• 2024/4/26 06:52

2021年アゼルバイジャンGP分析

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1. 分析結果と結論

 タイヤのデグラデーションや燃料搭載量などを考慮し、全ドライバーのレースペースの力関係を割り出すと表1のようになった。

Table1 レースペースの勢力図

スクリーンショット 2021-12-10 18.58.38を拡大表示

※疑問符がつく部分はオレンジ色で示した

 フェルスタッペンが僅差でペレスとハミルトンを上回り、レース展開からも納得しやすい結果といえるだろう。

 また、ボッタスは苦戦したのは確かだが、ペース的には見た目ほど酷い内容ではなかった。クリーンエアで走れいている際のハミルトンとの差は0.3秒程度で、普段通りのパフォーマンスだったと言える。

 そしてアストンマーティン勢、特にベッテルが高い競争力を見せたのが印象的で、マクラーレンのノリスと共に中団勢最速のパフォーマンスを見せた。

 一方、予選ではQ3に進出したアロンソだったが、レースペースはかなり厳しかった。この競争力でも赤旗の混乱に乗じて6位を獲得できたのは、大金星といったところだろう。

 またシューマッハが再びウィリアムズ勢と互角のペースを見せているのも興味深い。

2. 分析内容の詳細

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.07[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

2.1 チーム毎の分析

 まずチームメイト比較を行う。

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Fig.1 レッドブル勢のレースペース

 ペレスは第1スティントのインラップでフェルスタッペンがピットに入ってから、0.4秒速いインラップを刻んでおり、シンプルなモデルで概算して第1スティントでは0.2秒ほど速かった可能性がある。
 よりサンプル数が多く信頼性が高いのは第2スティントのデータだが、こちらでは最初に距離を開けた後はイーブンペースだ。ちなみに、26周目にマゼピンを交わす際に大きくロスしているが、その後からタイムが戻ってきておらず、タイヤを傷めた可能性が考えられるため、ここの部分のペースダウンはサンプルとして採用していない。デグラデーションは0.02[s/lap]のため1周新しいタイヤは考慮しなくて良いため、互角として問題ない。
 さらにSC後はフェルスタッペンが0.2秒速く、SC前にタイヤをセーブしていたことが読み取れる。よって平均をとって0.1秒を第2スティントの2人の差とするべきだろう。
 ここでは両スティントの平均を切り捨て、フェルスタッペンが0.1秒速かったと結論づけたい。

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Fig.2 アストンマーティン勢のレースペース

 戦略が異なり比較は不適切と言える。

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Fig.3 アルファタウリ勢のレースペース

 第2スティント前半で比較すると、イーブンペースだ。2周古いタイヤをデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的には角田が0.1秒ほど上回っていたと考えられる。ただし、SC開けのガスリーのペースは、フエルエフェクトを考慮すると、SC前よりも0.6秒ほど速く、ガスリーのペースの真値は平均をとり、角田を0.2秒ほど凌駕していたと結論づけよう。

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Fig.4 フェラーリ勢のレースペース

 今回の比較は不適切と言えるだろう。

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Fig.5 マクラーレン勢のレースペース

 ノリスは角田とイーブンペースで第2スティントのSC前をクリーンエアだったと仮定するならば、リカルドより0.2秒ほど速いペースだ。4周古いタイヤをデグラデーション0.4[s/lap]で考慮すると、実力的には0.4秒ほど上回っていたことになる。

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Fig.6 アルピーヌ勢のレースペース

 戦略が異なり比較は不適切と言える。

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Fig.7 アルファロメオ勢のレースペース

 互いの第2スティントで比較すると、ライコネンが0.3秒ほど上回っている。11周新しいタイヤをデグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には0.1秒ほどとなる。

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Fig.8 メルセデス勢のレースペース

 定量的な比較は不可能だが、ペレスの後ろで余力を残していたハミルトンの方がボッタスより0.3秒ほど速かった。

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Fig.9 ハース勢のレースペース

 第2スティントで比較すると、シューマッハが0.7秒ほど上回っている。デグラデーションが小さいため、1周古いタイヤは考慮しなくて良いだろう。

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Fig.10 ウィリアムズ勢のレースペース

 第2スティントのラッセルはラティフィの0.1秒落ち程度だ。デグラデーションは0.00[s/lap]のため、8周古いタイヤは考慮する必要がない。
 一方ラティフィがタイヤを履き替えてからは、ラティフィを1.0秒上回っているが、25周新しいタイヤをデグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には0.2秒ほど上回っていたと考えられる。
 共にデータの質としてはいまひとつだが、平均をとってラッセルが0.1秒速かったと結論づけよう。

2.2 チームを跨いだ分析

 図11にフェルスタッペン、ペレス、ハミルトンの比較を示す。

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Fig.11 フェルスタッペン、ペレス、ハミルトンのレースペース

 グラフには表れていないが、フェルスタッペンはハミルトンのピットストップ後にインラップで0.6秒速いタイムを刻んでいる。シンプルなモデルで概算すると、フェルスタッペンがハミルトンを0.3秒上回っていたと考えられる。

 ただし、チーム別分析では同様の比較方法でペレスがフェルスタッペンを0.2秒上回っており、ハードに履き替えてからはフェルスタッペンの0.1秒落ちであったこと、ハードタイヤではハミルトンがペレスを攻め立てており、ハミルトンのペースが上回っていたことを考慮する必要がある。

