• 2024/4/25 21:08

2021年シュタイヤーマルクGPレビュー(1) 【”退屈なレース”を実現したフェルスタッペン】

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 ここまで大接戦の一騎打ちを演じてきたフェルスタッペンvsハミルトンの優勝争い。僅かな差で勝敗が決してきた今季のレースだが、今回はついにフェルスタッペンが明確な差をつけ「退屈なレース」に持ち込むことに成功した。今回もグラフを交えて、優勝争いを振り返っていきたい。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 通常のサーキットで完勝!初タイトルへ大きく前進!!
  2. 強いて言えば…!
  3. 用語解説

1. 通常のサーキットで完勝!初タイトルへ大きく前進!!

 まず今回のフェルスタッペンとハミルトンのレースペースを図1に示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 フェルスタッペンとハミルトンのレースペース

 第1スティントではジワジワと差がつき、ピットを迎える頃にはフェルスタッペンが5秒以上のアドバンテージを築く。これによりアンダーカットの脅威が無くなり、ハミルトンが入ってから1周後に動けばよくなるので、戦略的に横綱相撲に持ち込むことができた。先に入ってしまうと後半のスティントでライバルより古いタイヤを履くことになるという点、そして自分が入ってから相手が入るまでの間にセーフティカーやVSCが出た際に負けてしまうリスクがある。従ってアンダーカットの阻止を考えなくて良いだけの差を築けたことは、かなり有利に働く。

 さらに第2スティントではデグラデーションで大きな差がついた。フェルスタッペンはタイムが横ばいなので、フエルエフェクトを0.04[s/lap]とすればデグラデーションも0.04[s/lap]。対するハミルトンは0.07[s/lap]と倍のタレが見られた。これはスペインGP(スペインGP考察記事はこちら)とは逆の傾向であり、レッドブルの進化が伺える。

 一方のハミルトンも、図2に示すとおりボッタスとの差は大きく、マシンの限界値は引き出していたと言える。ボッタスは12周目にノリスを抜いてからはクリーンエアでの走行だが、ハミルトンとは0.3~0.5秒ほどの差があるように見受けられる。

画像2を拡大表示

Fig.2 ハミルトンとボッタスのレースペース

 今季ここまでフェルスタッペンが内容的に完勝したと言えるのはモナコと(結果バーストしたが)バクーだ。いわゆる”通常のサーキット”では、バーレーンでは互角も僅差の敗北、ポルトガルで劣勢か互角で敗北、スペインで明確な敗北、フランスでは大接戦の末に戦略勝ちもペースはやや劣勢(?)、とパフォーマンス面で悩ましい部分もあった。
 ところが今回は、内容・結果ともに予選から決勝まで完全支配しての優勝となり、今後も数多く控えるパーマネントサーキットでも十分戦っていけることを示した。
 一方で過去数年を見てもメルセデスにとって相性の良いサーキットとは言えず、一概に「レッドブルが前進した」と結論づけるのも微妙な所だ。正確なパワーバランスはイギリスGPまで待つのが賢明かもしれない。

2. 強いて言えば…!

 完勝を果たしたフェルスタッペンだが、強いて粗探しをするならば、筆者としては「脇の甘さ」が少々気になる。チェッカーフラッグ後のパフォーマンスの件だ。

 フレキシブルウィングの件やピットストップの新規定の件と言い、メルセデスは重箱の隅を突いてきている。少しでもレッドブルに対するペナルティを引き出せる可能性があるなら抗議する、というスタンスには賛否両論があるのも理解はできる。しかし、そもそもF1は「そういうもの」だ。昨年までならペナルティにならなかった事でも、接近したタイトル争いでは結果が変わってくることもある。それが良いか悪いかではなく、現実がそうである以上、目的を達成するには不利益を被らないように振る舞う必要がある。
 今後は予選でのアタック妨害やコース外走行など細部に至るまで、重箱の隅を突かれるという認識で、徹底的にガードを硬くしておけば、初タイトルに向けてより盤石の歩みを進めていけると考えられる。

 Part2では、ストロールを先頭とする大集団やフェラーリ勢の好ペースなど見どころの多かった中段勢の戦いに目を向けていきたい。

3. 用語解説

退屈なレース:順位の変動が起きない、起きそうな展開でもない、セーフティカーなどの不確定要素もない、などでドラマティックな要素の無いレース。F1においては必ずしも悪い意味ではなく、むしろ勝者側にとってはスムーズで理想的な勝ち方といえる。

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。

フエルエフェクト:燃料搭載量がラップタイムに及ぼす影響。燃料が重くなることでより大きな慣性力(加速しない、止まれない)が働き、コーナリング時も遠心力が大きくなり曲がれなくなる。それによって落ちるラップタイムへの影響を1周あたりで[s/lap]としたり、単位質量あたりで[s/kg]、あるいは単位体積あたりで[s/l]としたりする。また英語でFuel Effectなので、「フューエルエフェクト」や「フュエルエフェクト」などの表記がある。当サイトでは「フエルエフェクト」と[s/lap]を標準として扱う。

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

パーマネントサーキット:レース開催のためだけのサーキット。市街地や公園の一部を使ったサーキットのようにグランプリ期間中だけサーキットとして機能するもの以外の全てのサーキットと考えて良いだろう。