• 2024/4/27 09:06

2022年サウジアラビアGP レビュー 〜ルクレールvsフェルスタッペンの一騎打ち Round 2〜

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 ルクレールとフェルスタッペンが抜きつ抜かれつのバトルを繰り広げたバーレーンGPから1週間。F1はサウジアラビアへとやってきた。今回もグラフを交えつつ、超高速の市街地サーキットで行われた異次元のバトルを振り返って行こう。ルクレールとフェルスタッペンの争いにフォーカスする。

F1用語の解説集はこちら

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

1. SCの幸運から異次元の第2スティントへ

 図1に示す通り、第1スティントではペレスに対してイーブンペースでついていったルクレールと、2人に食らいつきつつもデグラデーションが大きくなってしまったフェルスタッペンという構図だった。

図1 フェルスタッペンとルクレールのレースペース

 レースは16周目にセーフティカーが入ったことで、ペレスが後退。先頭ルクレールvs追うフェルスタッペンという構図となった。

 今年のマシンは後方乱気流の影響が小さく、追従しやすい。またタイヤも変わった。随所でのバトルを見渡しても数周に渡って後ろから攻め続けても、タイヤが悲鳴を上げたりはしない。そしてこのサーキットは追走することもオーバーテイクすることも容易な特性と言えるだろう。ほとんどペース差が無くてもDRSさえ獲得できれば抜ける、そんなサーキットだ。

 よってルクレールの立場では、フェルスタッペンにDRS圏内に入られないように全力で逃げる必要がある。そして今回のハードタイヤはデグラデーションが0.00[s/lap]のため、常に全力疾走が求められる厳しいレースとなった。

 そんな中、2人のタイムは高次元で安定しており、サインツやペレスに0.3秒の差をつけ引き離していった。これだけの差があると、セーフティカーが無くても2台がペレスを交わしていたかもしれない。

2. フェルスタッペンの勝因1つ目はVSCリスタート

 フェルスタッペンが上手くやったのはVSC後のリスタートだ。37周目VSC導入直前のミニセクターで1.097秒だった2人の差は、41周目のリスタート直後のミニセクターでは0.864秒になっていた。

 リスタート時には2人はターン3を抜けた所だった(F1公式コース図)。ペースが同等でも、ターン17を抜けた直後にあるDRSゾーン1の検知ポイントを1.000秒以内で通過すれば、3つ連続するDRSゾーンを利用してオーバーテイクに持ち込むことができる。よってフェルスタッペンはセクター1,2のいくつかのコーナーで踏ん張れば、一気に勝負に持ち込める展開となったのだ。

 しかしルクレールも応戦。コーナーで引き離し、ターン17では2人の差は1.181秒に。勝負あったかと思われたが、そこからのストレートでフェルスタッペンは大きく差を詰め、DRSゾーン2の検知ポイントがあるターン22の侵入で0.915秒とし、DRSを獲得した。これにて長いDRSゾーン2でフェルスタッペンが0.436秒差まで大きく詰め寄り、そこから数周にわたって繰り広げられる名勝負が幕を開けた。

3. 高度な駆け引き

 ここからは2人が現代F1の全てのツールを使いこなし、非常にハイレベルな駆け引きを魅せた。

 バトルの様子はF1公式YouTubeより

 まずは42周目の最終コーナー手前のストレートでフェルスタッペンがアウトからルクレールを交わした。しかしここでルクレールは敢えてスピードを緩め、DRS検知ポイントを後ろで通過。ホームストレートでDRSを使ってフェルスタッペンを抜き返した。昨年のハミルトンvsフェルスタッペンからも分かる通り、ここでは最終コーナー進入時に後ろにいた方が有利と言えそうだ。

 そして続く43周目、今度はアウト側でスピードを緩めたルクレールのイン側にフェルスタッペンが飛び込むが、互いに譲り合いサイドバイサイドで激しくブレーキング。しかしルクレールは、DRSを獲得したいフェルスタッペンの心理を逆手に取ったと考えられる。大きく減速したフェルスタッペンを尻目に、ルクレールは検知ポイント付近で急加速したのだ。これにより、最終コーナーに立ち上がり重視のラインで入ることに成功し、DRSを使われても抜かれないよう対処した。これは急加速によって、イン側にフェルスタッペンがいなくなったため、アウト・イン・アウトのラインを取れたこと、そしてフェルスタッペンはインからの進入になり、立ち上がりが厳しくなったことがポイントだ。平たく言えば、「アウト・イン・アウトでDRS無し」が「イン・イン・アウトでDRS有り」に勝るという考え方だ。思えば開幕戦バーレーンGP最終盤のSCリスタート時も、ルクレールはフェルスタッペンをイン側に誘い出し、最終コーナー手前で加速して自分だけが理想的なアウト・イン・アウトのラインを取るという戦術を使っていた。

 フェルスタッペンもこの点を瞬時に理解したようで、46周目に再び同じ場所でDRSを獲得すると、今度はルクレールの背後を取りつつ、コーナー進入時に鼻先を突っ込み、ルクレールがインにつけないように仕向けた。LEC「アウト・イン・アウト」vs VER「イン・イン・アウト」ではDRSを使っても抜けない、ならばLEC「アウト・アウト・アウト」とVER「イン・イン・アウト」なら抜けるのではないか、そういう発想でのトライだったと思われる。

 さらに、この仕掛けはルクレールの不意をついており、ルクレールは進入時にフェルスタッペンを避けるため綺麗なラインをトレースできなかった。言い換えれば「アウト・アウト・アウト」ラインの旨味を活かしきれなかったのだ。ルクレールとしては44周目の成功体験からDRSは必ずしも獲得しなくて良いと思っており、フェルスタッペンにブレーキを踏ませアウト・イン・アウトのラインを取ることを最優先していたような走りに見える。これを崩したフェルスタッペンがこのチェスゲームを制した形だ。

 これによって真後ろにつけDRSも獲得したフェルスタッペンはルクレールを抜き去った。

 その後もルクレールは食らいつき、49周目のホームストレートでは0.622秒差で立ち上がった。ターン1で飛び込めるか微妙な距離だが、ここでアルボンとストロールが接触。ターン1がイエローフラッグとなり、追い越し禁止に。これにて勝負ありとなった。

 ちなみに、サイドバイサイドにならなかった44,45周目でも、2人のバトルは限界ギリギリだった。44周目でのターン22で1.059秒差、45周目で1.152秒差と、2人はほんの僅かな差でDRS獲得争いを繰り広げていたのだ。

※46周目最終コーナーの駆け引きはリンクした動画内ではカットされており、F1公式の編集者でもここがフェルスタッペンのチェックメイトであると読み解くのが難しいほど、フェルスタッペンとルクレールの対決のレベルが高いと解釈することもできる。

4. 2022年はこの2人の頂上決戦か?

 開幕2戦連続で、ルクレールvsフェルスタッペンの非常に激しくも頭を使った高度なバトルが繰り広げられた。現時点ではコース内外を問わず互いをリスペクトしてフェアな戦いを見せており、非常に見ていて清々しい対決と言えるだろう。フェルスタッペンも昨年ハミルトンに対して見せた際どい走りは封印しており、「忍耐強さが常に鍵だ」と述べている。

 こうした流れがシーズンが進んで行った時にどうなるのか?サインツやペレスは加わるのか?メルセデス勢の巻き返しはあるのか?これからの8ヶ月が楽しみになる開幕2連戦だったと言えよう。

Writer: Takumi