1. 分析結果と結論
先に分析結果を示す。分析の過程については次項「2. レースペースの分析」をご覧いただきたい。
表1 ソフトタイヤでのレースペース
ソフトタイヤでは、ルクレールとフェルスタッペンが文字通り互角の速さを示した。差がついたように見えたのは、第1スティントでルクレールが新品を履いて逃げたこと、第2スティントで(おそらくスティント序盤の猛プッシュやロックアップが祟って)フェルスタッペンの新品のペースが今ひとつだったことによると考えられる。
サインツについては、第1スティントと第2スティントの競争力が大きく異なった。通常当サイトでは平均値を取るか一方の妥当性が高い方を取るが、誤差範囲内を超越していることと、どちらの数値も妥当性が高いことから、SAI①とSAI②として扱った。
表2 ミディアムタイヤでのレースペース
ミディアムタイヤでも、ルクレールとフェルスタッペンは互角のペースだった。ハミルトンは上位勢に肉薄しており、このペースを見る限りメルセデスが優勝争いに戻ってくるのはそう遠くは無いだろう。
表3 ハードタイヤでのレースペース
こちらはハードタイヤでのペースの分析結果だ。ミディアムタイヤではハミルトンに1.0秒差をつけられ苦戦していたラッセルだが、ハードタイヤではその差を0.4秒に抑えた。ソフトタイヤでのハミルトンの競争力が、ミディアムと同じくルクレールの0.3秒落ち程度だったと仮定すると、ソフトでのハミルトンとラッセルの差も0.5秒と同程度となる。こちらが両者の本来の力関係で、ラッセルがミディアムで異様に苦戦したと見るべきだろう。
表3 全体のレースペースの勢力図
全てのタイヤでの分析結果を総合し、レース全体を通しての競争力を割り出すと上記の表4ようになった。ルクレールとフェルスタッペンの互角のバトルは、予選とスタートでルクレールが前に出て、主導権を勝ち獲ったことが一つの大きな要因と言えそうだ。
また予選ではルクレールに0.7秒離されたハミルトンだったが、メルセデスはロングランでは悪くなく、2014年以降の「3強」構造は崩れていないように見受けられる。また新レギュレーションによって上位から下位までの差が縮まることが期待されたが、今のところは、昨年同様レースペースでの最上位と最下位の差は3秒程度だ。
また今回は実力のあるドライバーが何人か力を発揮できていなかった。シューマッハはマグヌッセンに0.5秒の差をつけられており、1周目のダメージの程度は定かではないが、予選でも同様の差がついているためそのまま受け取っても良いのかもしれない。またアロンソもオコンに大きく遅れており、かなりの苦戦ぶりだ。リカルドもかなり難しいレースで、昨年からの問題を引きずっているにしても大きすぎる差がついてしまった。
この辺りからも各チーム、ドライバー共新しいマシンとタイヤから如何にパフォーマンスを引き出すか、手探り状態なのがうっすら見えてくるのではないだろうか?後半戦に入り、皆がマシンとタイヤを理解した時、どんな勢力図になっているのか興味深く見ていきたい所だ。
2. レースペースの分析
以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.06[s/lap]で計算した。
また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。
2.1 表彰台3人の比較と新品-中古のデルタ
まずはルクレールとサインツを見ていこう。
第1スティントでは、4周目以降の平均でルクレールがサインツを0.68秒上回っている。ただしルクレールが新品ソフト、サインツが中古ソフトだ。
第2スティントでは、20~30周目の平均でルクレールが0.10秒上回っている。こちらはルクレールが中古ソフト、サインツが新品ソフトだ。サインツのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.19[s/lap]で考慮すると、サインツが0.09秒ほど上回っていたと言える。
連立方程式を解くと、実力的にはルクレールはサインツを0.3秒ほど上回っており、新品と中古の差が0.4秒程度という結論がひとまず得られる。
また第3スティントでは、35~43周目の平均でルクレールがサインツを0.11秒上回っている。両者新品ミディアムだ。ルクレールのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮すると、素の実力ではルクレールが0.4秒程上回っていたと言える。
続いて、ルクレールとフェルスタッペンだ。
第1スティントでは、6周目以降の平均でルクレールが0.24秒上回っている。ルクレールが新品ソフト、フェルスタッペンが中古ソフトだ。
第2スティントでは、23~28周目の平均でルクレールが0.13秒上回っている。フェルスタッペンのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮すると、0.02秒フェルスタッペンが上回っていたと言える。
