• 2024/11/21 15:22

2021年カタールGPレビュー 【ハミルトン圧勝劇とその背後で魅せたアロンソショー】

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 ハミルトンが圧倒的な速さを見せつけたサンパウロGPから1週間。F1サーカスがやってきたのは初開催のカタールGP、ロサイル・インターナショナル・サーキットだ。オランダGPの舞台となったザンドフールトに近い特性から、筆者はレッドブル優位を予想したが、繰り広げられたのはハミルトンの1人舞台だった。

 今回もトップ争いから中団争いまで、それぞれにフォーカスして分析してみよう。またレースペース分析を先に行ったので、結論として出したレースペース分析表を先に記す。本記事を読み進める上での道標としていただければ幸いだ。

Table.1 全体のレースペース

スクリーンショット 2021-11-23 18.42.09を拡大表示

 レース用語は太字部分で示し、記事末尾に用語解説を加筆した。

目次

  1. ハミルトンの完全支配
  2. アロンソ7年ぶりの表彰台とその強さ
  3. アストンマーティンの躍進とアルファタウリの失速
  4. 次戦は高速の市街地サウジアラビア
  5. 用語解説

1. ハミルトンの完全支配

 予選では前回同様、ハミルトンがフェルスタッペンに0.4秒もの差をつけポールポジションを獲得した。
 さらにフェルスタッペンはダブルイエローフラッグの無視で5グリッド広角ペナルティを受ける。これはマシンにダメージを負ったガスリーがホームストレート上で止まっていたからだが、その前にボッタスが通過した際にはまだシングルイエローフラッグだった。そのため、シングルイエロー無視は3グリッド、ダブルイエロー無視は5グリッドという、通例に倣ったペナルティが課せられた。

 それにより、決勝では7番手からスタートすることになったフェルスタッペン。スタート後に一気に4番手まで順位を上げ、DRSが解禁になるまではガスリーの背後でタイヤマネジメントに徹した。そしてDRSが解禁になると、4周目に入るホームストレートでガスリーを、翌周にはアロンソを交わし、タイヤを傷めずにハミルトンの直後にまで戻ってきた。これは緩急をつけた見事なリカバリーである。

 その後のハミルトンとフェルスタッペンのレースはグラフを見ながら振り返ってみよう。

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Fig.1 ハミルトンとフェルスタッペンのレースペース

 5周目にアロンソを交わした時点で4.0秒だったハミルトンとフェルスタッペンの差。しかしその後ハミルトンは、特に10周目付近からペースを上げ、フェルスタッペンを0.4秒ほど上回るペースを見せつける。それでも余裕があったのか、スティント終盤にはさらにタイムを上げている。

 フェルスタッペンはなす術なく、9.1秒の差がついたところで1回目のピットストップを行う。ハミルトンも翌周反応し、第2スティントはハミルトンが1周新しいタイヤで有利に進めることになった。

 ここでハミルトン&メルセデスのレースが横綱相撲たる所以は、フェルスタッペンと同じペースで第2スティントを進めたことだ。おそらく第1スティントと同様に0.4秒かそれ以上の差で引き離して行くこともできたと思われるが、1周新しいタイヤで自分よりも遅い相手に合わせて走っている以上は、何が起きても首位は安泰だからだ。相手より先にタイヤが終わったり壊たりする心配もなければ、相手が2ストップだったとしても9秒のギャップがあれば、翌周反応すれば何ら問題ないのだ。

 筆者が着目したのは「ファステストラップのバンカーをかけた闘い」だ。
 最終スティントではフェルスタッペンは多くのラップを本来のペースの0.7秒落ち程度と思われるペースで周回している。そして狙いを定めた2つの周でファステストラップを記録しに行っている。これはラスト3周でピットに入りファイナルラップでファステストを出すのが理想だが、万が一イエローフラッグなどでチャレンジできなかった場合のための保険ではないかと推測できる(今回実際そうなりかけた)。
 フェルスタッペンの46周目の1:26.030を見て、ハミルトンも50周目に1:26.084を出しに行っているが僅かに届いていない。ただし、この時点ではハミルトンはタイヤを使いすぎないようにしていると考えられる。タイヤを温存し、あわよくばファイナルラップで新品ソフトのフェルスタッペンを上回るファステストラップを出そうと考えていたのではないだろうか?
 55周目ピットのフェルスタッペンと42周目ピットのハミルトンには13周分の差が生まれるが、仮にデグラデーションを0.01[s/lap]程度に抑えられれば、履歴の分は0.1秒程度の差になる。ソフトとハードの差が1.4秒とはいえ、フェルスタッペンのソフトは中古。PUの使い方やトラフィックなどのファクターもあり、今回のハミルトンの競争力を考えれば(やや無謀にも見えるが)トライする価値はあるだろう。

