• 2024/4/26 11:46

2021年カタールGP分析

1. 分析結果と結論

 先に分析結果を示す。分析の過程については次項「レースペースの分析」をご覧いただきたい。

Table1 全体のレースペースの勢力図

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※疑問符がつく部分はオレンジ色で示した

 今回もハミルトンがフェルスタッペンに明確な差をつけた。今シーズンはセットアップをキメる事が競争力を大きく左右してきたが、フェルスタッペンがペレスやフェラーリ&マクラーレンにつけている差を見れば、フェルスタッペンはセットアップを最適化し、現状のマシンパフォーマンスの全てを引き出していたのではないだろうか?その上でのハミルトンとの0.4秒差は、ハミルトンがトルコGPで投入したPUを使っていた事も踏まえると、ラスト2戦に向けて旗色が悪くなってきていると言わざるを得ない。

 アロンソは第1スティント終盤に、タイヤがかなり余っていながらペレスをカバーするためにピットインしており、もう少し速かった可能性もある。

 また今回の表の主役はアロンソだろうが、裏の主役はアストンマーティン勢だった。ベッテルのレースペースは中断トップ。ストロールも、クリーンエアで走れている時間が全くなかったにも関わらず6位という、通常では考えられない結果を残した。前戦に引き続きアストンマーティンが非常に高い競争力を維持しているのは間違いなさそうだ。

 また、2ストップ戦略を上手くやったことでペースの悪さが目に見えて顕在化しなかったアルファロメオ勢だが、今回はかなり苦戦していた。

 それに対しウィリアムズ勢とシューマッハはアルファロメオ勢と角田を上回る好走を見せた。特にハースはダウンフォースが少なく、ターン12~15でタイヤの構造に掛かる負荷が少なかったことで、周囲と比べて本来のペースに近い走りができたのではないか?と推察できる。

 オレンジ色の疑問符部分については、前述の通りベッテルとシューマッハの数値もそれなりに信頼できるため、無視できる程度の疑問符だ。

2. レースペースの分析

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.07[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

2.1 チームメイト同士の比較

 最初にチームメイト同士の比較を見ていこう。

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Fig.1 メルセデス勢のレースペース

 今回は比較不能だった。

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Fig.2 レッドブル勢のレースペース

 第2スティントで比較すると、フェルスタッペンが0.7秒ほど上回っている。2周古いタイヤをデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、実力的には0.8秒ほどと考えられる。
 第1スティント終盤のペースを見ても0.7秒ほどフェルスタッペンが上回っており、今回の2人の差は0.7~8秒と見て問題ないだろう。

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Fig.3 アルピーヌ勢のレースペース

 第1スティントで比較すると、両者クリーンエアのスティント後半はアロンソが1.2秒ほど上回っている。ただし序盤にタイヤを労っていたことを考慮し、オコンもダーティエア内でもタイヤをマネジメントしていた前提で、スティント全体(ペレスやボッタスに抜かれた際のロスは考慮)での平均を取ると、0.6秒ほどと言える。
 第2スティントでは後ろを見ながらタイヤを持たせるレースとなったが、パンクのリスクからペースを落とし始める前の50周目までで考える。すると、スティント全体を通してアロンソが0.4秒ほど上回っており、1周古いタイヤはデグラデーション0.02[s/lap]のため考慮する必要がない。
 ここでは平均を取って0.5秒を2人の差と結論づけて問題ないだろう。 

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Fig.4 アストンマーティン勢のレースペース

 今回は比較不能だった。

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Fig.5 フェラーリ勢のレースペース

 直接の比較は困難だが、全体の勢力図分析にてアロンソらを介した間接的な比較が可能になるかもしれない。

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Fig.6 マクラーレン勢のレースペース

 リカルドにトラブルがあったため、比較は不適切と考えられる。

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Fig.7 アルファタウリ勢のレースペース

 第2スティントではガスリーが0.6秒ほど上回っているが、4周新しいタイヤをデグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には0.5秒程度の差と考えられる。