連立方程式を解くと、実力的にはルクレールが0.1秒上回っており、新品と中古の差が0.1秒程度という結論が得られた。
第3スティントでは、33~41周目の平均でルクレールが0.21秒上回っている。フェルスタッペンのタイヤが1周古いことを、デグラーデーション0.17[s/lap]で考慮すると、素の実力差は互角だったと考えられる。
ここまでを総合しよう。まずルクレールとフェルスタッペンの比較においては、レースでの1周のデグラデーションが0.15秒ある中で、予選アタック1周+イン&アウトラップの中古の劣化が0.1秒ということは考えにくい。
仮に新品と中古の差を0.2秒としてみよう。この場合第1スティントでルクレールとフェルスタッペンが互角。第2スティントではルクレールが0.2秒上回ったことになる。ミディアムの第3スティントと予選で互角だったことを考えると、第2スティントのフェルスタッペンのペースを序盤のバトルおよびその中でのロックアップの影響と考えれば辻褄が合う。
さらにルクレールとサインツでも、第1スティントで0.5秒差、第3スティントで0.4秒差と近い数字になり、第2スティントでの0.1秒差はサインツの出来が良かったと考えても頷ける内容と思われる。
2.2. チームメイト比較
続いては、単純比較が可能なチームメイト同士を見ていく。まずはレッドブル勢だ。
第1スティントでは両者中古ソフトで、ペレスがクリアエアになった10周目以降の平均でフェルスタッペンが0.42秒上回っている。
第2スティントでは、23~28周目の平均でペレスが0.05秒上回っている。フェルスタッペンが新品ソフト、ペレスが新品ミディアムだ。フェルスタッペンのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮すると、フェルスタッペンが0.1秒ほど上回っていたと言える。
第3スティントでは、35~40周目の平均でペレスが0.20秒ほど上回っている。フェルスタッペンが新品ミディアム、ペレスが中古ソフトだ。フェルスタッペンのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.17[s/lap]で考慮すると、フェルスタッペンが0.3秒ほど上回っていたと言える。またペレスの中古のディスアドバンテージを0.2秒として考慮に入れると、その差は0.1秒になる。
このまま連立方程式を解くと、ソフトとミディアムの性能差は0.0秒になるが、フェルスタッペンの第2スティントは対ルクレールで0.2秒失っていることから、第2スティントのペレスとの差を0.3秒に補正しよう。すると、フェルスタッペンとペレスの素のパフォーマンス差は0.2秒、ソフトはミディアムより0.1秒速かったという結論になる。
続いて、ハミルトンとラッセルを見てみよう。
第2スティントでは、17~26周目の平均でラッセルが0.24秒上回っている。両者中古のハードタイヤだ。ハミルトンのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.16[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはハミルトンが0.4秒ほど上回っていたと言える。
第3スティントでは、35~42周目の平均でラッセルが0.13秒上回っている。両者新品のミディアムだ。ハミルトンのタイヤが6周古いことを、デグラデーション0.19[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはハミルトンが1.0秒ほど上回っていたと言える。
続いてハース勢を見ていこう。
第2スティントでは、20~33周目の異常値を除く平均でマグヌッセンが0.87秒上回っている。マグヌッセンは中古ソフト、シューマッハが新品ミディアムだ。シューマッハのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.19[s/lap]で考慮すると、マグヌッセンが0.5秒ほど上回っていたと言える。さらにマグヌッセンの中古が0.2秒劣化していたと考えると、その差は0.7秒になる。
第3スティントでは、37~43周目の平均でシューマッハが0.02秒上回っている。マグヌッセンは新品ミディアム、シューマッハが中古ソフトだ。マグヌッセンのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.23[s/lap]で考慮すると、マグヌッセンが0.2秒ほど上回っていたと言える。
連立方程式を解くと、素の実力でマグヌッセンが0.5秒上回っており、ソフトはミディアムより0.2秒優れていると結論づけられる。タイヤのデルタはレッドブル勢のそれと近く、妥当な数値と言えるだろう。これは即ち、フェルスタッペンの第2スティントが0.2秒パフォーマンスダウンしていることに対しても、一定の保証を与えている。
