• 2024/4/27 18:42

2022年シーズンレビュー(1) データで紐解く2強の戦い

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 終わってみればフェルスタッペンの22戦15勝という、まさに圧勝で終わった2022年シーズン。しかしデータを俯瞰してみると、単に「速かっただけ」ではなかったことが見えてくる。本記事ではレッドブルとフェラーリの4台に焦点を当て、2022年を分析的視点で振り返ってみよう。

1. 純粋なペース比較

 まず、フェルスタッペンとルクレールの純粋なペース比較を行おう。表1-1に予選、表1−2にレースペースを示す。

注1:予選はドライコンディションのみを扱い、両者が揃って走った最終セッションでクリアラップを走れたもののみを比較した。
注2:レースペースは燃料、タイヤを加味した地力のペースを算出。クリア・ダーティエア、全力を出す必要性などのレース文脈も可能な限り考慮した。

表1-1 フェルスタッペンとルクレールの予選比較

 

表1-2 フェルスタッペンとルクレールのレースペース比較

 

 年間を通すと、予選では0.1秒ルクレール優勢、レースペースでは0.2秒フェルスタッペン優勢となっており、予選からレースにかけてフェルスタッペンが0.3秒ゲインしている。

 ただし、シーズンをイギリスGPまでとオーストリアGP以降の前後半に分けるとさらに興味深い。表2に比較の表を示す。

表2 フェルスタッペンとルクレールの前後半戦の比較

 

 まず、予選ペースとレースペースのバランスという観点では、前後半で大きな違いは見られず、前述の「予選からレースにかけてフェラーリに対して0.3秒ほどゲインするレッドブル」という構図が一貫している。そしてそのバランスを保ったまま、レッドブルは前半戦から後半戦にかけて0.2~0.3秒ゲインしていることが分かる。

 ルクレール&フェラーリとしては「予選で完勝、レースペースで互角」だった前半戦で、リードを広げられなかったのが痛かった。前半戦総括レビューでまとめた通り、信頼性、戦略ミス、ドライバーエラーによってあまりに多くのポイントを失った。その損失はフェルスタッペンに対して115~143ポイントにも上る。

参考:前半戦総括レビュー

 そして後半戦になるとフェルスタッペン&レッドブルの競争力が向上。予選では互角でも肝心のレースペースでフェルスタッペンにアドバンテージがあり、さらにポイント差が広がった。

 ここまでを俯瞰すると、決して1年を通してフェルスタッペンが無敵状態だったというわけではないことが分かる。前半戦ではルクレール&フェラーリの大量失点によるフェルスタッペンの独走、後半戦では純粋なペースによるフェルスタッペンの独走、そんな1年だったと総括できるだろう。

2. 予選で前を獲ることの意味は減少

 予選に強いフェラーリ、レースに強いレッドブル。この構図が持つ意味は昨年と今年で大きく異なる。

 昨年の乱気流の影響が大きいマシンでは、タイヤマネジメントとオーバーテイクの2つの面で、前でレースを進めることの重要性が非常に高かった。しかし今年のオーバーテイクが容易なマシンでは、ポールを獲ることよりもレースペースの速さが重要性を増す。

 少なくともサウジアラビアGP、エミリア・ロマーニャGPとマイアミGPの逆転劇は、今年のマシンだからこそ可能だったと思われる。

 このように、新世代のマシン規定がレース展開に与える影響という観点で、レースペースを強みとしたレッドブルこそが最適解だった。上記3レースでの勝利はルクレールに対して42点のアドバンテージとなり、選手権の趨勢に大きな影響を与えた。

3. フェルスタッペンの速さがレッドブル上昇の鍵

 続いて、フェルスタッペンとペレスの純粋なペース比較を行おう。表3-1に予選、表3-2にレースペースを示す。

表3-1 フェルスタッペンとペレスの予選比較

 

表3-2 フェルスタッペンとペレスのレースペース比較

 

 昨年は予選、レースペース共にペレスに0.4秒の差をつけたフェルスタッペン。今年は年間を通して平均0.2秒差とやや物足りない数字に見える。筆者はこの現象にフェラーリとの力関係の変遷を紐解く鍵が隠されていると考え、レッドブルのチーム内についても前後半戦での比較を行った。

