今年も桜満開の中、鈴鹿サーキットで日本GPが行われた。アントネッリがポール・トゥ・ウィンで、最上最年少ポイントリーダーの座に。そして、レース全体を見れば、多くの抜きつ抜かれつの戦いが見られた一方で、幾つかの課題も見えた。今回も分析的視点を交えながら、グランプリを振り返ってみよう。
1. ifの世界に見る “アントネッリ劇的2勝目!”
FP3から予選にかけてチームメイトのラッセルを明確に上回り、着実にポールポジションを獲得したアントネッリ。だが、スタートに失敗してしまい、6番手まで順位を落とす。アントネッリのスタート失敗は、メルボルンのレース、上海のスプリント、そして今回と、4回中3回の高確率で、この点は明確な課題だ。4月のグランプリ開催なし期間で、課題の克服に取り組むことだろう。
そこからのアントネッリのレースは非常に面白い展開になっていた。
2周目のターン1でハミルトンを交わすと、11周目のシケインでノリスをパス。ここでの追い越しはホームストレートで抜き返される展開になりやすいが、ここも完璧に守り切った。
そして17周目、ルクレールがピットに入るとクリアエアとなり、ここからのペースが非常に印象的だった。
図1にアントネッリ、ラッセル、ピアストリ、ルクレールのレースペースを示す。

第1スティント終盤でクリアエアを得たメルセデス勢。しかし、ラッセルはピアストリの呪縛から解き放たれても大きくはペースが上がらない中で、ルクレールから解放されたアントネッリは大幅にペースアップ。L18~20の3周平均では、アントネッリが0.540秒上回った。そこまでのタイヤの使い方としては、互いに集団を掻き分けてきて、スティント後半でもラッセルはピアストリ、アントネッリはルクレールを抜きあぐねており、ペース的にも優位な差はない。よって、同じような条件でスティント終盤にこれだけのペース差が生まれたことになり、ラッセルにとってはショッキングな数字だろう。
これにより、ラッセルがピットに入る直前には、その2秒後方まで追い上げたアントネッリ。ここからの展開は明らかで、数周ステイアウトしたアントネッリが履歴面で優位なタイヤでピアストリとラッセルを追い上げて、レース後半コース上で交わすというエキサイティングな展開になるのは目に見えていた。
ちなみに図1からも分かるように、アントネッリのペースは新品ハードのルクレールやピアストリと互角か、やや速いレベルだったため、自身がピットに入った際には、ルクレールの前で戻れた可能性が高いだろう。そしてラッセルのペースもピアストリのペースになるため、ラッセルとの2秒差もほぼキープした状態でコースに戻ることになる。ここから第1スティント終盤であれだけのペースアドバンテージがあったアントネッリが数周分新しいタイヤを履けば(例:デグラデーションが0.05[s/lap]程度なら4周で0.2秒相当のアドバンテージ)、ラッセルとピアストリに追いつくのに2周程度。30周目付近から激しいバトルになっていた可能性が高い。
だが実際のレースではベアマンのクラッシュによりセーフティカーが出動してしまい、フリーストップであっさり優勝。上記のような激しいバトルは幻と消え、展開としてはアンチクライマックスになってしまった。このクラッシュは今季のレギュレーションの性質から必然的に生まれてくるものであり、本来起きてはならないことだ。この点について、次節で述べる。
2. 新レギュレーションの危険性
2.1. 安全性の問題の顕在化
筆者は前戦中国GPのレビューにて、以下のように記述した。
オーバーテイクのチャンスは、スプーンかもしれない。
(中略)
よって、西ストレートに向けてバッテリーを温存したい考えが主流になると思われる中で、スプーンまでの全開区間でエネルギーを放出して抜きにかかるという手は考えられるだろう。ただしスプーン手前の狭く曲がった区間で50km/hの速度差が生じるのは、安全性の観点から非常に危うい。FIAは、先に区間制限など何らかの措置を敷いておくべきかもしれない。
前半部分は、ルクレールのラッセルに対する意表をつくオーバーテイクというポジティブな形で実現した。だが、当たってほしくなかった後半部分もベアマンのクラッシュという形で的中してしまった。
今季のマシンでは、どうしてもエネルギーマネジメントの違いから、全開区間で各車に大きな差が生まれる。これがコース幅の広い文字通りの(曲がっていない)ストレートなら問題ない。だが、「全開区間後半で道幅が狭く曲がった部分」では安全上の大きな懸念が生じる。
今後懸念が大きい区間をいくつか挙げてみよう。
- モントリオール:クビサがクラッシュしたターン10手前