 表1の勢力図分析より、フェルスタッペンはペレスに大差をつけ、フェラーリ&マクラーレンにも1.5秒の差をつけた。つまりレッドブルのマシンパフォーマンスを全て引き出したわけだが、それでもハミルトンに完敗してしまった事をレッドブル陣営は重く受け止めているのではないだろうか?
 ラスト2戦では、ハミルトンが再びブラジルで投入したパワーユニットを使用してくると思われ、サーキット特性を鑑みても非常に厳しい戦いが予想される中、起死回生の一手はあるのか?注目が集まるところだ。

2. アロンソ7年ぶりの表彰台とその強さ

 2年のブランクを経てF1に復帰してきたアロンソ。開幕後の数戦ではバトルでの詰めの甘さや予選、レースペースでオコンに遅れを取るシーンが見受けられ、ブランクを感じさせたが、中期的な視野で改善を重ね、アゼルバイジャンGP付近かららしい走りが戻ってきた。
 スペインGPではオコンに0.4秒遅れていたレースペースも、後半戦に入るとシルバーストーンやハンガリーで0.5秒以上の差をつけ、その他のGPでも明確な差でエースとしての地位を確固たるものにしてきた。
 表1から、今回もオコンとは0.5秒ほどの差になっており、2003年から一貫して続くチームメイトに対する優位が続いている。

 そして、アロンソの真骨頂はその非常に強力なレースペースだけではない。

 まずはスタートだ。今回も1周目のターン2で何とアウトからガスリーに並びかけ、ターン3,4でインを奪ってパスした。アゼルバイジャンの赤旗リスタートやシルバーストーンのスプリントレースに代表されるように、アロンソのスタートは他に類を見ないレベルだ。

 そして何より、レース全体を俯瞰したレースクラフトとそれを実現するタイヤマネジメント、およびオーバーテイク&ディフェンス技術のコンビネーションこそが最大の強みだろう。
 今回のレースでもそれが遺憾無く発揮された。アロンソと、ライバルのペレスとノリスのレースペースを見てみよう。

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Fig.2 アロンソ、ペレス、ノリスのレースペース

 アロンソは両スティント共に、序盤は非常にゆっくり入っている。
 このメリットは、自分自身がタイヤを労わり、状況を見ながらロングスティントにも対応できるだけでなく、後方のドライバーに乱気流を浴びせられることだ。同じペースで走っているならば、前をクリーンエアで走っている方がタイヤの傷みが少ない。そして周回が進んだところでペースアップしていけば、ライバルたちより有利なタイヤでグングン差を広げて行くことができる。アンダーカットされることもなければ、ピットストップを引っ張ることで、次のスティントでライバルよりフレッシュなタイヤを履いて有利に進めることもできる。また、ペースを抑えてタイヤを労りつつも、ライバルに付け入る隙を与えない点も見事だ。

 そして、タイヤはまだ余っていたものの、ペレスによるアンダーカットを防ぐため、23周目でピットストップを行ったわけだが、あくまで1ストップが可能な自分のペースを守った上でペレスに対するディフェンスを行なっている。
 その結果29周目には交わされるが、37周目あたりからアロンソがジワジワとペースを上げると、差が広がらなくなる。ここからのペレスのペースの伸び悩みと、アロンソの凄まじいペースアップを鑑みれば、ペレスが1ストップを選択していたとしても、アロンソに再度交わされていただろう。
 そしてペレスが41周目にピットストップを行い2ストップが確定すると、終盤に追いつかれないように、且つ今回多発したタイヤトラブルを引き起こさないように「”高速コーナー以外で”地獄のようにプッシュ」という走りを見せ、縁石を避けつつ、見事にスピードとリスクの最適なバランスを紡ぎ出し、3位表彰台を獲得した。ここでもレースの全体像がよく見えており、ハンガリーGPで「フェルナンドがライオンのように闘ってくれた」というオコンの言い回しを引用し、「エステバンにライオンのようにディフェンスするように伝えてくれ」と発言した。

 第2スティント序盤のルクレールを交わしたシーンにも代表されるように、オーバーテイク技術も非常に高く、シルバーストーン、ハンガリー、ザンドフールトなどでも、攻め・守り問わず近接戦闘において非常に強い。これはフェルスタッペンやハミルトンにも言えることだが、乱気流の中でのコントロールが非常に上手いため、コーナーで接近し、次のストレートやコーナーで仕掛けることができる。ここがオーバーテイクを苦手とするドライバーとの差だ。

 このようにアロンソのドライバーとしての能力は、未だ現役最高レベルにあると考えられ、無線でのコミュニケーション内容もミハエル・シューマッハやマックス・フェルスタッペンと同じく余裕がある。来季以降、アルピーヌが戦闘力のあるマシンを用意し、ハミルトンやフェルスタッペンとのタイトル争いに加わることを期待するファンも多いのではないだろうか?

