見てみよう。
2021年:vs ペレス 15勝0敗1引き分け(-0.4秒差)
2022年:vs ペレス 10勝1敗2引き分け(-0.2秒差)
2023年:vs ペレス 15勝0敗1引き分け(-0.3秒差)
2022年はフェルスタッペンが前半戦で苦戦し、後半戦はプッシュする必要のない展開が増えた。また2023年も全力を出す機会が極めて少なかった。リカルドと比較した17,18年のフェルスタッペンはシーズンの特定の期間で苦戦した形跡は見られないため、2021年のペレスより0.4秒速い状態を表5に適用すべきフェルスタッペンの状態と考えよう。
また、バトンをペレスとも比較しておこう。
2013年:vs ペレス 7勝3敗2引き分け(-0.2秒差)
1年のみになるが、0.2秒速い。
すると表4にてフェルスタッペンがシューマッハの0.1秒落ち(アロンソ、ハミルトンと互角)となり、そのまま表5の面子を当てはめていくと、表5における「S.Vettel 1」が表4のベッテルと一致することがわかる。またこの時ヒュルケンベルグも表4のヒュルケンベルグの位置と一致し、バトンとペレスの0.2秒差も見事にキープされる。したがってかなりの確からしさを担保できていると考えられる。
実際にこの操作を行うと、表6のようになる。
表6 レースペース比較 5
しかし、「歴代ドライバーの競争力分析(予選)Ver. 2.2」を踏まえると、サインツやノリスがかなり「予選型」ということになってしまう。ルクレールも二者ほどではないが、その傾向となる。また、ルーキーイヤーとはいえ、そのノリスにレースペースで差をつけられたピアストリという構図も今ひとつしっくり来ないものがある。
そのように考えるよりは、サインツとクビアトの比較のサンプル数が少ないことを問題視すべきだろう。ここの値を有効としない選択を採るならば、サインツとノリスを0.1秒引き上げることができる。
するとルクレールがバランス型で、サインツとノリスもほぼバランスが取れることになる。
2.5. ラッセル、ガスリー、角田らの比較
あとは現役の若手ドライバーたちをここに当てはめて行けば良い。ただし、多くの場合参照する年数が少ないため確からしさは低く、今後数年のデータ次第で評価が上下する可能性は多分にある点には留意する必要があるだろう。
まずはハミルトンをラッセルと比較する。
2022年:vs ラッセル 11勝2敗(-0.2秒差)
2023年:vs ラッセル 12勝2敗(-0.2秒差)
2年間で同じ結果が出ており、かなり信用できる。ハミルトンが0.2秒速いと結論づけて良いだろう。
続いてペレスをストロールと比較する。
2019年:vs ストロール 4勝0敗(-0.3秒差)
2020年:vs ストロール 0勝1敗(+0.8秒差)
2020年のサンプルが極端に少ないため、19年のデータに合わせて全5サンプルで平均を取ると0.1秒速いと言えそうだ。
アロンソとストロールも比較していこう。
2023年:vs ストロール 15勝1敗(-0.4秒差)
1年のみだが0.4秒差だ。先のペレスとの比較にも言えることだが、ストロールには波があり、定量的な評価が難しい部分もある。来年以降の数字次第で見直しが必要になる可能性は片隅においておこう。
次にガスリーをクビアトと比較する。
2019年:vs クビアト 0勝1敗(+0.2秒差)
2020年:vs クビアト 1勝1敗1引き分け(-0.1秒差)
2年間で「互角」だが、あまりにもサンプル数が少ない。ガスリーをクビアトと互角とすると、前出のサインツやノリスと同様に、ガスリーがかなりの予選型になる。これも不自然であるため、ガスリーを0.1秒上に持ってくることとする。
続いてガスリーを角田と比較する。
2021年:vs 角田 12勝1敗(-0.4秒差)
イギリスGP以降7勝1敗(-0.3秒差)
2022年:vs 角田 7勝0敗3引き分け(-0.2秒差)
角田が2年目の2022年を採用して0.2秒速いと言って良いだろう。
次にジョウをボッタスと比較する。
2022年:vs ボッタス 0勝8敗(+0.4秒差)
2023年:vs ボッタス 7勝0敗2引き分け(-0.1秒差)
ルーキーイヤーは苦戦したが、2年目の数字を採用し、0.1秒速いとしよう。
これらを表6に組み込むと表1が完成する。
分析・執筆:Takumi