• 2024/4/26 20:33

2021年オランダGPレビュー(2) 【ガスリーとアロンソが魅せた】

  • ホーム
  • 2021年オランダGPレビュー(2) 【ガスリーとアロンソが魅せた】

 今回は中団争いも非常に激化して、異なるチームのドライバーたちによるバトルが繰り広げられた。彼らの闘いをグラフを交えて振り返っていこう。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. ガスリーの大躍進
  2. アロンソの巧妙なレースクラフト
  3. どうなる高速モンツァ!?
  4. 用語解説

1. ガスリーの大躍進

 今回はガスリーがルクレールの追い上げを振り切り、ベストオブザレストを獲得した。2人のレースペースを図1に示す。

画像1を拡大表示

Fig.1 ガスリーとルクレールのレースペース

 ガスリーの1回目のピットストップ前には約2秒後ろにルクレールが付いて来ており、フェラーリの方がペースは良さそうに見えた。しかし第2スティントでミディアムタイヤを履くと、スティント前半では詰め寄られたものの、ハードのルクレールよりも小さなデグラデーションを示し、57周目付近からは同等のタイム推移となった。グラフからもガスリーのタイムが明らかに右肩上がりになっていることが分かる。実はルクレールのデグラデーションも0.04[s/lap]と悪くはないのだが、ガスリーは0.02[s/lap]と非常にうまくタイヤをマネジメントできた。

 ガスリーは絶対的なペースそのものも角田を0.7秒ほど上回っており、マシンのポテンシャルを最大限に引す最高のパフォーマンスだったと言える。また、同様にコーナリングサーキットのハンガリーでも予選でノリス、ルクレールを上回りベストオブザレストを獲得しており、モナコで好走などを踏まえても、今季のアルファタウリはコーナリングにも強いマシンと言って良いだろう。一方でバクーのようなローダウンフォースサーキットでも競争力があったので、次戦モンツァでも上位に来ると思われる。

2. アロンソの巧妙なレースクラフト

 今回はアロンソがフェラーリの1台を食うという大金星を挙げた。アロンソとサインツの同郷対決を図2に示す。

画像2を拡大表示

Fig.2 アロンソとサインツのレースペース

 今回はサインツがルクレールから0.4秒ほど遅れていたこともあり(各ドライバーの競争力の分析はこちら)、アロンソの大逆転劇に繋がった。

 アロンソは両スティントともに前半でタイヤを徹底的にマネジメントして、後半にプッシュする形を採った。特に序盤はマゼピンまで数珠繋ぎになる程抑えており、チームからは「エステバンが0.7秒後ろだ」と言われるが「サインツに近づきたくない」と返答している。23周目にはアロンソから「ターゲット+5周」を提案し、その後も引っ張ることについて念を押している。32周目には「オーバーステアだが、行ける。後で利益がある。」と発言。現にここでタイヤが少しタレていることがグラフから分かる。(抜いていったガスリーの後方乱気流もあっただろうが)
 アロンソはプッシュし始めるとオコンより0.5秒ほど速く、サインツとの差も第1スティント終盤では詰めていった。

 第2スティントでも走りはじめはオコンを後ろに従えてマネジメントし、レース終盤はサインツより1.2~1.8秒ほど速かったと思われる。そしてサインツの後方でタイヤやバッテリーの状態を整え、ファイナルラップのターン1で仕留めた。

 アロンソの卓越したレースクラフトは、ポルトガル以降特筆すべき輝きを見せている。特に今回はポルトガルGP(レビューはこちら)オーストリアGP(レビューはこちら)と同様に「オーバーテイクできるペース差を作れるようにスティント前半をマネジメントする」という非常に大規模な逆算は芸術的といえよう。

3. どうなる高速モンツァ!?

 次戦は超高速のモンツァサーキットだ。シケインへのビッグブレーキングのみならず、レズモやアスカリ、パラボリカなど高速コーナーもあり、ローダウンフォースでもフロアでしっかりとダウンフォースを発生させることが求められる。またダウンフォースの設定次第ではオーバーテイクが容易にも困難にもなり得るサーキットだ。

 同じくローダウンフォースのバクーと似たような勢力図になる可能性もあるが、コーナーが高速であることを踏まえると、シルバーストーンで遅かったマシンはそこから脱落するのではないか?筆者はそんな戦前予想を立てている。

 イタリアGPは今週末9/10に開幕する。

4. 用語解説

ベストオブザレスト:トップ2チーム以外での最上位。Restとは「残り」の意味。近年トップチームが大きく抜け出し、中段チームとの差が大きくまるで2つの別クラスのレースのようであることからこうした呼ばれ方がされるようになった。

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。

ターゲット:ピットストップの予定周回数。「25周目まで伸ばそう」のような会話を無線で行うとライバルチームに戦略が筒抜けになるため。レース前にターゲットを決めておき、例えばそれが20周目なら「ターゲット+5」で25周目まで引っ張ることを伝える。

オーバーステア:曲がりすぎ。スピンしやすい。

アンダーステア:曲がらなすぎ。

レースクラフト:レースの組み立てのこと。

オーバーテイク:追い抜き