 表4に前後半戦での2人の力関係の移り変わりを示す。

表4 フェルスタッペンとペレスの前後半戦の比較

 

 予選に関しては、前半戦と後半戦で別世界なのは表3−1のチェックマークを見ても一目瞭然だ。当サイトの歴代ドライバーの予選分析でも、フェルスタッペンとペレスの差は本来は昨年のように0.4秒程度になると考えられる。今季前半のフェルスタッペンはアンダーステア気味のマシンで苦戦したと考えられ、後半戦になってようやく真価を発揮できるようになったようだ。

 ちなみに、後半戦のフェルスタッペンはやや予選重視型に見えるかもしれないが、表3-1と表3-2を見比べると、ペレスがレースペースに振ったと考えた方が自然かもしれない。特にオランダ、イタリアで顕著だが、予選ペースがかなり厳しい一方で、レースでは大きく回復している。

 よって前半戦の苦戦が年間平均に影響を及ぼしてしまったが、後半戦のフェルスタッペンは、完全に昨年と同じ「本来のフェルスタッペン」だったと言えるだろう。

 したがって、フェルスタッペンを主語にすれば、後半戦に入ってペレスに大差をつける本来の状態に戻ったことで、ルクレールとも予選で互角、レースで完勝できるようになったと解釈することができるだろう。

 フェルスタッペン不振のブラジルGPからも明らかなように、レッドブルはフェルスタッペンの驚異的な速さがあってこそトップに君臨できるチームでもある。それはフェラーリとルクレール、メルセデスとハミルトン、中団トップのアルピーヌとアロンソについても言えることで、「マシンの戦いが大きい」と言われるF1でドライバーが依然として大きな差を生み出していることを示している。

4. 冴え渡ったルクレールのドライビング

 開幕戦での優勝からチャンピオンへの道まっしぐらかと思われたルクレール。しかし度重なるマシントラブル、戦略ミス、自身のミスによってあっという間にフェルスタッペンに逆転を許し、本来ならライバルになる筈ではないペレスと最終戦までランキング2位争いを演じ、辛勝という結末になった。

 ここでフェラーリの2人のペースを比較してみよう。表5-1に予選、表5-2にレースペースを示す。

表5-1 ルクレールとサインツの予選比較

 

表5-2 ルクレールとサインツのレースペース比較

 レースペースでは14勝1敗、0.3秒差と、かなりの大差がついている。対して予選ではそこまでの差ではないが、完勝と言って良いだろう。タイプとしては予選のサインツとレースペースのルクレールといった所で、これはレース展開と照らし合わせても頷ける。

 実はこの2人の力関係も前半戦と後半戦で違いが見られる。表6に前後半戦でのルクレールとサインツの比較を示す。 

表6 ルクレールとサインツの前後半戦の比較

 前半戦では予選、レースペース共に大差がついているが、後半戦ではその差はマイルドになっている。特に予選ではかなり接近しており、これは最初苦戦していたサインツが新しいマシンに適応できたことを表していると考えられる。

 これまでのサインツの予選パフォーマンスを対チームメイトで見ていくと、その幅が非常に大きい。もしかするとマシンに適応できるか否かでスピードが大きく変わるタイプのドライバーなのかもしれない。その中で、昨年は予選で互角かやや劣勢、レースペースでルクレールが0.1秒ほど速かったことから考えても、昨年や今年の後半戦の状態がルクレールと(トップフォームの)サインツの差なのかもしれない。

 一方、ルクレールは後半戦でマシンに馴染んだサインツに対し、予選は僅差ながらも明確に、レースペースでは確固たる差をつけてリードした。年間を通してもメキシコ以外ではハズレがなく、前半戦で苦戦したフェルスタッペン、サインツやアロンソらよりも一貫して高いパフォーマンスを発揮したと言えるだろう。

※参考
サインツの対チームメイトペース
歴代ドライバーの予選分析

Part2では序盤で出遅れたものの後半戦で巻き返してきたメルセデスについて見ていこう。

Writer: Takumi