• 2024/4/27 17:25

2022年オランダGPレビュー(2) 〜難しい展開で本領を発揮したアロンソ〜

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 Part1ではレッドブルvsメルセデスのトップ争いにフォーカスしたが、Part2では13番手から6番手まで追い上げたアロンソのレースについて掘り下げてみよう。

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1. 我慢の第1スティント

 予選ではアタックラップでペレスに引っかかってしまい、13番手スタートとなったアロンソ。本記事ではスタートから時系列順で見ていこう。

 まずスタートでは無難に順位をキープすると、第1スティントでは角田・ガスリーのアルファタウリ勢の後ろとなる。序盤はシューマッハ、角田、ガスリー、アロンソと各々1秒以内の差で推移したためDRSトレインの状態だったが、9周目にガスリーが角田に1秒以上離された所を一発で仕留めた。そして2周後にはあっという間に角田も交わしている。

 DRSトレインの中でも闇雲に前方に仕掛けずにタイヤを温存していたと考えられ、この辺りは当然のごとくクレバーな走りだ。

2. 早めのピットストップでも好ペースの第2スティント

 アロンソは12周目という非常に速い段階でハードタイヤ(以下ハード)に交換した。これは11周目に入ったガスリーをカバーするためと考えられるが、これによりアロンソはライバル勢よりも古いタイヤで第2スティントを走ることになった。

 図1にアロンソ、ノリス、オコン、フェルスタッペンのレースペースを示す。

図1 アロンソ、ノリス、オコン、フェルスタッペンのレースペース

 アロンソは21周目付近でストロールに追いつき、1.5秒程度の間隔を保ってタイヤを労りながら走っていたようだ。労った分をストロールがいなくなった39周目以降で使ったと考え、スティント全体を平均して見ると、アロンソ、ノリス、オコンは全車ハードで互角のペースと言える。アロンソはオコンより6周、ノリスよりも5周古いタイヤを履いていたことを加味して計算すると、純粋なペースでは2人よりも0.3~0.4秒ほど速かったことが導ける。

 この好ペースが、オコンの前のポジションをキープすること、そして後のVSC時にピットに入った際にストロールの前に戻ることに貢献した。

3. VSC開けからが新の本領発揮

3.1. 絶妙なリスタート

 39周目には、前を走っていたストロールが先にピットに入り、ハードでアロンソを0.9秒上回るペースで差を詰めてきた。しかしその差が15秒程度になった時点でVSCとなり、アロンソはストロールの前でコースに戻った。

 このVSCのリスタートではストロールと非常に接近していたが、ターン10でストロールをイン側に招き入れ、相手に立ち上がりが厳しくなるラインを取らせることを選んだ。仮にアロンソがインを守っていた場合、立ち上がりからバックストレートで迫られ、シケインでブロックラインを取らざるを得ず、より接近した状態でホームストレートのDRS区間に入っていたかもしれない。

 こうした細部の判断について批判的に見てみてもツッコミどころがないのがアロンソの強みと言えるだろう。

3.2. 第3スティント序盤での猛攻

 そしてここからのアロンソのペースは驚異的だった。

 再び図1に着目すると、ノリスが予選で使った中古ソフト、アロンソが新品ソフトとはいえ、ノリスより1.0秒速いタイムで追い上げ、再開時に2.5秒あった差を2周でテールトゥノーズに持ち込んだ。

 このペースは異常だ。グラフを見ると、同時期のフェルスタッペンですら(ハードではあるが)及んでいない。最終スティントのフェルスタッペンは中古のソフトで11周分(0.7秒相当)軽くなっている状態だが、これより0.7秒遅いだけということから考えても尋常ではない。

 通常スティントの頭でこれほどタイヤを使ってしまうと、後半に厳しくなってしまうのが一般的な考え方だ。実際にアロンソ本人が、これまでスティント前半にタイヤを労り、ライバルにタイヤを使わせてから後半にスパートする戦略を頻繁に採ってきた。

 筆者はこのスティント序盤のハイペースを「新品タイヤの効果があるうちにノリスを交わすため」と解釈した。マクラーレンに対してマシンの面で明確なアドバンテージが見込めない以上、アロンソが有利なのはタイヤの面だけだ。それがまだ大きいうちにノリスを仕留めて、前に出てからマネジメントしようという考えだとすれば頷ける。実際53周目のターン1で並びかけるところまで行けたのは、新品効果が寄与していると考えるのが自然だろう。

