• 2024/11/21 15:21

2021年シュタイヤーマルクGP分析

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1. 分析結果と結論

 タイヤのデグラデーションや燃料搭載量などを考慮し、全ドライバーのレースペースの力関係を割り出すと表1のようになった。

Table1 レースペースの勢力図

スクリーンショット 2021-12-20 16.41.13を拡大表示

※疑問符がつく部分はオレンジ色で示した

  ハミルトンはフェルスタッペンと0.1秒差だが、限りなく0.2に近い0.1と言えるだろう。よってフェルスタッペンとの比較で導いたペレスの「トップから0.4秒差」と、ハミルトンとの比較で導いたボッタスの「トップから0.4秒差」では、前者の方が0.1秒以下のレンジでは競争力が高かったと考えられる。

 後方から追い上げたルクレールが中団最速のペースを示した。また、ライコネンも非常に競争力が高かった。なかなか自分のペースで走れない中でも、ストロールを先頭とする8位争いの2秒後方でフィニッシュした最終結果がそれを物語っている。

 アロンソやベッテルはダーティエアの展開の中で、前と離れた短いタイミングでのクリーンラップを参考としているため、実際はもう少し早かった可能性はある。

 また角田はストロールより明らかにペースが良く、角田のタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的にはストロールの0.2秒以上上に位置していたと考えられる。すなわち最低でもアロンソやリカルドと同等だ。
故に、前方をストロールとアロンソ2台に塞がれているにも関わらず、サインツを気にしてプッシュするように指示したエンジニアの判断には、疑問を呈さざるを得ない。サインツの15周新しいタイヤはデグラデーションを0.05[s/lap]とすると、0.8秒のゲインとなり、レース前半のルクレールを見ても、サインツが後ろに戻ったところで押さえるのは無謀だ。

 それよりも、そもそも第1スティントで、サインツと同様に前方に対して無理に仕掛けず、タイヤを温存してピットストップを遅らせ、レース後半でオフセットを作ったタイヤでオーバーテイクする戦略の方が利口だった。そして早めのピットストップを行なってストロールとアロンソの後方につかえてしまったならば、タイヤを前方と距離を置きタイヤを労わるべきだった。そうすればアロンソにとってもタイヤを労りやすい状況となるからだ。DRSトレインでは、アロンソがストロールを抜かないことには順位の変動はまず起こらない。自身がタイヤを労わりつつ、アロンソにも余裕を与え、レース終盤にアロンソがストロールを交わしてから自身もストロールを交わし、最後にアロンソを交わすのが最もローリスク・ハイリターンで見込みの高い戦術だっただろう。

 対照的に今回のサインツは、ルクレールほどのポテンシャルは無い中で、そうした効果的な戦略を実行することで6位入賞を果たした。

 なお、リカルドはクリーンラップのサンプルが質・量共に十分ではなかったため疑問符つきの結論とした。

2. 分析内容の詳細

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.05[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

2.1 チーム毎の分析

 まずチームメイト比較を行う。

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Fig.1 レッドブル勢のレースペース

 第2スティントでは、フェルスタッペンが0.4秒ほど上回っている。ペレスのタイヤが3周古いことは、デグラデーション0.01[s/lap]のため考慮する必要はない。したがって、実力的にも0.4秒差となる。
 第1スティントではタイヤが異なるが、ペレスがクリーンエアを得てからは、フェルスタッペンの0.5秒落ちとなっている。ノリスの後方でフェルスタッペンと同じ程度にタイヤを使っていたと仮定すると、ソフトのミディアムに対するハンディは0.1秒程度あったかもしれない。
 第3スティントでもタイヤが異なるが、トラフィックを考慮すると、ペレスが0.5秒ほど上回っていと言える。フェルスタッペンのタイヤが25周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的にはフェルスタッペンのハードの0.8秒落ちだ。この場合ミディアムはハードに0.4秒劣っていたことになるが、ペレスの最終スティントはバックマーカーが多く、その中でタイヤを傷め、良いスティントにならなかった可能性もある。

