• 2024/11/21 15:29

2022年ベルギーGP レビュー 〜圧倒的フェルスタッペン〜

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 2戦連続でトップ10外からスタートして優勝を飾ったフェルスタッペン。特に今回は異常なほどの速さを見せつけた。また、今回は終盤にフェラーリの不可解な戦略もあり、大きな話題となった。そんなベルギーGPをグラフを交えて分析的視点で振り返っていこう。

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1. フェルスタッペンはどれだけ圧倒的だったか?

 14番手から追い上げて優勝を飾ったフェルスタッペン。1周目にはリスクを避けた走りに徹し、セーフティカー後にはオーバーテイクを連発。8周目にはラッセルを交わして3番手、12周目にペレスを交わすと、第2スティント序盤の18周目にはサインツを交わしてトップに立った。

 図1にフェルスタッペン、ペレス、サインツのレースペースを示す。

図1 フェルスタッペン、ペレス、サインツのレースペース

 第1スティントではフェルスタッペンとサインツは両者ソフトタイヤだが、8周目まで集団をかき分けてきているフェルスタッペンのラップタイムが全周回で上回っているという異様な状況が発生している。

 フェルスタッペンのサインツに対するペースアドバンテージは、中団勢を抜いてきている部分を含めて1.00秒、クリアエアを得た9,10周目だけでも0.88秒と、途轍もない差になっている。

 ただし、ペレスを抜いた12周目にタイムが大きく上がっていることには注目しておいた方が良い。ここから、今年の乱気流の影響が少ないマシンとスパのサーキット特性の元では、DRSとトゥを使ってオーバーテイクする周のペースの方が速い場合があると解釈できる。こうした状況もフェルスタッペンの追い上げを後押ししたと考えられる。

 また、第2スティントでも2人の間には大きなペース差があったことはグラフから明らかで、平均1.95秒の差だ。もちろんサインツのタイヤが4周古いことは考慮しなければならないが、デグラデーションを0.25[s/lap]とみて、タイヤの差が0.25×4=1.00秒。2人の純粋な実力差はここでも1.95-1.00≒1.0秒であったことがわかる。

 ちなみにグラフは割愛するが、ルクレールはサインツよりも0.3秒速かった(タイヤの差を換算済み)。よってサインツをフェルスタッペンの1.0秒落ちと解釈するならば、ルクレールは0.7秒落ちだ。今季の当サイトのレースペース分析(2022年の分析一覧)では、オーストラリアでルクレールがフェルスタッペンを0.6秒上回っていたが、今回のフェルスタッペンはそれと同等以上の差でレースを完全支配した。仮にルクレールがPUを交換せずポールから逃げたとしても、第2スティント終盤付近で追いつかれて、あっさり交わされていただろう。

 またフェルスタッペンは、ペレスに対しても第2スティントで0.7秒のアドバンテージを持っていた(タイヤの差を換算済み)。レッドブルのマシンもさる事ながら、ドライバーの力でここまでの圧倒的追い上げにつなげたことはこの数字からも明らかと言えるだろう。

2. フェラーリの判断は正しかったか?

 42周目にルクレールをピットに入れ、ファステストラップの1ポイントを獲りに行く判断をしたフェラーリ。結果的にはアロンソの後ろになり、最終ラップでオーバーテイクできたもののファステストラップには届かなかった。さらに序盤にフェルスタッペンの捨てバイザーがブレーキダクトに引っかかり、センサーが故障した影響で、ピットレーンのスピード制限をオーバー。5秒ペナルティにより、結果的に5位を失う羽目になってしまった。これには各方面から疑問の声が上がっている。

 これに関して筆者は、フェラーリがオコンの存在をどう考えていたかが、ファインプレーか戦術ミスかの分かれ目になると考えている。

 ビノットの話を聞く限り、ピットストップを終えた段階でアロンソに交わされる可能性は織り込み済みという前提だ。その上で「最終ラップでアロンソを交わすことができ、ファステストラップを獲りに行ける」という考え方がどの程度リスキーかを考えてみよう。

