華やかの極み、ラスベガスGP。今年は砂漠地帯としては極めて珍しい雨の予選に始まり、フェルスタッペンの完勝、マクラーレン勢の失格と、イベントフルな週末になった。今回も分析的視点を交えながら、グランプリを振り返ってみよう。
1. チャンピオンシップは混沌へ
ウェットの予選で素晴らしい走りを見せてポールを獲得したノリス。しかしスタートではターン1に向けてイン側を強烈にブロックした。この判断自体は、これまで散々フェルスタッペンにインを突かれてきた反省からのもので、仮にインを開けていれば、フェルスタッペンはインに飛び込み、「エイペックスでフロントアクスルを相手のミラーの前に出す」ことによって、ノリスをコース外に押し出すことをも厭わず、抜き去っていただろう。
問題はそれを意識するあまり、ブレーキングポイントが遅れてしまったことだろう。対するフェルスタッペンは早めのブレーキングで、膨らんだノリスを仕留めた。ノリスはラッセルにも交わされ、3番手に落ちてしまった。
ここからの展開をグラフを使って振り返ってみよう。


ラッセルは序盤、非常にアグレッシブな走りを見せ、フェルスタッペンに肉薄した。しかしその後はじわじわと離される展開に。一方のノリスは序盤はタイヤを労わり、10周目付近から前方との差を縮めていった。
最初に動いたのがラッセル。17周目にハードタイヤを装着すると、ハジャーの後ろでコースに戻った。しかしきっちりタイヤをマネジメントしていたフェルスタッペンは、ミディアムタイヤのまま好ペースを刻み、新品のハードタイヤのラッセルと互角以上のペースを見せた。図1でも、この区間で両者のグラフが平行線を辿っているのがわかるだろう。
その中で、ノリスも21周目には顕著なデグラデーションに見舞われ、22周目にピットへ。これでSC・VSCのリスクが消えたフェルスタッペンは、ラッセルの前をキープできる25周目まで引っ張って、勝利確定となった。正しく完勝である。
レース後にマクラーレン勢が失格となったことにより、タイトル争いは残り2戦(うち1戦はスプリント)で、ノリス390ポイント、フェルスタッペンとピアストリが366ポイントという緊迫した構図となった。普通に考えればノリスが圧倒的優位を築いているように見えるが、同じラスト2戦を残した状態で、2007年のライコネンはハミルトンから37ポイント差、2010年のベッテルはアロンソから25ポイント差という状況から逆転チャンピオンを勝ち獲ったことを忘れてはならない。これらの例は、単なる統計ではなく、それだけタイトルをかけてレースに臨むということはチームとドライバーに重圧となってのしかかることを、本質的に示している。したがって、フェルスタッペンの逆転王座の可能性は極めて高いとも言え、逆に、ノリスがこの重圧を押し除けてラスト2戦で圧巻の走りを見せれば、それは極めて価値の高い勝利であるとも言える。
カタールGPが行われるロサイルは屈指の高速サーキットであり、レッドブル優勢が予想される。一方でアブダビGPのヤス・マリーナはマクラーレンの得意とする中速コーナーが多く、ラスト2戦のトラックとマシン特性の相性は五分と言った所だろう。近年稀に見る大接戦がどんな軌跡を描くのか、大いに期待したい。
2. アントネッリの強さは本物か
今回もピアストリに対して絶妙なディフェンスを見せ、トラックポジションを守り切ったアントネッリ。サンパウロGPでもフェルスタッペンに付け入る隙を与えない見事な走りを披露し、ここに来てディフェンスの上手さが光り始めている。
アントネッリの良いところは、「オーバーリアクション」をしないことだ。2005年の日本GPでライコネンに交わされたフィジケラ、2021年のフランスGPでフェルスタッペンとペレスに交わされたボッタス、2023年ブラジルGPでアロンソに交わされたペレスのように、本来必要のない場面でコーナー進入時にイン側をブロックしてしまうと、立ち上がりが鈍って次のコーナーで仕留められてしまう。アントネッリを見ていると、不要な場面でこうしたオーバーリアクションをせずに、今回のレースの38周目のように必要な状況ではイン側を固く守っておくという状況判断能力に優れているように見える。
これはチャンピオンクラスのドライバーに不可欠な要素であり、アントネッリの今後も非常に楽しみになってきた。
3. まとめと次戦の展望
ラスベガスGPは、タイトル争いの均衡が“ほんの数ミリ”の判断で崩れることを示した一戦だった。
雨の予選で3戦連続ポールを奪い、なおかつスタートでフェルスタッペンに対してイン側を必死に守りに行ったノリスの判断自体は、「これ以上同じパターンでやられたくない」というチャンピオン候補としての意地の表れでもある。しかし、その強い意識ゆえにわずかにオーバーシュートしてしまった事実は、「コントロールされた攻撃性」のバランスの難しさを物語っている。これは本質的に、スピードを求めて車高を下げることのリスクとしてマクラーレンの2台失格という結果が生じたことと同じことだ。
一方でフェルスタッペンとレッドブルは、戦い方のスタイルをほとんど変えていない。前戦サンパウロGPの終盤で、無理なステイアウトを選択せず、今回ラスベガスでも、雨の予選で堅実にフロントローを確保し、決勝では序盤にラッセルの猛攻を受け止めたうえで、タイヤを丁寧に扱いながらハイペースを維持した。
残り2戦、我々が見ることになるのは単なる速さ比べではない。
- プレッシャーの中でアグレッシブさをコントロールできるかという、ドライバーの内面の戦い
- セットアップや戦略のリスクのバランスをどう取るかという、チームの意思決定の戦い
ラスベガスは、その最終章に向けて一気にボリュームを上げたクライマックス前夜の一戦だった。ロサイルとヤス・マリーナで、この物語がどんなエンディングを迎えるのか。タイトル争いの行方を見届けるだけでなく、「速さ・リスク・心」の三つ巴のせめぎ合いを、最後の一周まで味わい尽くしたい。
Takumi, ピトゥナ
インタラクティブグラフ
ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。
このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。
特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。
- 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
- 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。
この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。
また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。
Lap Times
Gap to Leader
Takumi, ピトゥナ
