2026年モナコGPは、アントネッリの才能が最も鮮烈な形で示された一戦となった。
抜けない何よりも重要なポールポジションをフェルスタッペンから奪い、決勝でもタイヤを管理しながらレースを支配。さらに混乱の中団争いでは、アストンマーティンが今季初入賞を手にした。
今回は、アントネッリの勝利が持つ意味と、荒れた展開の中で浮かび上がった中団勢の攻防を、データを交えて振り返っていく。
1. 皇帝アントネッリ時代の幕開けか?
1.1. 価値あるポールポジション
「抜けないモナコ」という言葉は時として批判的な意味合いで使われることもある。だが、レースで抜けないことは、土曜日の価値を高めることにもなる。ガードレールに覆われたトラックでトップドライバーたちがリスクを負って0.001秒を削りにいく様は、1年で最も迫力のある瞬間の一つなのではないだろうか。
Q3のラストアタック。まずはフェルスタッペンがトップタイムを記録する。これはそれまでのルクレールのトップタイムを0.257秒上回る快心のアタックだった。だが、アントネッリはそれをさらに上回り、0.043秒差でポールポジションを獲得した。
図1にアントネッリとフェルスタッペンのテレメトリーデータを示す。

(data: GP Tempo)
これを見ると、1周の大半においてフェルスタッペンが優っていたことがわかる。特にアントネッリのターン1の出口はやや攻めすぎた。しかし、差がついたのはヌーベルシケイン(ターン10)だ。ここでアントネッリが0.2秒稼いだことで、ポール獲得へと至った。
ちなみに、アントネッリのヌーベルシケインの出来は傑出しており、ハミルトンと比べても0.1秒以上速かった。さらに、フェルスタッペンのヌーベルシケインの出来は、自身の1回目のアタックと比べても0.1秒ほど劣っていた。アントネッリの方が最高速が速いにも関わらず、ブレーキングを遅らせ、ボトムスピードと脱出速度まで高かったのだ。ややコンサバティブになったフェルスタッペンと、一周を攻め切ったアントネッリで、後者に軍配が上がった。
フェルスタッペンが鬼神の走りを見せたからこそ、アントネッリのポールポジションが輝く。同僚のラッセルに0.394秒もの差をつけたスーパーアタックの後、1時間経っても体の震えが止まらないほどアドレナリンを全放出したアントネッリは、夜眠ることにも苦労したと言う。このような予選は「抜けない明日」が待っているからこそ実現されるものだ。「モナコを抜けるように」という議論も時折見られるが、その代償としてこのような土曜日が失われるリスクがあることも忘れてはならない。年に一度、F1のトップ・オブ・ザ・トップのドライバーたちの極限状態での凄みが見られるこの予選を失ってはならない、筆者はそのように考える。
1.2. レースも完全支配
アントネッリはレースも完全に支配した。図2にアントネッリとフェラーリ勢のレースペースを示す。

アントネッリはまず序盤に引き離しにかかった。だが13周目以降はマネジメントに入り、一時的にハミルトンがペースで上回っていた。だが、ハミルトンのペースは速すぎたようで、20周目を過ぎたあたりから著しいデグラデーションに見舞われた。ルクレールが前半は抑え気味に走ってタイヤを持たせたのとは対照的だ。これに対してアントネッリはタイヤをしっかり持たせ、スティントの最後に2周速いラップを刻んでタイヤ交換へと向かった。タイヤマネジメントに定評のあるアントネッリが、今回も輝きを放った。
そして第2スティントでも周回遅れを処理しながらハイペースを維持。赤旗再開後は1:13.481という驚異的なファステストラップを叩き出しチェッカーを受けた。ちなみにこのタイムは予選Q3進出に相当する。
モナコというサーキット特性を考えれば、序盤は抑えて走り、ピットストップが近づいてきたタイミングで引き離すのも手だ。あるいは第2スティントでは後方とのギャップを見て、差をキープしながら走っても良いはずだ。さらに赤旗再開後ならば、ハミルトンを0.8秒程度後ろに従えてゆっくり走っても抜かれはしない。アロンソならばここに挙げた全てでその戦略を採っていただろう。だが「モナコで速く走って勝つ」という選択をしたアントネッリに、彼の個性を垣間見ることができる。このドライバーが、モントリオールのスプリントレースで何度も芝生に飛び出しながら果敢に勝ちを獲りに行った、そう考えると非常に頷ける。
また、2回のスタートを決めた点も興味深い。これまで苦手としてきたスタートだが、特に赤旗再開後では30秒のリードから優勝を失いかねないプレッシャーのかかる局面で、見事に決めてみせた。
いざという場面での異常なまでのアグレッシブさと、それを巧みに制御して壁に囲まれたサーキットを78周走り抜く力。これらと合わせて考えても、シューマッハやフェルスタッペンのような圧倒的な支配が始まろうとしているのかもしれない。
2. 中団勢の激戦とアストンマーティンの初入賞
エイドリアン・ニューウェイが技術面の指揮を執るアストンマーティン。だが今季は開幕前から大苦戦を強いられてきた。その中で今回は大荒れのレースでアロンソが10位入賞を果たした。
今回のアストンマーティンは戦略面ではなかなか興味深い。両ドライバーともミディアムタイヤでスタートしたが、アロンソは3周目、ストロールは4周目にソフトタイヤに履き替え、なんとそのまま走り切る戦略に打って出る。秒単位で遅くても抜かれないモナコならではの作戦だ。
図3に中団勢のギャップグラフを示す。

