長い冬が明け、ついに2025年シーズンが開幕した。当サイトでは、レース毎にラップタイムを分析し、戦略や各チーム・ドライバーらの競争力などについて、国際映像を見ているだけでは見えてこない情報を詳らかにしてきた。今年も1年お付き合いいただければ幸いである。
1. 上位勢のペース比較
まず、レース前半における、上位チームのペースを比較してみよう。図1にレースペースグラフを示す。

レースペース
序盤は、フェルスタッペンが無理をしてついて行った形跡が伺える。しかし、17周目のオーバーシュートでピアストリに交わされてからは、マネジメントしながらの本来のペースでの走行となり、マクラーレン勢とは明確な差があることが明らかになっていった。
定量的な分析としては、32周目までのラップタイムを平均(17周目を除く)すると、ノリスはフェルスタッペンより0.6秒速かった。また、ラッセルはノリスの1.1秒落ち、ルクレールは1.3秒落ちと、少なくとも今回のこのコンディションでは、メルセデス、フェラーリ共に、優勝争いに絡む競争力は無かった。また、角田はノリスから2.0落ちで、アルボンやガスリー、アロンソらの方が少し速かった可能性もあるが、大差はなく、ストロールに対しても明確に引き離していた。レーシングブルズは、ウェットコンディションでも中団上位で戦うペースを有していた。
とはいえ、サンプル数1の状態で、しかもウェット絡みの週末の結果やデータを通して、今年の勢力図などの傾向について何かを言うのは時期尚早だろう。フェラーリが最速チームである可能性も、ハースが中団上位に来る可能性も十分にある。当サイトでは、マイアミ辺りまでは淡々とデータのみを積み重ねていきたい所だ。
2. 負ける時でも “何か” する
その後の展開は、44周目からの雨を通り雨と見なすか、まとまったウェットコンディションの時間帯を作るレベルと見なすか次第であり、全ては結果論だ。本サイトでは度々、コントロール可能で再現性のある要素(実力)と、コントロール不可能で再現性がない要素(運)を区別することの重要性について言及しており、今回のボックス組とステイアウト組のどちらが正解かという問題も、運の要素が比較的大きい。(※実力も本来は運の一部であるという哲学的議論は、ここではプラグマティックな視点を重視し、ひとまず置いておく。)
とはいえ、フェルスタッペンがステイアウトしつつも、2周後にはピットに入って2位を確保したのは、運ではなく紛れもない好判断だった。
ノリスと同じ周にインターミディエイトに履き替えたのでは、2位確定だ。ならば、2位が危うくなるまではステイアウトし、雨が上がるなり、セーフティカーが出動するなりする可能性に賭けるのは、理にかなっている。そして実際、ラッセルにやられる前にピットに入り(実際には少しギリギリだったが)、2位を確保。ファイナルラップまでノリスにプレッシャーを与え続けた。
常に勝ち続けることはできない。だからこそ、負ける時に「何かする」ことが重要だ。その一方で、リスクも最小限にする必要もある。これは、序盤に無理をしてでもプッシュし、18周目以降はマネジメントに切り替えたことにも言える。今回のレッドブル&フェルスタッペンは、そのお手本のようなレースを見せた。
3. ステイアウト組の是非
対して、セーフティカーが出た47周目まで引っ張ってしまったのが、フェラーリ勢と角田だ。彼らは5~8位を走っており、雨の時間が短く終われば優勝や表彰台の可能性もあった。一方で、ダメージを最小限に留める意味では、45周目にピットに入れていれば、ラッセルやアルボンには先行されても、ストロールとアントネッリの前には出られたという指摘は可能だろう。
それでも角田にとっては、ステイアウトして表彰台を狙う大チャンスに賭ける価値はあったかもしれない。昨年インテルラゴスで大量点を稼いで、コンストラクターズ6位に入ったアルピーヌと同じやり方だ。
一方フェラーリ勢は、タイトル争いを見据える立場のはずだ。加えて、マシンの速さを鑑みれば、一度後ろになってもアルボンは抜けたかもしれない。そんな中、2台揃って雨がすぐ止む可能性に賭けたのは、リスキーな判断だったようにも見える。
いずれにせよ、全ては結果論であり、誰も天候を完全に予測するツールは持ち合わせていない。前述の通り、今後も再現性があるのは「判断の結果」ではなく、「判断の過程」だ。今回1レースのアウトカムではなく、判断プロセスのクオリティが高いものが、これからの23戦でサンプル数が増えていき運が平均化される中で、最良の結果を掴むだろう。
ちなみに、この点に関して筆者とChatGPTが交わした議論は、より詳細に掘り下げてある。ご興味のある方は、併せてお読みいただければ幸いだ。
GPTとのディスカッション(DeepResearchとGPT-4o、o3-mini highを使用。)
https://chatgpt.com/share/67d797fe-3480-800a-8028-ecee021e51ee
4. 初タイトルなるかノリス
昨シーズンは、競争力のあるマシンを持ちながら、タイトルまでは手が届かなかったノリス。
しかし内容を見れば、ペース面ではピアストリを上回り、ドライビングミスも少なく、大きな課題はスタートだけだった。特に、筆者にとって印象的だったのは、昨シーズンのエミリア・ロマーニャGPだ。終盤の追い上げで、優勝が手が届きそうな所に迫る中でも、スライドしながらマシンをコントロールし、決して限界を超えずに2位でチェッカーを受けたのは、非常に高い自己コントロール力を有していることを感じさせた。
そんな中、今回はスタートでトップを維持し、序盤のフェルスタッペンのプッシュに対しても、少しペースを上げて耐え(図1参照)、後ろの脅威がなくなってからは少しペースを落としてマネジメント、スティント終盤までタイムを上げ、44周目に一瞬のコースオフはあってもダメージを抑え、終盤のフェルスタッペンの猛攻にも耐えて勝利をもぎ取った。
一方で、スタートの蹴り出しは、同じ奇数列でもフェルスタッペンの方が格段に良く(参考動画)、昨年からの問題を引きずっているのだとしたら、タイトル獲得に向けての懸念材料となるだろう。今後数戦の傾向に注目したい。
Takumi