 ここでフェルスタッペンは第1スティントでルクレールを交わすのにやや手間取っており、ハミルトンとペレスはその間にタイヤを労れたこと、さらにその後もハミルトンとフェルスタッペンの距離より、フェルスタッペンとペレスの距離の方が大きかったことを踏まえると、このインラップで最も実力を発揮しにくかったのがフェルスタッペンと考えられる。したがってここでは、ハードでの値を信頼し、フェルスタッペンはペレスを0.1秒上回るペースだったと考えよう。

 するとペレスから0.5秒落ちだったハミルトンが、第2スティントではペレスを上回っていたこととなる。これは今季他のレースでも散見された、ハード側のタイヤで競争力を発揮するメルセデスのマシン特性と言える。

 以上を踏まえると定量的な結論を出すのは不適切かもしれないが、スティントの長さからソフトのペースの重要性をハードの3分の1とすると、第2スティントでのペレスとの差が0.0~0.1秒の場合、レーストータルで0.1秒落ち、0.2秒の場合は互角となる。コース特性上それ以上の場合はオーバーテイクに繋がったと考えられるため、疑問符付きでその辺りを今回のハミルトンの実力と評するのが妥当と思われる。ここではソフトでオーバーカットすることの戦略上の重要性を加味し、ペレスの0.1秒落ちの方を結論として採択しよう。

 続いて、フェルスタッペンとベッテル、ガスリー、ルクレールを比較する。

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Fig.12 フェルスタッペン、ベッテル、ガスリー、ルクレールのレースペース

 第2スティントのSC後で比較すると、ベッテルはフェルスタッペンの0.4秒落ちだ。6周新しいタイヤをデグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には0.6秒落ちと言える。またチーム別分析で触れた通り、フェルスタッペンはSC前にタイヤを労っており、実力的な真値はSC後のペースの0.1秒落ちのため、それを考慮すると0.5秒落ちになる。

 ただし、SC前にはルクレールの後方でダーティエアとはいえ、ここでタイヤをセーブできている事は加味した方が良いだろう。ここでのペース(フェルスタッペンの0.9秒落ち)に同様のタイヤ履歴の差と、フェルスタッペンが0.1秒余裕を持っていたことを考慮すると、SC前には1.2秒の差があったことになる。これを前述の0.5秒と平均したものがベッテルの実力の真値で、SC前のダーティエアの影響を鑑みて四捨五入ではなく切り捨てを採用し、フェルスタッペンの0.8秒落ちとするのが妥当だろう。

 また、ガスリーはSC前の第2スティントでフェルスタッペンの1.1秒落ちだ。1周古いタイヤは考慮しなくて良いだろう。こちらではフェルスタッペンは0.1秒、ガスリーは0.3秒セーブして走っているため、0.9秒が実力的な差の真値だろう。

 そして、ルクレールは第2スティント前半でタイヤを労り、SC前にガスリーに追いつき、トータルでガスリーとイーブンペース、SC後は2秒弱の差が赤旗前には2秒強に広がっている展開で、0.2秒のペース差と見なそう。平均してガスリーの0.1秒落ちで、デグラデーションは小さく、考慮しなくて良いだろう。

 続いてサインツをハミルトンと比較する。

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Fig.13 ハミルトンとサインツ、ルクレール(参考)のレースペース

 サインツとハミルトンの第1スティントのペース差は0.4秒程度だ。上述の通り、ハミルトンの第1スティントは、レースを通しての評価より0.5秒ほど遅い評価となっている。そのためフェルスタッペンの1.0秒落ち、ルクレールと互角になる。

 続いて、ガスリー、リカルド、アロンソ、ライコネンを比較してみよう。

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Fig.14 ガスリー、リカルド、アロンソ、ライコネンのレースペース

 第2スティント前半で、リカルドはガスリーの0.1秒落ちだ。タイヤの差はない。ガスリーが0.3秒ほど抑えていた事から、実力的にはガスリーの0.3秒落ちだったと言える。

 アロンソは第2スティント前半でガスリーの1.0秒落ちだ。さらにガスリーが0.3秒抑えていたことと、4周古いタイヤをデグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的には1.2秒と言える。

 ライコネンは第2スティント前半でガスリーの0.6秒落ちだ。SC後のタイムを見ると、ライコネンもかなりタイヤを労っていたことが伺え、この差は素直に受け止めよう。2周新しいタイヤをデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にはガスリーの0.7秒落ちとして良いだろう。

 続いて、ガスリー、ラッセル、シューマッハを比較してみよう。

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Fig.15 ガスリー、ラッセル、シューマッハのレースペース

 ラッセルはガスリーの1.2秒落ちだ。ガスリーが0.3秒抑えていたことを加味して1.5秒。10周古いタイヤはデグラデーションが無いため考慮しなくて良い。

 シューマッハはガスリーの1.4秒落ち、ガスリーのペースコントロールを考慮して1.7秒落ちだ。3周古いタイヤをデグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると1.6秒落ちと言える。

 最後にストロールとジョビナッツィを比較しよう。

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Fig.16 ストロールとジョビナッツィのレースペース

 ストロールはジョビナッツィを0.7秒ほど上回っている。デグラデーションは十分に小さく、2周のタイヤの差は考慮する必要はない。

 以上を総合し、表1の結論を得た。