• 2025/12/5 12:45

2025年アゼルバイジャンGPレビュー

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 バクーの街を駆け抜ける長いストレートと、城壁沿いのタイトなコーナー、そして目の前に迫るバリア。アゼルバイジャンGPは、“力強さと繊細さ”が同居する舞台だ。そんなコントラストの濃い一戦を、今回もデータを交えて振り返ってみよう。


1. ドライバー力での勝利

 今週末のフェルスタッペンはまさに圧巻だった。

 予選は風の影響もありクラッシュが多発。そして、Q3では雨も絡み、非常に難しい展開となった。しかし、フェルスタッペンは、セッション終盤の悪コンディションを物ともせず、降雨前でコンディションが良かった時にマークされたサインツのタイムを0.478秒上回ってポールポジションを獲得した。これはチームメイトの角田を1.026秒上回る驚異的な走りで、正に王者の風格溢れるものだった。

 レースでは、ハードタイヤを選択。これにより、セーフティカーやVSCの出やすいトラック特性においても、不運に見舞われる要素を最小化した。そして、ポールポジションから危なげなく逃げ切り、ポール・トゥ・ウィンに加えてファステストラップも記録し、いわゆる「グランドスラム」を達成した。


2. ラッセルvsサインツ

 サインツはミディアムタイヤで27周目まで引っ張ったが、その時、ハードタイヤスタートのラッセルは2.1秒差まで迫っていた。そしてここからラッセルは、27周古いタイヤであるにも関わらず、サインツを平均0.105秒上回るペースで周回を重ねた。

図1 ラッセルとサインツのレースペース

 さらに、ラッセルはインラップが1:48.001と異常に速く、これは同時期にピットストップを行ったフェルスタッペンや角田よりも0.7秒以上速い。そして驚くべきことに、このタイムの殆どがピットレーン進入時のレイトブレーキングによるものだ。図2にそのテレメトリデータを示す。

図2 ラッセル、フェルスタッペン、角田のテレメトリデータ
(data: F1 Tempo

 シケインを通過しながらブレーキングを行う “難所” として知られるバクーのピットレーンの入り口。ここでラッセルは大量のタイムを稼ぎ出した。これと2.3秒というナイスなピットストップによって、サインツに対してトラックポジションを確保。2番手という好リザルトに繋げた。


3. ミスを成長に繋げられるか

 ポイントリーダーのピアストリにとっては、週末を通して苦い経験となった。予選ではターン3でオーバースピードによりクラッシュ。決勝ではジャンプスタートから後退し、焦りの中で無理な仕掛けを試みて再びクラッシュに終わった。

 ここから考えられるのは2つのシナリオだ。

 一つは、失敗が学習プロセスの一部だという考え方。どんな人間も失敗から学び、強くなる。黒歴史無くして白歴史はありえない。それらはより良い未来のために避けて通れない通過地点なのだ。今回のミスが将来の糧になるならば、ピアストリの優位はまだ続くと見ていいだろう。

 とはいえ、F1ドライバーといえども、本質は生物学的限界に支配された単なる物理的な存在だ。王座を争うプレッシャーに耐えることは、如何なる「学習」を以てしても十分ではない可能性もある。シューマッハやハミルトンでさえ、初タイトルを前に平常心を失った。ピアストリもこの重圧を乗り越えられなければ、フェルスタッペンやノリスのタイトル獲得のチャンスが広がってくるだろう。


4. 角田の順応とタイトル争い

 予選では雨と風が絡む中フェルスタッペンに1秒以上の差をつけられてしまった角田。しかし、レースペースは非常に良かった。図3にフェルスタッペンと比較する形で示す。

 同様のハードタイヤスタートで、第1スティントのクリアラップを平均すると、角田はフェルスタッペンの0.520秒落ちで走れている。0.5秒差はこれまでで最も小さな差であり、今後もこの程度のペースを予選、決勝を通じて見せられると、マクラーレン勢のポイントを削り、フェルスタッペンのタイトル獲得を後押しできるかもしれない。

 また、角田はレース後のインタビューで、ローソンに仕掛けるチャンスはあったが、(フェルスタッペンの)チャンピオンシップを考え、ノリスを後ろに留めておくことの重要性を考えていたと語った。こうした、姿勢のチームメイトがいると、2021年の最終戦のような形も取りやすいため、レッドブルとしては一つの強みになるだろう。

参考:Tsunoda held back in Lawson battle: ‘There were a lot of opportunities I could go inside’


5. まとめと次戦への展望

 アゼルバイジャンGPは、予選での決定的なパフォーマンスがそのまま決勝を形作る構図となった。フェルスタッペンの完璧な週末、ラッセルの緻密な戦略遂行、そして角田のファインチームプレー際立った一戦だった。一方で、ピアストリの失敗がタイトル争いに与えた影響も小さくない。

 次戦シンガポールは、市街地特有の低速テクニカルサーキット。予選順位の重要度はバクー以上であり、暑さとタイヤマネジメントも結果を左右する要素だ。ここで再びフェルスタッペンが盤石な速さを見せれば、タイトル争いの流れは一気に変わるだろう。一方、ピアストリにとっては、プレッシャーとどう向き合うかが問われる一戦となるだろう。

Takumi、ピトゥナ


インタラクティブグラフ

 自分でさらにデータを深掘りしたいという方には、こちらのグラフを使っていただければ幸いだ。

 各車のペースグラフとギャップグラフをインタラクティブな形にしており、ボタン操作で見たいドライバーだけを表示できる。ラップタイムグラフにおいて、ダーティエアのラップ(前方2秒以内に他車がいる)は各データ点を白抜き、クリアエアのラップは塗りつぶしてあるため、レース文脈も把握しやすい。右上のボタンでダウンロードやズームなども可能だ。

 ぜひ、ご活用いただきたい。

Race Lap Time Interactive Graph

Lap Times

Drivers:

Gap to Leader

注意点:

ラップタイムグラフにおいて、ダーティエアのラップ(前方2秒以内に他車がいる)は各データ点を白抜き、クリアエアのラップは塗りつぶした。

Takumi