• 2024/4/27 17:48

2023年カナダGPレビュー 〜コンクリートウォールに囲まれた白熱のバトル〜

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 ストップ&ゴーの特性の代表的な例として知られるモントリオール、”ジル・ビルヌーブ・サーキット”。リアタイヤ・ブレーキ・燃費などに厳しい特性で知られ、コンクリートウォールに囲まれたレイアウトは一切のミスを許容しない。

 そんなカナダGPで繰り広げられた緊迫感満載のレースを、データと共に振り返っていこう。

各ドライバーの使用タイヤはピレリ公式より

1. アロンソvsハミルトン

 各車のレースペース(燃料・タイヤ・レース上の文脈などを考慮)は先に行った「レースペース分析」で割り出した。ここでは総合結果のみを表1に示す。

表1 全体のレースペース

 

 フェルスタッペンにとっては、これまでのレースより差は縮まったものの、後述するアロンソのスタート失敗と燃料システムトラブルにより、レースをコントロールするには十分なものとなった。

 では、グラフを交えて詳らかに見ていこう。まず図1にフェルスタッペン、アロンソ、ハミルトンのレースペースを示す。

図1 フェルスタッペン、アロンソ、ハミルトンのレースペース

 第2スティントではアロンソがフェルスタッペンに肉薄するペースを見せていることが分かる。ハミルトンを交わした23周目の時点で、フェルスタッペンとの差は既に3秒に開いてしまっていたことを考えると、スタートでのポジションダウンは痛かったかもしれない。

 フェルスタッペンの真後ろでレースを進めていれば、2回目のピットストップ前のフェルスタッペンとの差は2秒台だった可能性が高く、そうなるとアンダーカットやオーバーカットのプレッシャーを僅かながら与えられていただろう。今季安定して優れたスタートを見せてきたアロンソ&アストンマーティンだけにやや勿体ない印象を受けた。

 一方、たった0.2~0.3秒のペース差でハミルトンに対するオーバーテイクを成功させたこと点は流石だ。この辺りのアロンソの接近戦での強さが、100%クリーンには進まないレースという競技において、理想的ではない状況が生じた際にも、素早く確実にリカバリーする強かさにつながっているのだろう。

 また今回は、ハミルトンも素晴らしい走りを見せた。第2スティントでアロンソに交わされてからは、ペースが安定せず、じわじわと離されてしまったが、第3スティントではミディアムタイヤの利点を活かし、スティント序盤に一気に差を詰め、アロンソにプレッシャーを掛けた。

 ハミルトンはスティントの(あるいはレースの)どこに勝負どころを持ってくるかの判断にメリハリが効いており、今回もその強みを発揮してきたように思える。

 第3スティントは前半から一気にプッシュしてアロンソに迫った。その分デグラデーションが大きくなってしまっていることがグラフからも読み取れるが、5秒差がただ3秒差に縮まってフィニッシュするよりも、一時2秒以内まで詰め寄ってから離されて3秒差でフィニッシュする方が絶対にチャンスを作れる。

 この辺りの2人の攻防は非常にレベルが高く、ラッセルのクラッシュによってコンクリートウォールの脅威に臨場感が増したことも相待って、非常に見応えのあるバトルとなった。

2. フェラーリの躍進

 雨がらみの予選で中団に沈んだフェラーリ勢。しかしレースでは序盤のSC時にステイアウトし、クリアエアを得ると見事なペースを発揮した。図2にアロンソ、ルクレール、ペレスのレースペースを示す。

図2 アロンソ、ルクレール、ペレスのレースペース

 まずは同様にSC時にステイアウトしたペレスと比較してみよう。

 SC後にクリアエアとなると、ミディアムのルクレールがハードのペレスより平均0.4秒速いペースを刻んでいる。ちなみに、SC前は同様にトラフィックの中を走っており、そこまでのタイヤの使い方に大差はなかったと考えられる。

 そして第2スティントではタイヤが逆転するが、ミディアムのルクレールはここでもハードのペレスを0.4秒、2周分のタイヤの差を考慮すると0.5秒上回っている。

 2スティントを総合すれば、ミディアムとハードの間に特に差は無く、ルクレールは同条件でペレスを0.4~0.5秒ほど上回っていたと結論づけられる。

 (余談だが、このペレスのパフォーマンスを見ると、やはりフェルスタッペンのレベルの高さには感心してしまう。今回のフェルスタッペンの勝利は、自身のドライビングこそがかなりの決め手になったと考えるのが自然そうだ。)

 さて、ルクレールの第2スティントをアロンソの第3スティントと比較しよう。ここでは、アロンソの方が平均0.1秒ほど上回っているが、タイヤの差を加味すれば完全に互角だ。

 アロンソの第3スティントの出来は第2スティントよりも0.2秒ほど悪い(おそらく燃料システムのトラブルの影響)が、それを踏まえてもなかなかのペースだ。今回はアストンマーティン自体もかつて無いほどレッドブルに接近する出来だっただけに、今回のフェラーリのレースペースの良さは印象的だった。サインツもしっかりとルクレールについて来ており、マシン自体に確かな競争力があったのは間違いないだろう。

 もちろんモントリオールという非常に特殊なサーキット故のものである可能性は否定できないが、幸い今後レッドブルリンク、シルバーストーンと異なるタイプで総合力の問われるトラックが続く。ここでもフェラーリが(特にレースペースで)競争力を発揮できれば、後半戦は非常に面白い展開になるだろう。

Writer: Takumi