- バルセロナ:ターン3で2016年メルセデス同士討ちと同じ現象が起きやすい
- スパ:ブランシモン
- ザンドフールト:ターン4~6の全開区間
- マドリード:ターン12。その後も曲くねった全開区間が続き、今季レギュレーション問題がなくても安全性に懸念あり。
- バクー:ターン13,14。極めて深刻な追突事故の懸念。
- ラスベガス:ターン10,11と17。
これまでは、コーナーがバッテリーセーブの場所になってしまったことや、ストレート後半で減速していく状況への違和感などに批判が集まっていたが、安全性に明確な懸念がある以上、FIAはすぐにでもレギュレーションを変更するべきだろう。
2.2. 具体的な変更案
筆者はPUの専門家ではないため、ここに記す案は間違っているかもしれないことを断っておく必要があるだろうが、それでも具体的な処方箋は提示しておこう。
まず、目的を明確にしておくと、一つは安全性の確保、もう一つはドライバーが「マリオカート」ではなく「F1」をドライブできるようにすること、つまりエネルギーマネジメントを気にせず、コーナーを攻められるようにすることだ。
これらを同時に解決する方法は限られている。
一つはMGU-Kの回収量と出力の制限を行うこと、そしてブーストボタンを押せる時間と区間を限定すること、そしてアクティブエアロの廃止だ。
⚫︎MGU-Kの回収量と最大出力制限
まず、1周あたりの回生可能なエネルギー量を「ブレーキングだけで回生できる量」に縛る。その上で、MGU-Kの最大出力を「そのエネルギーをラップ全域で常に放出し続けても持つ出力」に設定する。表1に今後のトラックにおける「全開率」「ブレーキング時間」「理論上の回生エネルギー量」「実際の推定回生エネルギー量(理論値の70%とした)」「MGU-Kの最大出力」「実際の最大出力設定値の幅」を示した。これらはあくまで推定値である点はご容赦いただきたい。また、実際にはパーシャルスロットル区間でもMGU-Kの出力は効いているため、実運用ではウィンドウのレンジ下限(太字記載)寄りに設定される可能性が高いと考えていただければ幸いだ。
E理論 = 350kW × ブレーキング秒/周
E現実 = E理論 × 0.7
P最適 = E現実 ÷ 全開時間
| Rd | GP | 全開率 | ブレーキ秒/周 | E理論(MJ) | E現実(MJ) | P最適(kW) | ウィンドウ(kW) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 4 | Miami | 68 | 14.5 | 5.1 | 3.6 | 58 | 50–62 |
| 5 | Canada | 76 | 12.5 | 4.4 | 3.1 | 55 | 47–59 |
| 6 | Monaco | 41 | 19.0 | 6.6 | 4.7 | 156 | 133–167 |
| 7 | Barcelona-Catalunya | 66 | 11.5 | 4.0 | 2.8 | 56 | 48–60 |
| 8 | Austria | 73 | 8.6 | 3.0 | 2.1 | 42 | 36–46 |
| 9 | Great Britain | 80 | 11.0 | 3.8 | 2.7 | 39 | 33–41 |
| 10 | Belgium | 67 | 12.5 | 4.4 | 3.1 | 44 | 37–47 |
| 11 | Hungary | 53 | 15.3 | 5.4 | 3.8 | 92 | 79–99 |
| 12 | Netherlands | 55 | 11.3 | 4.0 | 2.8 | 71 | 61–76 |
| 13 | Italy | 76 | 9.2 | 3.2 | 2.3 | 37 | 32–39 |
| 14 | Spain (Madrid)* | 62 | 14.0 | 4.9 | 3.4 | 60 | 52–64 |
| 15 | Azerbaijan | 63 | 20.5 | 7.2 | 5.0 | 77 | 66–83 |
| 16 | Singapore | 50 | 17.0 | 5.9 | 4.2 | 89 | 76–95 |
| 17 | United States | 59 | 16.5 | 5.8 | 4.0 | 71 | 61–76 |
| 18 | Mexico City | 45 | 16.3 | 5.7 | 4.0 | 114 | 98–122 |
| 19 | São Paulo | 64 | 12.0 | 4.2 | 2.9 | 65 | 56–70 |
