こちらのパートではハミルトンvsフェルスタッペンの高度な優勝争いから中段争いに目を向けていきたい。
※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した
目次
- ルクレールの圧勝
- アルファロメオはタイヤに優しい
- 戦闘力を増すハースとシューマッハ
- 批判の集まる角田の振る舞いをどう見る?
- 抜けないモナコ?アンダーカットかオーバーカットか?
- 用語解説
1. ルクレールの圧勝
以下にルクレールとライバル勢の比較を示す。
Fig.1 ルクレール、ペレス、リカルドのレースペース
ルクレールのペースは非常に優れており、ソフトでの第1スティントではリカルドを1秒近く上回るペースで周回している。第2スティントではその差は一気に縮まったように見えるが、リカルドは2ストップでそこそこプッシュしていたと思われ、一方ルクレールは1ストップ前提で走っており、前半かなり労って走っている。50周目付近からタイムを上げていることからもかなり慎重にマネジメントしていた事が伺える。ここでのペースはペレスにも引けを取らない出来だ。結果的にはペレスが入ったことで後ろに空間ができ、安全策で2ストップを行なったが、それが無くてもライコネンと同じく数少ない1ストップ成功者となったはずだ。
さらにフェラーリはセクター3で速く、これまでの3戦でも低速コーナーからの立ち上がりでタイムを稼いでいることを考えると次戦モナコでは期待が大きくなってくる。
2. アルファロメオはタイヤに優しい
以下にアルファロメオ2台のグラフを示す。
Fig.2 ライコネンとジョヴィナッツィのレースペース
各ドライバーのミディアムでのデグラデーションが0.05~0.10[s/lap]辺りに収まる中ライコネンのミディアムでのデグラデーションはクリーンエアの18周目から30周目付近だけを見ると0.00[s/lap]となっている。1ストップを成功させるべく相当労って走っていたのだろうが、それでもかなりのハイペースを維持している。その後ピットストップを済ませたマシンたちにオーバーテイクされクリアラップを参照しづらいが、0.15[s/lap]前後のオチが見られた。これは今回のタイヤの特性上摩耗が進むとこのような落ち方をするようだ。後半は2台揃ってソフトで長めのスティントを走ったが、好ペースを維持。デグラデーションも0.05[s/lap]程度と、ハミルトンのミディアム並みの数値を示した。開幕戦でもアルファロメオだけがデグラデーションが少なく(参考:開幕戦のラップタイムまとめ)、この傾向は今後のシーズンで特にタレの大きなトラックで大きな強みになってくるかもしれない。
3. 戦闘力を増すハースとシューマッハ
以下にシューマッハとラティフィのペースを比較する。
Fig.3 シューマッハとラティフィのレースペース
序盤でシューマッハがウィリアムズ勢を押さえきれず、オーバーテイクされていったシーンを見て、予選を重視しすぎたかと思ったが、苦戦したのはソフトでのレースペースのみで、ミディアムでは非常に高い競争力があったことが分かる。デグラデーションやフエルエフェクトを考慮すればラティフィと互角だった。
もちろんウィリアムズ勢はセーフティカーを利用して9周目にミディアムに換えているが、シューマッハと同様の戦略を採ったアロンソやベッテルとの比較でも、ミディアムでの非常に強力なペースと比べて相対的にソフトの競争力が低いことが以下のグラフからも分かる。特にアロンソやベッテルは集団の中で前と2秒ほどの差をキープしながらの走行でのペースだ。
Fig.4 シューマッハ、アロンソ、ベッテルのレースペース
ハースは昨年までもコンディションによって競争力が上下していた印象があり、今回もそれが出てしまったのかもしれない。シューマッハの走りは非常に安定感がありマゼピンより安定して1秒近く速いので、フィードバック能力も高いと思われ、ハースの不安定なパフォーマンスの改善に貢献できるか、今後の注目となりそうだ。
4. 批判の集まる角田の振る舞いをどう見る?
強気な姿勢に定評があった角田だが、今回はマシン批判・チーム批判とも取られかねない無線での発言(I can’t f*** believe this car.)があり、賛否両論が巻き起こった。それに対し筆者は以下のようにツイートしそれなりの反響があった。
こうした英語の微細な表現力は、経験を積み記憶と学習を繰り返す中で獲得していくものだ。アロンソやルクレールの英語にも文法的に間違いはあるが、彼らは無線でエンジニアに誤解を与えるような言い回しをしたところは聞いた事がない。全てにおいてネイティブ並みの完璧な英語を話す必要はないが、チーム内での人間関係を構築したり、マシンやレースに関して自分の意図を的確に伝えるコミュニケーション力は今後に向けた課題になってくるかもしれない。
5. 用語解説
スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。
デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。
フエルエフェクト:燃料搭載量がラップタイムに及ぼす影響。燃料が重くなることでより大きな慣性力(加速しない、止まれない)が働き、コーナリング時も遠心力が大きくなり曲がれなくなる。それによって落ちるラップタイムへの影響を1周あたりで[s/lap]としたり、単位質量あたりで[s/kg]、あるいは単位体積あたりで[s/l]としたりする。また英語でFuel Effectなので、「フューエルエフェクト」や「フュエルエフェクト」などの表記がある。当サイトでは「フエルエフェクト」と[s/lap]を標準として扱う。
クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。
アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。
オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。
オーバーテイク:追い抜き