• 2024/11/21 15:37

2022年モナコGP レビュー(追加編) 〜フェラーリとレッドブルの戦略を掘り下げる〜

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 モナコGP後に更新したレビュー「なぜフェラーリは失策を続けるのか?」について、SNSにおいてもある程度の反響があり、種々の意見交換が行われる中、新たな視点やより深く掘り下げる価値のある部分が見えてきた。本ページではその点を振り返ってみよう。

※ページ下部に「まとめ」あり

1. Ifの世界

 さて、早速Ifの世界を考えてみよう。「もしも〜だったら」を吟味することで、その局面で起きていた判断・意思決定などをより深く理解することを狙いとする。

(1)ルクレールが直接ドライに換えた場合

 まずルクレールがサインツと同じように直接ウェットからハードに換えていた場合は、考えるまでもなくルクレールの勝ちだ。

 そして2位争いはサインツとペレスだが、ペレスのインターの方がペースが良かったため、サインツが先に入った場合はペレスのオーバーカット成功はほぼ確実も、ペレスが先に入った場合はペレスがアンダーカットに成功する可能性がややあったかもしれない。

(2)ルクレールへの「ステイアウト!」が間に合った場合

 インターに換えるという戦略ミスを犯したフェラーリだったが、まだルクレールに勝機はあっただろう。ドライに換える際には、ルクレールがピットに入る最後の瞬間にエンジニアが「ステイアウト!」と告げたが、これが間に合っていたらどうなっていただろうか?

 まず、前提として今回のオーバーカットの有効性について見てみよう。21周目ラスカス付近でサインツとペレスの差は2.3秒だった。そして23周目のピット出口(ボーリバージュの坂)では逆にペレスが2.3秒前になっていた。

 単純計算でペレスはサインツに対して4.6秒稼いでオーバーカットしたことになる。ただしサインツはアウトラップでラティフィに引っかかって、ルクレール比較で1.4秒ロスしている。その全てがトラフィックによるものかというと筆者としては懐疑的だが、ピットレーンでペレスが0.2秒速かったことと合わせれば、オーバーカットの有効性は大まかに3秒前後という所で良いだろう。

 さて、21周目に入ったサインツを逆転するために、翌周ペレスが入るのは一択であるため揺るがない。そしてペレスの真後ろにつけていたルクレールは、もう1周引っ張ればペレスとサインツの前に出た可能性が非常に高い。

 よってステイアウトの指示が間に合っていればルクレールの再逆転優勝となっていたと考えられる。

(3)フェルスタッペンがペレスの翌周まで引っ張った場合

 さて、フェラーリの戦略ミスばかりが注目を浴びたモナコGPだが、レッドブルもフェルスタッペンについてはもっと何か出来なかったか?という問いはあって然るべきだろう。

 22周目にダブルピットとなったレッドブル勢だったが、ピット直前のペレスとフェルスタッペンの差は3.8秒であった。よって翌周まで引っ張ってもペレスをオーバーカットするまでは至らないだろう。そしてペレスのすぐ後ろのサインツについても同様だ。

 よって2位以上は望めない展開だったわけだが、もう1周引っ張った場合は、サインツの4.6秒ほど後方にいたルクレールがその1周で一気にサインツの真後ろまでくる可能性がある。タイヤが冷えたアウトラップのペレスとそれに抑え込まれるサインツに対し、ルクレールはタイヤが温まっている中でのクリアエアだからだ。前述の通りインターで冷えたハードに対して3秒稼げるのだから、温まったハードならば当然のことだろう。

 したがって、僅かな可能性しかないオーバーカットのチャンスを狙うより、ルクレールの前で3位をキープできる可能性が高い方を選んだのは利口だ。結果的にダブルピットで少々手間取りギリギリにはなったが、レッドブルはこの局面においてフェルスタッペンに対してベストの判断を行ったといえるだろう。

(4)(2)でフェルスタッペンがルクレールの翌周まで引っ張った場合

 最後に(2)と(3)の合わせ技だ。21周目サインツ、22周目ペレス、23周目ルクレールと来て、24周目にフェルスタッペンが入った場合どうなっていただろう?

 履き替えて2周目のドライバーがアウトラップのライバルに抑え込まれる展開である以上、重要なのは前の周に入った前方のライバルとの差だ。

 フェルスタッペンは21周目にルクレールの4.4秒後方にいる。ルクレールのペースは非常に速く、23周目にはこの差はさらに広がっていたと考えられ、そうなるとルクレールをオーバーカットするのは厳しい。さらに、周回ごとに路面は乾き、オーバーカットの優位性は減じる方向になるため、ここでフェルスタッペンが引っ張ってもルクレールの勝利は揺るがなかっただろう。

2. レッドブルはどちらかを優先したのか?