| 20 | Las Vegas | 66 | 14.5 | 5.1 | 3.6 | 58 | 49–62 |
| 21 | Qatar | 68 | 9.0 | 3.1 | 2.2 | 39 | 34–42 |
| 22 | Abu Dhabi | 63 | 12.5 | 4.4 | 3.1 | 57 | 49–61 |
このように最大出力をトラックごとに設定していく。これにより、電力不足による不自然な減速は起きにくくなり、ドライバーが攻めればタイムに繋がる本来のF1のあるべき姿が戻ってくるだろう。
⚫︎ブーストの制限
その上で、ブースト時には350kW出力できるようにする。
ただし、これだと上記のような低い通常デプロイ(30~140kW)の車との速度差が生まれてしまい、安全性の問題が再燃してしまう。そこで、ブーストを連続で使える最大時間を1秒から2秒程度で規定する。そして「次にブーストを押せるのはスロットルを1秒以上オフにした後」のようにすることで、同一ストレート上での複数回使用を禁ずる。こうすることで、安全性を保ちつつ、「どこでどれだけ電気を使うか」という戦略性とそれに伴うオーバーテイク頻度も維持できる。ブーストを使ってSoCが下がったマシンはどこかでリフト&コーストを強いられるだろうが、これは昨年までもあったもので、さほど懸念事項にはならないだろう。
それでも安全面に懸念が生じる箇所があれば、特定区間でのブースト使用を禁止すれば良い。とはいえ、例えばスパのラ・ソースからオー・ルージュまででブーストを1秒使用したところで、2011~13年のKERS時代にあったいくつかのバトルのような構図になるだけで、今回のベアマンのような危険な事態にはならないと考えられるため、この案は不要になるかもしれない。
ちなみに、ブーストを残しておくことは、今季のレギュレーションの売りである「内燃:電気=50:50」を尊重することにもなる。現状では、実際にMGU-Kが最大出力を発揮して「50:50」が実現できているのはコーナーの立ち上がりだけであり、各車は電力不足からすぐに「50:30」「50:10」そして「50:0」へと移行する。そしてあろうことかコーナー手前ではスーパークリッピングを起こし「50: -5」のような状況まで発生する。そしてオーバーテイクの瞬間は大抵ストレートの後半であるため、重要なシーンでは電気の比率がゼロかマイナスになっていることが多い。
よって、「内燃:電気=50:50」の正確な読み方は「”コースの一部で” 内燃:電気=50:50」だ。
よって、前述のようにMGU-Kの最大出力を30~130kWに絞っていても、ブーストボタンによって350kWを出力できるならば謳い文句をこれまで同様に守ることはできる。そしていかなる時も「50:10(この数値はトラックによって異なるが)」の最低ラインはキープし、その上で勝負所で「50:50」にする、という方が、自動車メーカーにとっても美しいロジックとなるだろう。
⚫︎アクティブエアロの廃止
これについては必ずしも必要ではないかもしれないが、アクティブエアロは廃止した方が、安全・エンターテインメント両面において得だろう。
DRS時代も、トラブルで開きっぱなしにスタックすることは稀にあった。このリスクを潰すのが1つ目だ。
また、ストレート走行時に突発的な事態が起きた際の危険回避の際も、ウィングが開いていると不利が生じる。アクセルオフで閉じるとはいえ、そこには差が生まれるはずだ。
さらに、コーナー手前でリフト&コーストをすると、ウィングが閉じてしまい、空力的に不利になるため、スーパークリッピングに頼らざるを得ない実情がある。これもアクティブエアロを廃止すれば消滅し、ドライバーが自分の意思でリフト&コーストによってSoCを回復させることになる。これにより、ドライバー自身の戦略性を含む腕前が問われるレースになってくる。
DRS時代は、それがオーバーテイク促進のための明確なメリットのあるものだったが、現在のアクティブエアロは全車が同じように使っているため、単に電力不足によるスピードダウンを誤魔化すためのものだ。これはそもそもナンセンスであり、トゥの効果を弱めてしまうネガティブな効果もあるため、オーバーテイク促進においても負の影響を持っている。スピードは落ちても何ら問題はない。もっとタイムが遅かった1990年代の映像を振り返っても、そこに「スピード感」はあった。筆者は音楽家であるが、BPM(メトロノーム上のテンポ)とスピード感は別物だ。BPMを遅くしてスピード感を上げることもできる。F1においても同様で、ドライバーがゾーンに入って限界まで攻めていることで、それが観衆に伝わり、緊張感とスピード感を生む。この辺りの本質が見えていないと、ラップタイムが落ちてしまう無理なPUレギュレーションで自動車メーカーを呼び込み、それを空力で誤魔化そうとする悪手に陥ってしまうのではないだろうか?これらは多分に筆者個人の見解と推測を含むが、少なくとも2000年と今年の映像を見せられて、前者の方にスピード感を覚える人は多いのではないだろうか。