続いてアルファロメオ勢を見てみよう。
第2スティントでボッタスがクリーンエアを得てからは、ボッタスが0.19秒上回っている。両者新品ミディアムだ。ボッタスのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.14[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはボッタスが0.3秒ほど上回っていたと言える。ただし、それまでのボッタスは角田のペースに付き合っており、注意が必要だ。ここでボッタスは後方でタイヤを労るのではなく、角田に仕掛け続けており、スティント後半でのジョウとの直接比較にある程度妥当性があると判断した。
続いては、ガスリーと角田を見てみよう。
第2スティントでは、18~28周目の平均でガスリーが0.22秒上回っている。両者新品ミディアムだ。ガスリーのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.13[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはガスリーが0.3秒ほど(角田のDRS圏内にボッタスがいたことを加味して、四捨五入ではなく切り捨て)上回っていたと言える。
次はアロンソとオコンを見てみよう。
第2スティントでは、20,21周目の平均でオコンが0.93秒上回っている。サンプルは少ないが、コンテクストから信頼して良いと判断した2周で、両者新品ミディアムだ。アロンソのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはオコンが0.5秒ほど上回っていたと言える。
第3スティントについては、両者のクリアラップがほとんど重なっていないため、補助線を引いて考えると、オコンが1.2秒ほど上回っていると見て良いだろう。両者新品ハードだ。アロンソのタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.17[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはオコンが0.4秒ほど上回っていたと言える。
続いては、ヒュルケンベルグとストロールだ。
第2スティントでは、補助線を引きつつ両者のクリアエアのラップを比較すると、ヒュルケンベルグが0.3秒ほど上回っている、両者新品ソフトだ。ストロールのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.16[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはヒュルケンベルグが0.1秒ほど上回っていたと言える。
続いてはウィリアムズ勢だ。
第3スティントでは、38~42周目の平均でアルボンが0.85秒上回っている。アルボンが中古ミディアム、ラティフィは新品だ。ラティフィのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮、新品と中古の差を0.2秒で考慮すると、素の実力的にはアルボンが0.6秒ほど上回っていたと言える。
続いては、マクラーレン勢を見てみよう。
ノリスの第2スティント終盤とリカルドの第3スティントを比較すると、ノリスが0.6秒程度と見て良いだろう。両者新品ハードだ。ノリスのタイヤが9周古いことを、デグラデーション0.14[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはノリスが0.7秒ほど上回っていたと言える。予選結果とも合致し、妥当な数値と言えるだろう。
2.3. チームを跨いだ比較
ここからはライバルチーム同士で比較を行っていく。まずソフト・ミディアムでの競争力を割り出すため、ルクレールとの比較が有効なドライバーが、ラッセル、マグヌッセン、ヒュルケンベルグ、オコン、リカルド、アルボンだ。グラフを2つに分けよう。
ラッセルの第1スティントは、6周目以降の平均でルクレールの1.02秒落ちとなっている。ルクレールは新品ソフト、ラッセルが中古だ。新品と中古の差を0.2秒として考慮すると、0.8秒が両者のソフトタイヤでの差と言えるだろう。
第3スティントでは両者新品ミディアムで、35~44周目の平均ではルクレールの0.97秒落ちだ。ルクレールのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはルクレールが1.3秒ほど上回っていたと言える。
一方のマグヌッセンは、第1スティントでは6周目以降の平均でルクレールの1.85秒落ちだ。両者新品ソフトとなっており、四捨五入した1.9秒差がこのスティントでのペース差と言えるだろう。