アストンマーティン勢は、早めにピットに入ることで1周目に入ったボッタスらの前に出た。結果的にはボッタスのペースが非常に遅く、ここまで早く入る必要はなかったのだが、混み合った中団グループのペースをクリアエアのボッタスが上回る可能性は考えられるため、このような戦略になったのだろう。
これにより、アストン勢にアンダーカットされることを防ぐため、まずはオコンがピットへ。そしてオコンのアンダーカットを防ぐため、ヒュルケンベルグもピットへ向かう。そして彼らのペースが速く、ウィリアムズ勢、コラピント、リンドブラッドはアンダーカットの危機に瀕することになった。
これにより、ウィリアムズはチームプレイで後ろを押さえ込む恒例の戦略を採らざるを得なくなった。まずはサインツが押さえる役でアルボンが逃げ、アルボンがピットを済ませると、今度はアルボンが押さえる役となり、サインツが逃げた。サインツのピット作業が4.0秒かかってしまったが、ここはモナコ。サインツの位置を確認しながらアルボンがターン1でスローダウンし、ヒュルケンベルグを押さえてチームプレイを成功させた。
この間にアストン勢は集団に追いつくことができた。とはいえ、これではまだ15,16番手。だがストロールとルクレールのクラッシュによって赤旗が出ると状況が変わった。
まずはラッセルだ。ラッセルは5秒ペナルティを消化しなかったことでドライブスルーペナルティを課された。そして赤旗再スタート後の71周目は、半周だけ極端に遅く走りハミルトンとの間隔を開けてクリアエアを獲得、そこからの1周半で中団勢を可能な限り引き離す戦略に出た。しかしこれによって中団グループは大混雑。ヘアピンではサインツとヒュルケンベルグが接触、ポルティエではサインツとコラピントが接触した。これによってアロンソはコラピントの前へ、サインツはリタイア、ヒュルケンベルグはペナルティとなった。そしてペレスの再スタート時のグリッド停止位置の違反によって、アロンソは10位入賞となった。
今回のアストンマーティンは、ブレーキを踏む度に効き方が違う非常に難しい車であった。その中でアロンソはストロールに予選で0.712秒差をつけ、レースではストロールがトラックリミットペナルティ(おそらくヌーベルシケインのオーバーラン)を受ける中で、アロンソがクリーンに走りきった。
この2人の差は、車に問題がある時に大きくなる。良い時のストロールのスピードには疑いの余地はないが、一貫性が課題だ。過去3年の両者クリーンな予選を振り返ると、以下のような比較結果になる。

対アロンソの平均タイム差は年々縮まってきており、読み方によってはアロンソにも衰えが見え始めたように見える。
だが、今年はレースペースで有効な比較が可能なグランプリが少ないものの、予選では0勝5敗の平均0.569秒差と大差がついている。これは25年のマシンがアンダーステアで遅くはあるものの乗りやすい車だったのに対し、今年の車には問題が多く、両者の間に差がついていると解釈するのが自然だろう。
2024年中国GPの会見でアロンソは、ストロールについて「自分より車のことにかなり敏感で、そのフィードバックがチームにとって重要」と言っている。一方で自身については、「車の問題をドライビングで回避してしまうことがある」「どんな車でも90%は引き出せるが、100%に到達するにはチームメイトの細かいセットアップ/バランス面の助けが必要なこともある」という趣旨で話している。
アストンマーティンとしては、コックピットで問題を覆い隠してしまうアロンソより、ストロールが速く安定して走れるマシンを目指すことが、重要になってくるのかもしれない。
3. 次戦への展望
次戦はバルセロナ・カタルーニャ。モナコとは対照的に、高速コーナーと中速コーナーが連続し、マシンの空力性能、タイヤマネジメント、セットアップの完成度が総合的に問われる一戦となる。
注目は、モナコで苦戦したマクラーレンが本来の速さを取り戻せるかだ。彼らが競争力を発揮した鈴鹿のような高速サーキットであることを考えれば、バルセロナでは再び上位争いに加わる可能性がある。
一方で、ここは単なる高速サーキットではなく、タイヤへの負荷も大きい。モナコで圧倒的な存在感を示したアントネッリが、より標準的なトラックでも支配力を維持できるのか。ラッセルの巻き返しはあるのか。バルセロナは、その答えを確かめる重要な一戦となるだろう。
インタラクティブグラフ
ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。
このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。
特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。
- 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
- 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。
この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。
また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。
Lap Times
Gap to Leader
Takumi, ピトゥナ
