• 2024/4/27 21:40

2022年シーズンレビュー(3) アルピーヌとマクラーレンの頂上決戦

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 ここまではレッドブル、フェラーリ、メルセデスといったトップチームに焦点を当ててきたが、Part3からは中団争いに着目して行こう。

シーズンレビュー(1)
シーズンレビュー(2)

1. レースペースのアロンソ

 最初にチーム内対決を見てみよう。まずはアルピーヌからだ。表1-1に予選、表1−2にレースペースを示す。

注1:予選はドライコンディションのみを扱い、両者が揃って走った最終セッションでクリアラップを走れたもののみを比較した。
注2:レースペースは燃料、タイヤを加味した地力のペースを算出。クリア・ダーティエア、全力を出す必要性などのレース文脈も可能な限り考慮した。

表1-1 アロンソとオコンの予選比較

 

表1-2 アロンソとオコンのレースペース比較

 

 まず予選では勝敗差は互角だが、アロンソを主語にすれば勝つ時は大差、負ける時は僅差となっており、年間の平均値ではアロンソが上回った。これはアロンソの数少ない弱点「Q3の2回目で自己ベストを更新できない」問題と関連していると考えられる。対するオコンはポテンシャルこそアロンソに及ばずとも、Q3のラストアタックで自分なりのベストを叩き出してくる。方向性的にはルクレールに近い強さを持ったドライバーで、流石はF3, GP3チャンピオンと言えるだろう。

 一方、レースペースでは序盤戦でオコンがリードしたものの、アゼルバイジャンGP以降は11勝0敗の平均0.5秒差とアロンソが圧勝。この力関係の変遷について筆者は特に情報を持ち合わせていないが、アロンソが新規定のマシンとタイヤを理解するために実験的なアプローチを行なっていた可能性はあるかもしれない。

 また、今季昨年と比べると予選で2人の差はやや縮まったが、レースペースでは差が開いた。アロンソは過去にも2013年に似たような傾向を示しており、2010~12年と比較してマッサとの差が縮まった一方で、レースペースでかつて無い大差をつけた。

※参考
2021年のアロンソとオコンのペース比較
2010年のアロンソとマッサのペース比較
2011年のアロンソとマッサのペース比較
2012年のアロンソとマッサのペース比較
2013年のアロンソとマッサのペース比較

 ただし、今年に関してはアロンソがレースを重視したというよりもオコンが予選を重視したというのが適切かもしれない。詳しくはシーズンレビューPart4にて後述するが、予選型のマクラーレンとアルファタウリを除けば、他の中団チームとのパワーバランスは予選とレースでほぼ変わっておらず、アロンソの予選とレースペースのバランスの取り方が多数派だったと捉えることができそうだ。

 アロンソとしては、度重なるマシントラブルにより、ポイントランキングでは2015年のバトン以来のチームメイトに対する敗北となってしまったが、パフォーマンス的には未だトップフォームをキープしていると考えて良いだろう。

 実際のランキングではオコンが11ポイント上回ったが、マシントラブルによるロスは、リタイア後の展開を悲観的に見積もってもアロンソで50ポイント(サウジアラビア、オーストラリア、カナダ、イタリア、シンガポール、メキシコ、アブダビ)、オコンで2ポイント(イギリス、シンガポール)、アロンソのリタイアでオコンが繰り上がった分が8ポイントという点を鑑みても、レースペースに勝るアロンソがシーズン全体を優位に進めたという事実が浮き上がってくる。レッドブルとフェラーリの関係同様、今年の後方乱気流の影響が少ないマシンでは、レースペースに比重を置くことが重要であることが読み取れるだろう。

 また、アロンソは純粋なペースのみならず、レースクラフトの旨さが光った1年となった。

 スペインGP、オーストリアGP、フランスGP、オランダGP、メキシコGP、ブラジルGPといった辺りはレースクラフトという観点で非常に印象的で、攻めと守り両面において非常にメリハリの効いた戦術を披露した。

※参考
スペインGPレビュー
オーストリアGPレビュー
フランスGPレビュー
オランダGPレビュー
メキシコGPレビュー
ブラジルGPレビュー

2. リカルドの不振がノリスの評価に及ぼす影響

 続いてマクラーレン勢の比較だ。表2-1に予選、表2−2にレースペースを示す。

表2-1 ノリスとリカルドの予選比較

 