第2スティントでは、20~29周目の平均でルクレールの1.21秒落ちだ。両者中古ソフトで、マグヌッセンのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.20[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはルクレールが1.0秒ほど上回っていたと言える。第1スティントのペースと差があるのは、第1スティント序盤でロックアップした影響が考えられるだろう。ここでは第2スティントを本来のマグヌッセンと力と読むことにする。
第3スティントでは、38~44周目の平均でルクレールの0.92秒落ちだ。ルクレールのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはルクレールが1.5秒ほど上回っていたと言える。
続いてヒュルケンベルグの第2スティントについて見ていこう。21~27周目の平均でルクレールの1.37秒落ちとなっている。ルクレールは中古ソフト、ヒュルケンベルグは新品だ。ルクレールのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮、新品と中古の差を0.2秒で考慮すると、素の実力的には2.2秒落ちと結論づけることができる。
続いては後半3人についてルクレールとの比較を見ていこう。
オコンの第1スティントは、クリアエアを得た9周目からの平均でルクレールの1.93秒落ちだ。両者新品ソフトで、四捨五入して1.9秒をソフトでのペースの差として良いだろう。
リカルドの第2スティントは、21~23周目の平均でルクレールの1.98秒落ちだ。サンプルが少ないが、コンテクストから考えて信頼して良い3周と思われる。ルクレールは中古ソフト、リカルドが新品だ。ルクレールのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮、新品と中古の差を0.2秒すると、素の実力的にはルクレールの2.5秒落ちだったと言える。
アルボンの第3スティントは、37~43周目の平均でルクレールの2.27秒落ちとなっている。ルクレールが新品ミディアム、アルボンは中古だ。ルクレールのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮、新品と中古の差を0.2秒で考慮すると、素の実力的にはが2.7秒程度だったと言える。
続いてはミディアムでの競争力が不明な3人についてペレスとの比較を行う。
まずアロンソの第2スティントは、補助線を引きつつペレスと比較すると2.2秒落ち程度と見て良いだろう。両者新品ミディアムだ。アロンソのタイヤが4周古いことを、デグラデーション0.15[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはペレスの1.6秒落ちと言える。
続いてガスリーの第2スティントは、17~30周目の平均でペレスの1.37秒落ちとなっている。両者新品ミディアムだ。ガスリーのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.13[s/lap]で考慮すると、素の実力的にはペレスの1.2秒落ちと言える。
次はジョウについてみ見てみよう。第2スティントでは、17~32周目の平均で異常値を除きペレスの1.26秒落ちとなっている。共に新品ミディアムだ。タイヤの履歴に違いはなく四捨五入した1.3秒が両者の差と言える。
さて、続いてはアロンソとの比較が有効なリカルドとハミルトンについて見ていこう。これでハードタイヤでの勢力図が判明する。
まずはアロンソとハミルトンの第2スティントを比較してみよう。アロンソが新品ミディアム、ハミルトンが中古ハードだ。補助線を引きつつ比べるとハミルトンが1.2秒ほど上回っていると言えそうだ。レースでのタイヤの履歴は変わらないが、新品と中古の差を0.2秒として考慮すると、実力的にはハミルトンの方が1.4秒上回っていると考えられる。
次に第3スティントで見てみよう。アロンソが新品ハード、ハミルトンが新品ミディアムだ。34~37周目の平均で、ハミルトンが1.69秒上回っている。アロンソのタイヤが2周古いことを、デグラデーション0.17[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが1.4秒ほど上回っていたと言える。
連立方程式を解くまでもなく、2人の差は1.4秒で、両者におけるミディアムとハードのパフォーマンス差は無かったと言えそうだ。
さて、続いてはリカルドを見てみよう。第3スティントでは、補助線を引きつつアロンソと比較すると、0.5秒ほどリカルドが上回っている。両者新品ハードだ。アロンソのタイヤが8周古いことを、デグラデーション0.17[s/lap]で考慮すると、実力的にはアロンソが0.9秒ほど上回っていたと言える。
以上、2.1.、2.2.と2.3.の結果を総合すると、前述の表1~4の結果になる。