• 2024/4/26 20:40

2021年イタリアGPレビュー(2) 【どう転んでもリカルドの完勝だったのか?】

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 Part1ではチャンピオン争いの2人のバトルに焦点を当てたが、後半は劇的な優勝を遂げたリカルドにフォーカスし、グラフを使って客観的に振り返ってみよう。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 決め手はスタート
  2. どう転んでもリカルドが勝った?
  3. リカルドのパフォーマンス改善
  4. どうなる?「メルセデスサーキット」ソチ
  5. 用語解説

1. 決め手はスタート

 予選では0.006秒差でノリスに敗れたリカルドだったが、今季ノリスに大きく水を開けられてきたリカルドとしては、非常に競争力があることを伺わせるリザルトだった。

 そして最初の決め手になったのは、スプリントレースのスタートでノリスの前に出たことだ。さらにリカルドはフェルスタッペンとの接触を避けた点でもファインプレーをしている。ターン1進入時にはフェルスタッペンの前に出ていたが、フェルスタッペンが(丁度決勝レースのハミルトンのように…)アウト側に膨らんできたため、危うく当たりそうになった。しかし、リカルドはここで素早い判断で減速し接触を回避した。

 スプリントレースを3位でフィニッシュし、ボッタスのパワーユニット交換により決勝レースを2番手でスタートすると、加速で一気に前に出る。また、リカルドはターン2で後方のフェルスタッペンがインに飛び込んでくる可能性を考慮して、かなり余裕を持ってターン2のイン側にスペースを残してコーナリングしており、一貫してリスクを避けるドライビングをしている。

 ここからはフェルスタッペンに付け入る隙を与えず、第1スティントをトップで進めると、Part1で考察した通り、デグラデーションが0.09[s/lap]と大きくアンダーカットが有効な展開の中、それを防ぐために先手を打って22周目にピットインする。

 フェルスタッペンは翌周ピットに入り、11.1秒のストップと大きくロスをしたことで、リカルドが大量リードを奪うことになった。

 ちなみにピットストップが同等だったとしても、リカルドがフェルスタッペンに勝っていた可能性が高い。リカルドのピットストップは2.4秒、フェルスタッペンは11.1秒と、その差は8.7秒だが、フェルスタッペンがピットを出てきた際のリカルドとの差は10.4秒であり、ピットストップが同タイムでもフェルスタッペンは1.7秒後方に戻っていた。そして第2スティントでもオーバーテイクは難しく、第1スティントの再現になっていただろう。

 フェルスタッペンとハミルトンが消えると、セーフティーカー明けの第2スティントはペースをコントロールしつつ、ファイナルラップにファステストラップを記録するという完璧な勝利を収めた。

2. どう転んでもリカルドが勝った?

 このようにフェルスタッペンがノートラブルでもリカルドに勝てた可能性は低い。

 では、フェルスタッペンとハミルトンが当たらなかった場合はどうだろうか?フェルスタッペンがハミルトンの前の場合は上のケースと同じく、フェルスタッペンがリカルドを抜けずに終わる可能性が高い。

 一方、ハミルトンが前の場合、Part1で述べた通り、ハミルトンはフェルスタッペンの前を抑えることが目的の早目のピットインだったため、ミディアムで28周を走る長めのスティントでタイヤを労らなければならず、リカルドに追いついて抜くのは相当難しかったと思われる。

 だが、フェルスタッペンのピットトラブルが無かった場合、あえて「リカルドがフェルスタッペンに勝っていた可能性が高い」と書いたが、この場合ハミルトンが勝っていた可能性があるのではないか?考察するためにまずはリカルドとボッタスのレースペースを示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 リカルドとボッタスのレースペース

 ボッタスはハードタイヤでスタートしており、第1スティント終盤の数周だけクリーンエアで走れている。ここでボッタスは新品ハードのリカルドから0.5秒ほど遅いタイムを刻めている。

 一方、ハミルトンが25周目に入ったのはPart1で述べた通り、フェルスタッペンに勝つためであり、レースに勝つためでは無かったと考えられる。したがってフェルスタッペンのピットが成功していれば、何れにせよトラックポジションで後ろになるため、30周目過ぎまで引っ張って、タイヤの違いを生み出し新品ミディアムでオーバーテイクする戦略を採ったはずだ。

