さて、シーズンレビュー(1), (2)では、チームメイト比較を通して、ドライバーのパフォーマンスに焦点を当てた。
ここからはチーム間の力関係を見ていこう。
1. チームのパフォーマンス差
表1,2に、年間を通じての各チームの予選・決勝におけるペースの力関係を示す。
予選・レースペース共に、各チームの速かった方のドライバーを基準としている。予選ではドライコンディションの同一セッションでのクリアラップでの比較を条件とし、レースでもドライコンディションに絞った上で、燃料・タイヤ・レース中の文脈を考慮して算出した。
表1 年間の予選ペース平均
表2 年間のレースペース平均
レッドブルの支配的なシーズンは、ペースからも明白に見て取れる。予選では主にフェラーリが対抗馬となり、ハミルトンもハンガリーでポールポジションを勝ち取ったが、レースになると全く手のつけようがない速さを発揮した。
アストンマーティンは予選とレースでレッドブルとのパワーバランスが変化しない唯一のチームであった。アロンソがレース型のドライバーであることも影響しているが、マシンとしてもタイヤに優しいロングラン向きの車だったことが見て取れる。
アストンマーティンとアルピーヌの間には明確な差があり、アルピーヌと以降のチームにもやや差がある。その中でもウィリアムズはやや予選寄り、アルファタウリはややレース寄りの数値となっているが、誤差範囲内という見方もあるだろう。
2. 勢力図の推移
図1にトップ5チームの勢力図の変遷をレッドブルとの差の形で示した。
一際目立つのは何と言ってもマクラーレンだ。オーストリアGPより前とそれ以降では全く別のチームのようになっている。カナダGPまでのレッドブルとの差の平均は1.2秒だったが、オーストリアGP以降は0.3秒。すなわち、表2に照らし合わせれば、前半戦ではアルファタウリと良い勝負の下位チームだったが、後半戦では明確にレッドブルに最も接近したチームとなった。シーズン中のアップデートでここまで大きな変化は近年のF1では珍しく、非常に印象的なシーズンになった。
またフェラーリとメルセデスは、レッドブルとの差を縮めて締め括ったと見るか、浮き沈みの波の一部と捉えるかは難しいところだ。ブラジルGPでの失速を考えると、やはり楽観的な見方は禁物かもしれない。来季どのようにマシンコンセプトを変更してくるのか、注目したい。
アストンマーティンは、オーストリアGP以降低迷した印象があるが、レッドブルとの差という点ではそこまでではなく、マクラーレンの躍進やフェラーリ、メルセデスの好調との相対的な関係がポジションに影響していたようだ。そして少なくともカタールGP以降では、(メキシコを除くと)序盤戦と同等のペースを発揮しており、来季への期待を膨らませたままシーズンを終えることができた。
3. マシンのパフォーマンス差
ここまでは、チームの競争力にはドライバーの力も含まれている。当サイトでは、2000年以降のチームメイト比較を分析し、マシンパフォーマンスを抜きにしたドライバーの力を導出してきた。本項では、その結果を元に、2023年の各チームのマシン単体でのパフォーマンスレベルを導き、比較してみよう。表3,4に、年間を通じての各チームの予選・決勝におけるペースの力関係を示す。(アルボンとサージェントのペースが導出不能だが、暫定的にアルボンを予選でフェルスタッペンの0.2秒落ち、レースで0.3秒落ちとした。)
表1 年間の予選ペース平均
表2 年間のレースペース平均
※参考
歴代ドライバーの競争力分析【予選編】
歴代ドライバーの競争力分析【レースペース編】
恐ろしいのはレッドブルRB19のレースペースだ。2位のメルセデス、フェラーリらとの0.6秒差は、彼らと最下位のアルファロメオの差と同じだ。
また、予選での接戦ぶりも極めて印象深い。マクラーレンの年間平均にはさほど意味がないが、アストンマーティンからハースまでほとんど差がない。
これを見ると、ドライバーが引き出してくる0.1~0.2秒の重要性が体感できるだろう。そして上位チームほど速いエースドライバーを獲得しているため、ドライバーも含めた実際の各チームのパフォーマンス差は、マシン自体の性能差よりも大きな格差が生まれているように見える。このことも念頭においてレースを観戦すると、また違った視点が生まれてくるかもしれない。
Writer: Takumi