• 2025/12/13 22:33

2025年シーズンレビュー(2)〜中団チームを紐解く〜

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 前回『2025年シーズンレビュー(1)』ではトップチーム同士の、1年間の競争力の変遷、およびチームメイト同士の予選・レースペース比較を行なった。今回は中団チームに焦点を当てていこう。

1. 上位勢のチームメイト比較

 チームメイト同士の比較を見てみよう。ただし、レースペースに関しては注意点がある。今年は勢力図の接近と、グランドエフェクトカーでの4年目ということもあり、中団チームのレースにおけるダーティエアの影響が非常に大きかった。なんとか出せるものは出したが、全体的にサンプル数が少なく、あまり信頼のおけるデータとは言えない。その点は念頭に置いて、レースペース比較をご覧いただければ幸いだ。予選についてはある程度正確な数値が出ているはずであり、そちらを主に参考にすると良いと思われる。

1.1. アルボンvsサインツ

表1 予選ペース比較

 

表2 レースペース比較

 

 レースペースは今年の中団勢の争いを象徴するかのような空白ぶりで、1年を通して少なくとも一方がダーティエアの影響でペースを発揮できないレースがほとんどだった。

 となると予選しか比較材料がないが、ここではサインツがやや優勢となった。流石にフェルスタッペン、ノリス、ルクレールといった最高峰のチームメイトと組んできて、いずれも大きな遅れを取らなかった実力者だけに、納得の数字を移籍初年度から叩き出してきた。

1.2. ローソンvsハジャー

表3 予選ペース比較

 

表4 レースペース比較

 

 ここはハジャーが明確に上回った。とはいえ、予選でのペース差は0.1秒程度で、印象ほどローソンも悪くはない。今年はフィールド全体が接近しており、0.1秒の差でグリッドが大きく変わってきてしまう。それを踏まえて、ドライバーの力を評価することが重要になる。

1.3. アロンソvsストロール

表5 予選ペース比較

 

表6 レースペース比較

 

 予選では、アロンソが全勝し、昨年から数えると36連勝となった。

 ただし、1年間の平均を見てみれば、0.3秒程度で、2023年には0.4秒、昨年も0.3秒差と、アロンソとストロールの差は0.3秒前後と言える。これは、アロンソと過去のチームメイトとの比較を見ると、決して悪くない差だ。

 オコンは予選一発を得意としており、アルピーヌ時代のアロンソと予選では0.1秒前後の差に留めたが、レースペースでは0.4秒の差がついた。マッサも総合的に0.4秒程度、ライコネンも0.3~0.4秒の差をアロンソにつけられており、オコンの予選一発を除けば、ストロールはかつてのチャンピオンクラスのドライバーと遜色ないスピードを見せていると言って良い。

 そもそも思い返せば、2年間でベッテル相手に0.1秒以内の僅差のペースを見せたドライバーだ。フォースインディア時代に、ペレスから0.2~0.3秒落ちだった点は気がかりだが、2019年以降のレッドブルのセカンドシートに座ったドライバーの中でペレスだけが突出していたこと、またザウバー時代には未来のチャンピオンと言われ、マクラーレン移籍後もいきなりバトンに迫る速さを見せていたことを踏まえると、ペレスが極めて優れたドライバーだったことも分かるだろう。

 以上より、ストロールの実力は決して低くないことがわかる。バトルについても揶揄されることは多いし、一貫性に欠けるのも確かであろうが、今年のモナコで唯一のオーバーテイクを決めたのがストロールであることも忘れてはならない。それもヌーベルシケインでアウトから抜き去る豪快なものだ。

 ローレンスの息子というバイアスで、実力が過小評価されがちなところがあるが、ストロールも状況次第ではチャンピオン争いが可能な器であることを、ここに明記しておこう。

 一方、アロンソについては、ペース面でストロールとの差は特別縮まっているわけではなく、衰えは見られない。ただし、ミスの多さはやや気掛かりだ。

 開幕戦では予選・決勝ともにミスを犯し、スペインGPでもレース中にコースオフ、アゼルバイジャンGPでのジャンプスタート、カタールGPでもスピンで順位を落とした。計5回だ。

 アロンソのポイントロスに繋がるミスの数の変遷は以下の通りである。

  • 2003年:0
  • 2004年:2(モナコGPのトンネル出口、イタリアGP)
  • 2005年:1(カナダGP)
  • 2006年:0
  • 2007年:2(カナダGPでの度重なるコースオフ、日本GPでのクラッシュ)
  • 2008年:2(モナコGP、カナダGPのクラッシュ)
  • 2009年:0
  • 2010年:(中国GPでのジャンプスタート、モナコGPのFP3でクラッシュ、ベルギーGPでのクラッシュ)
  • 2011年:0
  • 2012年:0
  • 2013年:1(マレーシアGPでの接触)
  • 2014年:1(イギリスGPでのグリッド停止位置のミス)
  • 2015年:2(モナコGPとアブダビGPでの接触)
  • 2016年:1(オーストラリアGPでの追突)
  • 2017年:0
  • 2018年:0
  • 2021年:1(トルコGPでのシューマッハとの接触。その他、大きなミス以外に、バトル中の細かなロックアップなどが目立った)
  • 2022年:2(マイアミGPでガスリーと接触、ブラジルGPスプリントでオコンと同士討ち)
  • 2023年:2(サウジアラビアGPでのグリッド停止位置ミス、スペインGPのQ1でコースオフしてダメージを負う)
  • 2024年:5(オーストラリアGP予選でコースオフしてダメージ、中国GPスプリントでサインツと接触、イモラのFP3のクラッシュが予選に影響、オーストリアGPでジョウと接触、ブラジルGP予選でクラッシュ)

