こちらのページでは天候変化とタイヤマネジメントが鍵となった2007年中国GPをお送りしよう。
なお、最初に1. レースのあらすじ、次に2. 詳細な分析を記した。
1. レースのあらすじ
予選ではマクラーレンのハミルトンがポール。2番手にフェラーリのライコネン、3番手にはマッサ、4番手にマクラーレンのアロンソがつけた。
決勝スタート時は雨。各車インターミディエイトでスタートし、序盤はハミルトンが大逃げを打った。10周目を終えた段階でライコネンとの差は6.6秒だ。
各車1回目のピットストップを終え、20周目付近から路面は乾いてきた。すると、25周目にはブルツがドライタイヤに交換し、中団勢の何台かが後に続いた。
しかしこの時点で10分後の雨が予想され、実際に27周目には再び雨脚が強まってきた。ラップタイムは10秒以上落ち、ドライタイヤへの交換は厳しくなった。
だがこのタイミングでハミルトンのタイヤが悲鳴を上げる。ライコネンやアロンソに対して急激にペースが落ちてしまい、29周目にはライコネンがオーバーテイク。31周目には右リアが部分的に剥離し、アロンソが真後ろに迫った。
ここでピットストップを行うことにしたハミルトン。しかしピットエントリーでコースオフすると、グラベルに嵌ってしまい、無念のリタイアとなる。
一方のライコネンとアロンソは通り雨が上がった所でピットストップ。ドライタイヤに履き替えチェッカーまで猛プッシュ。ここでは波乱は起こらず、ライコネン、アロンソ、マッサの順でフィニッシュとなった。
2. 詳細なレース分析
2.1. 手堅く行きたいハミルトン
まずはライコネン、アロンソ、ハミルトンのレースペースを図1に示す。
Fig.1 ライコネン、アロンソ、ハミルトンのレースペース
最初に、このレースを見る上での大前提を確認すると
・ハミルトンにとっては手堅く走り切るレース
・ライコネンとアロンソにとっては勝ちにいくレース
という事だ。ハミルトンは残り2戦でアロンソに対して8ポイント、ライコネンに対して17ポイント差をつけており、表彰台すら必要ない程だった。
まずハミルトンの第1スティントは、アロンソより4周、ライコネンより5周軽く、14周目に1回目のピットストップを行う戦略だった。これによって確実にポールポジションを獲りに行ったわけだが、これにはスタートで混乱に巻き込まれにくいという効果がある。この判断もチャンピオン争いにおけるリスクマネジメントにおいては理にかなっていた。
2.2. 鍵はタイヤマネジメント
ただし、ハミルトンのペース自体は飛ばし過ぎだった。図1からもライコネンは序盤は無理をせずにタイヤをセーブし、1回目のピットストップ前あたりからペースアップしている。アロンソもライコネンほどではないが同様の傾向だ。
路面が乾いていく展開では、水量の少ない路面を溝が減ったインターミディエイトタイヤで走れるように、スタートで履いたタイヤを交換せずに使い続け、ドライタイヤに履き替えるまで持たせる戦い方がセオリーだ。今回はレース中盤で再度雨が予想されただけに、タイヤはできるだけセーブしておきたかった。
1年前(レビューはこちら)はアロンソが同様のコンディションで飛ばし過ぎ、タイヤを交換する羽目になりペースダウン、シューマッハに優勝を攫われた。今回はルーキーのハミルトンが同じ罠に嵌った形と言えるだろう。
2.3. 複雑な天候変化とリスクマネジメント
ここで生まれたタイヤの状態の違いが効いてきたのが27周目からの雨だ。通常ならば26、27周目付近で上位勢もドライタイヤに交換する所だろう。しかし、ここで通り雨が来たためインターミディエイトで走り続けざるを得ない展開だった。
この時ハミルトン&マクラーレンには3つの選択肢があった。
①劣化したインターで走り続ける(実際に採った戦略)
②ドライに交換する
③新品インターに交換する
この中で最もリスクが少ないのが③であると筆者は考える。
②は雨脚が強まればコース上にマシンを留めておく事も難しく、最悪クラッシュ、ノーポイントの可能性もある。何とかピットまで持ち帰ったとしても、ピットストップ2回分をロスすることになり、9位以下になるリスクは十分にあり得た。天候を完璧に読むのは難しいこと、ハミルトンのチャンピオンシップでの状況を鑑みれば、これは論外だろう。
③はクラッシュの危険性がなく②よりマシだ。バトンやベッテルには負けたと思われるが、6位は死守できただろう。雨が長引けば、雨量の多い路面で新品インターの性能は悪くないはずだ。一方雨がすぐに止めば、新品インターは苦戦すると思われるが、すぐにドライに交換できるためピットストップ1回分のロスだけで済む。
では①はどうだろうか?①のメリットはピットストップ1回分をロスしないことだ。だが、コース上に留めておくことすら難しい状態となれば、②程ではないもののリスキーと言えるだろう。そしてこの戦略を採る以上、ハミルトンには例えアロンソやマッサに抜かれても、確実に4位以内で2回目のピットストップを迎える走りが求められた。
ただし、マクラーレンとしてはそこまで深刻な状態と考えていなかったのかもしれず、①を選択したことを後悔するのは、やや後出しのような感じがしなくもない。実際右リアが目に見えて剥離してきた31周目にはピットに入れている。
よって、マクラーレンとすれば「ピットストップ1回分のロスに怯えず③を選択していれば」、ハミルトンとすれば「ピットエントリーでもう少し慎重になっていれば」と思うところがあるだろう。ただし、チーム・ドライバー共に厳しい状況の中で精一杯の判断を行った上でのことだ。そしてこうした経験から人も組織も学び、強くなっていくのだろう。
若きハミルトンはこの敗北から初タイトルを逃し、一方のライコネンはこの勝利から大逆転のタイトル獲得へと繋げることになる。アロンソを含め、この名勝負から各々が何を考えてこの14年間を歩んできたのか?彼らの歩んだ激闘の軌跡に想いを馳せたくなるレースの一つだった。
Writer: Takumi