1. 分析結果と結論
まずは表1,2にソフトタイヤ(以下ソフト)でのレースペースを、第1スティントにソフトを履いた場合とレース後半に履いた場合に分けて示す。
表1 ソフトタイヤ(前半)でのレースペース
表2 ソフトタイヤ(後半)でのレースペース
次にミディアムタイヤ(以下ミディアム)についても、同様に前後半に分けて示す。
表3 ミディアムタイヤ(前半)でのレースペース
表4 ミディアムタイヤ(後半)でのレースペース
ソフトタイヤでのフェルスタッペンのペレスに対するアドバンテージが無くなっているが、ペレスはラッセルとレースをしている状況だったのに対し、フェルスタッペンはハミルトンを見ながらタイヤを労っていた文脈を考慮して見たほうが良いだろう。サインツとルクレールについても同様のことが言える。
続いてハードタイヤ(以下ハード)について示す。
表5 ハードタイヤでのレースペース
またタイヤによる差は、スティントの長さや各チームのマシン特性によって異なるものの、平均的におおよそ表6のように結論づけた。
表6 タイヤによるレースペース差
まず、第1スティントでミディアムを履いた2人のドライバーが第2スティントでそれぞれハードとソフトに選択が別れた場合の力関係の変化からハードとソフトの差を0.5秒と導出(オコンvsアルボンで0.6秒、オコンvsリカルドで0.4秒)した。
続いて、第1スティントでのソフトとミディアムを履いた2人が第2スティントでミディアムとハードを履いた場合のそれぞれの差を導き、ハードとソフトの0.5秒差と合わせて三元一次方程式を解くと、それぞれのドライバーの純粋な力関係とミディアムとソフトの差が導ける。ここではハミルトンがルクレールを0.9秒、ミディアムがソフトを0.1秒上回り、フェルスタッペン(第2スティントで0.2秒余裕を持っていた前提)がハミルトンを0.1秒、ミディアムがソフトを0.1秒上回るという結果が出ており、頷けるものとなった。
最後に表7に全体のレースペースを示す。
表7 全体のレースペースの勢力図
表4について言及した通り、フェルスタッペンとペレス、サインツとルクレールの差はソフトでの力関係を真値とした。
また表6の結果を元に各表を総合した。フェルスタッペンとハミルトンを0.1秒差とし、アロンソはミディアムでラッセルと1.0秒、ハードで0.8秒差として、表3にしか存在しないドライバーはアロンソからの差で組み込んだ。
ただし、ボッタスはハードタイヤでの競争力不足によって総合結果で大きく損してしまっている。従ってジョウについては表3の結果のみを反映するならフェルスタッペンの1.5秒落ちだが、ここではボッタスのハードでの競争力不足をマシン特性によるものと考え、ミディアムでのボッタスとジョウの0.4秒差を維持する形で示した。
レースペースを振り返って
今回はメルセデスがレッドブルに肉薄する速さを見せた。しかしタイヤ選択が不利であったため、純粋なパフォーマンス差よりも大きく水を開けられる形となってしまったことが分かった。
そして今回はミディアムとソフトを使った1ストップが正解で、ハードを履いたドライバーがことごとく損をしたことが、表7と実際のレース展開を見比べると読み取れるだろう。
またリカルドがアメリカGPでの不調から一転してノリスと同等のスピードを見せているのも興味深い。
2. 分析方法について
フューエルエフェクトは0.05[s/lap]とし、グラフの傾きからデグラデーション値を算出。タイヤの履歴からイコールコンディションでのレースペースを導出した。
また、終始クリアエアでの走行とはならない場合も多く、その際はダーティエア内でタイヤを労われていた場合(後述のOEC)とオーバーテイクのためにタイヤを使った場合で、クリアエアになった後のペースの解釈が異なる。レースの文脈などから解釈可能な場合と不可能な場合に分け、不可能な場合は比較対象としない方針を採っている。
各ドライバーのクリアエア・ダーティエアの状況把握は、全車の走行状態をこちらの記事にまとめ行った。
また、今回は予選で使用したソフトと新品ソフトの差、スクラブ済みと新品のミディアム・ハードの差は無視することとした。
また、スティント前半でダーティエアでも、途中からクリアエアになっており、かつ前半のダーティエア内でもタイヤを労われていて極端なペースダウンでもない場合、スティント全体をクリアエアのように扱ってよく、当サイトではその状態をオープンエンドクリアエア(OEC)と定義している。
3. 付録
参考までに、分析に使用したグラフを添付する。
※チームメイト間の比較は全車の走行状態を参照のこと
Analyst: Takumi