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Fig.8 アルファロメオ勢のレースペース

 第2スティントで比較すると、ジョビナッツィが0.3秒ほど上回っているが、5周新しいタイヤをデグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には0.2秒程度と言える。

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Fig.9 ハース勢のレースペース

 2人で戦略を分けているため、比較は不可能だった。

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Fig.10 ウィリアムズ勢のレースペース

 基本的にはラティフィはラッセルの背後にピタリとつけており、ペースにアドバンテージがありそうだった。40周目以降はクリーンエアとなっているが、真値は定量的には測りづらい。

2.2 ライバルチーム同士の比較

 続いて、チームを跨いだ比較を行う。

2.2.1 レースペースの分析(ミディアムスタート)

 今回は、多くのドライバーがタイヤを可能な限り労る必要に迫られた。よって1ストッパーの長い第2スティントなどは、レースペース評価の対象としない。
 まずはミディアムスタート組の第1スティントや2ストッパーのスティントを比較してみよう。

 図11にハミルトン、フェルスタッペンの比較を示す。

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Fig.11 ハミルトン、フェルスタッペンのレースペース

 第1スティントではハミルトンがフェルスタッペンを0.4秒ほど上回っている。さらにスティント終盤でタイムを上げており、ソフトタイヤでは大きな差が付いている。
 第2スティントではイーブンペースだが、フェルスタッペンは全力疾走し、ハミルトンは1ストップも視野に入れつつ後ろを見てコントロールしていたと思われる。
 ハミルトンのミディアムやハードでの真値は不明だが、少なくともフェルスタッペンを凌駕していたと考えられ、今回はソフトでの0.4秒差を疑問符付きで両者の差と捉えよう。

 続いて、フェルスタッペン、ルクレールとマゼピンを比較する。

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Fig.12 フェルスタッペン、ルクレールとマゼピンのレースペース

 ルクレールは14周目から23周目までストロールの2秒弱後方にいたが、24周目以降のクリーンエアのタイムを見ても、それほどスタックしていたようには見えない。それらを考慮してフェルスタッペンの第1スティントと比較すると、平均的には1.5秒程度の差だったと言える。

 一方、マゼピンは第1スティントで比較すると、平均的には3.3秒程度の差だった。

 以上を踏まえ、チーム別分析で導いたフェルスタッペンとペレスの差を組み込むと、ミディアムスタート組の比較は以下の通りとなる。

Table.2 ミディアムスタート組のレースペース

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2.2.2 フェルスタッペンと比較可能なドライバー

 さらにフェルスタッペンと直接比較可能なドライバーとして、ジョビナッツィがいる。図3において、第3スティントで比較してみよう。ただしフェルスタッペンの第3スティントはフエルエフェクト0.07[s/lap]で考慮すると、0.7秒ほど余裕を持っている事も加味する必要がある。
 ペース的には2.5秒ほどの差で0.7秒を上乗せすると3.2秒だが、ジョビナッツィが9周古いタイヤを履いていることをデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、実力的には2.6秒差と言える。

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Fig.13 フェルスタッペン、ジョビナッツィ、ガスリーのレースペース

 次に同じく図13にて、ジョビナッツィとガスリーを第2スティントで比較すると、ガスリーが0.4秒ほど上回っており、2周古いタイヤをデグラデーション0.07[s/lap]で考慮すると、実力的には0.5秒ほどの差と言える。

 ここでチーム別分析より、ミディアム同士でガスリーは角田を0.5秒凌駕しているわけだが、図4にて角田とライコネンを第3スティントのハード同士で比較する。

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Fig.14 角田とライコネンのレースペース

 ダーティエアの影響のある部分を除くと、0.2秒ほど角田が上回っていると考えて良いだろう。ライコネンのデグラデーションは0に等しく、4周新しいタイヤを考慮する必要は無い。
 すると、ライコネンが角田の0.2秒落ちであることは、ガスリーの0.7秒落ちを意味し、それは図3で導いたジョビナッツィから0.2秒落ちを意味する。これはチーム別分析でのミディアムタイヤでのジョビナッツィとライコネンの比較と完全に合致する。

