1. 分析結果と結論
先に分析結果を示す。分析の過程については次項「レースペースの分析」をご覧いただきたい。
Table1 全体のレースペースの勢力図
今季の殆どのレースと同様に、ハミルトンとフェルスタッペンが他を寄せ付けない速さを見せた。フェルスタッペンはスピード面ではハミルトンとやり合える力があっただけに、1回目のリスタートで失敗し、2回目のリスタート時にミディアムを選択せざるを得なくなってしまったのは痛かった。
中団勢ではフェラーリが高い競争力を見せ、マクラーレンとアルピーヌが続く形になった。またアストンマーティンは予選からの不調が続く形となってしまった。
2. レースペースの分析
以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.08[s/lap]で計算した。
また、各ドライバーのクリーンエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。
2.1 チームメイト同士の比較
最初にチームメイト同士の比較を見ていこう。
Fig.1 メルセデス勢のレースペース
戦略が異なり、比較はできない。
Fig.2 レッドブル勢のレースペース
比較可能なデータはなし。
Fig.3 アルピーヌ勢のレースペース
比較可能なデータはなし。
Fig.4 マクラーレン勢のレースペース
戦略が異なり、比較はできない。
Fig.5 アルファタウリ勢のレースペース
24周目以降で比較すると、ガスリーのペースが0.2秒ほど速く、レーシングスピードでの周回7周のタイヤ履歴の差をデグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には0.4秒ほどだったと考えられる。
Fig.6 フェラーリ勢のレースペース
戦略が異なり、比較はできない。
Fig.7 アルファロメオ勢のレースペース
比較可能なデータはなし。
Fig.8 アストンマーティン勢のレースペース
比較可能なデータはなし。
Fig.9 ウィリアムズ勢のレースペース
比較可能なデータはなし。
Fig.10 ハース勢のレースペース
第1スティントでは、ダーティエアにも関わらずシューマッハが0.8秒上回っており、本来は大きな差があったと考えられる。
2.2 ライバルチーム同士の比較
続いて、チームを跨いだ比較を行う。
2.2.1 後半ハード組の比較
図1にハミルトン、オコン、ガスリーの比較を示す。
Fig.1 ハミルトン、オコン、ガスリーのレースペース
三者はレース後半にハードタイヤを履いてクリーンエアで走行している。
肝心の基準となるハミルトンのペースが測りにくいが、フェルスタッペンを37周目のアクシデント以降のクリーンエア走行と、オーバーテイク後のタイムを均したもの(ファステストラップを狙うためにチャージラップを挟みペースをやや上下させていると思われる)を参考にしよう。軽いダメージがあったため、実際はもう少し速かった可能性もある。
オコンはハミルトンの1.1秒落ちだ。レーシングスピードで走ったタイヤの履歴差は無く、これを両者の実力差として問題ない。
ガスリーは、オコンから0.2秒落ちで、タイヤもイコールコンディションだ。
続いて、ガスリー、ノリス、ジョビナッツィを比較してみよう。彼らも上述の3名同様、後半ハードタイヤでのクリーンエア走行だ。
Fig.2 ガスリー、ノリス、ジョビナッツィのレースペース
ノリスはガスリーを0.4秒ほど上回っている。タイヤも同様だ。
ジョビナッツィはガスリーの0.6秒落ち程度だ。タイヤも同様だ。
最後にラティフィをガスリーと比較する。
Fig.3 ラティフィとガスリーのレースペース
ラティフィはガスリーの0.7秒落ちだ。タイヤも同様だ。
2.2.2 前半ミディアム組の比較
続いて、第1スティントにミディアムを履いて、クリーンエアで走行した、ハミルトン、ルクレール、マゼピンを比較してみよう。
Fig.4 ハミルトン、ルクレール、マゼピンのレースペース
