• 2024/4/20 20:02

2022年マイアミGP レースペース分析

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1. 分析結果と結論

 先に分析結果を示す。分析の過程については次項「2. レースペースの分析」をご覧いただきたい。

表1 ミディアムタイヤでのレースペース

 ミディアムタイヤでは、フェルスタッペンがルクレールに対してアドバンテージを握った。中団トップはボッタスだが、ハミルトンも僅差で続き、ハースもなかなかのスピードを見せている。

表2 ハードタイヤでのレースペース

 ハードタイヤでは、フェルスタッペンとルクレールの競争力は互角だった。ルクレール自身はどちらのタイヤでもサインツに対して似たような差をつけており、パッケージのポテンシャルは引き出し切っている。

 中団勢で光ったのがハミルトンだ。ハードに乗り換えてからはボッタスを凌駕し、SC直前までグングンと追い上げていた。

 一方のラッセルはハードでも厳しかった。好結果に繋がった要因は、ハードタイヤスタートの大成功だ。今回のハードタイヤは、走り始めは分厚いタイヤでオーバーヒートに苦しむが、走り続ければゲージが減って熱が逃げやすくなり、オーバーヒートしにくくなる特性だった。スタートから長い第1スティントでタイヤのポテンシャルを引き出せたこと、そしてベストのタイミングでSCが出てくれたことが大きかった。

 純粋なペースに目を向ければ、ハミルトンのミディアムスティント、ラッセルの予選とレースペースなど、メルセデスとしてはまだ迷走している印象は否めない。

 また角田はハードタイヤでなかなかの競争力があった。そこそこデグラデーションがあった今回のアルファタウリで早めのピットストップを行ったことで、その後のスティントでライバルとのタイヤの状態に差が出てしまったが、タイヤの状態を換算すればガスリーの0.1秒落ちと悪くないペースだった。

 また、マクラーレン勢はミディアムではアルファタウリにも遅れを取るほどだったが、ハードではそこそこの競争力を見せた。

表3 全体のレースペースの勢力図

 総合すると、レース全体のペースの勢力図はこのように結論づけて良いだろう。

 両表で平均を取れるドライバーは平均を取った。マグヌッセンはシューマッハとのバトルの状況から、ハードでもフェルスタッペンとの差が維持されたと推測した上での値だ。他の片方のタイヤでしか競争力が分かっていないドライバーについては、そのタイヤでのトップからの遅れを記載した。その類の推測値には蛍光ペンでマークした。

2. レースペースの分析

 以下に分析の内容を示す。フューエルエフェクトは0.07[s/lap]で計算した。

 また、各ドライバーのクリアエアでの走行時を比較するために、全車の走行状態をこちらの記事にまとめた。

各ドライバーの使用タイヤはこちらのピレリ公式より

2.1 チームメイト比較

 まずはチームメイト同士の比較を見ていこう。また、今回はハードタイヤの挙動がやや特殊で、ゲージが減ってくるまではオーバーヒート傾向にあり、ペースが上がらず、ある程度ゲージが減ってくるとスッとタイムが上がる傾向を示している。よって、線形のデグラデーションだけでなく、ゲージが減った時の上がり幅も考慮に入れて計算を行う。

図1 ルクレールとサインツのレースペース

 ミディアム同士の第1スティントでは、ルクレールが0.3秒ほど上回っている。一方、ハード同士の第2スティントでは0.4秒ほどに開いている。

図2 ハミルトンとラッセルのレースペース

 ハミルトンの第2スティントとラッセルの第1スティントを比較すると、ハードタイヤ同士で平均0.43秒ハミルトンが上回っている。この時ラッセルはゲージが減ってタイムアップしており、ハミルトンはまだその段階に至っていない。ラッセルのゲージ減少によるタイムアップ幅は0.7秒程度で、22周古いことをデグラデーション0.02[s/lap]で考慮すると、実力的にはハミルトンが0.7秒ほど上回っていたと言える。

