• 2024/11/21 15:29

2022年アブダビGPレビュー(2)〜戦略が逆風となったベッテルと角田〜

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 Part1では表彰台の3人の戦いについて深く掘り下げたが、今回は中団以降の争いについて見ていこう。注目ポイントはベッテルと角田だ。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

1. 複雑な引退レース

(1)戦略で損をしたベッテル

 今回がラストレースとなるベッテル。木曜日にはベッテルに敬意を表し、なんとドライバー20人が全員集合しての食事会が行われた。レース前にもセレモニーが行われ、スタート前にはコックピットに乗り込んだベッテルの元にアロンソが現れて握手を交わした。

 レースが始まるとベッテルはオコンの後ろ、中団勢の3番手でレースを進める。図1にオコン、リカルド、ベッテルのレースペースを示す。

図1 オコン、リカルド、ベッテルのレースペース

 ベッテルの第1スティントはオコンの後方でダーティエアで進んだが、クリアエアを得た15,18,19周目のタイムはかなり速い。ここだけ取ってみればラッセルの0.2秒落ち相当で、流石にオコンの後方でタイヤやSOCをセーブできたことが影響してのタイムだと思われるが、少なくともオコンより速かったのは間違いない。先んじて行ったレースペースの勢力図分析から考えても、最低でも中団トップのノリスに比肩する力はあったと考えるのが自然だろう。

参考:レースペース分析

 しかしここからは戦略に足を引っ張られてしまう。

 まず1ストップ自体は悪い戦略では無かった。それはリカルドを見ても、あるいはルクレールが地力で0.3秒ほど遅いサインツの16秒前でフィニッシュしていることを見ても理解できるだろう。

 しかし問題は「何回止まるか」ではなく「いつ止まるか」だ。

(2)考慮すべきは抜かれる際のロス

 ベッテルのグラフを見ると、16周目以降で大きく沈みこんでいる周がある。これはピットストップを済ませた上位勢が後ろに戻ってきた事で、彼らに抜かれる際にロスしたものだ。ベッテルは16,17周目にペレス(ペレスがミスをしたため2度に渡ってロス)、20周目にサインツ、21周目にラッセル、23周目にハミルトン、24周目にはノリスに交わされ、合計3秒ほどロスしている。

 メキシコGPでは、アロンソがピットを終えたサインツに抜かれる際にロスすることを嫌い、エンジニアはそれを了解した上でボッタスとの関係に優先順位を置いた。これと比べると今回のアストンマーティンの戦略は少々お粗末に見える。

参考:メキシコGPレビュー(2)

 しかし問題はこれだけではない。ピットアウト時のリカルドとの差は5秒以上。抜かれる際の3秒のロスが無かったとしてもリカルドの後ろになっていた計算で、結果は変わらなかっただろう。ここには第1スティントを引っ張ったことのもう一つの弊害が関係している。

(3)タレるミディアムとタレないハード

 問題は、第1スティントのミディアムタイヤ(以下ミディアム)のデグラデーションが大きい一方で、第2スティントのハードではデグラデーションが小さかったことだ。これはグラフの傾きを目視しても明らかだろう。

 以下にシミュレーションを用いて説明しよう。各図の内容は以下の通りだ。

図2-1:デグラデーションが0.12[s/lap]の場合
図2-2:デグラデーションが0.06[s/lap]の場合
図2-3:第1スティントでのデグラデーションが0.12[s/lap]、第2スティントで0.06[s/lap]の場合

 いずれも赤が20周目、水色が25周目にストップしている。

図2-1 シミュレーション1
図2-2 シミュレーション2
図2-3 シミュレーション3

 図2-1と図2-2を比較すると、デグラデーションが大きい図2の方が、21周目から25周目の両者の差が大きくなっていることが分かる。図2-1では2.4秒差、図2-2では1.2秒差だ。これによってアンダーカットの効果が大きくなるのだ。

 今回の問題は図2-1と図2-3の比較にある。図2-1では第2スティントでも大きなデグラデーションがあるため、赤よりも新しいタイヤを履く水色が0.6秒のペース差で追い上げている。21周目から25周目で12秒ロスしているが、26周目から58周目までで20秒ゲインしており、水色にとってトータル8秒ほど有利な展開だろう。