表2-2 ノリスとリカルドのレースペース比較

 

 予選・レース共に大差がついた。マクラーレンという名門チームとリカルドという強力なドライバーが、最後までスピードを解放する鍵を見つけられなかったのは非常に意外だ。

 しかもその差は昨年より一層開いており、問題の根深さを物語っているように見える。また2年間に共通して言えるのは、リカルドはレースペースの方が相対的に苦戦しているということだ。アルピーヌ勢について前述した通り、今年のマシンではレースペースの重要度が増し、その中で年間平均が0.5秒差となると最終的な85ポイントという差も頷ける。

参考:2021年のノリスとリカルドのペース比較

 また、仮にリカルドが本来の力を発揮した上でこうなったとすると、当サイトの歴代ドライバーの競争力分析と照らし合わせた場合、ノリスは2000年以降に参戦した歴代ドライバーの中でも頭ひとつ抜けて最速ということになる。

参考:歴代ドライバーの競争力分析(予選)

 本来はリカルドとの比較によって若手のノリスの評価が定まるはずだったが、それが今ひとつ分からないまま来年はルーキーのピアストリをチームメイトに迎えることになってしまった。

 ただし、予選でノリスとほぼ互角か僅差で劣勢だったサインツが、好調時にはルクレールに肉薄している現状を鑑みると、ノリスが歴代最速クラスのルクレールやフェルスタッペンに近い所にいる可能性は十分にある。

※参考
2022年のルクレールとサインツのペース比較の考察(表5,6)
2020年のサインツとノリスのペース比較
2019年のサインツとノリスのペース比較

 その場合、レースペースは兎も角として、予選に関してはリカルドも本来の力に近いスピードを発揮できていたのかもしれない。少なくとも昨年の0.163秒は前述の歴代分析に照らし合わせれば許容範囲内で、今季の0.309秒差は0.1秒ほどの不振ということになる。

 ただし、リカルドのレースペースはこんな物では無いはずだ。レッドブル時代のフェルスタッペンとの差は小さく、ルノー時代もヒュルケンベルグやオコンを相手にしていなかった。そう考えると、リカルドの2年間の不振のカギはレースペースにあると考えるのが自然かもしれない。

 何れにせよ、悪夢のような2年間が終わり、サードドライバーとして古巣レッドブルに戻ったリカルドの未来が開けることを祈ろう。

3. アルピーヌvsマクラーレン

 ここからは、コンストラクターズ選手権4位を懸けて激しく戦った両チームのペース比較を行なっていこう。表3-1に予選、表3−2にレースペースを示す。

注3:予選はドライコンディションのみを扱い、原則として両チームの上位のドライバー同士を両者が揃って走った最終セッションにて比較した。
注4:レースペースは燃料、タイヤを加味した地力のペースを算出。クリア・ダーティエア、全力を出す必要性などのレース文脈も可能な限り考慮した。

表3-1 アルピーヌとマクラーレンの予選比較

 

表3-2 アルピーヌとマクラーレンのレースペース比較

 

 序盤戦のマクラーレンは特に予選で力を発揮できなかったが、マクラーレンがマシンを理解してからは「予選のマクラーレンvsレースのアルピーヌ」という構図になっている。

 1.項で確認した通り、アゼルバイジャンGP以降でのアロンソは予選から決勝にかけてオコンに対して0.4秒ゲインしており、そのアロンソのドライバーとしての特性がこのチーム間の比較に如実に影響を及ぼしていると考えられる。ただし2.項で確認した通り、ノリスもリカルドに対してレースペースの方が0.2秒ほどアドバンテージを拡大している。

 このアロンソとノリスの両チームメイトに対するゲインの差0.2秒が、アルピーヌがマクラーレンに対して予選から決勝にかけてゲインした0.2秒であると紐解くことができるだろう。

 前述の通り、アロンソがトラブルで失ったのは50ポイント以上で、これが無ければドライバーズランキングでもノリスに10ポイント以上の差で勝利していた計算になる。よって、ここでも予選よりもレースの重要性が高い今季の傾向を読み取ることができる。

 予選と信頼性のマクラーレン、レースのアルピーヌ、この勝負で後者に軍配が上がった形だ。勿論、オコンとリカルドのパフォーマンスに差があったことも、アルピーヌにとって追い風となったのは間違いない。

 Part4ではその他の中団勢について見ていこう。

Writer: Takumi