• 2024/11/21 15:26

2021年トルコGPレビュー(1) 【「らしくない」レース?】

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 僅差のチャンピオン争いもついにシーズン佳境。F1サーカスは、中速コーナーとアップダウン、そして高速で回り込む名物コーナー「ターン8」などが特徴的なイスタンブールパークサーキットにやってきた。しかしそこで繰り広げられたのは、思わぬ展開のタイヤマネジメントゲームだった。
 今回もグラフを交えて随所で繰り広げられたバトルや全体像を振り返ってみよう。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

※レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した

目次

  1. 真価を発揮
  2. らしくないレース
  3. ルクレールとハミルトンの戦略
  4. 用語解説

1. 真価を発揮

 今回はハミルトンがパワーユニットを交換し、予選ポールからの10グリッド降格。11番手からのスタートとなった。スタートは雨。気温は低く、湿度も高い中、乾きにくい展開が予想された。

 その中で横綱相撲を繰り広げたのが、予選で2番手ながらハミルトンの降格でポールポジションからスタートしたボッタスだ。ボッタスは図1の通り、フェルスタッペンを従えながらしっかりタイヤをマネジメントし、スティント後半でフェルスタッペンのタイムが落ちてきた中でペースを維持して、差を広げてからピットストップを迎えた。これによりレッドブルはアンダーカットやオーバーカットを仕掛けることもできなかった。
 今回のレースはレース終盤にドライタイヤに履き替える可能性を考えて、そこまでタイヤを持たせなければならない、タイヤマネジメントゲームだった。そして、ドライになる可能性が薄いことが分かってきた段階でインターミディエイトタイヤを交換し、第2スティントはグレイニングと上手く付き合わなければならないという非常に難しいレースだったが、メルセデスとボッタスは完璧にやり遂げた。
 レース最終盤には2回ファステストラップにチャレンジし、最終ラップで1.30.432のファステストラップを叩き出した。

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Fig.1 ボッタス、フェルスタッペン、ペレスのレースペース

 ボッタスはダーティエアを切り抜けオーバーテイクしていく展開になると、ハミルトンやフェルスタッペンらと比べて見劣りするが、ポールポジションからの逃げ切りは非常に得意とするドライバーだ。今回も例に漏れず完璧なレースとなった。

2. らしくないレース

 今回は何人かのドライバーに対して「らしくない」と感じた方も多かったのではないだろうか?

 まずはスタートで波乱が起きる。アロンソが、ガスリーとの接触で最後方に転落したのだ。これ自体はガスリーがアンダーステアを出しており、コーナーのエイペックスで車の向きを変えきれていないため、接触自体はスチュワードの判断通りガスリーの過失だが、通常のアロンソならばここから冷静に追い上げて最大限の順位でフィニッシュするはずだ。
 しかし、今回はシューマッハに接触しペナルティを貰うと、ダメージがあったかは定かではないが、その後のペースも図2の通りオコンより明確に見劣りする内容となった。予選5位と今季最高の出来から転落し苛立っていたのかもしれないが、らしくない展開だった。

画像1を拡大表示

Fig.2 アロンソとオコンのレースペース
(アロンソは22周目から41周目までクリーンエア)

 その他でも、フェルスタッペンが2位を淡々と走行し一度も見せ場を作らなかったのは、らしくないレースに見えた。だが、再度図1を見てみると、メルセデスの競争力が高く、ボッタスがフェルスタッペンに何かをトライさせる隙すら与えなかったということが分かる。

 フェルスタッペンは、第1スティント後半で無理が祟ってペースダウンするほど、スティント前半でボッタスに接近しプレッシャーをかけ続けた。ペレスよりも全体的に0.5秒ほど速く、今回のレッドブルのマシンからすれば相当の力走を繰り広げたことが分かる。一方で、第2スティントではペレスと比べてもやや劣るぐらいで、あくまで2位キープの走りに切り替えているように見える。この辺も「追いついたところで抜くチャンスは殆どない」事と、攻めた走りをする事のリスクを天秤にかけ、手堅い判断と評価できる。こうした計算ができるとチャンピオン争いでも強みになってくる。したがって、データを読み解けば、ベストのフェルスタッペンのパフォーマンスだった。

 さらにルクレールも、ノンストップを視野に走っている最中にターン12でロックアップしてしまい、ここにも「らしくなさ」が見えた。図3より、ルクレールがロックアップした37周目と翌週38周目の前後では1分34秒台とそこそこのタイムで走れており、この時点ではルクレールのタイヤはそこまで酷い状況では無かったと思われる。むしろここでタイヤを傷めてしまい、タイムも4秒以上失ったことが、ノンストップ作戦を失敗に繋げてしまった一つの要因となったと思われる。この点で言えばルクレールも、らしくないレースとなってしまった。
 一方で、フェルスタッペンに肉薄し、36周目までは最終盤を見据えてタイヤをよくマネジメントした点はやはり流石というべきだろう。

画像3を拡大表示

Fig.3 ルクレール、ボッタス、ハミルトンのレースペース

 また、ハミルトンも詳細は後述するが、流れが悪かった。普段のメルセデスとハミルトンのチームワークは絶妙で、今回のように特別大きなミスやトラブルが無い中でパッとしない展開は「らしくない」印象がある。

