バーレーンで幕を開けた2023年のF1世界選手権。第2戦の舞台は”高速市街地サーキット”で名高いサウジアラビアGPだ。開催当初は安全性の問題が指摘されたが、今回はコース改修が施され、ドライバーにとっても視聴者にとっても健全に楽しめるトラックになっていた。
今回もデータを交えて50周のレースを振り返ってみよう。
1. 別クラス
図1にペレス、アロンソ、ラッセル、サインツのレースペースを示す。
先に行った「レースペース分析」にて、フェルスタッペンとペレスがアロンソに1秒近く、ラッセルやサインツに対しては1秒以上のアドバンテージを有していたことを導いたが、この図からはその圧倒ぶりが視覚的に伝わってくる。
ストップ&ゴーのバーレーン、そしてここ高速サーキットのジェッダという2つの異なる個性を持つサーキットで圧倒的なスピードを見せたことは非常に価値が高く、残りのシーズンでも支配的な強さを見せる可能性が非常に高そうだ。
2. ぶら下がる戦術
さて、スタート時のポジションでペナルティを受けたアロンソだったが、今回もその走りには特筆すべきものがあった。ペレスとアロンソのみのグラフを図2に示す。
アロンソは4周目にペレスに交わされた。しかしその後はペレスのDRS圏内に留まり、9周目まで自身の本来のペース以上のラップタイムを刻んでいる。
もちろん、抜かれた後は「2秒ほど下がってタイヤを労わる」という選択肢も生まれてくるだろう。その方がスティント後半のペースは良かったかもしれない。しかしアロンソとアストンマーティンは、少々無理をしてでもペレスのDRSを利用してタイムを稼いだ方が、タイヤの消耗によるスティント後半でのロスより大きく、トータルで得をすると判断したのだろう。また、コーナリングスピードを抑えられるほどストレートで稼げるならば、タイヤの面でもそれほど悪くもないのかもしれない。
アロンソは昨年のカナダGPでも、自身より本来は速いサインツのDRSにぶら下がってタイムを稼ぐ戦術を見せており、DRSゾーンの位置とコース特性次第では有効な戦術になりうることを証明しつつある。
ただし、これはDRSゾーンが3箇所あるサウジアラビアだからこそ成り立つ戦術だろう。例えばDRSゾーンが1箇所しかない鈴鹿で同じ戦術を使っても、タイヤだけが傷んでいくと考えられる。
2022年から始まった追従しやすいF1マシンの特性は、こうした戦術面の変化にも影響を与えているようだ。
3. 魅力的なアストンマーティンのメンタリティ
今回はアロンソがペナルティを受けたことでレース展開にスパイスが加わった。
終盤48周目には、アロンソの4.5秒後方のラッセルに対しメルセデスのエンジニアから「レース後にアロンソに5秒ペナルティがあるかもしれない」と飛び、ラッセルがアロンソの5秒以内に入るべくプッシュするタイムレースが幕を開けた。
一方、ここでアロンソに対してアストンマーティンのエンジニアは「万が一のため5秒以上のギャップが欲しい。でも我々は大丈夫だと思っている。」と伝えた。これは即ち「大丈夫だと思っているが、自分たちが間違っている可能性を考慮し、”念の為”の一手を打つ」ということだ。
「自分が間違っていた時にそれを認める」ことと「いかなる時も自分が間違っている可能性を考慮する」ことは本質的に別のものだ。前者も重要だが、後者ができるとこのようなスポーツに限らず大きな強みになると思われる。
アストンマーティンは人材、設備、ドライバーなど様々な方面で大きな成長を遂げようとしているチームだが、「メンタリティ」即ち考え方や精神性といったものも見事なものであることが、この無線から垣間見えたかもしれない。
Writer: Takumi