 しかし図2-3では、21周目から25周目で水色が13秒ロスするのはほぼ変わらないが、引っ張った旨味はスティント後半でも活かされず、たった0.3秒のペース差でしか追い上げられない。33周の第2スティントで10秒しか縮められず、トータル3秒ほど不利な展開になってしまうのだ。また、追いつけたとしてもペース差が小さいため、オーバーテイクは難しくなってしまうだろう。

 実際のレースでもミディアムとハードの間に大きなデグラデーションの差があり、これを活かしてアンダーカットを決めたマクラーレン&リカルドと、6周のタイヤアドバンテージでは十分なペース差に繋がらなかったアストンマーティン&ベッテルという構図になってしまった。

 19周目に入っていれば、あるいは遅くともリカルドの翌周20周めに入っていれば、1ストップでも2ストップでもリカルドの前ではフィニッシュできただろう。

 ただし、ベッテル自身のペースも少し物足りなかった。前述のレースペース分析では、ストロールの方が0.3~0.4秒ほどペースが良い結果が出ており、ベッテルとしても特にハードに履き替えてからのペースが良くなかったことが結果に響いてしまった面もある。

 とはいえ、今回のレースのみを取り上げれば決して有終の美とは言えない内容だったが、これまで残してきた功績、そしてドライバーとしても人間としても多くの人々に与えてきたものは揺るぎないものだ。偉大なるチャンピオンの新しいチャプターが良きものであるよう祈りつつ、感謝と共に別れを告げよう。

2. 成長を見せつけてのフェアウェル

 今回でガスリーとの仲良しコンビもラストとなる角田。予選Q1では僚友を0.229秒上回ると、レースペースでも互角のペースを見せた。図5にノリス、リカルド、角田、ガスリーのレースペースを示す。

図5 ノリス、リカルド、角田、ガスリーのレースペース

 ハードの第2スティントの角田のクリアラップでのペースは、タイヤの差を換算してもノリスの0.3秒落ち程度だ。また、直接の比較は難しいが、ガスリーのペースをルクレールやノリスを通じての間接的な比較で出すと、角田とほぼ互角の数値となる。

 ガスリーと互角のペースとなるのは今季4回目であり、その他のレースでも勝利こそないものの、負ける時の差が小さいことが多い。昨シーズンはある程度の差があったため、これは明確な進歩と言って良いだろう。

 ただし、他チームとのレースという観点では、今回は戦略面で苦労した。

 アルファタウリはレースに向けてミディアムとハードを1セットずつしか残しておらず、2ストップとなった場合はソフトタイヤ(以下ソフト)を使わざるを得ない状態となってしまった。

参考:レース前の各車の持ちタイヤ

 角田とリカルドのグラフを比較すると明白だが、角田は第3スティントでリカルドより19周(1.1秒相当)新しいソフトを履くと、初めこそ追い上げて50周目付近でベッテルに追いついたが、デグラデーションがあまりにも大きく、52周目付近からはリカルド&ベッテルに離されてしまった。

 ノリスも2ストップ組だが、最終スティントでミディアムを履くことができた。ここでのノリスのペースは、4周のタイヤ履歴の差を換算しても角田より0.8秒速い。第2スティントのイコールコンディションで0.3秒差だったことを鑑みると、ソフトを履いたことでミディアムに対して0.5秒もロスしたことになる。

 したがって角田がミディアムを残していれば、リカルドとベッテルを交わして9番手は現実的だっただろう。あるいは前述のレースペース分析でハードはミディアムより競争力があったという知見もあるため、ハードを残していればストロールにも届いた可能性がある。

 アルファタウリは、週末全体の組み立て方について再考する必要があるのかもしれない。

3. シーズンを終えて

 最後に最終戦を終えた段階での簡単な総括を行おう。

 今季は前半戦で競争力があったフェラーリがポイントに繋げられずにレッドブルがリードし、後半戦では競争力でもレッドブルがアドバンテージを握った。ポイントのみを見ればシーズンを通してレッドブルが圧勝したように見えるが、前半戦と後半戦では現象と本質が全く違ったのが面白い一年だった。

 その他にもルクレールの印象的なドライビング、中団争いで光ったアロンソの技術、角田の成長など数え上げればキリがないが、その辺りの詳細も後日「2022年シーズンレビュー」として徹底的に掘り下げていこう。

 シーズンは終わったが、その瞬間に、否もっと早くから2023年シーズンは始まっている。来年の開幕戦で誰がスタートダッシュを掛けるのか。我々ファンは、楽しみが尽きない3ヶ月を送ることになりそうだ。

Writer: Takumi