1. 分析結果と結論
先に分析結果を示す。分析の過程については次項「2. レースペースの分析」をご覧いただきたい。
表1 ミディアムタイヤでのレースペース
ミディアムタイヤでは、ハミルトンがトップとなった。ただし後述するハードタイヤでのレースペースとサインツに対する攻勢具合から、ルクレールとサインツの力関係はミディアムでも同様だったと考えるのが自然で、その場合ルクレールはハミルトンの0.2秒上にくる事になる。
フェルスタッペンも、サインツより明確に速かったことと自力で抜くには至らなかったことを踏まえると、サインツの上からルクレールの間程度に位置するであろうことは想像できる。
表2 ハードタイヤでのレースペース
ハードタイヤではハミルトンやアロンソ、ノリスのデータの精度に若干の疑問符がつくが、多角的に見て、さほど問題はなさそうだ。
表3 全体のレースペースの勢力図
総合すると、レース全体のペースの勢力図はこのように結論づけて良いだろう。
マシンの空力性能が問われるシルバーストーンでフロントウィングを壊しながら(ロスは0.1~0.2秒程度と思われる)ルクレールが最速のペースを見せた。
フェルスタッペンがどの程度だったかは前述の通り幅を持つだが、予選・レースペース共にフェラーリ&ルクレールは非常に速く、43ポイントのポイント差も問題にしない可能性もあるように思えてくる。ただし、いくらマシンとドライバーの競争力で優位に立っていても、信頼性の問題や戦略・戦術ミスがあまりに多発すればタイトル獲得は厳しくなってしまう。
今後のフェラーリが2005年のマクラーレンのような道を歩むのか?それとも2012年のレッドブルのようにスピードで諸問題を凌駕しタイトルを勝ち取るのか…?今季残りのレースも目が離せない戦いになりそうだ。
2. レースペースの分析
以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.07[s/lap]で計算した。
また、各ドライバーのクリアエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。
また、今回は新品と中古の差は無視した。
2.1 チームメイト比較
まずはチームメイト同士の比較を見ていこう。
ハードの第2スティントではルクレールが平均0.52秒上回っている。サインツのタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的にはルクレールが0.4秒ほど上回っていたと言える。
ハードの第2スティントで、アロンソが1.2秒ほど上回っている。オコンのタイヤが11周古いことを、デグラデーション0.01[s/lap]で考慮すると、実力的にはアロンソが1.1秒ほど上回っていたと言える。
スティント頭でサンプル数も少ないため疑問符はつくが、
①第1スティントでミディアムのアロンソがソフトのオコンに0.9秒上回っていること
②第2スティントのハードのオコンに対して22周古いミディアムで0.3秒ほど上回っており、アロンソのタイヤが22周古いことを、デグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にはアロンソが1.2秒ほど上回っていたこと
も考慮すると、ある程度妥当な値であることが見えてくるため、疑問符は小さめと評価してよいだろう。
アロンソの第2スティントとオコンの第1スティントを比較すると、ハードタイヤ同士で互角のペースで進み、アロンソのペースが上がってからはアロンソが0.4秒上回っている。
この時ラッセルはゲージが減ってタイムアップしており、アロンソは31周目まではまだその段階に至っておらず、その後ペースが上がっている。
前半について、オコンのゲージ減少によるタイムアップ幅は0.4秒程度で、15周古いことをデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にはオコンが0.2秒ほど上回っていたと言える。
後半については、両者ゲージが減ってタイムが上がっている段階だ。よって単純にオコンのタイヤが15周古いことをデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、こちらでも実力的にはオコンが0.2秒ほど上回っていたと言える。
2.3. チームを跨いだ比較
ここからはライバルチーム同士で比較を行っていこう。最初にミディアムタイヤでの競争力についてハミルトン、ペレス、ノリス、アロンソ、ベッテルのレースペースを図4に示す。
第1スティントでハミルトンはノリスを1.3秒上回っている。またアロンソはノリスとイーブンペースだ。
また5周目に交換したペレスの第2スティントは、ハミルトンの平均0.26秒落ちだ。ハミルトンのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.01[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが0.3秒ほど上回っていたと言える。
6周目に交換したベッテルの第2スティントは、ハミルトンの平均1.79秒落ちだ。ハミルトンのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.01[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが1.8秒ほど上回っていたと言える。
続いて、ハードタイヤについて見てみよう。まず図4で比較できるのがノリスとアロンソだ。
アロンソはハミルトンと同じタイヤ条件でハミルトンの0.7秒落ちだ。またノリスはそのアロンソの0.2秒落ちとなっており、1周のタイヤの差はデグラデーションが微小であるため考慮する必要はないだろう。
次にルクレール、ハミルトン、シューマッハ、ストロールを比較してみよう。
シューマッハはサインツの平均1.20秒落ちで、シューマッハのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的にはサインツが1.2秒ほど上回っていたと言える。
また、ストロールはサインツの平均1.54秒落ちで、ストロールのタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.01[s/lap]で考慮すると、実力的にはサインツが1.5秒ほど上回っていたと言える。
これらを総合し、表1~3の結論を得た。
Analyst: Takumi