Part1ではラッセルの初優勝とハミルトン、ルクレールの健闘、フェラーリとレッドブルのチームオーダーについてレビューを行った。こちらでは最後方からの猛烈な追い上げで5位を獲得したアロンソを中心に、中団勢の奮闘をグラフを交えて振り返ってみよう。
1. 毎戦ベストレース
スプリントレースではオコンに追突してしまったアロンソ。本来アロンソがこのレベルの大きなミスをするのは、筆者の記憶する限り2005年以降の16シーズンで10回であり、昨年のトルコGPに続き2年連続でノーミスのシーズンを送れなかったのは、アロンソの基準からすると今ひとつだ。
しかしスプリントレースでの追い上げのペースは凄まじかった。図1がスプリントでのレースペースだが、中団勢からは完全に飛び抜けており、レースでも後方から上位に追い上げてくることは予想できた。
レースではミディアムタイヤ(以下ミディアム)でスタートすると、オコンの後方を走行。前方にはマシンが連なっており、このトレイン状態を打破するべくアルピーヌは3ストップ戦略を採用した。
図2に決勝レースでのアロンソ、オコン、ボッタスのレースペースを示す。
第2スティントでのアロンソはライバル勢より新しいタイヤを活かして爆発的なペースで走行。スティント後半ではタイヤを履き替えたライバル勢に対抗するペースを発揮している。
しかし第3スティントに入るとさらにペースアップ。2ストップ組をかき分けながらの展開になるが、クリアエアでのラップではタイヤの差を換算してもオコンを0.6秒上回るペースで走行した。これはペレスと互角、優勝したラッセルからも0.2秒落ちに相当する凄まじい数字だ。
その勢いはSCの幸運に救われてペレスをオーバーテイクした後も止まらない。同じソフトタイヤ(以下ソフト)でルクレールとの差をジワジワと詰め、最低でもルクレールと互角のペースであることを示した。タイヤの履歴の差を考慮してもルクレールの0.6秒落ちで、これはサインツの0.2秒落ちに相当する。
参考:レースペース分析
また、仮にSCが無かったとしても、ボッタスを抜いて中団トップを獲得していた可能性が高いだろう。
55周目にピットに入るとすると、残り16周でボッタスの12秒ほど後方で戻る計算になる。前述のレースペース分析より、ソフトでのボッタスとの地力の差は0.3~0.4秒ほどあったと考えられ、10周のタイヤの履歴差を少なめに0.5秒相当と見積もっても0.8~0.9秒のペース差で追い上げたことになる。
となると単純計算で13~15周で追いつくことになる。その間にベッテルとオコンを交わす必要があるが、ペース差が大きいとロスはさほど大きくならないことは、図1のアロンソ自身の第3スティントからも明らかだ。
このように悲観的に見積もったとしても、ファイナルラップでボッタスを捉えた可能性が高く、名実ともに中団レースの勝者と言えるだろう。USGP以降、毎戦ベストレースを繰り広げているアロンソ。最終戦アブダビでアルピーヌでの2年をどう締めくくるのか期待が高まる。
2. 好調が続くベッテル
昨年からストロールに対して明確なペースアドバンテージを示せておらず、心配されていたベッテル。しかしここ数戦はペースも良くアクシデントも少ない状態が継続できており、引退間近で本来の状態を取り戻してきた。
図1にベッテルとストロールのレースペースを示す。
第1スティントではノリスより0.3秒ほど速く、ノリスのペースが落ちてきた所でオーバーテイクした。
そして第2スティントではストロールより3周古いタイヤ(0.2秒相当)にも関わらず互角のペースで走り、地力で上回っていることを証明した。
最終スティントでもストロールがソフト、ベッテルが3周古いミディアムであることを考慮すると良いペースだ。終盤のSC開けにミディアムが適さなかったことはペレスのペースからも明らかで、アルボンとラティフィの比較でも、イコールコンディションではアルボンが0.5秒上回っていたのに対し、SC開けではソフトのラティフィがミディアムのアルボンを0.1秒上回った(タイヤの履歴差は換算済み)。これらを踏まえても、第2スティントと比べても0.3秒ほどしか失っていないベッテルは、SC開け後のミディアムを最も機能させたドライバーと言えるだろう。
SCはベッテルにとって不運であったが、その中でも最大限のレースを戦った。数々の伝説を残してきたチャンピオンがどんな姿でアブダビを去って行くのか非常に楽しみだ。
3. ミック・シューマッハの未来は?
最後に先行きが怪しくなってきたミック・シューマッハについて触れておきたい。
当サイトの歴代予選分析では、マグヌッセンは全盛期のベッテルやロズベルグ、ノレているライコネンと互角という結果が出ている。そして今季のシューマッハは(両者クリアな)予選で5勝9敗の0.082秒落ち、レースペースでは3勝5敗2引き分けで0.1秒落ちとなっている。
一方噂される対抗馬のヒュルケンベルグは、前述の分析でマグヌッセンと互角か0.1秒ほど遅い結果が出ており、相対的にレースよりも予選が得意なことを考慮すると、トータルのペースではシューマッハと大差ないと思われる。
また、ヒュルケンベルグは勝負所で無駄なクラッシュをする傾向があり、この点の強さではシューマッハに分があるだろう。さらに年齢とブランクのこともある。
これらの観点で、シューマッハ続投でも良いという論理は確実に存在する。
ただし、ヒュルケンベルグはエンジニアからの評価が高く、フォースインディアやザウバーなどでヒュルケンベルグのいるチームの戦闘力がシーズン後半に上がるという現象も度々目にしている。
またシューマッハはサンパウロGPの予選を終えて「グリップを過小評価してしまった。トラックは濡れていたように見えたが、僕が思っていたほどではなかったようだ。」と語っていたのが印象的だった。雨絡みでどれだけグリップがあるか分からない状態で、誰よりも限界を見極めるのが上手かったのが父ミハエル・シューマッハだったからだ。現役ではフェルスタッペンがその最たる例だろう。
こうした部分を見ると、ミック・シューマッハの限界が見える。フェラーリとしてもルクレールクラスに育て上げたいなら現実を直視する必要があるだろう。
その意味ではフェラーリがシューマッハへのサポートを終了し、ハースがヒュルケンベルグに傾くことにも正当性がある。
次がラストレースになってしまうのか?来年以降のチャンスがあるのか?何れにせよ最後まで自身の持てる最高のパフォーマンスを発揮してもらいたい。
Writer: Takumi