3月3日に開幕した2023年シーズンも、12戦を終え(イモラを除く)4週間の夏休みに入っている。本記事では前半戦をチームとドライバーの競争力に焦点を当てて振り返っていきたい。
今回のPart1では、まずはドライバーのパフォーマンスを分析する。そして、次回Part2にて、それらを考慮した上でチーム間のペース比較を評価していくことで、チームの競争力を支配するドライバーの因子とマシンの因子を見極めるプロセスを採ることとする。
※注意点として、まだ前半戦を終えた段階でありサンプル数が少ない部分もあり、暫定的なものとして見る必要がある。
1. レッドブル
表1にフェルスタッペンとペレスの予選および決勝におけるペース比較を示す。予選はドライコンディションの同一セッションで共に全力を出したもののみを対象とした。またレースペースもドライに限り、タイヤ、燃料、レース展開上の文脈を考慮して比較した。
表1 フェルスタッペンとペレスのペース比較
フェルスタッペンが圧勝となっているが、予選ではペレスがQ3に進めずに比較できなかったケースも何度かあった。またレースでも、今季のフェルスタッペンはある程度余裕を持って独走していると思われるレースも幾つかあり、両者の差はこの表に示された数字より少し大きい可能性もある。
とはいえ、ここ2年の両者の比較からしても妥当な差で、これまでのチームメイトたちを通じた間接的な比較でも、非常に頷ける数字となっている。
参考:
歴代トップドライバーの予選ペース
歴代トップドライバーのレースペース
2. メルセデス
表2にハミルトンとラッセルの予選および決勝におけるペース比較を示す。
表2 ハミルトンとラッセルのペース比較
2014年以降のハミルトンの傾向として、予選はそこそこに、レースに重きを置くというアプローチを採ってきたが、今年もその傾向が如実に出ている。昨年の数字を見ても、その差と傾向に特に差は出ていない。
3. アストンマーティン
表3にアロンソとストロールの予選および決勝におけるペース比較を示す。
表3 アロンソとストロールのペース比較
予選、決勝ともにアロンソが圧倒している。前述の歴代分析から考えても両者の差は、予選で0.4秒、レースで0.5秒程度の差になることは予想済みであったため、さほど驚きではない結果だ。
4. フェラーリ
表4にルクレールとサインツの予選および決勝におけるペース比較を示す。
表4 ルクレールとサインツのペース比較
昨年は予選で0.1~0.2秒、レースで0.3秒の差がついた2人だが、今年はサインツがややレースペースに重きを置いてきたような数字となっている。このようにチームメイト間で傾向が一致していた方が、戦略上やりやすい(レースペース重視のドライバーを予選重視のチームメイトが上回って蓋をすることが起きにくくなる)ため、将来的にレッドブルとタイトル争いをすることを考えると、現状が理想的なチームメイト間の関係とも言えるだろう。
5. マクラーレン
表5にノリスとピアストリの予選および決勝におけるペース比較を示す。
表5 ノリスとピアストリのペース比較
現状ではノリスが明確にリードしている。ピアストリとしては、ルーキーイヤーであることと1年のブランクがあることを加味すれば、上々の数字とも言える。ブランクの影響は意外と大きく、アロンソですら2021年の前半戦は苦戦し、オコンも2020年にはリカルドに大差をつけられた。F2でルクレールを彷彿とさせる圧勝劇を演じたピアストリの真の力を見るには、もう少し待った方が良いだろう。
6. アルピーヌ
表6にガスリーとオコンの予選および決勝におけるペース比較を示す。
表6 ガスリーとオコンのペース比較
完全に互角の数字となっている。移籍初年度ということを考慮すれば、将来的にはややガスリーが上回ってくる可能性もあるが、今後の展開に注目だ。ちなみに前述の歴代分析では、昨年までの評価としては予選・レースペース共にガスリーの方が0.1秒速いという結果になっている。
7. ウィリアムズ
表7にアルボンとサージェントの予選および決勝におけるペース比較を示す。
表7 アルボンとサージェントのペース比較
予選ではアルボンが圧倒しているが、サージェントもレースペースでは僅差でついて行けている。
