• 2024/4/27 12:00

2021年シーズンレビュー(3) データで紐解くアストンマーティンvsアルファロメオvsウィリアムズvsハース

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 さて、前回は中団勢の上位4チームの争いを振り返ったが、最後に中団アストンマーティン以降の争いに目を向けてみよう。

目次

  1. レースペースのチームメイト比較
  2. 各チームのレッドブルとの差
  3. 2021年の振り返りと2022年の見通し

1. レースペースのチームメイト比較

 まず各チーム内での力関係を見てみよう。

Table1 ベッテルとストロールのレースペース(✅が勝者)

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 序盤戦は移籍直後のベッテルが苦戦し、ストロールに遅れをとったが、アゼルバイジャン以降では5勝1敗と、大きく勝ち越している。2人の差も常に0.2秒以内と安定している点も興味深い。

Table2 ライコネンとジョビナッツィのレースペース(✅が勝者)

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 今季のレースペース分析の中で最も意外なのはライコネンではないだろうか?今季のベテラン勢はアロンソの活躍ばかりが目立ち、ライコネンはあまり良い所がなかった印象を持った視聴者も多かったと思われる。しかしレースペースではジョビナッツィに対して10勝2敗1引き分けと、非常に高いパフォーマンスを示している。平均タイム差は0.2秒程度で、フェルスタッペンやハミルトン、アロンソに匹敵するパフォーマンスだったか?と言われると疑問符が付くが、チャンピオンの力を示したのは間違いない。印象がそこまで良くならなかったのは、やはり予選ペースの欠如だろう。比較可能な予選では3勝13敗、平均0.318秒差をつけられている。
 ライコネンは2003年から予選よりもレースで相対的に力が増すドライバーで、その傾向は当時からシューマッハやアロンソよりも大きかった。それが、今季のタイムの接近した中団争いではトラックポジションに大きく影響し、驚異的なレースペースが宝の持ち腐れになってしまいやすいのだ。
 しかし、「レースペースのライコネン」が健在のまま引退を迎えたのは、ファンにとっても喜ばしい事ではないだろうか。データ上ではしっかりと有終の美を飾ることができたチャンピオンのラストランに拍手を送りたい。 

Table3 ラッセルとラティフィのレースペース(✅が勝者)

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 ラッセルとラティフィのレースペースの差は意外と小さく、ロシアとブラジルではラティフィに遅れをとっており、フェルスタッペンやハミルトンのようにチームメイトを圧倒したわけではない。このデータから見れば、来季ラッセルがチームメイトのハミルトンを打ち負かすには、まだ克服すべき課題があるのではないかと考えられる。
 逆にラッセルが来季以降ハミルトンと互角以上の戦いを繰り広げた場合は、ラティフィの評価が上がってくるだろう。F2での走りから考えても、決して遅いドライバーということはあり得ないと思われ、アルボンとの比較でどうなるのか、非常に楽しみになってくる。

Table4 シューマッハとマゼピンのレースペース(✅が勝者)

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 今季最も差がついたチームメイト対決がこのハースだ。マゼピンはシューマッハに1秒前後の差をつけられたレースもあれば、シルバーストーンとモンツァでは互角のペースを見せた。ただし、シューマッハはマゼピンに大差をつけているレースでは、中団勢の下位に接近あるいは上回っており、これはシューマッハの頑張りと見るべきかもしれない。イモラでは6番手フィニッシュのリカルドの0.2秒落ち、スペインではラティフィを上回り、カタールでは角田・ジョビナッツィ・ライコネンの3人を上回った。
 F2では堅実にポイントを稼ぐイメージがあったが、今季の活躍を見る限りは、当たった時の速さに爆発力があるドライバーだ。予選でも17勝0敗、平均0.492秒差と、ややミスは目立つものの、圧倒的なスピードを示した。フェラーリとしては、ベテランのチームメイトと組ませて、正確な実力を把握しつつ成長させたい所だと思われるが、現実問題そうも行かず、悩ましい部分かもしれない。

2. 各チームのレッドブルとの差

 次に4チームのレースペースをレッドブルと比較してみよう。

Table5 レッドブルとアストンマーティンのレースペース(✅が勝者)

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Table6 レッドブルとアルファロメオのレースペース(✅が勝者)

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Table7 レッドブルとウィリアムズのレースペース(✅が勝者)

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Table8 レッドブルとハースのレースペース(✅が勝者)

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 アストンマーティンはレッドブルの1.4秒落ちと、前回の記事でレッドブルの1.2秒落ちだったアルピーヌからは、やはり少し水を開けられてしまった。
 アルファロメオはモナコやシュタイヤーマルクのように中団トップクラスのペースを見せることもあれば、カタールのように2人揃ってシューマッハに遅れをとることもあり、浮き沈みが激しかったことがレースペース勢力図、ひいては年間ポイントでも低迷に繋がってしまった。
 ウィリアムズはアルファロメオからは水を開けられてしまったが、ハンガリーやベルギーの大量得点が効き、コンストラクターズ8位を獲得した。この2戦以外の獲得ポイントはモンツァとソチの3ポイントであり、競争力という観点ではやはり9番目のチームだった。
 ハースはシューマッハが時折ラティフィと競ることができたものの、やはりレースペースでも単独の最下位だった。フェラーリとの関係が強化される来季に全てのリソースを注ぎ込んでおり、この開発戦略がどのような影響を及ぼすのか見守りたい所だ。

3. 2021年の振り返りと2022年の見通し

 今季全体を振り返れば、レッドブルとメルセデスが抜け出した上で、フェルスタッペンとハミルトンが各々のチームメイトに0.4秒ほど差をつけ、一騎討ちの様相となったシーズンと言える。

 その上で、フェラーリやマクラーレンのレッドブルに対する差の標準偏差(バラつきの大きさを示す指標)は、年間を通して0.3秒程度だった。この数字は、「レッドブルから1.0秒遅れても、5%の確率でペレスやボッタスのレースペースを上回ることができる」ということを意味している。フェラーリは年間平均で0.9秒落ち、マクラーレンは1.0秒落ちのため、時折ルクレールやノリスが2強を凌駕し、及ばない時でもレース展開を味方につけ、リザルト上で頻繁に割って入ったのは頷ける。

 中団グループでは、やはりセットアップを合わせ込み、前半戦から後半戦まで毎週末コンスタントに競争力を発揮することの重要性が示された。その観点でアルファタウリやアルファロメオ、ハースには改善の余地があるため、来季に向けた課題に取り組んでいると思われる。

 さて、2022年シーズンはグランドエフェクトカーにより、これまでよりも接近したバトルが可能になる見込みだ。タイヤを労るために前方との距離を置く際も、これまでよりは接近しても良いと思われ、逆にペースを落としすぎると後続にオーバーテイクされるリスクが高くなると考えられる。
 さらに、これまでよりペース差が少なくてもオーバーテイクが可能になることで、これまで10周のタイヤ履歴のオフセットが必要だった所を、5周分のタイヤの差でオーバーテイクできるようになるかもしれない。
 そして10チーム全体の差が縮まれば、レース3分の2の段階で、トップチームの後方20秒以内に中団グループがまだいる可能性が出てくる。これによりバーレーンやスペイン、フランスGPのような2ストップ戦略を取りづらくなることも考えられる。
 このように2022年のレギュレーション変更が戦略に与える影響が非常に大きいのは確実だろう。F1新時代を迎えて、どのチーム・ドライバーがどのような勝ち方を編み出してくるのか、3/18の開幕戦に向けて興味は尽きない。