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Fig.2 メルセデス勢のレースペース

 第1スティントでボッタスがクリーンエアを得てからは、ハミルトンが0.3秒上回っている。
 第2スティントでは、ハミルトンが0.4秒上回っており、ボッタスのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.08[s/lap]で考慮すると、実力的には0.3秒程度といえる。
このことから、第1スティントのミディアムでの力関係も変わらないとすると、ボッタスはノリスとペレスの後方でハミルトンと同程度にタイヤを使っていたと考えられる。

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Fig.3 マクラーレン勢のレースペース

 リカルドのクリーンラップが少なすぎるため疑問符付きとなるが、第2スティント頭のクリーンエア部分はノリスとイーブンだ。ノリスのタイヤが10周古いことを、デグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には0.2秒程度と言える。

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Fig.4 フェラーリ勢のレースペース

 戦略が異なるため直接の正確な比較は難しいが、ここではタイヤの差を念頭に置きつつそれぞれのスティントのペースを見てみよう。
 まず、第1スティントは、サインツがトラフィック内でタイヤを労っていた前提で考えて良いだろう。すると、スティントの平均で比較しても問題なく、ルクレールのオーバーテイクに関連する周を除きつつ計算すると、ルクレールが0.2秒ほど上回っている。
 第2スティントでは、終盤を見るとルクレールが0.2秒ほど上回っている。ルクレールのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には0.4秒程度と言える。
 連立方程式を解くと、ミディアムはハードよりも0.1秒ほど競争力があり。ルクレールはサインツを0.3秒ほど上回っていたことになる。

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Fig.5 アストンマーティン勢のレースペース

 ベッテルのレース内容から、第2スティントでストロールとイーブンペースと言って良いだろう。ベッテルのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的にはベッテルが0.1秒ほど上回っていたと言える。

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Fig.6 アルピーヌ勢のレースペース

 ハードタイヤの第2スティントで比較すると、2人はイーブンペースと言える。アロンソのタイヤが9周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には0.5秒程度と言える。

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Fig.7 アルファタウリ勢のレースペース

 比較可能なデータは無かった。

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Fig.8 アルファロメオ勢のレースペース

 ライコネンの第1スティント終盤は、ジョビナッツィの第2スティント序盤よりも0.7秒ほど速い。精度に問題があるものの、ライコネンのタイヤが23周古いことを、デグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には0.3秒程度と言える。
 また、タイヤが異なる第2スティントで比較すると、ライコネンが0.5秒ほど上回っている。ジョビナッツィのタイヤが13周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的にはジョビナッツィが0.2秒ほど上回っていたと言える。
 よってアルファロメオではハードがミディアムより0.5秒優れていたことになる。ただし前半の精度の問題から現時点では疑問符付きとし、勢力図分析での間接的な比較に託そう。

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Fig.9 ハース勢のレースペース

 第2スティントで比較するとシューマッハが1.1秒ほど上回っている。マゼピンのタイヤが12周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には0.5秒程度と言える。

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Fig.10 ウィリアムズ勢のレースペース

 比較可能なデータは無かった。

2.2 チームを跨いだ分析

2.1 第2スティントでハードを履いたドライバーなど
 まず、図1にフェルスタッペン、ハミルトン、ノリス、サインツの比較を示す。

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Fig.1 フェルスタッペン、ハミルトン、ノリス、サインツのレースペース

 第1スティントではフェルスタッペンが0.1秒上回っている。
 また、第2スティントではフェルスタッペンが0.2秒上回っている。フェルスタッペンのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.08[s/lap]で考慮すると、実力的には0.1秒程度と言える。
 よって0.1秒が両者のレース全体での差となる。

 第2スティントではフェルスタッペンの0.8秒落ちだ。フェルスタッペンのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.5[s/lap]で考慮すると、実力的には0.9秒程度と言える。
 ちなみに、ノリスは第1スティントでソフトを履き、フェルスタッペンの1.1秒落ちだ。ハード同士の比較より0.2秒失っていることになる。

