今回はレース最終盤でハッキネンがシューマッハを豪快にオーバーテイクした伝説のベルギーGPを取り上げる。
1. レース展開の振り返り
まず図1にハッキネンとシューマッハのレースペースを示す。
レースはウェット状態でスタートしたが、ここではドライになってからの展開に着目していこう。
ドライタイヤに履き替えた第2スティントでは一貫してシューマッハがハッキネンを上回るペースを見せた。13周目のハッキネンのスピンもあり、シューマッハは自身のピットストップまでに10秒以上のギャップを築いた。
シューマッハはレースの丁度半分となる22周目にピットへ。11.1秒の静止時間で残り周回数分の燃料をたっぷり積んだ。対するハッキネンは27周目にピットイン。こちらもフィニッシュまでの燃料を積んだ。
ここからのペースは圧倒的にハッキネンが速く、そのペース差はグラフからも明らかだ。その差は見る見る縮まり、41周目に周回遅れのゾンタを挟んでの伝説のダブルオーバーテイク。今季4勝目を飾った。
2. レースペースと戦略の分析
給油アリ時代のF1。レースペースには、燃料搭載量とタイヤのデグラデーションの2つの要素が影響を及ぼす。
さて、第2スティントでは、シューマッハが平均0.7秒ほど速い。ただしハッキネンの方が5周分重く(フューエルエフェクトは0.17[s/lap]とした)、タイヤは1周分新しいこと(シューマッハのデグラデーションを0.10[s/lap]とした)を加味すると、同条件のレースペースはハッキネンが0.1秒ほど上回っていたと考えられる。
一方、第3スティントではハッキネンが0.5秒ほど速い。こちらはシューマッハのタイヤが5周古いこと(デグラデーションを0.12[s/lap]とした)を加味すると、シューマッハが0.1秒ほど上回っていたと考えられる。
よって、2人のペースはレース全体を通じてほぼ互角だったと見なすことができる。
さて、シューマッハはラスト22周をノンストップで走り切る戦略を採ったが、これは実は非効率的だ。デグラデーションを0.07[s/lap]と小さく見積もったとしても、11周&11周に分けた方がコース上で約29秒稼げる計算になる。ピットストップで23秒ロスするとしてもトータル6秒有利であり、フェラーリ&シューマッハの実際の戦略はタイム上は不利だ。これにより、シューマッハの素のペースはハッキネンを上回っていたにも関わらず、追い上げと逆転を許す展開になってしまった。
ただし、フェラーリの判断には十分に正当性がある。効率的な戦略を採ってハッキネンに追いついたところで抜けるかどうかは別問題だからだ。実際、このレースではバリチェロやクルサードが中団勢を交わせない展開が見られ、ダンプコンディションということもあってオーバーテイクは容易ではなかった。一度ハッキネンの後ろに下がるリスクを取るより、ハッキネンの前に留まり続ける方を選んだことは決して間違いとは言えない。
「トラックポジションを優先するか、最速の戦略を採るか」。この判断に絶対的正解はなく、だからこそ戦略の違いがレースにドラマをもたらす。それは現在も20年前も変わらぬF1の魅力だろう。
Writer: Takumi