例年以上に火花散るハミルトンvsフェルスタッペンのタイトル争い。前戦モンツァでは2台が接触、両者リタイアと後味悪い結末となったが、2週間後ここソチではどんなレースが繰り広げられるのか、注目が集まる中予選からまさかの展開となった。今回もグラフを交えてノリスvsハミルトンをはじめとするバトルや全体像を振り返ってみよう。
※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した
目次
- フェルスタッペンの追い上げ
- 戦略に改善の余地はあったか?
- 結果的には…
- 用語解説
1. フェルスタッペンの追い上げ
タイトル争いを見据えての戦略的パワーユニット交換を行なったフェルスタッペン。最後尾20番グリッドからハードタイヤでスタートしたが、驚くべきは、同じ戦略を採ったボッタスをコース上でオーバーテイクしたことだ。レース序盤は3番手のラッセルからフェルスタッペンまでがトレイン状態となっており、全員がウィリアムズのペースに付き合って走っていた。その中で同等の性能のマシンに乗るボッタスを同じハードタイヤでオーバーテイクしたのは驚愕に値する。その後もガスリー、ルクレール、ベッテルらを次々とパスし、アロンソの背後まで迫ることに成功する。
しかし、本当にこれで良かったのだろうか?
2.戦略に改善の余地はあったか?
筆者はフェルスタッペンのハードタイヤスタートながら26周目と早めにピットに入った戦略に疑問を感じた。フェルスタッペンとペレスのレースペースを図1に示す。
Fig.1 フェルスタッペンとペレスのレースペース
フェルスタッペンがクリーンエアで走れていたのは16周目からの3周のみだが、ペレスのペースを参考にすると、スティント前半でしっかりタイヤを労り、クリーンエアになった所で飛ばせば今回のレッドブルにはかなり競争力があった。もし可能だったなら第1スティントを引っ張るべきだったのではないだろうか?あるいはタイヤマネジメントに関してもその戦略を前提としておくべきだったのではないだろうか?レース距離の半分以上をミディアムで走るこの戦略には違和感を覚えてしまった。
図2に示す通り、ペレスの第1スティント終盤のペースはリカルドのミディアムと同等で、フェルスタッペンもそれと同等以上と考えると、上手くすれば(楽観的だが)リカルドをオーバーカット、行かなくてもタイヤの差がある状態で後方に復帰し、リカルドやサインツをオーバーテイクしてハミルトン、ペレスの後ろ4番手(ペレスと入れ替えで実質3番手)につけることは可能だったのではないか?
Fig.2 ペレスとリカルドのレースペース
この戦略をうまく実行したのが、ルクレールである。図3にペレス、アロンソ、ルクレールのレースペースを示す。
Fig.3 ペレス、アロンソ、ルクレールのレースペース
ルクレールは第1スティントの後半でクリーンエアだが、今回のフェラーリはペレスより0.8秒ほど遅く、アルピーヌのアロンソにもやや劣る程度の競争力でだったにも関わらず、ベッテルの後方で復帰すると、ベッテル、ライコネン、オコン、ラッセルを次々とオーバーテイクしながらでも、ペレス(実質リカルドのペース)より速いタイムを刻んで、雨が降り出す46周目にはフェルスタッペンの5秒後ろにつけていた。これはフェルスタッペンより10周引っ張って、周囲とのタイヤの差をより大きくつけたことが生み出したオーバーテイクショーだ。
フェルスタッペンはアロンソの後方で我慢して走り、コース上でのオーバーテイクは楽観的としても、これほどのペース差があればピットストップで逆転はかなり見込めたはずだ。すると、実際にアロンソがピットを終えた37周目前後には、26周目ピットの場合と同じトラックポジション(アロンソの直前)で、10周ほど新しいミディアムタイヤを装着できたことになる。これはデグラデーションを0.08[s/lap]とした場合、0.8秒に相当するアドバンテージだ
現実、アロンソはサインツ、リカルド、ペレスのすぐ後方で復帰していた。フェルスタッペンがその前に合流すれば、自力のペースとタイヤのアドバンテージを活かしてリカルド、サインツを仕留めていた可能性は上がっただろう。(リカルドはピットストップのミスが無くてもサインツの後ろで変わらず)
3. 結果的には…
人間万事塞翁が馬というように、上記のように3番手を走っていたら失うものが大きく、雨の中で48周目にピットに入る決断はできなかったかもしれない。1周遅ければサインツやリカルドには逆転されていたはずだ。あの状況では47周目にインターに換えるのが最速で、交換が遅れるほど不利になっていく展開だった。
最終的には幸運を手繰り寄せることに繋がったものの、あの時点で採り得たベストの戦略だったかというと疑問符が生じた。
Part2では初優勝まであと一歩だったノリスにスポットライトを当ててみよう。
4. 用語解説
オーバーテイク:追い抜き
トレイン:電車のこと。F1ではペースの遅い車の後ろに何台も連なっている様子のことを電車に見立ててこう呼ぶことが多い。「レーシングスクール」などとも呼ばれる。
クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。
タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。
アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。
オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。
トラックポジション:コース上の見た目の順位の事。例えばピットストップのタイミングの違いや戦略の違いで、「事実上この人の方が前だよね」のような状況もあるが、そういったことを無視し、あくまで前にいるか、後ろにいるかだけを考えた方が良い場合もある。