2.1. リスキー過ぎるという見方

 まずは図2にフェルスタッペン、ルクレール、アロンソのレースペースを示す。

図2にフェルスタッペン、ルクレール、アロンソのレースペース

 確かにアロンソのペースは、実際にルクレールがファイナルラップで出したタイムより3秒ほど遅く、オーバーテイクは容易なペース差だ。

 しかし、アロンソがスペシャルなドライバーであることは加味して考える必要がある。レース序盤で上位勢と無駄に争うことはしないが、ファイナルラップとなれば牙を剥くことは容易に想像できる。また、今年のサウジアラビアGPでフェルスタッペンとルクレールがDRSを巡って譲り合いの駆け引きを行ったが、アロンソは2013年の段階でハミルトンと同様のバトルを2度行っている。

 そのうちの一つが、まさにこのスパのラソースからレコームまでの区間だ。先行するハミルトンがDRSを獲るためにターン1でスローダウン。アロンソは敢えてその誘いに乗って前に出た。そして、そこから一切KERSを使わずオールージュ&ラディオンへ。ケメルストレートに入ってからさらに数秒間待ち、ハミルトンを引きつけてからKERSを一気に放出。ブレーキングまでに全てのエネルギーを使い切る計算高さを見せた。

 ハミルトンとしては、アロンソがKERSを使わなかったことで近づきすぎてしまった。そのため早い段階で追いついてトゥから出る羽目になってしまった。そして、アロンソが絶妙なタイミングでKERSを一気放出したことにより、DRSを使っても抜き返すことはできなかった。

 アロンソはハミルトンのDRSを獲る戦略を逆手に取ってオーバーテイクした形だ。ちなみにその前のカナダGPでは、同様に前を走るハミルトンが検知ポイント手前でブレーキを踏んだのに対し、アロンソも譲らず減速。アロンソがDRSを獲得しオーバーテイクしており、その流れからの裏をかくこの戦術だった点も重要だ。

 このようにアロンソのキャラクターと技量を踏まえると、ラスト1周で抜けると考えるのはあまりにも楽天的と言える。数字上は抜ける計算でも、それを覆してくるドライバーがグリッド上に何人かいることは理解しておかなければならない。

 またバトルに強いアロンソやフェルスタッペン、リカルドらのようなタイプだけでなく、接触が多いドライバーにも注意が必要だ。例えば同じシチュエーションでアロンソの代わりにマグヌッセンがいた場合、接触されるリスクは加味した方が良いだろう。

 このように、数字を読む際はその字面だけでなく、本質的な意味合いを見なければ正しい判断には繋がってこないと思われる。

2.2. オコンの存在がルクレールの助けに

 さて、実際にアロンソは44周目のターン1で少しトリッキーな動きをしている。しかし、本格的に減速して5位を獲ろうという走りではなかった。これにはオコンの存在が大きかったと筆者は考えている。

 この時点でルクレールの2.7秒後方にオコンがいた。またアロンソより7周新しいミディアムタイヤを履いており、ペースはそれなりに速かった。

 よって、アロンソとしてもオコンには負けたくないと考えられ、アロンソもDRSを獲るために大きく減速する余裕は無かった。それが、あのターン1での控えめな減速に繋がったのではないだろうか。

 このオコンの存在により、アロンソが大胆なゲームを仕掛けられないことを見越してルクレールを入れたのだとしたら、フェラーリの判断は正しかったと言って良いだろう。結果的にペナルティにより6位となってしまったが、トラブルによるペナルティはこの時点で気にしなくても良いだろう。

 よってこの前提に立てば、今回のフェラーリは果敢に1ポイントを獲りに行ったと解釈することができる。一方で、「アロンソは5位を獲りに行って7位に落ちるリスクを負わない」という前提であり、その前提が万一崩れた場合に「フェラーリは1ポイントのために2ポイントを失うリスクを負う」ということにもなってしまう。

 その意味ではやはり大胆な判断だったのは確かだ。

3. 詳細な力関係は「レースペース分析」で

 ここまではフェルスタッペンのスピードとフェラーリ判断について振り返ってきたが、チームメイト同士のレースペースの比較、或いはライバルチーム同士の比較は、追ってコアファン向けコンテンツである「レースペース分析」で掘り下げる予定である。

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Writer: Takumi