図3 アロンソとオコンのレースペース

 アロンソの第2スティントとオコンの第1スティントを比較すると、ハードタイヤ同士で互角のペースで進み、アロンソのペースが上がってからはアロンソが0.4秒上回っている。

 この時ラッセルはゲージが減ってタイムアップしており、アロンソは31周目まではまだその段階に至っておらず、その後ペースが上がっている。

 前半について、オコンのゲージ減少によるタイムアップ幅は0.4秒程度で、15周古いことをデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にはオコンが0.2秒ほど上回っていたと言える。

 後半については、両者ゲージが減ってタイムが上がっている段階だ。よって単純にオコンのタイヤが15周古いことをデグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、こちらでも実力的にはオコンが0.2秒ほど上回っていたと言える。

図4 ノリスとリカルドのレースペース

 ミディアム同士の第1スティントでは、互角のペースとなっている。

図5 ベッテルとストロールのレースペース

 ハード同士の第1スティントで所々、クリアエアの部分で比較すると32周目以降、ストロールが崖を迎えるまではイーブンペースと言える。ただし、サンプル数が少なく軽い疑問符はつけておいた方が良さそうだ。

図6 ガスリーと角田のレースペース

 ガスリーと角田をハードタイヤ同士の第2スティントで比較すると、途中までガスリーが平均0.42秒上回るペースで進み、角田のペースが上がってからは角田が0.25秒上回っている。

 スティント前半は両者ゲージが残っている状態で、角田のタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはガスリーが0.1秒ほど上回っていたと言える。

 後半について、角田はゲージが減ってタイムアップしているが、グラフからガスリーはまだそこに至っていないと考えられる。角田のゲージ減少によるタイムアップ幅はやや読み取りづらいが平均0.9秒程度と考えよう。さらに履歴が5周古いことをデグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはガスリーが0.2秒ほど上回っていたと言える。

 平均を取って四捨五入しても良いが、共に近い値であり、角田のタイムアップ幅の0.9秒の信憑性が完全とは言えないため、0.1秒の方を取っておこう。これがガスリーの角田に対する差と結論づける。

図7 シューマッハとマグヌッセンのレースペース

 第1スティントで見るとマグヌッセンが0.4秒ほど上回っている。

図8 アルボンとラティフィのレースペース

 アルボンの第2スティントとラティフィの第1スティントをハードタイヤ同士で比較すると、途中までアルボンが1.4秒ほど上回り(Ⅰ)、ラティフィのペースが上がってからはその差が0.5秒ほどとなり(Ⅱ)、アルボンもペースが上がると再び1.4秒程度の差になっている(Ⅲ)。

 (Ⅰ)では両者ゲージが残っている状態で、ラティフィのタイヤが16周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的にはアルボンが0.9秒ほど上回っていたと言える。(Ⅲ)も同様となる。

 (Ⅱ)について、ラティフィはゲージが減ってタイムアップしているが、アルボンはまだそこに至っていないと考えられる。ラティフィのゲージ減少によるタイムアップ幅は0.7秒程度と読み取れる。さらに履歴が16周古いことをデグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的にはアルボンが0.7秒ほど上回っていたと言える。