⚫︎新レギュレーションの弁護
とはいえ、今年のレギュレーションに対する批判に対して、開幕戦のレビューで述べた点以外にも、筆者の方から弁護したい点もある。それはドライバーの腕が問われにくくなったという指摘だ。
確かにコーナーで攻めるほどエネルギーマネジメントのやりくりが理想的ではなくなり、タイムを失うことになる。だが、実際にチームメイト同士のペースを比較すると、ガスリーはコラピントに大差をつけ続けている。また、予選でこそハジャーに苦しめられているフェルスタッペンだが、レースペースでは3戦とも大差(平均0.8秒)をつけており、ハジャーが予選型であることが伺える。アロンソのストロールに対する予選での連勝も順調に39に伸びている。つまり、元から速かったドライバーが今年も明確な速さを見せているということだ。彼らは与えられた条件の中で差を生み出せる場所を見つけ、それを的確に実行する。
今年のレギュレーションでもドライバーの腕はハッキリとパフォーマンスとリザルトに出ているのだ。
⚫︎レギュレーション変更案のまとめ
このように、MGU-Kの回収量と出力を制限し、ブーストを管理することで、「50:50」のコンセプトを守りいつつ、安全かつ「F1らしさ」を取り戻すことが可能であると考える。さらにアクティブエアロの必要性についても見直せれば、なお良い。要するに必要なのは、速度差をなくすことではない。危険な場所で自然発生する速度差をなくし、安全な場所で管理された速度差だけを作ることである。
3. まとめと次戦への展望
ベアマンのクラッシュによるSC導入により、本来のレースの面白さがスポイルされてしまった日本GP。アントネッリの驚異的なペースとレース運びが光った一方で、彼自身のスタートという課題も明確になった。そして何よりも、新レギュレーションが抱える「安全上の欠陥」が現実のものとなってしまったことは重く受け止めなければならない 。
予定されていた中東ラウンドのキャンセルにより、F1は思わぬ形で約1ヶ月の春休みを迎えることとなった 。次戦は5月初旬に舞台をアメリカへ移し、マイアミGPが開催される。
マイアミ・インターナショナル・オートドロームは、長いストレートとヘビーブレーキングゾーンが組み合わさったコースである。現行のルールのままでは、長い全開区間の後半で再び深刻な電力不足が発生し、大きな速度差による追突のリスクが拭いきれない。最終セクターのストレートは完全な直線だが、その前のストレートは微妙に曲がっており、再び安全性の問題が浮上するかもしれない。
しかし、この約1ヶ月のインターバルは、FIAにとってレギュレーションを急遽修正するための貴重な猶予期間となる。すでにパドックやメディアでは、マイアミに向けて何らかのルール変更(MGU-Kの出力制限や、エネルギーマネジメント規則の緩和など)が議論されるという観測が高まっている。
次戦マイアミで、F1がこの危機的状況にどう対処するのか。そして、本来の「ドライバーの限界がぶつかり合う、安全でスピード感のあるレース」を取り戻す第一歩となるのか。コース上の勝敗以上に、シリーズの根幹に関わる重要な週末となるだろう。
Takumi, ピトゥナ, ChatGPT 5.4 Thinking
インタラクティブグラフ
ご自身の視点でさらにデータを深掘りしたい方向けに、操作可能なグラフを用意した。
このツールでは、**「ペースグラフ」と「ギャップグラフ」**の二種類が利用でき、ボタン操作で見たいドライバーだけを自由に選んで表示できる。
特にラップタイムグラフには、レース状況を理解しやすくするための工夫が施されている。
- 塗りつぶしの点:前が空いている状態(クリアエア)でのラップを示す。
- 白抜きの点:前のマシンの影響下(ダーティエア:前方2秒以内)にあるラップを示す。
この色分けによって、各ドライバーがどのような状況でそのタイムを記録したのかが一目で把握できる。
また、グラフ右上のボタンからは、画像のダウンロードやグラフの拡大・縮小(ズーム)も可能だ。分析の補助として、ぜひご活用いただきたい。
Lap Times
Gap to Leader
Takumi, ピトゥナ
