• 2024/11/21 15:29

2022年メキシコシティGPレビュー(1) 〜レッドブルvsメルセデスのタイヤ戦略〜

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 標高が高く空気が薄いため、モナコ並みのハイダウンフォース仕様で走りつつもモンツァ並みにストレートスピードが伸びるメキシコシティ。ダウンフォースも得られずコーナーでは非常に滑りやすく、パワーユニットへの負担も大きい特殊なトラックだ。今回も各車が繰り広げた激しいレースを、グラフを交えながら分析的視点で振り返ってみよう。本記事Part1では優勝争いに着目する。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

初心者向けF1用語集はこちら

 今回の優勝争いもフェルスタッペンとハミルトンによって行われた。両者のレースペースを図1に示す。

図1 フェルスタッペン、ハミルトンのレースペース

1. 別れたタイヤ選択

 スタート時のタイヤ選択ではレッドブル勢がソフトタイヤ(以下ソフト)、メルセデス勢がミディアムタイヤ(以下ミディアム)と判断が別れた。そしてソフトでペースが上がらないフェルスタッペンをハミルトンが付かず離れずで追い回す第1スティントの展開となった。

 グラフからもフェルスタッペンがスティント終盤でタイムを落としているのに対し、ジリジリとハミルトンが詰め寄り、フェルスタッペンがいなくなってからペースを上げていることが読み取れる。このことからもソフトのフェルスタッペンより、ミディアムのハミルトンがスティントトータルのペースで上回っていたのは確かだろう。

 しかし第2スティントではフェルスタッペンがミディアムを選択。対するメルセデスはタイヤ交換義務のため、ハードタイヤ(以下ハード)かソフトしか選択肢がなかった。さらにソフトを履くには第1スティントを長めに引っ張る必要があった。

2. メルセデスの戦略はコンサバ?

 その中でメルセデスはハミルトンのピットストップをフェルスタッペンの4周後まで引っ張り、ハードタイヤを選択した。一見かなりコンサバ(保守的・無難・守りの)だったように見えるこの戦略について考えてみよう。

2.2. タイヤ選択は結果論か…?

 第2スティントのハミルトンのペースが今ひとつだったのはグラフからも明らかだ。実際、38周目にハミルトンから「このタイヤはミディアムほど良くない」と飛んでいた。対するエンジニアは「了解。ライフの終わりにドロップオフが見受けられたんだ。」と返した。

 しかし図1を見ても、第1スティントのハミルトンのタイムにはスティント終盤のドロップオフの傾向は見受けられない。だからこそ40周目付近までスティントを引っ張り、ソフトタイヤに変えた方が良かったのではないかと考えられる。

 ただし、筆者ならばフェルスタッペンの第1スティント終盤のペースに着目していただろう。メルセデス陣営も当然それを考慮していたと思われる。というのも、フェルスタッペンはソフトでの25周スティントの終盤にタイムが落ちており、ならばハミルトンがレース後半に30周のソフトスティントでフェルスタッペンを追い回しても、終盤に苦戦して追いつけない or 抜けない展開が見えてくる。

 そして、43周目のハミルトンの無線では「ミディアムでのドロップオフ」に言及していたが、それは終盤にフェルスタッペンが苦戦する可能性を知らせることでハード選択の正当性を述べ、ハミルトンを勇気づける意味合いも強かったのかもしれない。

 であるならば、最近のメルセデスが硬いタイヤとの相性が良いことと併せて考えると、ハード選択も理にかなっており、コンサバ過ぎるという考えは結果論に過ぎないと考えた方が良いのかもしれない。

 また、スタートタイヤの話に戻っても、同じく結果論と言えるだろう。

 ウォルフやショブリンのコメントによれば、当初メルセデスはソフト-ハードの1ストップは可能だと考えていたものの、ソフト-ミディアムは機能しないと考えていたようだ。また、レッドブルも2ストップを考えていたものの予想より小さなデグラデーションから1ストップに切り替えたようで、両陣営にとって予想外の展開を歩んだレースだった。

 したがって、この点でもソフトスタートが正解という話は結果論という側面が大きいように見える。

2.2. ペレスの存在は無視して良い

 ただし、メルセデスがペレスの位置を見て29周目のピットストップを決めたのであれば、これは不必要にコンサバなトラックポジションの重視と言える。ソフトに履き替えるのであればペレスより20周ほど新しいタイヤを履くことになる。デグラデーションを0.05[s/lap]とすればラップタイムにして1.0秒のアドバンテージを得ることになり、流石にオーバーテイクは容易だ。

 したがってペレスの後ろになることを恐れる必要はなく、それを考えていたとしたら守りに入り過ぎだろう。

3. 加われなかった跳ね馬

 このようにタイヤ選択を当て、車とドライバーの純粋なスピード面でも優れていたレッドブルはメルセデスを下して1−3フィニッシュを達成した。一方、後半戦になってメルセデスがレッドブルと頻繁に勝負ができるようになった所まで来たことは明らかな躍進だ。

 しかし他方で、フェラーリの失速は深刻だ。後半戦ではレッドブルに対し予選でのアドバンテージは消え、レースペースでは遅れを取り続け、メルセデスにすら負けることが増えてきた。

 図2にフェルスタッペンとサインツ、ルクレールのレースペースを示す。

図2 フェルスタッペン、サインツ、ルクレールのレースペース

 第1スティントではサインツがフェルスタッペンの0.7秒落ちのペースだ。第2スティントでは少しその差が縮まっているように見えるが、サインツのタイヤが4周新しいことも考慮すると寧ろ差は開いており0.8秒ほどとなっている。

 ただし、今回はルクレールが第1スティントでサインツの0.2秒落ち、第2スティントでサインツと互角だったことも踏まえる必要がある。

 サインツとフェルスタッペンの差は後半戦ではこの程度は平均的な数字だ。一方でルクレールはレースペースでサインツに負けなし、平均0.3~0.4秒差というシーズンを送ってきた。つまり「ルクレールがサインツを大きく上回るペースを見せることでフェルスタッペンと対抗できてきた」という側面が多分にあったのだ。

 したがって、今回はフェラーリの不振というよりかは、ルクレールがサインツ以下になってしまったことでフェラーリとしての戦力が大幅に低下したように見えるという解釈が最適解かもしれない。

参考:2022年のレースペース分析

Writer: Takumi

※この後Part2では、戦略を活かし見事な追い上げを見せたリカルドを始めとする中団勢の活躍について取り上げる