 こうして見ていくと、この2年でアロンソのミスが極端に増えていることが分かるだろう。その原因を年齢によるものと短絡的に結びつけることには筆者は反対だが、復帰後のミスを俯瞰するとフライアウェイでのミスが多く、ヨーロッパラウンドでは問題がないことから、本人も度々口にしているように時差ボケの影響はあるのかも知れない。何らかの対策を講じ、2006年や12年のような強さを再び発揮できるのか、そしてその結果として3度目のタイトル獲得を実現できるのか、注目したい。

1.4. ヒュルケンベルグvsボルトレート

表7 予選ペース比較

 

表8 レースペース比較

 

 予選でボルトレート、レースではヒュルケンベルグという傾向になった。ヒュルケンベルグはフォースインディア時代にペレスと互角だったと言ってよく、ボルトレートがF1でチャンピオンを目指すには、まずヒュルケンベルグを完全に上回る必要がある。

1.5. オコンvsベアマン

表9 予選ペース比較

 

表10 レースペース比較

 

 レースペースで完全にオコンを凌駕したベアマン。予選では僅差となったが、それは序盤戦での苦戦が響いたからであり、スペインGP以降に限れば、10勝3敗で平均0.190秒上回り、レースペースと同じくオコンを上回った。オコンの過去のチームメイト対決は、ペレスと互角、ガスリーに対してやや劣勢といったところだ。よって、ベアマンは既にガスリーやペレス以上の走りを見せているといってよく、非常に有望な若手だ。

1.6. ガスリーvsコラピント

表11 予選ペース比較

 

表12 レースペース比較

 

 コラピントはガスリーから0.1~0.2秒落ちの速さを見せた。

2. 来年はどうなるか

2.1. マシンの性格が変わる:「小さく・軽く・能動的に」

 2026年マシンは小型化・軽量化が進み、空力も“効率”重視へ寄る。ホイールベースや車幅が縮み、最低重量も引き下げられる方向だ。加えて、空力はアクティブ要素が導入され、走行状態によって空力特性を切り替える思想が前面に出る。

 またパワーユニットも電気の比率が高まり、MGU-Hは廃止される。エネルギーマネジメントの必要性がこれまで以上に高くなる見通しだ。

 筆者が懸念しているのは、可変空力によってストレートでのドラッグが減ると、スリップストリームの効果が弱まり、オーバーテイクが困難になるのではないかという点だ。こうなると、今年のレースペース分析で各表に空欄が目立った現象がさらに加速する可能性もある。一方で、エネルギーマネジメントのレースになれば、上手く相手にプレッシャーをかけてバッテリーを使わせ、相手のエネルギーが切れたところでコーナーの立ち上がりなどで抜く、Formula Eのようなオーバーテイクが散見されるかもしれない。フェルスタッペンやアロンソらがこうした頭脳ゲームを得意としているが、彼らのスーパープレイを分かりやすく伝えるグラフィックも必要だ。そうした意味では、FOMにとってもチャレンジの年となる。

2.2. 戦略面に多様性が復活か?

 今年のF1はフィールド全体が接近しており、0.1秒でグリッドが大きく変わるスリリングなものとなった。しかしそれは裏を返せば、レースでたくさんの車が団子状態で走っているが故に、戦略的な自由度が減っていたことも意味する。例えば2021年なら、スペイン、フランス、USGPなどで、ハミルトンとフェルスタッペンがピットストップ戦略を大きく変えることで、ライバルをオーバーテイクするチャンスを作ろうとした。だが、これは後方20秒以内に1,2台しかいないからこそできることであり、5台あるいは10台もいると、抜いてくるロスが大きすぎて成立しない。これがここ1,2年のF1の戦略面での魅力が、やや欠けていた現象の背景だ。

 しかし新規定でチーム間の差が増えれば、再びこのような戦略勝負が見られるかもしれない。前述の通りオーバーテイクがどこでどの程度容易になるか、難しくなるかは読みづらい部分もあるが、だからこそ初年度の2026年は2010年アブダビのフェラーリのように、「新品タイヤで抜いていける…と思ったら、意外と抜けない」といった番狂せも起きる可能性が高くなる。

 誰に競争力があるのか?そして誰が新時代のレースを上手く戦うのか?楽しみが尽きない冬になりそうだ。

Takumi、ピトゥナ