 また、VSC再開直後にアロンソは無線で「ソフトのリミテーションは何になる?」と聞き、エンジニアからリアリミテッドの旨を受け取り、ターン3でのドライビングについてアドバイスを貰っている。飛ばすと言っても闇雲ではなく、どのコーナーでどのタイヤに負荷をかけても良いのか?いけないのか?を把握した上で飛ばしていたということだろう。これが無謀と勇敢の違いだ。

 そして53周目のたった1回の仕掛けで抜けないと判断するや否や、すぐに1.6秒の間隔をとってマネジメントに入った。実に潔く、メリハリの効いた攻めだ。これがこの後のノリスに対するディフェンスで活きてくることになる。

3.3. SCからの12周の予選ラップ

 さて、56周目にはセーフティカー(以下SC)が入り、ボッタスが止まった場所がホームストレート上であったため、全車がピットロードを通過。この隙にノリスやオコンは最小限のロスタイムでソフトタイヤに交換。アロンソの直後につけた。

 タイヤ交換せずトラックポジションを優先したアロンソには、ここから12周にわたって自分よりも新しいタイヤを履いたライバルたちを抑え込むミッションが与えられた。ノリスのソフトは予選で使った中古とは言え、アロンソはレーシングスピードで既に6周走っており、スティント序盤の猛攻も踏まえると、かなり厳しいように見えた。

 しかしアロンソは最終コーナーを一貫して0.6~0.7秒の差で立ち上がり、ターン1でノリスをギリギリ抑え続けた。それでいながらハイペースをキープし、終盤にはサインツを抜きあぐねていたペレスに接近。アロンソもDRSを使えるようになった。これも追い風となり、順位をキープすることに成功した。さらに5秒ペナルティを持っていたサインツにも離されず、最終リザルトは6位となった。

 マクラーレンとしては、ソフトで6周の履歴の差があれば抜けると踏んで、トラックポジションを捨ててノリスのタイヤを交換する判断を下したのだろう。しかしベルギーGPレビューで触れた通り、アロンソを相手に戦う場合は、シミュレーション上の計算範囲の少し外側を加味して考える必要がある。それが今回も証明されたと言えるだろう。

 アロンソはレース後のコメントでこの終盤の戦いを「チェッカーまで予選セッションのようだった」と形容した。

4. Ifの世界…

 Part1では、フェルスタッペンvsハミルトンについてVSC・SCが入らなかった場合のシミュレーションを行なった。本記事ではアロンソについても同様に考えてみよう。

 図2にアロンソとストロールのレースペースを示す。

図2 アロンソとストロールのレースペース

 まず、VSCが入った47周目時点で、アロンソはストロールの15秒ほど前にいた。

 ここからアロンソが54周目まで引っ張ってソフトに変える場合を想定しよう。ハードに換えたストロールのペースはアロンソより0.9秒ほど速く、7周で6秒ほど詰め、2人の差が9秒になったところでアロンソがピットストップを迎えることになるだろう。アロンソは12秒後ろに戻ることになる。

 実際のレースでは47周目に入ったアロンソがストロールを1.5秒上回るペースを見せている。54周目には7周分軽くなっているので、フューエルエフェクトを0.06[s/lap]として更に0.4秒速くなっている計算だ。

 1.9秒のペース差ならば7周で追いつくことになる。アロンソがもう少しマネジメントして1.0秒落としたとしても、0.9秒のペース差で追い上げて13周、つまりは67周目には追いついて交わした計算になる。

 あとはノリスとの位置関係だが、アロンソがノリスをアンダーカットできないとは考えにくい。何故ならばノリスは新品ソフトを持っておらず、新品を持っているアロンソの方が最終スティントのウィンドウを長く取ることができるからだ。この点においてはQ2敗退が美味しい方向に働いている。

参考:ピレリ公式による決勝前の残りタイヤ

 ちなみにストロールが入った時点でアロンソは「慌てることはない。SCか何かが入れば助けになる。」と無線で話していたが、VSCがなかった場合でも勝てる道筋が見えていたからこその「慌てることはない」なのだろう。そして結果的には見事VSCが出て「助け」になった。

 アロンソのレースでの強さは、目立つスーパープレイというよりも1レース全体を驚異的な完成度でデザイン・実行する点だ。特に最終スティントでの戦いぶりは正に「勝負師」と言え、F1ドライバーとしてかけがえの無い宝のような資質であると言えるだろう。

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Writer: Takumi