 ここではデータの質も考慮し、0.9秒の方を採用しておこう。

2.3. チームを跨いだ比較

 ここからはライバルチーム同士で比較を行っていこう。最初にフェルスタッペン、ルクレール、サインツのレースペースを図9に示す。

図9 フェルスタッペン、ルクレール、サインツのレースペース

 三者とも第1スティントでミディアム、第2スティントでハードとなっている。

 第1スティントでは、オープンエンドクリアエアと見なして計算すると、フェルスタッペンがルクレールを0.2秒ほど上回った。

 第2スティントでは互角と言ってよく、ルクレールのデグラデーションが0.00[s/lap]のためタイヤの差は考慮する必要はない。

 また、ルクレールとサインツの比較については、第1スティントでは、ルクレールがサインツを平均0.3秒ほど上回った。

 続いてボッタス、ハミルトンをフェルスタッペン、ルクレールと比較してみよう。

図10 フェルスタッペン、ハミルトン、ボッタスのレースペース

 ミディアムの第1スティントでは、ボッタスがフェルスタッペンの1.0秒落ち、ハミルトンが1.1秒落ちとなっている。

 ハードの第2スティントでは、ボッタスは同じ履歴のタイヤでフェルスタッペンの1.1秒落ちとなっている。

 また、ハミルトンはよりピットタイミングが近いルクレールと比較すると、0.7秒落ち程度だ。ルクレールのデグラデーションが0.00[s/lap]のためタイヤの差は考慮する必要はない。

 続いて、マグヌッセン、ガスリー、ノリスの第1スティント(ミディアム)をフェルスタッペン基準で比較してみよう。

図11 フェルスタッペン、マグヌッセン、ガスリー、ノリスのレースペース

 ガスリーはフェルスタッペンの1.5秒落ち、ノリスは1.8秒落ち、マグヌッセンはクリアエアの部分が少ないが、補助線を引きつつ見ると大凡1.3秒落ちと見て良いだろう。

 続いては、ハードタイヤの第2スティントで、ルクレール、ガスリー、アロンソ、リカルドを比較してみよう。

図12 ルクレール、ガスリー、アロンソ、リカルドのレースペース

 ガスリーのペースは平均でルクレールの1.88秒落ちで、共にタイムが上がる前にSCを迎えている。ガスリーのタイヤが8周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には1.6秒ほどだったと言える。

 アロンソのペースは平均でルクレールの1.79秒落ちで、共にタイムが上がる前にSCを迎えている。アロンソのタイヤが9周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的には1.5秒ほどだったと言える。

 リカルドはガスリーと比較する。リカルドは第2スティントでSCを迎えるまでの周回が少ないため、信用に足るかは賛否あると思われるが、ここではペース的に0.4秒ほど上回っていると見よう。共にタイムが上がる前にSCを迎えており、ガスリーのタイヤが14周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的にはこの2人は互角だったと言える。

 続いてはアロンソ、ノリス、シューマッハをハードタイヤの第2スティントで比較してみよう。

図13 アロンソ、ノリス、シューマッハのレースペース

 ノリスはクリアエアの部分ではまだタイムアップの段階を迎えていない。ペース的には平均でアロンソを0.17秒上回っており、アロンソのタイヤが3周古いことを、デグラデーション0.03[s/lap]で考慮すると、実力的にはノリスが0.1秒ほど上回っていたと言える。

 また、シューマッハとアロンソを両者共にタイムアップしていない段階、両者共にタイムアップしている段階で比較すると、平均して0.21秒シューマッハが上回っている。シューマッハのタイヤが1周古いことを、デグラデーション0.04[s/lap]で考慮すると、実力的にはシューマッハが0.2秒ほど上回っていたと言える。

 次はハードタイヤでスタートしたラッセルとベッテルの第1スティントでの比較だ。

図14 ラッセルとベッテルのレースペース

 ベッテルが明確にクリアエアになっているのはSC前の数周のみだが、ここではラッセルが0.2秒ほど上回っている。

 最後にアルボンと角田をハードタイヤの第2スティントで比較しよう。

図15 アルボンと角田のレースペース

 近いタイミングでタイヤ交換を行い、ペースアップしているタイミングも同じぐらいのため、この2人を比較対象とした。共にペースアップ前の段階ではアルボンが0.4秒ほど上回っている。角田のタイヤが5周古いことを、デグラデーション0.06[s/lap]で考慮すると、実力的にはアルボンが0.1秒ほど上回っていたと言える。また、共にペースアップ後の段階ではアルボンが0.2秒ほど上回っている。同様に計算すると、ここでは角田が0.1秒ほど上回っていたと言える。よって総合すれば互角と見るのが妥当だろう。

 これらを総合し、表1~3の結論を得た。

Analyst: Takumi