• 2024/4/20 11:04

2021年アゼルバイジャンGPレビュー(1) 【実力ナンバーワンは誰だった? ”ペレス vs フェルスタッペン vs ハミルトン”】

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 例年セーフティカーや赤旗の影響で予想不可能なレースとなることが多いバクー市街地サーキットでのアゼルバイジャンGP。今年も2つの大きなアクシデントが最終リザルトを大きく揺さぶった。今回もグラフを交えて、各チームのレース内容を客観的に振り返っていきたい。

 各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

 ※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 万事順調なら誰が勝った?
  2. インラップのペースがカギ!
  3. 心配なハミルトン
  4. 用語解説

1. 万事順調なら誰が勝った?

 まず優勝争いを繰り広げた、フェルスタッペン、ペレス、ハミルトンの3人のレースペースを図1に示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 フェルスタッペン、ペレス、ハミルトンのレースペース

 まずハミルトンは第1スティント途中でペースが伸び悩んでおり、無線からもリアがタレてきている事が明白な状況だった。タイヤが厳しいハミルトンは11周目でピットイン。ハードタイヤに履き替える。フェルスタッペンは1周差で入りオーバーカットに成功。さらに1周後にペレスが入り、ハミルトンはオーバーカットするもフェルスタッペンの後ろでコースインとなった。

 ここで状況を複雑にしたのは、ハミルトンとペレスのピットストップに時間がかかったことだ。以下が三者のピットストップ時間である。

・フェルスタッペン 1.9秒
・ペレス 4.3秒
・ハミルトン 4.6秒

 その上で

・フェルスタッペンはハミルトンの4.4秒前方で復帰(T3手前で3.8秒前)
・ペレスはフェルスタッペンの2.0秒後方で復帰(T3手前で2.6秒後ろ)

となっている。

 そこで、全員のピットストップ時間が同じだとすると単純計算で

・フェルスタッペンはハミルトンの1.7秒前方で復帰(T3手前で1.1秒前)
・ペレスはフェルスタッペンの0.4秒前方で復帰(T3手前で0.2秒後ろ)

という事になる。したがってフェルスタッペンとハミルトンの順位は変わらないが、ペレスのピットストップの失敗がなければペレスはフェルスタッペンの前でコースに戻り、ターン2の侵入でイン側をキープ→フェルスタッペンはクロスラインでバックストレート勝負、となりターン3での攻防となっていたと予測できる。ターン2での間合いの取り方と接近時のタービュランスの中での立ち上がりはやってみないと分からないが、ピットを出たドライバーはピット出口からターン3までで0.6秒失うことを踏まえるとタイヤのウォームアップの影響がおおよそ見て取れる。そこを考慮すると筆者はフェルスタッペンが前に出ていた可能性が高いと考えている。

 レッドブルとしても前を走るフェルスタッペンに有利な戦略を与えたはずなので、今回のレースでは予想外にオーバーカットが有利だったと言えるだろう。

2. インラップのペースがカギ!

 優勝争いの三者のインラップは以下の通りである。

・フェルスタッペン 1:50.389
・ペレス 1:49.960
・ハミルトン 1:51.218

 こうしてみてもペレスのインラップは群を抜いており、チームメイトのフェルスタッペンよりも0.4秒速いというのは驚異的なペースと言える。これによりピットストップでのロスにも関わらずハミルトンへのオーバーカットを成功させた。

 その後のレースでもペレスは素晴らしいドライビングを披露した。ハミルトンのストレートスピードは圧倒的に速く、第2スティント前半ではターン15〜16で少しでもミスをすれば抜かれるという緊迫した状況が続いたが完璧に抑え切った。

 赤旗後の再スタートでは、油圧系の問題から49周目すなわち実質的なフォーメーションラップでウィービングをしないよう指示されていたようだ。これにより十分な熱入れができていない状態でのスタートとなり、ハミルトンに一瞬先行を許したが、ハミルトンのオーバーランによってことなきを得た。

 今季はペレスの存在がチャンピオンシップで重要な役割を果たすこととなり、ペレス自身にもタイトル獲得の可能性がまだまだ残されている。ここからよりマシンを習熟していったペレスがどのような走りを見せるのか注目だ。

3. 心配なハミルトン

 今回のハミルトンはボッタスが箸にも棒にもかからない状態で孤軍奮闘。赤旗までは本来入賞すら怪しいマシンを表彰台に導く、まさに王者という走りを披露した。

 しかし赤旗リスタート時にステアリング上のブレーキバランス関係と思われる操作系に触れてしまい、本来と異なるブレーキセッティングでターン1に侵入。ロックアップして直進、最後尾まで落ちてしまった。

 第2戦イモラでは周回遅れの処理の際にウェットパッチ上でスライドしコースオフ、第3戦ポルティマオでは当サイトのレビューで指摘したようにセーフティカー明けリスタートでボッタスのスリップストリームをフェルスタッペンに与える判断ミス、モナコではタイヤの熱入れに苦しみ低迷と、ツッコミどころが多かった今季のハミルトン。イモラやポルティマオでは展開やフェルスタッペンのミスに助けられたが、今回は大きく最終リザルトに響いてしまった。以前アロンソが言っていたように、試行回数が増えれば運は平均化される。ミスをしても幸運に助けられるのは最初のうちだけであり、繰り返していればそれ相応の代償を払うことになる。

 ハミルトンは昨シーズンもイタリアGPやロシアGPでドライビング面以外でのミスが目立ち始めていた。振り返れば2007年のブラジルGPでもボタンなどの操作系のミスでスローダウンしてしまいタイトルを失った説が有力だ。

 今季はレッドブルに競争力があり、フェルスタッペンとの一騎打ちが非常に見応えのあるものとなっているだけに、せっかくならば万全の状態の王者ハミルトンに挑むフェルスタッペンという頂上決戦を期待したいところだ。ハミルトンが2018~19年レベルに復調できるかに注目が集まる。

4. 用語解説

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

クロスライン:コーナーで前方のドライバーがインをブロックした際には、アウトから入り、旋回半径が小さくなって出口が厳しくなった前方のドライバーを、コーナーの立ち上がりでイン側に回り込んで抜くテクニック。

インラップ:ピットに入る周回

アウトラップ:ピットアウトした周回

ウィービング:フォーメーションラップやセーフティカー導入時にタイヤを温めるために行う蛇行運転のこと。