 また図15にてフェルスタッペンとラッセルを比較する。

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Fig.15 フェルスタッペンとラッセルのレースペース

 ラッセルは第2スティントでフェルスタッペンの2.2秒落ちだ。タイヤの差は無いため、これが両者の実力差になる。

 ちなみに図16にルクレールとボッタスを示すが、第1スティント終盤のボッタスがルクレールより2.1秒ほど速いタイムを刻んでいるのは、そこまでトラフィックの中でタイヤを労っていた事が大きいと思われる。ここに関しては定量的な評価は避けておこう。

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Fig.16 ルクレールとボッタスのレースペース

2.2.3 ソフトスタート勢らとの比較

 さて、ここまで導いてきた勢力図にソフトスタート勢らを組み込んでみよう。

 まずはアロンソとフェルスタッペンの比較だ。

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Fig.17 アロンソとフェルスタッペンのレースペース

 第1スティントの平均タイムはフェルスタッペンが1.5秒上回っている。ただし、フェルスタッペンはミディアム、アロンソがソフトという事を考慮する必要がある。

 一方、第2スティントのアロンソは、ペレスから逃げるために「地獄のようにプッシュしている」との無線があったため、レースペース評価の対象としても良いだろう。ただし「高速コーナー以外」との事なので、若干加味する必要があるかもしれない。
 図18にてアロンソとライコネンをレース後半で比較する。

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Fig.18 アロンソとライコネンのレースペース

 50周目までのペースはアロンソが0.7秒ほど上回っている。7周古いタイヤをデグラデーション0.02[s/lap]で考慮し、実力的には0.8秒程度と言える。

 ライコネンとの0.8秒差をミディアム勢の考察の中に組み込むと、フェルスタッペンとは1.3秒差となり、先ほどの1.5秒との差である0.2秒をソフトとミディアムの補正値としたい。
 さらに、チーム別分析で第1スティントでアロンソの0.5秒落ちだった事が分かっているオコンは、フェルスタッペンと1.8秒差と言える。

 続いてアロンソ、ノリス、ベッテルのレースペースを図19に示す。

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Fig.19 アロンソ、ノリス、ベッテルのレースペース

 まずノリスをアロンソと比較する。ノリスもガスリーの後方でタイヤをマネジメントしていた前提で考えると、スティント全体を平均するのが最も妥当だろう。ペースはアロンソの0.2秒落ち程度だ。
 ちなみに第2スティントでは、アロンソとイーブンペースとなっている。この少し飛ばし気味のペースとパンクの因果関係は不明だが、ややオーバーペースにも見える。

 ベッテルに関しては、やや評価しにくいものの、前が開けてからはノリスより0.3秒速いペースを刻んでいる。
 第2スティントでもアロンソやノリスと互角のペースを見せており、アロンソより3周、ノリスより1周新しいタイヤとは言え、ミディアムタイヤでこのロングランペースとデグラデーションの小ささは驚異的と言える。

 最後にベッテルとシューマッハを比較する。

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Fig.20 ベッテルとシューマッハのレースペース

 シューマッハは第1スティント22周目までで、平均的にベッテルの0.7秒落ち程度だ。ただし、ベッテルにはまだ余力があったと思われ、シューマッハがあと2周ペースを維持して引っ張った場合は0.9秒程度になる。
 第2スティントでは、ベッテルの1.4秒落ちのペースで、4周古いタイヤをデグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、1.3秒落ち程度となる。
 第1スティントは両者とも若干評価がしづらく、第2スティントではタイヤマネジメントが肝となっているため、どちらも疑問符付きの数字ではあるが、第2スティントではベッテルは前後にライバルがおり、シューマッハもジョビナッツィを追いかける展開だったため、ある程度スピードも重視していたと考えられ、今回はこちらを代表値とするのが妥当と判断した。

 以上を総合し、表1の結論を得た。