 ここで、ハミルトンは最低でも前述のボッタスと同等のペースは持っていたと思われるので、例えば33周目まで1周0.5秒で開いていくと、21周目終了時に6秒だった差は12秒になっている。
 ピットストップロスは23秒で考えるとリカルドの11秒後方に戻り、マシンパッケージとしての0.7秒のアドバンテージに加え、11周フレッシュなミディアムタイヤのアドバンテージも得ることになる。

 リカルドのハードタイヤのデグラデーションを計算してみよう。SC明けは抑えて走っており、参考にするのは危険だ。従ってスティントの始めのプッシュしている2周とラスト数周の平均(ファイナルラップはファステストを狙うために直前でややチャージしていたと考えられるため)で考えると、20周(セーフティーカー中は含めない)で0.9秒のタイムアップ。すなわちフエルエフェクト0.06[s/lap]の前提で考えれば、ハードのデグラデーションは0.01[s/lap]である。すると11周で0.1秒の劣化があり、ハミルトンのミディアムは走り始めでハードに対して0.3秒のアドバンテージがあることも踏まえると、0.7+0.1+0.3=1.1で、ハミルトンはスティント序盤で1.1秒差で追いついてくることになる。

 ただし、ミディアムのタレを0.06[s/lap]考慮すると、10周後にはペース差は0.6秒、20周後(チェッカー時)には0.1秒ほどになっている。この場合43周目にギャップは2.5秒、53周目にはハミルトンが1秒前にいる計算になる。

 もちろん、上記はダーティエア、オーバーテイクを考慮に入れていない。最初に現れるノリスは抜けるだろうが、リカルドと直後にいるフェルスタッペンに追いつく際にはペースアドバンテージは0.1秒程度になっており、実際にはDRS圏内に入ことすら難しいだろう。

 したがって、ハミルトンがボッタスと同等のペースであった場合は、リカルドには届かなかった可能性が高い。しかしこうした緊迫した場面で途轍もないパフォーマンスを見せるハミルトンだけに、侮れない。仮にハミルトンがボッタスより0.3秒速かった場合、同様の計算をすると、39周目(ノリスのオーバーテイクを考慮しても40 or 41周目)にはフェルスタッペン&リカルドに追いついており、その際のペースアドバンテージは1.1秒だ。こうなると2人まとめてオーバーテイクして優勝していた可能性がかなり高まってくる。

 フェルスタッペンがピットでノートラブルだった際は、リカルドの優勝が少なくともやや緊迫したものになることに言及しておこう。

3. リカルドのパフォーマンス改善

 全ドライバー分析で触れた通り、今回はリカルドとノリスのペースが同等だった。予選でも僅差であったことから、モンツァではリカルドの弱みが出にくかったと考えられる。

 リカルドはマクラーレンのマシンのブレーキに適応しきれていないようだったが、モナコのカジノ前で大きくロスしていたとの情報もあり、ビッグブレーキングが課題というわけでも無いのかもしれない。

 今回のモンツァでの好パフォーマンスを機にリカルドが本来の力を発揮してくると、今後のレースが一層面白くなってくるだけに、大いに期待したい所だ。

4. どうなる?「メルセデスサーキット」ソチ

 次戦ロシアGPの舞台となるソチは伝統的にメルセデスが得意とするサーキットだ。
 ただし、今シーズンのレッドブルは空力特性に優れており、どのようなサーキットでも競争力を発揮してくると思われる。あとはセットアップをどう合わせ込めるか、そしてスタート後の実質的な1コーナーまでの長い距離をどう戦うかが鍵になる。特に後者ではチームメイトの存在がキーになるため、ボッタス、ペレスの活躍にも目が離せない。

 ロシアGPは9/24(金)に開幕する。

5. 用語解説

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。

オーバーテイク:追い抜き

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

トラックポジション:コース上の見た目の順位の事。例えばピットストップのタイミングの違いや戦略の違いで、「事実上この人の方が前だよね」のような状況もあるが、そういったことを無視し、あくまで前にいるか、後ろにいるかだけを考えた方が良い場合もある。