 さて、話は少し遡り、インターへの交換タイミングについて考えてみよう。ヨス・フェルスタッペンは、レッドブルがペレスを16周目にボックスさせたのに対し、息子のマックスが2周後の18周目となったことに不満のようだ。

 これについては様々な見方ができるだろう。

 ヨスの反対側の考え方としては「ウェットで走り続けることがセオリーの中で、ペレスにギャンブルさせた」という見方ができる。確かにタイトルを争うフェルスタッペンの戦略はコンサバにせざるを得ず、ペレスなら冒険できるという側面はあるだろう。

 ただし筆者としては、これを明らかなフェルスタッペン優遇とは捉えていない。

 先にインターに換えたガスリーのタイムは見ており、「ドライへの交換まで5周以上あるならばインターでピット1回分の差から追いつける”かも”」という見通しはレッドブルの中であったと思われる。また、数周後のドライへの交換タイミングにおいては、相手が先にボックスした際には、ウェットでオーバーカットするよりインターでオーバーカットする方が確率は圧倒的に高まる。

 よってあの時点で3,4位にいたレッドブル勢がインターで冒険に出てみること自体は、最善手と言えるだろう。

 問題はフェルスタッペンのピットがなぜ2周も遅れたか、だ。17周目に入っていれば、21周目時点でもっと前方に接近し、場合によってはサインツ、あるいはペレスまで逆転できた可能性もあっただろう。

 ただし、これもペレスの17周目はまだタイヤに熱が入っておらず、トンネル手前あたりまではウェットのノリスと大差ないペースで、その後タバココーナーあたりから猛烈な勢いで追いついている。しかし、この時点ではフェルスタッペンはピット入口を通過しており、「インターの方が明確に速い!ボックス!」という選択は少しリスキーだったのかもしれない。

 またフェルスタッペンをウェットのまま走らせるのはアリのように見えるが、問題がある。それはペレスがインターで追いついてきてしまうからだ。同一周回で戦略上の違いはあるとは言え、勝負になっている状態でフェルスタッペンに譲らせるというのは無理があり、フェルスタッペンをステイアウトさせた場合は、ペレスがその後ろでタイムロスし、本来の目的である「インターのハイペースでサインツに追いつく」というミッションの妨げになってしまう。フェルスタッペン自身もこれまでトロロッソやレッドブルにおいて、不条理なチームオーダーに対して「No」という場面があり、その点も考慮すると賢い策ではなさそうだ。

 よってレッドブルとしては、インターの有効性が確実となった18周目にフェルスタッペンを入れるのが最も現実的な一手だったと考えられる。

3. まとめ

 レビュー本編も含め、複雑を極めた今回の戦略問題。ここまでの流れと結論をまとめて末筆としよう。

(1)ルクレールの18周目のインターへの交換は矛盾がある。インターが秒単位で速いことを前提としているにも関わらず、18周目でペレスがルクレールとの差を秒単位で縮めることを想定せず、アンダーカットされてしまった。

(2)ルクレールの18周目、ピットストップ作業、ルクレール自身の停止と発進はあまり良くなかったが、ペレスの逆転を許す決定的要因にはなっていなかった。

(3)21周目にルクレールを入れたのは間違っていた。ダブルストップは致命的だった。ここでもフェラーリは、「インターが秒単位で速い」という前提でルクレールをインターに換えたにも関わらず、ルクレールが21周目終わりにウェットのサインツに追いつくことを想定しないという矛盾を起こしている。

(4)21周目のルクレールについては、ダブルストップのみでなくライバルより先にピットに入ったことも問題だった。これについては他車のタイヤ・クリア-ダーティエアの状況から判断材料が少なかった、という点で擁護はできるが、結果的にはインターでハードをオーバーカットする際に3秒ほどゲインできる状況だった。これはペレスとサインツの比較に基づくものだが、ピットレーンでのロス、ラティフィに引っ掛かったロスを考慮しての数字だ。

(5)サインツはラティフィのロスがなくてもペレスにオーバーカットされていた。

(6)レッドブルはペレスは勿論のこと、フェルスタッペンに対してもベストの戦略を実行した。インターへの交換タイミングは、「確証を得たあと」という点では18周目が最も早く、逆にウェットのまま引っ張った場合ペレスの妨げになってしまった。また、ドライに換えるタイミングでは、フェルスタッペンをもう1周引っ張らせる選択肢もあったが、それでペレス&サインツを逆転できる見込みは低く、逆にルクレールに負ける可能性があった。

(7)ドライに換える際、ペレスはサインツの翌周に換えざるを得ず、ルクレールはもう1周引っ張ればペレスの前に出た可能性が高い。そしてフェルスタッペンがルクレールの翌周まで引っ張っても、タイム差が開きすぎており、ルクレールをオーバーカットするのは難しかった。よって、今回のルクレールは1回目の戦略ミスがあって尚、優勝が手の中にある状況だった。

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Writer: Takumi