前任のラティフィは予選で0.4秒、レースペースで0.6秒の差をつけられていた。無論、ラッセルvsラティフィの差を考えると、2022年のラティフィが不調だったのは間違いなく、その数字をアルボンとラティフィの評価の基準としてしまうのは間違いだろう。しかし、サージェントが少なくともペース面でそこまで悪いドライバーでは無さそうなのは確かなようだ。
ちなみにその2022年のラティフィに対して、スポット参戦で勝利して評価を上げてしまったのがデ・フリースだ。そのことがデ・フリース自身にとって、あるいはレッドブルグループ、ひいては角田にとって良いことだったのか?それはこれから先の彼らの選択が決めることとなるだろう。
8. ハース
表8にヒュルケンベルグとマグヌッセンの予選および決勝におけるペース比較を示す。
表8 ヒュルケンベルグとマグヌッセンのペース比較
ブランク明けの難しさについて前述したが、ブランク明けのヒュルケンベルグがマグヌッセンを上回った。ただし、マグヌッセンは本来グロージャンと同等であり、グロージャンはライコネンと同等であるため、前述の歴代分析から考えても、もう少しヒュルケンベルグに接近できるはずだ。後半戦の巻き返しに期待したい。
9. アルファロメオ
表9にボッタスとジョウの予選および決勝におけるペース比較を示す。
表9 ボッタスとジョウのペース比較
こちらは予選のボッタス、レースのジョウという傾向だが、いずれにしても僅差で実力は伯仲している。
ボッタスの実力はハミルトンとの比較でかなり正確に定義できており、前述の歴代分析に照らし合わせれば、ジョウはサインツやラッセル、ヒュルケンベルグらと遜色なく、場合によってはペレスより上かもしれない。そのレベルの力があってもF2では3年目でランキング3位というのだから、近年のF2のレベルの高さには感心せざるを得ない。
10. アルファタウリ
表10に角田とデ・フリースの予選および決勝におけるペース比較を示す。
表10 角田とデ・フリースのペース比較
予選、決勝ともに角田が上回った。角田は成長過程におり、その評価はまだ定まっていないが、ガスリーとの差で見れば、2022年時点でペレスと互角程度の実力だったと思われる。
正直なところ、現在与えられているデータだけを元にして、3年目の角田が大きな成長を遂げたのか、今季のデ・フリースのパフォーマンスがF1で戦うレベルでなかったのかを判断するのは難しい。特に前述の通り、今シーズンが始める前までのデ・フリースの高評価の根拠には疑問符が残る。
後半戦ではリカルドがチームメイトとなることで、角田の現在の力を正確に測れるようになると考えられる。
11. チームメイト比較総括
ここまでの分析で非常に印象的だったのは、やはりフェルスタッペン、アロンソ、ハミルトン、ルクレールの4名だ。
まず、フェルスタッペンとアロンソはチームメイトを全く相手にしないスピードを見せいている。また、ハミルトンやルクレールもラッセル、サインツといった強力なチームメイト相手にパフォーマンス面で凌駕し続けており、純粋なスピードという点ではこの4名がF1のトップと考えて良いだろう。
ノリスはそこに入ることができるだろうか?この問いには恐らく当分答えが出ない。アルファタウリでリカルドが活躍し、マクラーレンでのリカルドの2年間が異常だったことが分かれば、そのリカルドとの比較は意味をなさない。そしてこれからは新人のピアストリとの比較になってしまう。F1での2年目でサインツに対して0.1秒速かったという部分が、現状できる唯一の論理的な評価で、その後の成長については闇の中というのが正直なところだ。サイエンティフィックな視点ではもどかしさを感じるかもしれないが、一方でファン視点としては想像が膨らみ楽しめる点とも言えるかもしれない。
さて、レッドブルにフェルスタッペンがいなかった場合を考えていただきたい。そして、アストンマーティンにアロンソが、メルセデスにハミルトンが、フェラーリにルクレールがいなかった場合で、全員が平均的なF1ドライバーだった世界線だ。本記事ではそうした特別なドライバーたちがコース上でかなりのタイムを稼ぎ出していることを明確にした。次回Part2では、そのような世界線を仮定した際に導かれれる、各チームのマシン性能の面での競争力について分析していこう。
Writer: Takumi