3. アストンマーティンの躍進とアルファタウリの失速

 今回のレースペースで最も印象的だったのがベッテルだ。
 予選ではイエローフラッグの影響を受け10番手止まりだったが、実際はもう少し競争力があったようだ。
 レースでは1周目のターン1でアウト側の不利なラインになってしまい、17番手に落ちてしまったのが痛かった。しかしそこからのリカバリーでは強烈なペースを披露した。何とソフト-ミディアムで1ストップを成功させたのだ。

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Fig.3 アロンソ、ノリス、ベッテルのレースペース

 表1に記した通り、ベッテルのレースペースはアロンソと互角以上だった。図3からも、第1スティントでクリーンエアを得た16周目以降、かなりの好ペースを披露している。第2スティントでもミディアムタイヤにも関わらずアロンソやノリスと同等のペース、しかも0.02[s/lap]と非常に小さいデグラデーションを実現している。他のミディアム勢は0.07[s/lap]のドライバーも多かった中でだ。

 チームメイトのストロールも、第1スティントはサインツの後方、第2スティントはオコンの後方でダーティエアで、自分のペースでは一切走れなかったにも関わらず6位フィニッシュという、通常では考えられない結果となった。

 メキシコGPでも中団トップに近い競争力を示したアストンマーティン。終盤戦に来て、ミッドフィールドの台風の目になり得るポテンシャルを示しているのは興味深い。

 その一方で、表1からも明らかなように、予選と比してレースでの競争力が大幅にダウンしてしまったアルファタウリ。フロントローからスタートしてもオコンの0.3秒落ちのレースペースで前に止まることはできなかった。サーキット特性は異なるものの、サウジアラビアGPに向け原因の解明を急いでいると思われる。

4. 次戦は高速の市街地サウジアラビア

 次戦サウジアラビアは高速コーナーが多く、シルバーストーンのような部分があるように見える。中盤戦の力関係であればレッドブルとメルセデスが互角の闘いを繰り広げそうだが、ここ最近のハミルトンの勢いは継続されるのかに注目が集まる。また、工事が間に合うか間に合わないかのギリギリとなっており、それでグリップが低い路面となると、本来の勢力図と大きく変わってくる可能性もある。

 こちらも初開催、誰かが「当てる」のか?誰かが「外す」のか?、何が起きても不思議ではない、スリリングなサウジアラビアGPは以下のスケジュールで行われる。

FP1 12月3日 (金) 21:30 
FP2 12月3日 (金) 25:00 
FP3 12月4日 (土) 22:00 
予選 12月4日 (土) 25:00 
決勝 12月5日 (日) 25:00 

5. 用語解説

DRS:前車と1.000秒以内にいると使えるオーバーテイク促進システム。DRSゾーンのみ使用ができる。通常1箇所か2箇所に設定される。その少し手前に設定された検知ポイントでタイム差を計測するので、後ろのドライバーにとっては例えサーキットの他の部分で離されようともそこで1.000秒以内に入れるようにすることが重要で、そのためにエネルギーマネジメントを調整する(「ターン15で近づきたいからターン1〜7で充電してターン8〜14で放出しよう」など)。前のドライバーはその逆を考え、裏をかいた奇襲なども考えられる。

タイヤマネジメント:タイヤを労って走ること。現在のピレリタイヤは温度は1度変わるだけでグリップが変わってくる非常にセンシティブなものなので、ドライバーとエンジニアの連携による高度な技術が求められる。基本的にはタイヤマネジメントが上手いドライバーやチームが勝者となりチャンピオンとなることが多く、最も重要な能力と考える人も多いだろう。

スティント:ピットストップからピットストップまで。もしくはスタートから最初のピットストップや、最後のストップからチェッカーまで。スタートから最初のストップまでを第1スティント、1回目から2回目を第2スティント・・・と呼ぶ。

オーバーテイク:追い抜き

クリーンエア:前に誰もいない状態。F1マシンの性能はダウンフォースに依存している。したがって高速で走るマシンの後ろにできる乱気流の中では本来の性能を発揮しきれず、前のマシンにある程度接近すると本来自分の方が速くてもそれ以上近づけなくなる。そうした乱気流の影響を受けている状態をダーティエアという。多くのサーキットでは同等のペースでは2秒以内に近づくことは難しい。0.2~0.3秒のペース差があっても1秒以内に近づくのは至難の技だ。

アンダーカット:前を走るライバルより先に新品タイヤに履き替えることで速いラップタイムを刻み、その間摩耗したタイヤで数周走ったライバルがタイヤを履き替えて出てきた際には自分が前に立つ、という戦略。

オーバーカット:前を走るライバルより後にタイヤを履き替えて逆転する戦略。頻繁には見られないが、タイヤが温まりにくいコンディションで新品タイヤに履き替えたライバルが1,2周ペースを上げられない場合などに起こりうる。路面の摩擦係数が低い市街地やストレートの多いモンツァなどが代表的なトラックだ。

デグラデーション:タイヤのタレ。1周あたり〜秒という表現が多い。使い方次第でコントロールできる。