 サインツは、第2スティントでノリスを0.2秒上回っている。ノリスのタイヤが10周古いことを、デグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には互角と言える。
 ちなみに第1スティントでは、トラフィックの中でサインツがタイヤを労っていた事を前提とし、スティント全体を平均すると、ノリスのソフトと同等で、フェルスタッペンの1.1秒落ちだ。このことから、ノリスは対サインツで、ソフトでもミディアムと同等の競争力があったことがわかる。

 続いてストロールとアロンソをフェルスタッペンと比較してみよう。

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Fig.2 フェルスタッペン、ストロール、アロンソのレースペース

 また、第2スティントではフェルスタッペンの1.3秒落ちだ。ストロールのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には1.2秒程度と言える。
 また、ストロールは第1スティントでソフトを履き、ミディアムのフェルスタッペンの1.7秒落ちだ。ハード同士の比較より0.5秒失っていることになる。

 また、アロンソは60周目前後、ルクレールに抜かれてからの僅かなクリーンエア走行時に、ストロールより0.1秒ほど速いペースを見せている。ルクレールに抜かれたストロールの隙を突くためにエネルギーは温存気味で走っていたと考えるのが自然なため、アロンソの実力はもう少し上である可能性が高い。その上で、アロンソのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には0.2秒程度と言える。
 ちなみに第1スティント終盤で、アンダーカットの確率を上げるためにアロンソがペースを上げた際も、アロンソが0.2秒上回っており、信憑性が高い数値と言えるだろう。

 続いてジョビナッツィ、シューマッハ、ラティフィをフェルスタッペンと比較してみよう。

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Fig.3 フェルスタッペン、ジョビナッツィ、シューマッハ、ラティフィの
レースペース

 ジョビナッツィは、第2スティントでフェルスタッペンの1.4秒落ちだ。ジョビナッツィのタイヤが6周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には1.1秒程度と言える。 

 シューマッハは、第1スティントでフェルスタッペンの2.4秒落ちだ。
 また、第2スティントではフェルスタッペンの1.6秒落ちだ。フェルスタッペンのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には1.7秒程度と言える。

 ラティフィは、実質的な第1スティントでソフトを履き、ミディアムのフェルスタッペンの1.9秒落ちだ。
 また、第2スティントではフェルスタッペンの1.6秒落ちだ。ラティフィのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.05[s/lap]で考慮すると、実力的には1.4秒程度と言える。

2.2 第2スティントでミディアムを履いたドライバー
 続いて、(実質的な)第2スティントをミディアムで走った、ルクレールとライコネンを比較してみよう。

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Fig.4 ルクレールとライコネンのレースペース

 ハードではジョビナッツィを0.3秒上回り、非常に競争力があったライコネン。サンプル数が少なく条件が異なるため概算になるが、第1スティント終盤のクリーンエアのタイムは、ルクレールのトラフィックを除く第1スティント全体の0.1秒落ち程度で、これはジョビナッツィを0.4秒上回ったことになる。これは、チームメイト比較で導いたジョビナッツィの0.3秒上という数値の信憑性から、一定の疑問符を取り除くことができたと思われる。
 また第2スティントでは、ルクレールの0.5秒落ち程度と見て良いだろう。ライコネンのタイヤが1周古いことは、デグラデーションが小さいため考慮しなくて良い。

2.3 各タイヤでの勢力図
 3種類のタイヤでの勢力図は以下の通りとなった。

Table2 ハードタイヤでのレースペース

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Table3 ミディアムタイヤでのレースペース

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Table4 ソフトタイヤでのレースペース

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・チームメイト間でタイヤを履き替えた時に力関係は変わらない
・ペレスがソフトタイヤでもフェルスタッペンと変わらない競争力だった

の2点を前提としてこれらを総合すると、表1の結果が得られた。