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2012年 ドイツGPレビュー【アロンソの卓越したレースクラフト】

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 こちらのページでは、アロンソが巧みな戦術を駆使して先頭からレースをコントロールした、2012年ドイツGPを振り返っていこう。

 なお、最初に1. レースのあらすじ、次に2. 詳細な分析を記した。

1. レースのあらすじ

 予選はウェットコンディションで行われ、結果は以下の通りとなった。

POSDRIVERCARQ1Q2Q3
1Fernando AlonsoFERRARI1:16.0731:38.5211:40.621
2Sebastian VettelRED BULL RACING RENAULT1:16.3931:38.3091:41.026
3Mark WebberRED BULL RACING RENAULT1:16.5001:39.3821:41.496
4Michael SchumacherMERCEDES1:16.6861:38.0101:42.459
5Nico HulkenbergFORCE INDIA MERCEDES1:16.2711:39.4671:43.501
6Pastor MaldonadoWILLIAMS RENAULT1:16.1811:38.7311:43.950
7Jenson ButtonMCLAREN MERCEDES1:16.5071:38.6591:44.113
8Lewis HamiltonMCLAREN MERCEDES1:16.2211:37.3651:44.186
9Paul di RestaFORCE INDIA MERCEDES1:16.3521:39.7031:44.889
10Kimi RäikkönenLOTUS RENAULT1:15.6931:39.7291:45.811
11Daniel RicciardoSTR FERRARI1:16.5161:39.789
12Sergio PerezSAUBER FERRARI1:15.7261:39.933
13Kamui KobayashiSAUBER FERRARI1:16.4811:39.985
14Felipe MassaFERRARI1:16.2651:40.212
15Romain GrosjeanLOTUS RENAULT1:16.6851:40.574
16Bruno SennaWILLIAMS RENAULT1:16.4261:40.752
17Nico RosbergMERCEDES1:15.9881:41.551
18Jean-Eric VergneSTR FERRARI1:16.741
19Heikki KovalainenCATERHAM RENAULT1:17.620
20Vitaly PetrovCATERHAM RENAULT1:18.531
21Charles PicMARUSSIA COSWORTH1:19.220
22Timo GlockMARUSSIA COSWORTH1:19.291
23Pedro de la RosaHRT COSWORTH1:19.912
24Narain KarthikeyanHRT COSWORTH1:20.230

 予選ではシルバーストーンに続き雨でアロンソが強さを発揮した。

 スタートでは順当にアロンソ、ベッテル、シューマッハ、ヒュルケンベルグ、バトンと続く。

 雨の予選で本来のマシンの力より上にきたシューマッハ、ヒュルケンベルグだったが、バトンは8周目にヒュルケンベルグを、11周目にシューマッハを交わして3番手へ。クリアエアを得て、トップ2台を追う。

 アロンソとベッテルは1秒前後の距離のままレースを進めるが、10周目を過ぎると少しずつアロンソが差を広げ、その差が2.3秒となった18周目にアロンソからピットへ。バトンが19周目、ベッテルは20周目まで引っ張り、第2スティントが幕を開けた。

 第2スティント序盤では、ベッテルがアロンソとの差を一気に詰め、28周目にはその差は1秒以内に。バトンも2人に追いついてきた。

 ここで思わぬ伏兵が登場。序盤でタイヤがパンクしたハミルトンだ。(自身の)31周目にピットストップを行うと、ベッテルの後ろでコース復帰した。周回遅れではあるもののペースは速く、先頭争いを掻き乱す存在となった。

 先頭争いが35周目を迎える中、ハミルトンはベッテルをオーバーテイク。アロンソの背後に迫る。しかしアロンソは巧みにブロック。自身のペースも大きく乱されずトップを堅持した。

 そして40周目にはバトンが2度目のピットストップへ。翌41周目にアロンソ、ベッテルも反応したが、ベッテルはバトンに逆転されてしまった。

 第3スティントでは、バトンがアロンソの背後1.0秒以内でDRSを使い、オーバーテイクを試みる。しかしアロンソには全く隙がなく、終盤にはバトンのタイヤが終わってしまった。

 そして66周目には、ベッテルがヘアピンでアウトから仕掛けてオーバーテイク。2番手でチェッカーフラッグを受ける。しかしこれはコース外を使ってのオーバーテイクであり、ペナルティにより最終結果は5番手となってしまった。

