• 2024/11/21 15:29

2021年アブダビGPレビュー(2) 【大接戦の中団争いで最速だったのは…?】

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 歴史に残る激しいチャンピオン争いが繰り広げられたアブダビGP。実はその後ろでも、とんでもない接近戦が行われていた。そしてそれは、ハミルトンとフェルスタッペンのチャンピオン争いにも大きな影響を与えていた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 「有終の美」
  2. 中団最速は角田とサインツ
  3. レースペースで輝くシューマッハ
  4. オフシーズンに振り返りたいこと
  5. 用語解説

1. 「有終の美」

 予選ではトラックリミット違反によるタイム抹消で8番手に沈んだ角田。しかし抹消されたタイムは1:23.011と、3番手のノリスとも0.080秒差の非常に競争力のあるタイムだった。

 そんな中迎えたレースを振り返るため、図1に角田とガスリー、そしてサインツのレースペースを示す。

画像1を拡大表示

 Fig.1 角田、ガスリー、サインツのレースペース

 角田はオープニングラップでボッタスとのサイドバイサイドを制して7番手に上がると、ルクレールの真後ろでついて行き、レースを進める。そして14周目、コースアウトを喫したルクレールと抜きつ抜かれつのバトルになり、15周目に完全に仕留めた。

 そこから先がクリーンエアでの走行となるわけだが、ここでのペースは、数周後のガスリーのタイムと同等だ。この時のガスリーはアロンソのペースに付き合わされているが、燃料が重い中で、タイヤのデグラデーションが小さいことを鑑みれば、角田のペースは明らかにアロンソを上回っていたことが、この時点で分かる。

 そして、第2スティント前半はルクレールの後方に引っかかってしまうが、VSC時にルクレールがいなくなり、前方に新品ミディアムのアロンソが戻ってくる。しかし角田は抜きつ抜かれつの攻防の末、ターン9でアウトからパス。その後は新品ミディアムのガスリーから平均0.05秒落ちのペースで7番手を周回する。
 今回はメルセデスの無線やラップタイムから、ミディアムとハードの性能は接近していたと考えられる。その前提でデグラデーションを0.01[s/lap]として、13周のタイヤの差を考慮すると、角田が0.1秒ほどガスリーを上回っていた計算になる。

 そんなハイペースを刻んだ角田だったが、SC導入のタイミングでソフトタイヤに交換。これが功を奏し、ラスト1周でボッタスを交わし、ペレスとノリスの後退もあって、4位入賞へと繋がった。

 まず、今季ガスリーに対して良くても互角(シルバーストーンとハンガリー)だった角田が、初めて僚友を上回るペースを見せたのは大きな収穫だ。1年間通して学びに充てつつも、最後だけでも結果にフォーカスするのは非常に良い事ではないだろうか。それは来季に向けて、自信とチームからの信頼、そしてチーム全体の士気に繋がると思われる。

 そしてアロンソやボッタスに対する仕掛けは、F2時代のバトルの上手さを彷彿とさせる走りだった。特にボッタスに対する仕掛けは遥か後方からブレーキングで突っ込むアグレッシブなもので、リカルドやフェルスタッペンらが魅せてきた豪快な飛び込みにも勝るとも劣らないものだった。

2. 中団最速は角田とサインツ

 並行して行っていたレースペース分析の結果を表1に示す。

Table1 全体のレースペースの勢力図

スクリーンショット 2021-12-14 16.14.37を拡大表示

 疑問符がつく数値はオレンジ色で示した。

 サインツと角田が中団最速を示し、荒れたレース展開の中でも速さを持つドライバーが上位に来た。

 サインツは序盤から中団トップを走行し、ペレスのリタイアがあっての表彰台だが、結果以上にペース面でルクレールを上回ったのは大きいのではないだろうか。今季のサインツは、オランダGPとイタリアGPで0.4秒遅れた以外は、レースペースの面でルクレールにかなり接近している(正確な分析が済んでいる範囲内だと平均0.15秒落ち)。
 トロロッソ時代にフェルスタッペンと互角にやり合ったサインツが、フェラーリ2年目の来季、ルクレール相手にどんなスピードを見せるのか?非常に楽しみなところだ。

3. レースペースで輝くシューマッハ

  表1でも示した通り、ラティフィと互角のレースペースを見せたシューマッハ。その2名のレースペースを図2に示す。

画像3を拡大表示

Fig.2 シューマッハとラティフィのレースぺース

 シューマッハはソフトスタートで10周目のピットストップを行い、47周先のチェッカーを目指す、非常に厳しい戦略となってしまったが、第2スティント前半はラティフィの22秒以内をキープできるペースでタイヤを労り、ラティフィがピットストップを行ってからはペースを上げ、ディフェンスに徹した走りを見せた。

 実はシューマッハは今季何度も、レースペースで輝きを魅せている。フランスGPからイタリアGPの勢力図分析をまだ行っていないため、それ以外のレースにフォーカスするが、

・イモラ(ドライコンディション)
リカルドとベッテルの0.2秒落ち、ライコネンと互角。

・ポルトガル
ラッセルの0.1秒落ち、ラティフィを0.6秒上回る。

・スペイン
ラッセルと互角、ラティフィを0.2秒上回る。

・アゼルバイジャン
ラッセルの0.1秒落ち、ラティフィと互角。

・ブラジル
ラティフィの0.1秒落ち、ラッセルと互角。

・カタール
角田、ジョビナッツィ、ライコネンを上回る。

と、かなり光る走りを見せている。シューマッハ自身がF2時代から予選よりレースで相対的に力を発揮するタイプということもあるのかもしれない。そして、今回もラティフィに付け入る隙を与えなかった。

 そして、このシューマッハの好走がラティフィのクラッシュへと繋がり、周り回ってフェルスタッペンの初戴冠へと導かれる形となったのは、実に不思議な因縁といった所だろうか…?

4. オフシーズンに振り返りたいこと

 長い22戦のF1サーカスもこれにて終幕。フェルスタッペンとハミルトンのチャンピオン争い、中団勢の接近戦、アロンソの復帰、ルーキー3人の成長の軌跡、ライコネンの引退など、実に盛り沢山なシーズンだった。

 さて、当サイトではオフシーズン中に、今季を振り返っていきたい次第だ。まだフランスGPからイタリアGPまでの勢力図分析が終わっていないが、そちらの追加投稿が終わり次第、今季のチームやドライバーの競争力がどのように変遷していったのかを、タイトル争いや中団勢、あるいはチームメイト対決などに、それぞれ焦点をあてて分析していく予定だ。

 さらに、時間的余裕の許す範囲内で、過去のレースも振り返っていく。FIAからは2006年以降のラップタイムが全て公開されており、シューマッハとアロンソが今年のフェルスタッペンvsハミルトンと同じようにハイレベルな闘いを繰り広げた2006年から、順番にレビューしていく予定だ。

 その前に、まずはこの後すぐ、チーム別分析と全体の勢力図分析を投稿する。

5. 用語解説

トラックリミット:コースをはみ出してはいけない範囲。コース外を走行することによってアドバンテージを得ることを禁ずるために設けられている。レースディレクターからセッション前に「ターン9と17で縁石を4輪が超えたらアウト」「ターン8で白線を出たらアウト」など、場所とどこからを違反とするかの定義がなされる。予選でトラックリミット違反があればタイム抹消、決勝では「〜回違反すると審議」などの措置が取られる。

サイドバイサイド:横並びの状態のこと

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。 

VSC: バーチャルセーフティカーの略。コース上が危険な状態であるため、全車が一定の間隔を保ちスロー走行しなければならない。

SC:セーフティカーの略。