 このように、通常非常に優れたパフォーマンスを見せるトップドライバー、トップチームも決して完璧ではないことを改めて見せられたレースであると筆者は感じた。決して100点満点とは行かない中で如何にシーズン全体の結果を最大化していけるか、それがこのスポーツの勝負の肝なのだろう。

3.ルクレールとハミルトンの戦略

 今回はルクレールがノンストップ戦略にトライし、ハミルトンも1ストップを勧めるチームに対して強く抗議するシーンが印象的だった。

 ここで2人のレースペースを見る前に、まず「タイヤを換える」ということがどういうことなのか把握しておこう。まず早めに交換したリカルドとアロンソのレースペースを示す。

画像4を拡大表示

Fig.4 リカルドとアロンソのレースペース

 2人ともタイヤ交換後、グレイニングでペースが落ちており、交換前と変わらないタイムで10周ほど推移している。そして10周前後でタイムが戻ってくるという構図だ。つまりピットストップ1回分の20秒を取り戻し始めるのはピットストップ後10周してからの話だ。そこから1周2秒速く走って、さらに10周で元の位置に戻ってこれらる単純計算だ。したがって、チェッカーの20周前つまり38周目より後に入るとピットストップ分のタイムを取り戻すのは難しい。
 各チームそれを分かっており、見事に40周目手前で続々とピットストップを行なった。ギリギリまで待ったのも、ドライに換えるタイミングが来るか否かの判断を可能な限り待つためだと考えらえる。
ピレリ公式のピットストップ表はこちら

 ここでルクレールとハミルトンのレースペースを見るために、図3を再掲する。

画像3を拡大表示

Fig.3 ルクレール、ボッタス、ハミルトンのレースペース

 実際のレースではルクレールもハミルトンもグレイニングフェーズから回復する前にチェッカーフラッグを迎えてしまっている。これでは大損で、結果論で言えばもっと早く判断すべきだった。

 ただし、ルクレールはチャンピオンを争う立場ではなく、失敗したところでペレスに対して順位を一つ失う程度で済むため、「ノンストップを貫く&ボッタスに抜かれたらその周で交換」は「勝利を目指し、勝てないことが確定してからダメージを最小限にする」という好判断だ。判断の過程でもサインツの交換後のタイヤを調べて、最後まで持つことを確認しており、判断プロセスにも何の問題もなかった。

 そして、メルセデスはタイトル争いをする立場であり、リスクを負うのは禁物だ。この場合の最大のリスクはタイヤが壊れてリタイアすることであり、ノンストップはあまりにもリスキー。一方で、フェルスタッペンとのポイント差を考えて、一つでも前でフィニッシュしたいというジレンマを抱えた。

 さて、ハミルトンにボックスの指示が飛んだのは41周目だが、これはおそらく37周目に交換したボッタスのタイヤを調べて、ノンストップがリスキーと判断したのだろう。これが上記のジレンマに対するメルセデスの答えであり、この判断プロセスは完璧だ。

 そして、この41周目のタイミングならば、ハミルトンはペレスの前でフィニッシュできたかもしれない。
 そもそも、今回ハミルトンが目指せた最高の順位は、「フェルスタッペンの後ろ、ペレスの前」だった。フェルスタッペンがグレイニングから回復すればハミルトンを引き離していくことは明白だったからだ。それなら素直に1ストップするべきだ。

①ペレスとはピットタイミングをずらしてタイヤの差でコース上でのオーバーテイクのチャンスを作り、4位をもぎ取りに行く
②ノンストップでリタイアの危険を冒しながら4位を狙う

では明らかに①の方が賢明と言える。

 このようにメルセデスの41周目のコールは

・ボッタスのタイヤを見るまでノンストップの可能性を除外しなかった事
・リタイアのリスクを排除したこと
・望みうる最高の順位を得られるチャンスを作ったこと

の3点で非常に賢かったと言える。しかしドライバーの意見に過度に耳を傾けてしまったことが今回の敗因と言えるかもしれない。これが上手くいっていれば、最終的にルクレールが下がったことも手伝って3位、例えペレスを抜けなくても4位を確保できる戦略だった。

 Part2では中団勢以降のレースを振り返ってみよう。

4. 用語解説

タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

オーバーテイク:追い抜き

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。

グレイニング:ささくれ摩耗。正常摩耗がタイヤの表面が発熱によって溶けていくのに対し、グレイニングはタイヤが冷えた状態で負荷がかかることで消しゴムのように削り取られてしまう現象を指す。スローペースで走っていると回復してくることもある。

オーバーステア:曲がりすぎ。スピンしやすい。

アンダーステア:曲がらなすぎ。

ニュートラルステア:ちょうど良い。これらはドライバーの主観であり、フェルスタッペンのようなオーバーステア好きの人にとってアンダーステアと感じても、そのマシンに他の人が乗るとオーバーステアと感じることもある。

エイペックス:コーナーの最もインにつく部分。

ボックス:ピットインの事。