 アロンソはそのままトップチェッカー、バトンが最終的に2番手、ライコネンは安定した走りで3位を獲得した。

 決勝結果は以下の通りとなった。

POSDRIVERCARLAPSTIME/RETIREDPTS
1Fernando AlonsoFERRARI671:31:05.86225
2Jenson ButtonMCLAREN MERCEDES67+6.949s18
3Kimi RäikkönenLOTUS RENAULT67+16.409s15
4Kamui KobayashiSAUBER FERRARI67+21.925s12
5Sebastian VettelRED BULL RACING RENAULT67+23.732s10
6Sergio PerezSAUBER FERRARI67+27.896s8
7Michael SchumacherMERCEDES67+28.970s6
8Mark WebberRED BULL RACING RENAULT67+46.941s4
9Nico HulkenbergFORCE INDIA MERCEDES67+48.162s2
10Nico RosbergMERCEDES67+48.889s1
11Paul di RestaFORCE INDIA MERCEDES67+59.227s0
12Felipe MassaFERRARI67+71.428s0
13Daniel RicciardoSTR FERRARI67+76.829s0
14Jean-Eric VergneSTR FERRARI67+76.965s0
15Pastor MaldonadoWILLIAMS RENAULT66+1 lap0
16Vitaly PetrovCATERHAM RENAULT66+1 lap0
17Bruno SennaWILLIAMS RENAULT66+1 lap0
18Romain GrosjeanLOTUS RENAULT66+1 lap0
19Heikki KovalainenCATERHAM RENAULT65+2 laps0
20Charles PicMARUSSIA COSWORTH65+2 laps0
21Pedro de la RosaHRT COSWORTH64+3 laps0
22Timo GlockMARUSSIA COSWORTH64+3 laps0
23Narain KarthikeyanHRT COSWORTH64+3 laps0
Lewis HamiltonMCLAREN MERCEDES56DNF0

2. 詳細なレース分析

2.1. 狡猾なアロンソ

 まずはアロンソとライバル勢のレースペースを見てみよう。タイムが接近して見にくいため、2つのグラフに分けた。

Fig.1 アロンソとベッテルのレースペース
Fig.2 アロンソ、バトンのレースペース

 図1を見ると、アロンソはレース序盤でベッテルを引き付け、後ろにダーティエアを浴びせつつ自身はタイヤを温存しているように見える。そしてスティント後半では、ベッテルをアンダーカットの射程圏外に追いやるため、一気にペースを上げた。

 一方のベッテル陣営は、アロンソよりもピットストップを遅らせ、タイヤの履歴に差を作ることで打開策を試みた。しかし、第2スティントでもアロンソはスティント前半でペースを抑え、タイヤを温存する戦術を採った。ベッテルは追いつく過程とオーバーテイクを試みる間にタイヤを使ってしまったのだろう。その後のペースはスティント前半を考えるとやや物足りない。

 さらにベッテルは周回遅れのハミルトンに抜かれてしまったのが痛かった。ここでアロンソとの間に1台分の距離ができてしまい、さらにバトンに詰め寄られることとなった。これによりバトンにはアンダーカットの大きなチャンスが到来。40周目にピットストップという判断になった。

 こうなるとベッテルはバトンのアンダーカットを防ぐため、41周目に入ることが確定する。それ以外の選択肢は実質無いと言って良いだろう。そうなれば、アロンソは同じ41周目に入れば順位を守ることができ、アロンソも実質41周目ピットの一択となる。

 これによりアロンソが首位をキープして最終スティントを迎えることとなった。バトンはスティント前半からDRS圏内で攻め続けるが、アロンソは余裕を持った状態で走っていたことが、66周目のタイムから読み取れる。ちなみに、第2スティントの36周目は周回遅れのDRSを使えたことによるものだったが、こちらの66周目は完全な単独走行のクリアエアで出したタイムだ。

 アロンソはスティントを通してペースを落とすことで、タイヤを労りつつ、バトンにダーティエアを浴びせ、バトンにタイヤを使って攻めるインセンティブを与えていたと考えられる。ヨーロッパGPが攻めのアロンソが勝ち獲った勝利ならば、こちらは守りの名手アロンソが魅せた勝利と言えるだろう。

 ちなみに、第1,2スティントの終盤でベッテルがアンダーカットを仕掛けていたとしても、結果は変わらなかったと思われる。グラフからベッテルが1回目のピットストップを先に行った場合はアロンソより1秒ほど速くなることが予想されるが、第1スティント終盤での2人の差は2秒。これでは足りない。第2スティント終盤でも2人の差は2秒、タイヤを履き替えても1秒弱の差しか生まれない。ここからも如何にアロンソの採った「前半で引きつけて、後半で離す」戦術が強力であるかが分かるだろう。

 このアロンソの走り方は、2022年現在のアルピーヌでの走りでも特徴的なレースクラフトのピースとなっている。10年前のレースで現在との繋がりが感じられる興味深いレースだった。

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Writer: Takumi