高速コーナーが復活し、非常にチャレンジングかつ追い抜きもしやすくなったバルセロナ。マシンの総合力が問われるレイアウトでもあり、下馬評どおりレッドブルが圧倒的な力を見せつけた。
1. 各車のレースペースを見て
各車のレースペース(燃料・タイヤ・レース上の文脈などを考慮)は先に行った「レースペース分析」で割り出した。ここでは総合結果のみを表1に示す。
表1 全体のレースペース
フェルスタッペンの圧倒ぶりは勿論のこと、ペレスも0.2秒差で続いており、後方からの追い上げに繋げた。
今回はメルセデスが非常に高い競争力を示したが、筆者はこれが今後も続くかというとやや慎重な姿勢だ。というのもバルセロナでは昨年も非常に競争力が高く、当サイトの分析(2022年スペインGPレースペース分析)では、ハミルトンがトップのルクレールの0.3秒落ち、優勝したフェルスタッペンの0.2秒落ちだった。
よって、今回のメルセデスの躍進がバルセロナに限定されたものか、アップグレードの効果による普遍的なものかはまだ数戦見た方が良いのではないか、というのが筆者の見解だ。
2. 角田の目覚ましい活躍
ここからは角田に注目していこう。図1にオコンと角田のレースペースを示す。
今回の角田は15番手からのスタートだったが、第1スティントでピアストリやヒュルケンベルグらをオーバーテイク。この時点でレースセットの良さを感じさせた。
そして10周目にピットに入ると、第2スティントはオコンを追い回す展開に。スティント後半ではDRS圏内に入ってオーバーテイクのチャンスを伺った。
そして2度目のピットストップではオコンをアンダーカットすることに成功する。しかし38周目にペースが落ちたところをオコンに突かれ、ポジションを落としてしまった。だが、ここからは再び角田の方がペースが良く、最後までオコンを追い回す展開となった。
ここで第2スティントは角田がハード、オコンがミディアムで、角田が3周古い。そして第3スティントでは逆に角田がミディアム、オコンがハードとなり、角田が1周古い。すなわち2スティントトータルで見れば、同条件に換算すると角田はオコンより確実に速かったことが分かる。
表1ではサインツ付近まで来ていた可能性もあり、マイアミでも高い競争力を発揮していた(マイアミGPレースペース分析)ことも踏まえると、今季の残るレースでの活躍が非常に楽しみだ。
3. 角田へのペナルティは妥当か?
そんな角田はレース終盤の56周目にターン1でジョウとのバトルになる。オコンを抜きあぐねる角田がDRSを失ったスキを突かれてしまった格好だ。
アウトから並びかけたジョウに対し、角田はイン側でやや突っ込みすぎ、ジョウは回避行動としてランオフエリアに。この角田の行為に対して5秒ペナルティが課された。
角田はバトルで旨さを発揮するドライバーであり、国内外を問わず人気が高く、この裁定に対しファンからは不満の声が上がっているのが現状だ。
ここからは筆者の私見も含まれることは前もって記しておくが、筆者はこの件について「”この”裁定は妥当」だが「一貫性がない」、さらに「一貫性の重要性については慎重な議論が必要」と考えている。
本来は、2台並んでコーナーに入っていく際には相手にスペースを残さなければならない。仮に押し出しが認められるならば、アウトからのオーバーテイクはほぼ成立しなくなるだろう。
今回は接触こそしていないが、角田の軌道から考えてジョウが回避行動を取らなければ当たっていたと考えられる。「当たらなかった」という結果には相手の対処という支配因子が含まれるが、ペナルティは本人の行いに対して課せられる。したがって、角田の行為は押し出しであり、ペナルティは妥当だろう。
余談だが2020年のF2ベルギーGPでマゼピンが角田を押し出し、角田が回避行動を取ったことによって接触を免れたが、マゼピンの”行為”に対してペナルティが課せられたのと殆ど同じ案件なのは皮肉なものだ。
しかし、F1はプロフェッショナルなスポーツであり、プロフェッショナルとは「顧客に価値を提供すること」だ。そして価値とは、「商品やサービスを享受する前と後のデルタ(変化量)」であると筆者は考える。
であるならば、(今回に限らず)ペナルティを課された(もしくは課されなかった)側のドライバーや関係者、ファンの多くが納得できていない現状には改善の余地がありそうだ。
ここには一貫性の問題が存在していると筆者は考えている。いくつか代表的な事例を思い出してみよう。
2019年オーストリアGPではフェルスタッペンがルクレールを押し出して優勝した。そして同年イタリアGPではルクレールがハミルトンを押し出した。さらに2021年にはフェルスタッペンがハミルトンに対して幾度となく強引な突っ込みを見せ、ハミルトンが引いたことによって接触が回避されている。最も極端な例がブラジルGPだ。そしてこれらにペナルティは出ていない。これに照らし合わせれば今回の角田の件をアンフェアに感じるのは当然だろう。
一方、2021年オーストリアGPでは、同様の押し出し行為3回に対して全てペナルティが適用されている。
前述の通り、アウトからのオーバーテイク、さらには幾つものコーナーに渡って並走するようなエキサイティングなバトルを可能にするためにも、押し出し行為に対してはある程度厳しくペナルティを取るべきだと筆者は考える。
しかしここ数年の流れには一貫性がない。これによって多くの関係者や視聴者がペナルティに対して納得できない状況になっていると考えられる。
ただし一方で「一貫性は絶対的正義か?」という問いも重要だろう。こうしたルールの運用において、ある程度の曖昧さは必要だ。例えば2019年のイタリアGPでルクレールにペナルティを科すことがファンのためになるのか?という問いはあって良いのではないだろうか?オーストリアのフェルスタッペンについても同様だ。これらはレッドブル・ホンダの初優勝やモンツァでのティフォシの熱狂などがチラつく中で、F1がエンターテインメント性に舵を取ったと読むこともできるからだ。
筆者の答えは「それでもフェアであるべき」で、一貫してペナルティを科すだろう。これは何よりスポーツとして気高く君臨し、一時的な熱狂よりも競技者・ファンとの長期的な信頼関係を大切にしたいという価値観だ。
しかしF1は、多国籍であり多様な文化・価値観を内包するスポーツで、世界中のファンが見守る巨大なビジネスでもある。そんな中、反対側の論理にも耳を傾ける必要はきっとあるに違いない。
だからこそ、今回の裁定について筆者は一概に批判も支持もする気にはなれない。もちろん視聴者に向けた説明能力や情報の透明性などの問題もあるだろう。他にも書ききれないほどの複数の視点・要素が存在し、それでもF1は一つの大きな存在として進んでいかなくてはならない。それは非常に難しいことで、ファンも含めた全てのステイクホルダーの相互理解と相互尊重が今後このスポーツがどれだけ人を幸せにするかを決めてくる鍵となるだろう。
Writer: Takumi