ルクレールの第1スティントはハミルトンの0.9秒落ち程度だ。なお、これは両者が同程度にタイヤを労っていた前提での話だ。
ただしレース後半、ハードタイヤのルクレールはサインツの1~2秒後方にいながら、ハミルトンの0.6秒落ち程度で走っている。フォローしやすいサーキット特性から、ルクレールのペースが本来の実力に近いとすると、ハミルトンは第1スティントに比べて0.3~0.4秒競争力を失っていたことになる。これはフロントのダメージの影響と考えられる。
また、マゼピンはルクレールの3.3秒落ちだ。
またハミルトンのダメージの影響が分かったことで(0.3を採用する)、オコン以降のハミルトンからのタイム差は、+0.3秒する必要があることが分かった。
ここまでをまとめると表2のようになる。
Table2 比較1
2.3 後半ミディアム組の比較
続いてレース後半でミディアムを選択したドライバーを比較してみよう。まずはフェルスタッペン、ボッタス、リカルドだ。
Fig.5 フェルスタッペン、ボッタス、リカルドのレースペース
フェルスタッペンは37周目以降はダメージがあるため、それ以前のタイムを見る必要があるが、デグラデーションが0.08[s/lap]で横ばいだったと仮定するならば、ボッタスを0.2秒ほど上回っている。タイヤの差は無い。
リカルドはフェルスタッペンの1.2秒落ち程度だ。
続いてリカルド、サインツ、ストロールを比較する。
Fig.6 リカルド、サインツ、ストロールのレースペース
サインツはリカルドを0.7秒上回っている。タイヤの差は無かったが、サインツはルクレールと共に、リスタート後はベッテルや角田の後方で本来のペースよりかなり遅く走っており、タイヤを労わっていた。ここでリカルドに対してある程度のオフセットを作っていた可能性があり、2.4にて補正プロセスを行う。
リカルドはストロールを0.3秒上回っている。タイヤの差は無い。
ここまでをまとめると表3のようになる。
Table3 比較2
※疑問符がつく部分はオレンジ色で示した
2.4 ミディアムとハードの差
最後にミディアムとハードの比較を行う。まずはリカルドとノリスのレース後半を見てみよう。
Fig.7 リカルドとノリスのレースペース
レース終盤において、ノリスが0.8秒ほど上回っている。VSC8周を含む34周スティントのラスト10周程度での差であることと、デグラデーションをハード0.05[s/lap]、ミディアム0.08[s/lap]で考慮するとスティント全体でノリスが0.6秒ほど上回っていたことになる。
続いて、ルクレールとサインツの比較だ。
Fig.8 ルクレールとサインツのレースペース
最終スティントの序盤は、2人とも角田の後方におり、ここでタイヤの差が生まれなかったと仮定しよう。またフォローしやすいサーキットということを考慮し、44、45周目のルクレールの1:31.7をルクレールのペースの真値と仮定するならば、この時点で0.4秒ほどルクレールが上回っていた事になる。2人が本来のペースで走り始めたのが26周目からで、VSCを6周挟んでいることを考慮して、マクラーレン勢と同様の計算をすると、ルクレールが0.3秒ほど上回っていた事になる。
ここからは信憑性に問題のある話になるが、FP3や予選での流れを見る限り、今回はルクレールとサインツは互角、ノリスとリカルドは0.3~0.4秒ほどの差があったと思われる。この差は上記で行ったマクラーレンとフェラーリのチームメイト間の差と合致し、ミディアムタイヤはハードタイヤと比べて0.3秒遅かったことが分かる。
さらにこれを前提として、2.1、2.2で考察したドライバーたちの力関係に当てはめると、ノリスとリカルドの差は0.4秒となり、実際の0.3秒より0.1秒のズレが生じた。これが2.3で言及したサインツのリカルドに対するタイヤのオフセットと考えられる。
よって表2の中でサインツのみを0.1秒落とした上で、表1に対してルクレールとサインツが同等となるように合わせこむと、表1の結果になる。表2や表3ほどの正確さは保証できないが、概ね頷ける結果となっている。