• 2024/4/27 18:12

サンパウロGPレビュー(1)〜初優勝とアクシデントとチームオーダーと〜

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 F1サーカスも残り2戦、ここサンパウロの週末でアメリカ大陸とも暫しのお別れだ。舞台となる”インテルラゴス”は、入り組んだインフィールドセクションと長い全開セクションを併せ持つ難コースだ。今回もグラフを交えつつ、71周の激闘を振り返ってみよう。

1. 三者三様のラッセル、ハミルトン&ルクレール

 ラッセルは予選で3番手につけると、スプリントレースでフェルスタッペンをオーバーテイク。決勝ではハミルトン、フェルスタッペン、ルクレールらがアクシデントで後退する中、2番手ペレス、3番手サインツを相手にせず、終盤のSC後もハミルトンから首位を守り切った。ウィリアムズでの苦労を乗り越え、メルセデス移籍後の初優勝で、感動的な瞬間となったのは間違いない。

 ただし、当サイトにて行ったレースペース分析ではハミルトンやルクレールのペースも優れており、この2台がアクシデントで後退したことで楽になったのは確かだ。図1にラッセル、ハミルトン、ルクレールのレースペースを示す。

図1 ラッセル、ハミルトン、ルクレールのレースペース

 ハミルトンが順調に走った第2スティントは、タイヤの履歴の差を考慮してもラッセルより0.2秒ほど速い計算だ。また、SC後も1周古いタイヤでラッセルを追い回しており、ここでもその差が継続していたことが推察できる。

 仮に序盤のアクシデントが無かったとすると、ラッセルの後方でタイヤを労わり「デグラデーションの積み重ねに差が出てきたところで抜きにかかる」という得意の展開に持ち込んだかもしれない。

 一方のルクレールは、前述のレースペース分析を前提とすると、ミディアムタイヤ(以下ミディアム)での競争力が非常に速く、第1スティントでは、ソフトタイヤ(以下ソフト)のペレスの後方で0.1秒ずつ離されていく展開であったと予想できる。24周目付近でピットを迎えるとして、ラッセルとの差は5~6秒程度になっていただろう。

 そして第2スティントになるとルクレールが有利なソフトに履き替え、ラッセルとペレスが不利なミディアムとなる。実際に図1でもラッセルより3周古い(デグラデーション0.09[s/lap]として0.3秒相当)タイヤで、クリアエアではラッセルと互角か少し上回っているほどだ。ルクレールのペースアドバンテージはペレスに対して0.4~0.5秒前後と予想される。こうなるとオーバーテイクしていた可能性が高い。

 ラッセルに対しても0.3~0.4秒差で追いついていけば、15~20周程度で追いついていた計算になり、第2スティントでオーバーテイク、あるいは2回目のピットストップでのアンダーカット、もしくは引っ張って履歴の差を作り第3スティントで勝負、などの展開に持ち込めた計算になる。

 ルクレールはレース全体を通せばラッセルと互角のペースだったが、美味しくないミディアムを短い第1スティントに選んだことで、レースにおいてソフトのスティントが占める割合を増やすことができる「当たり戦略」だった。

 このようにハミルトンとルクレールにはかなりのチャンスがあり、三つ巴の終盤の激戦になった可能性もある。共に避けようのないアクシデントだったが非常に勿体無いレースとなってしまった。同時にこの2人が今季見せつけてきたレースペースでの良さがここでも確認でき、来季に向けての基盤をさらに確固たるものにしたと言えるだろう。

2. 物議を醸したチームオーダー

 ドライバーズ選手権2位争いではペレスとルクレールが接戦を演じており、今回は終盤でサインツがルクレールに、フェルスタッペンがペレスに順位を譲るかが注目の的となった。

(1)ルクレールもフェラーリも正解

 当初フェラーリはこのような状況になった際にはルクレールを前に出すことをレース前の話し合いで決めていた。したがって約束通りに動かないチームに対するルクレールの不満は至極真っ当だ。

 一方でフェラーリが「例外的な状況」と判断し順位を維持したこともまた正しい判断だ。

 USGPレビューにて、ガスリーと角田を入れ替えなかった件について、筆者は「角田とノリスの間のコンマ数秒差の間にガスリーをねじ込むのはリスキーであり、ノリスに抜かれるリスクが高まる」との観点からアルファタウリの戦略を擁護した。

 今回はUSGPのノリスほどではないものの、ルクレールの後方1.2秒前後にアロンソ、その背後にはフェルスタッペンというグリッド上で最も手強い2人が付けていた。この隙間にサインツをねじ込むのはあまりにもリスキーで、メルセデスとのコンストラクターズ選手権争いを考えると、フェラーリの判断は正しかったと言えるだろう。

 またサインツはSC中に角田の前に出てしまっており、5秒ペナルティの可能性も踏まえて飛ばす必要があったとのことだ。

 よって今回のフェラーリはリスクをきちんと計算できていた。

(2)フェルスタッペンの正当性は?

 一方チームからの指示「アロンソの前に出られないならチェコを前に出せ」に従わず6位でチェッカーを受けたフェルスタッペン。レッドブルチーム内に明らかな不協和音が生じている。

 F1ドライバーはエゴイストな怪物であるべきで、イエスマンである必要は全くない。

 一方で中長期的な利益を考えれば、ここでペレスのこれまでのサポートに対する最大限のお返しをしておくことは、来年以降のハミルトンやルクレールとのタイトル争いで再び2021年のようなサポートを得られることに繋がるだろう。「怪物的なエゴ」をその様な方向に発揮するというのも一つの考え方だ。

 さらに別の視点として、来季以降のペレスのサポートを期待して政治的に動くことは、「ペレスのサポートがなければハミルトンやルクレールに勝てない自分」を認めてしまうことになる。F1に限った話ではないが、真のトッププレーヤーとは自分への追い風、ライバルへの逆風は期待しないものだ。「追い風がないと勝てない自分」よりも「逆風でも勝てる自分」の方が本来の自分のあるべき姿だからだ。この観点で言えば、フェルスタッペンが来季以降のペレスとの関係を気にしない行動をとったことは何の問題もないだろう。

 ただし、F1はチームスポーツであり、ペレスのサポートは「チームの力」の一部と考えることもできる。それは追い風ではあってもライバルチームのエンジントラブルやSCの運などとは本質的に異なる「レッドブル&フェルスタッペンの力」の一部とも言えるのではないだろうか?

 このように今回の一件には様々な視点があり、それぞれに延々と反論していくことも可能なディベートの世界でもある。そこに正解はなく、レッドブル内部で行うべきことは各々の納得につながる対話であり、ファンとしてはそれを見守るほかないだろう。

Writer: Takumi

※この後Part2では、凄まじい追い上げのアロンソを中心に中団勢についてレビューを行う