1. 分析結果
タイヤ・燃料・ダーティエアや全力で走る必要性などの諸条件を考慮に入れると、レース全体でのペースの力関係について以下のことが言えた。
表1 ミディアムタイヤでのレースペース
表2 ハードタイヤでのレースペース
さらにこれらを総合すると、レース全体でのペースの力関係も以下のように大まかに理解することができるだろう。
表3 全体のレースペース
1.1. 優勝争い
分析内容で述べたとおり、サインツは第2スティントでピアストリより1周だけを見れば0.1秒遅く走ることでタイヤを労り、デグラデーションを0.02[s/lap]抑えることで、33周のスティントを前提とした場合に1周あたりの平均で0.2秒速く走ることができた。第1スティントでのペースは互角だっただけに、ピアストリはスティントの序盤で飛ばしたことで第2スティントのトータルのペースに支障をきたしたとも言える。
一方のルクレールはサインツと同様のアプローチを採っていたと考えられ、スティント全体のペースだけを見ればルクレール陣営が正解だったはずだ。しかし、レースは単独走行ではなく、クリアエアを得ることが大きなアドバンテージになり得る。そのことを明示した今回のピアストリの見事な判断だったと言えるだろう。
また、これだけ各所でクリアエアのタイヤマネジメントにおける優位性が垣間見えた中では、ルクレールがピアストリに抜かれた直後にペースを落としてタイヤマネジメントに徹していたらどうなっていただろうか?という点は気になる所だ。レース終盤でのサインツはピアストリより0.5秒ほど速く、ルクレールはさらにそれを上回るペースを見せていたと予想されるため、抜き返せていた可能性はかなり高かったように思える。
1.2. アロンソのタイヤマネジメント
3項以降のグラフから読み取れる通り、アロンソが第2スティントでほぼ0.00[s/lap]のデグラデーションを実現した。アルボンを見ながらのレースであったと想像されるが、先ほどと同じ書き方をすると、ストロールより1周だけを見れば0.3秒遅く走ることでタイヤを労り、デグラデーションを0.07[s/lap]抑えることで、29周のスティントを前提とした場合に1周あたりの平均で0.7秒速く走ることができた。中盤戦で不調が心配されたアロンソだが、最近は明確に復調してきたと断言して良さそうだ。
※注意点
ピアストリはミディアムでサインツと互角、ハードで0.2秒落ちのため、平均で0.1秒落ちとした。アロンソはサインツからミディアムで0.9秒、ハードで0.8秒落ちで、ハードの方がレース全体に占める割合が高かったことから、四捨五入ではなく、切り捨てとした。
2. 分析方法について
フューエルエフェクトは0.07[s/lap]とし、グラフの傾きからデグラデーション値を算出。ドライコンディションに限定。タイヤの履歴からイコールコンディションでのレースペースを導出した。また、クリア・ダーティエアやレースの文脈も考慮している。定量的に導出できないドライバーについては結論を出さず、信頼できる数字のみを公開する方針としている。
各ドライバーの使用タイヤはピレリ公式より
https://twitter.com/pirellisport/status/1835355765776711748/photo/1
今回は予選で使用したソフトと新品ソフトの差、スクラブ済みと新品のミディアム・ハードの差は無視することとした。
3. 分析内容のハイライト
以下に分析内容の一部を掲載する。同じような計算になるものは割愛した。
第1スティントについては、各車自分のペースで走れている部分を、単純にそれぞれ比較していった。
第2スティントについては、タイヤのデグラデーションを考慮して計算した。例としてピアストリとサインツの比較を考えてみよう。
19~47周目の29周の区間において、(ダーティエアなどで落ちている周は除く)平均ラップタイムはサインツは0.29秒速い。そしてピアストリのタイヤが2周古く、デグラデーションは(見解が分かれるだろうが)ピアストリが0.07[s/lap]、サインツが0.05[s/lap]と読めるため、この区間におけるピアストリのタイヤの不利は0.07×2+(0.07-0.05)×29×1/2=0.43[s]となる。よって新品タイヤでの力関係は、ピアストリがサインツよりも-0.29+0.43=0.14[s]速いことになる。ここから1周ごとに0.02[s/lap]のデグラデーションが効いてくる中で、チェッカーフラッグまでの33周を走り切ったとすると、ピアストリのペースアドバンテージは0.14-0.02×33×1/2=-0.19[s]となり、四捨五入して0.2秒と導出した。これは「サインツがピアストリよりも0.1(0.14)秒遅く走ることで、0.02秒ぶん小さいデグラデーションを実現し、33周のスティントを前提とした際にトータル0.2秒速く走ることができた。」とサマライズすることができる。
他のアロンソ-ストロール、ピアストリ-アロンソ、ピアストリ-ボッタスも同様に計算した。アロンソとストロールの比較区間(24~39周目)でアロンソがダーティエアの影響を受けているが、グラフが綺麗な線形に近いため、補完して計算できた。
4. 全チームのレースペースグラフ
Writer: Takumi